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ガイコクジンじゃないもん!

随想 ガイコクジンじゃないもん!

齋藤美樹(さいとうみき) イラストレーター・りめいぐるみ作家

山形県鶴岡市出身。
「りめいぐるみ」は古布などで作ったぬいぐるみ。
著書に『リサイクルなアーティストになろう』(サンパティック・カフェ)、
『楽しいリサイクルアート』(汐文社)、
『ガイコクジンじゃないもん!』DAISY版((財)日本障害者リハビリテーション協会)など。
ブログ「ソラノモリヘヨウコソ!」
http://laforetduciel.jugem.jp/

 「ぼく、ガイコクジンじゃないもん! 日本人とセネガル人のミックスくんだもん!」

 保育園で息子が年長さんたちから「ガイコクジーン!」といじわるを言われた時に言い返した言葉です。
 息子は日本人とセネガル人のミックスくんです。肌がコーヒー牛乳色をしているので「よくガイコクジン?」と聞かれます。そのため、息子は周囲と自分の肌の色が違うことを悩んでいました。
 まだ幼い息子にどのように説明したら理解してもらえるか? いろんな方法で説明し、どれだけ息子の肌の色が素敵かを話してきました。
 一年くらいかかって息子の気持ちが少し落ち着いて、やっと自分の肌の色のことを理解しはじめたころにいじわるを言われたのです。とてもショックでした。
 これだけ社会が多文化になっているのに、まだ、肌の色が違うことで排他的な態度をとってしまう子どもたちがいる。どうしてなんだろう?
 これは単なるいじめとかではなく、子どもたちが世界(多文化)について知らないから起きた問題だと感じ、「ミックスくんの母親である私が、何かしなくては! では、私に何ができる?」と考えました。
 友人からのアドバイスもあり、息子の体験をもとにして世界には日本人以外の人たちがいることや、肌の色や外見だけで外国人とはならないことなどが幼い子どもたちにもわかるような紙芝居をつくることにしました。
 息子が一年生になったとき、再び肌の色のことでからかわれてきました。今回も子どもたちの無知さから起きた問題だと感じ、担任に紙芝居を提案してみました。
 早速、一年生全クラスの道徳の時間に読んでくれました。その直後から、からかわれなくなったのです。
 驚きました! 何度話し合っても止めることができなかったことだったのに、子どもたちに知識を与えたら理解してもらえた! 息子はこれをきっかけに友だちがたくさんできました。

 この話を外国出身のママたちに話しました。
 ママたちからは、母親が日本人だからそういったフォローができるけど、母親が外国人だとなかなかそういうことができない、と言われました。日本人に対して、どう意見を言えばいいのかわからない(他の保護者や先生に対しても)。でも子どもを守りたいから意見を言うと、言いすぎた形になり、逆効果になってしまう。なかには理解してくれる人もいるけど、日本人の外国人への態度がわからない。「とにかく日本人は世界を知らなすぎる!」と何人かのママたちから悔しそうに言われました。
 日本人は世界を知らない……の? 何も言えませんでした。
 おとながそう思われているほど日本人は世界を知らないから、子どもたちがミックスくんに対して「ガイコクジーン」と平気で排他的な態度に出てしまうのは当然?
 うちの子どもたちが在園していた園では、息子の件があってから子どもたちに世界を知ってもらえるよう、いろんな工夫をしてくれました。
 セネガルの太鼓の演奏会を開いたり、世界を学べる絵本の読み聞かせをしたり、運動会のテーマを世界の子どもたちの笑顔にして、飾る旗は在園している子どもたちにゆかりのある国の旗を手描きでつくってくれたり等々。
 とくにうれしかったのが、在園児の外国出身のママたちによる母国語でのよみきかせ。知ってる話でも外国語で聞く話は新鮮で、やさしい母性いっぱいの外国語は、その意味がわからなくても聞いてるとほんのりと心が温かくなりました。聞いてる子どもたちに何かが伝わったのがわかったし、読み手のママたちとその子どもは満足したキラキラしたとても素敵な笑顔でした。

 園の活動のおかげで、いろんな国のことを多くの子どもたちが学べました。貴重な機会をつくってくださった園にとても感謝しています。
 多文化を取り入れながら保育をしていくことは大変だと思います。いくら大事だとわかっていても、手間が増えたり、時として理解しきれない文化にわずらわしさを感じたりすることも……。でも保育園で少しでも多文化共生を理解して協力してもらえたら救われる人たちがいることを知ってほしいと思います。  理解できなくても認め合える社会。まずは、みんなでいっしょにあそぼ!

随想
ガイコクジンじゃないもん!

出典: 『現代と保育78号』ひとなる書房 2010年11月