被災障害者を支援する為の情報を掲載。

JDF災害総合支援本部

Home › 要望書等について › 東日本大震災を経験して、国に対する提案・要望
本文はここから

要望書等について

東日本大震災を経験して、国に対する提案・要望

2012年2月7日

内閣総理大臣 野田 佳彦  殿

厚生労働大臣 小宮山 洋子 殿

JDF東日本大震災被災障がい者支援いわて本部
代表 田村 幸八

JDFみやぎ支援センター
代表 阿部 一彦

JDF被災地障がい者支援センターふくしま
代表 白石 清春

日本障害フォーラム(JDF)
代表 小川 榮一


 2011年3月11日の大震災では、岩手・宮城・福島をはじめとする東北・関東の沿岸部に大津波が押し寄せ、死亡者と行方不明者は1万9千人に達し、被災地で亡くなった障害者の比率は住民全体の比率に比べて2倍との報道がありました。さらに、福島県では、原発事故の莫大な量の放射性物質による甚大な影響から復興のスタートラインにも着けない状況が続いています。
 私たち、各地のJDF被災地障がい者支援センターでは、被災した障害者の実態を把握して個別支援にむすびつけていくために、全国各地から駆けつけていただいたボランティアのみなさんと共に避難所や仮設住宅を回りましたが、ごく少数の障害者の姿しか見かけることができませんでした。このことは、避難所や仮設住宅あるいは借り上げ住宅が、障害者の避難生活を保障するものではないことに起因していると思われます。
 この東日本大震災以前にも、阪神・淡路大震災や新潟県中越地震など、大きな震災を経験していながら、わが国では障害者や高齢者の命を守り、被災後の生活方法等が考慮されていない震災対策が講じられているのが実状です。
 私たちは、この東日本大震災を貴重な教訓として、わが国の震災時における障害者はじめ特別な配慮が必要な人々への対応策をより実効性のあるものにしていくため、提案と要望を下記に述べていきます。

1.災害時における支援対策

 支援センターでは、被災障害者の所在確認を行うには障害手帳保持者、要援護者などの名簿提出を行っていただかなければならないとして、政府、各県、各市町村にいち早く働きかけてきましたが、個人情報の保護に関する法律の壁が厚くて、なかなか実現化できずに今日まできています。唯一、福島県南相馬市においてだけ、市長の大英断によって名簿が開示されたことにより、被災障害者宅を回って訪問調査活動を行うことができました。このような中、現在でも、特に障害者団体等に属さない、在宅、みなし仮設(借り上げ)住宅入居、県外避難等の多くの障害者の所在や実態がなお不明な状況にあります。
 また、避難所は学校の体育館のようなところが多く、高齢者や障害者にとっては障壁の多い構造でした。阪神大震災のときから仮設住宅のバリアフリーを求める声が上がり、ユニバーサルデザインの仮設住宅が今回こそ当初から計画されるものだと期待していました。しかし、残念なことに東日本大震災の現在に至っても、早くから当事者団体が要望したにもかかわらず現実には合理的配慮など後回しにされてきています。

【提案・要望】
① 岩手、宮城、福島の被災した各市町村の障害者の適切な名簿開示を早急に行い、障害者関係団体等に被災障害者の実態調査を行えるよう配慮していくこと。またこれを基に障害者関係団体等が、当事者の立場から、地元の障害者相談員や保健師、仮設住宅サポートセンター等とも連携を図りつつ支援活動が行えるようにすること。

② 障害者関係団体が要援護者情報を共有できるよう、関係法規等を改正すること。(災害時要援護者の避難支援ガイドラインにおける、要援護者情報の関係機関共有方式の中に「障害者団体」等を入れるよう改正を行うなど)

③ このことと関連し、国は、被災した県・市町村が障害者関係団体と被災状況・要援護者情報を共有し、在宅障害者も含め漏れなく円滑な支援が出来るよう、平時から申し合わせをするなどの体制作りを指導すること。

④ 今後も全国各地で大規模災害は起こりうる。そのときの対策として、避難所として利用する可能性のある建物は向こう5年以内に速やかに全てバリアフリー化すること。さらに、あらかじめ障害者や高齢者に使いやすいユニット式BT(バストイレ)を建築しておき、避難所に設置していくような方策をとっていくこと。その他、簡易型オストメイト対応洗浄装置の設置などを含む、様々な障害者の特殊性を考慮した形で避難生活が容易にできる方法を義務づけること。

⑤ 仮設住宅を利用するのは、障害者のみならず、高齢者が多いと予想される。仮設住宅の設計段階ですべての住宅をユニバーサルデザイン化および冷暖房対応化(断熱材付)されたものにすること。(入り口を広くし〔間口80センチ以上〕、バストイレに余裕をもった広さを確保し、介助者とともに利用できるようにすること。) また仮設住宅の設計企画に障害当事者を参加させること。

2.住宅について

 大きな災害後には高血圧や生活習慣病が壮年層に顕著に出現する傾向があることはよく知られています。誰もがいずれは高齢になり、若い頃と同じ方法での動作や移動が出来なくなります。配慮の足らない家屋が地域生活を困難にするのです。生涯住み続けられる住宅のあり方を、今こそ強力に推進しなければなりません。アメリカや諸外国で進められているように、ある程度法や制度でしばることも考慮に入れ、実効性のある取り組みにしなければならなりません。復興住宅でユニバーサルデザインを共通基準とするよう、わが国でもこのような条例をぜひとも創設してください。今後もし大震災が起こった場合に、ユニバーサルデザインの住宅によって、被災障害者が誰の家にでも避難することが可能になり、望まない施設への入所も無くせるようにしてください。

【提案・要望】
① 一般の住宅はすべてユニバーサルデザインを標準とした規格を法制化すること。そのために政府と住宅会社や障害当事者と話し合う機会をもうけ、ユニバーサルデザイン住宅法制化プロジェクトを立ち上げていくこと。

② さらに、地域社会のコミュニティのあり方を考える際に、プライバシーを守れる環境で、共有部分を設けて多世帯が集団で生活できる住宅(コーポラティブ住宅)システムの構築を検討し、実現化していくこと。

3.障害者に対するサービスについて

 東北地方では、障害者の介助や支援を家族が担う傾向が強かったのではないでしょうか。とくに東北地方は、財政的基盤の弱さもあって障害者福祉関係の予算が低いということも事実です。大震災では、以前よりも福祉サービスを受ける障害者が増えていくという現実があります。
 また、オストメイト(人工肛門・人工膀胱保有者)や精神障害者等に関する現施策については、その対応が遅れている傾向にあり、特に特別な配慮(対応)が必要です。

【提案・要望】
① 大災害時においては、特に在宅の重度障害者の福祉サービスについて、とりわけ財源規模の小さな被災自治体の負担を極力少なくする方策を取っていくこと。

② 大震災において、いつ強い余震が来るか分からない状況下では、単身での自立生活をしている者にとって、恐怖におびえる時間を過ごすことになる。そのようなことも鑑みて、震災時等における重度身体障害者のヘルパーの派遣時間を大幅に増やすこと。

③ 特にオストメイト(人工肛門・人工膀胱保有者)のニーズに関して次のことを行うこと。

1)今回、被災者に対しストーマ装具の種別が不明のため憶測で配備した結果、適合しない装具を配備し対応できないことがあった。各市町村がオストメイト数(コロストミー・ウロストミー・イレオストミー別)を把握し、オストミー協会県支部の求めに応じ開示されるよう指導すること

2)ストーマ装具を緊急配備用具扱いとし、備蓄倉庫に保管すること

3)緊急時の購入リストに「ストーマ装具」の購入先を明記すること

4)内部障害のオストメイトは、一般の方からの理解が得にくいので、全国各地で行われている「社会参加訓練事業」に災害担当・福祉担当者を参加させること

5)皮膚排泄ケアー認定看護師(WOC)が災害時に県境・区域割り等の壁を取り除き、オストメイトの安全・安心のため、避難所等を継続的に巡回ケアーすること。

④ 向精神薬等の災害用備蓄を整え、精神障害者については少なくとも自立支援医療を受けている人に支援の手が差し伸べられるよう、所在の把握等の調査が可能なように配慮すること。
 またこのため、各種医療利用者については、必要に応じて国民健康保険団体連合会等、各種保険機関の協力を求められるようにすること。

4.障害者の生活(所得)保障について

 大震災においては、被災した障害者やその家族が職を失って路頭に迷う例が現実的に多くなっていきます。知的障害者等の就労支援の事業所に仕事の発注が少なくなっているという現実があり、地域で生活している障害者にとっては非常に切迫した状況にあります。

【提案・要望】
① 今般、わが国の財政事情が芳しくないということもあり、生活保護の受給対象者を制限していくといった動きがみられる。困窮した日本国民の最後のよりどころとなる生活保護制度なので、今回のような大震災の折には、餓死者や自殺者を出すことのないよう、障害者をはじめとする被災生活困窮者には生活保護を支給していくこと。

② 今回の地震や津波、あるいは原発の事故によって、義援金、東電の賠償仮払い金などが被災した生活保護を受けている障害者などにも支給された。しかし、末端の行政機関である各市町村ではその全額を収入認定とみなして、生活保護をさし止めしていく事態が起きている。そのようなことが起こらないように、国としてしっかりとした伝達システムを確立していくこと。

③ 被災している障害者等を考慮した、障害基礎年金に加算した形での所得保障制度を創設していくこと。

④ 被災している障害者の仕事づくりの一環として、障害者支援事業所に対する特別加算等を含む支援と、官公需の優先発注を含む応急的な仕事の確保策を図ること。

⑤ 鍼灸マッサージ施術所等が被災し、就業できなくなった自営業を営む障害者に対し、施術所等の復旧工事費や治療用具の購入費などを確保するため、生活福祉資金などの現行制度を弾力的に運用するか、特例措置を設けるなどして、一日も早く就業を再開できるようにすること。

⑥ 被災している障害者等が働いて収入の得られるシステムを、被災地の事業所を含め、多くの住民たちと研究開発すること。その研究開発に対しての補助制度を設けること。

5.原発に関連して

 福島第一原発は、未曽有の地震と津波により深刻な事故を起こし、膨大な放射性物質を福島県はじめ近隣各地にまき散らし、県内外に広く犠牲を強いています。そうした事態の中、福島県民の約6万人が県外に避難しています。今後も避難者は増え続けるのではないでしょうか。

【提案・要望】
① 自主的に県外に避難した福島県の障害者に関して、避難した先での住宅や福祉機器、福祉サービス等、きめ細かく柔軟性のある生活保障を提供すること。

6.復興計画への当事者参加について

 復興に向けては、今後の地域住民の暮らしの基礎とできるよう、その過程に障害当事者の意見が反映されなければならないと考えます。また復興計画の策定にあたっては、障害者権利条約を指標のひとつとし、排除や分け隔てのない、誰もが安心して暮らせる「インクルーシブな社会」の構築を旨としていただくことが肝要です。

【提案・要望】
① 復興庁を含め、国、都道府県、市町村における、復興計画の策定・実施に関する機関やその協議体、およびそれらの基礎となる実態調査等の過程に、障害当事者を参加させてください。

以上


メニューはここから