音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

報告会レポート
被災障害者支援活動の現状と復興の課題
―インクルーシブな社会への新生に向けて―
(2011年7月13日:衆議院第1議員会館多目的ホール)

報告会プログラム

2011年7月21日
(財)日本障害者リハビリテーション協会情報センター

 7月13日、衆議院第1議員会館多目的ホールで、表題の報告会が行われた。
 2011年3月11日の東日本大震災後、4か月を経た今も、被災地の障害者は困難な状況に置かれ続けている。甚大な被害が出ているが、障害者の被災状況は明らかになっていない。
 本報告会は、JDF被災障害者総合支援本部の活動を中心に、被災地の障害者支援活動の現状を報告し、今後の復興計画を見据えながら、復興に向けた課題を探ることを目的に開催された。
 谷博之氏(民主党参議院議員/障がい者政策PT座長)をはじめ障害者政策に関わる議員による挨拶、JDFの障害者支援活動の報告(本部、みやぎ支援センター、支援センターふくしま)、障がい者制度改革推進会議における震災に関する議論についての報告、JDF構成団体・関係団体の支援活動からの指定発言があり、最後にJDFとして東日本大震災関連では4回目の提出となる要望書「被災障害者等への支援と復旧・復興施策に関する要望」の内容が報告された。要望書は報告会終了後に提出された。
 報告会は、会場いっぱいの参加者で大変盛況で、予定時間を過ぎた17時まで報告が続いた。

 黙祷

以下、報告の概略である。

 藤井克徳氏(JDF幹事会議長、被災障害者総合支援本部事務総長)は、JDF総合支援本部の活動についての報告で、震災に関して次の3つのことの検証が必要だと述べた。

  • 障害者で実際に亡くなった方、行方不明になった方は何人いるのか。
    少なくとも手帳所持者については国、県の連携によって検証する必要がある。
  • これまで作ってきたこの国の災害についての様々な対策は障害分野では功を奏したのか。
    例えば、災害時要支援者名簿は機能したのか。
  • 障害によって被った不利益について。避難所から締め出された事例も多くあった。
    電源不足が人工呼吸器を付けている方、人工透析を受けている方に大きく影響した。

 また、個人情報保護法との関係で、自治体から名簿の開示を受けることができたのは、南相馬市だけだったこと、それにより訪問調査を実施することができたとの報告がされた。

 今までに提出された要望書の概要の説明もあった。

藤井氏

第一次:被災障害者等への特別支援に関する緊急要望書(3月14日)

第二次:東北関東大震災に際してJDF緊急要望(3月24日版)

第三次:被災障害者等の今後の支援についての要望(5月23日)

 資料に基づき、活動支援金協力者についての報告があった。

 阿部一彦氏(JDFみやぎ支援センター代表/被災障害者を支援するみやぎの会 代表)は、一般避難所にいることができない障害当事者が、自宅に帰ったり親戚を転々としたりしながら過ごしていたこと、個人情報保護法や条例に関して自治体ごとに対応が違ったという問題に言及した。県外からの支援に大変助かっているが、いつまでも県外に頼らず、県内で協力し合い支え合う体制を作り、時間がかかるかもしれないが3月11日以前よりも住みやすい町を作っていきたいと述べた。

みやぎ支援センター代表

 小野浩氏(JDFみやぎ支援センター事務局長)は、資料を用いながら、宮城県における障害のある人と障害者支援事業書の被災状況について述べた。県で把握している障害者の被害状況は障害者支援事業所を利用している利用者に限ったものであり、実際は、「移動が困難なため津波の襲来から逃れることができなかった人や、津波警報を確認・認識することのできなかった障害のある人たちは確実に逃げ遅れたであろうと想定すると、障害のある人の被災者数は、対人口被災率の推計を上回るのではないかと思う」と報告した。
 被災した障害者支援事業所の状況について写真を提示しながらの説明があった。
 南三陸町では、住民の半分が津波の影響を受け、三陸鉄道が復旧しておらず、車もないといった状況で、居宅支援事業が壊滅状態になっている。JDFで移動支援をしているとのことだった。
 被災地へのボランティアとして介護職員の登録が2000人あるが、実際に現地に入っているのは74人しかいない。障害者団体からは520人の支援員が入っている。いずれも人件費は所属団体持ちということがネックになっている。国難なのだから国が持つ体制を作るべきではないかと述べた。

 白石清春氏(JDF被災地障がい者支援センターふくしま代表)は、「被災地障がい者支援センターふくしま活動の報告と今後の課題と提案-地震・津波・原発の三重苦に翻弄される障がいを持つ福島県民の支援を通して感じたこと」として、当日の様子から現在までの支援について報告した。

ふくしま代表

 フロアからは、福祉避難所が組織的にできなかったのではないかという問題提起があり、阿部一彦氏が宮城県の福祉避難所について報告した。福祉避難所について自治体と相談していない段階で震災が来てしまったという状況だったが、仙台市では30数ヵ所で特別養護老人ホーム等が福祉避難所となったとのことだった。小野氏の補足によると救援物資も給水車も来なかったり、資金が出ても避難者4人に対して支援員が1人といった状態で、運営も厳しく、人手も足りないのが、実情とのことだった。

 東俊裕氏(内閣府障がい者制度改革推進会議担当室長)は、障がい者制度改革推進会議における震災に関する議論について報告した。
 震災については、5月23日の第32回推進会議で議論している。27の団体から現状報告があった。施設は、通所・入所ともにネットワークで状況がかなりわかっていたが、在宅でしかもサービスを受けていない人の状況はわからない。また、行政の状況もほぼわからなかった。それは、団体と行政との連携が点であって、面ではないからではないかと東氏は述べた。
 在宅の人はどこにいるのか?一般の避難所に行っても障害者の姿は見えない。来てもいられなかったのではないか。一般の避難所に継続して避難することは不可能だからと。
 福祉避難所の情報は、委員からも上がってこなかったという。
 また、「被災障害者の被害とは何か」も議論になったと報告された。共通する被害はあるが、それだけではなく、障害者ならではの被害があるのではないかと。通常のサービスを受けられなくなること自体が被害である。家族の支援、地域の支援でなんとか生きていて、震災でその支えを失ったのではないか。急激な環境変化状況変化による障害、差別、社会的排除の被害もあったのではないかと。
 安否やニーズをつかむ体制が必要であり、避難後の支援も含めた体制作りが必要であること、安否確認・ニーズ把握は行政の責任で、日頃から行政と団体との体制作りも必要であること、発掘されたニーズに対してどう速やかに支援をつなげるかなどの意見が続いた。
 今回のように広域で地方自治体ごと被災し、行政が機能喪失したときに民間とどう連携するのか、被災自治体は新たなニーズに対処するのに経済的にも困難なので国の支援が必要などテーマは尽きることがなく、今後も推進会議では議論を続けていくとのことだった。

東氏

 JDF構成団体・関係団体の支援活動から指定発言は、久松三二氏(全日本ろうあ連盟常任理事・事務局長)のコーディネートで進行した。

 笹川吉彦氏(日本盲人会連合会長)は、東日本大震災視覚障害者対策本部の活動について報告した。

 阿部一彦氏(仙台市障害者福祉協会会長/日本身体障害者団体連合会 東日本大震災被災地特別対策本部 副本部長)は、日本身体障害者団体連合会の被災地特別対策本部の活動について報告した。今回は、大平洋側の支部を日本海側の支部が助けてくれたという。孤立、孤独死がないように、生活不活発病にならないように、ただ家にいるだけでなく社会とつながっていくことが必要であること、当時者団体のつながりが大切であること強調していた。JDFも様々な団体でつながってできている。地元でもつながることが大事だという言葉が印象的だった。

 河原雅浩氏(全日本ろうあ連盟理事/東日本大震災聴覚障害者救援本部)は、東日本大震災聴覚障害者救援本部の活動について報告があった。手話通訳士協会と協力して状況の把握に努めたが、会員とその関係者で、岩手で3人、宮城で14人が亡くなったことがわかったという。聴覚障害者は健聴者よりも亡くなった割合が多いのではないか、津波の警報がわからなくて亡くなったのではないかと。
 ニーズの把握にはコミュニケーションが大切で、手話通訳者は日頃から必要であることが強調された。今も役所に行ってもニーズが伝わらない、受けられるはずの支援が受けられない状況だという。

 新谷友良氏(全日本難聴者・中途失聴者団体連合会常務理事)は、テレビの字幕の問題を強調した。テレビの報道の意味は大きく、字幕がついてないことは非常に不安である、中途失聴難聴者の命に関わると。放送事業者は、できない理由ではなくできる利用を考えて、誤字脱字があっても生字幕をつけてほしいと述べた。

 今村登氏(東北関東大震災障害者救援本部広報担当)は、障害者が地域で暮らす潜在的な問題が表に出てきたと語った。在宅の人は家族介護でなんとか生活し、無理な人は施設に入り、なんとかやっていたのが、家族介護がたち行かなくなったので、サービスを受けたいと言っても、受けられない状況になっているという。また、サービスは受けたいが、障害者をいることは伏せてほしいという人もいるそうである。仮設住宅の改造については、県ごとに対応に格差が出ている。
 こういったことから、社会構造を変えずに復興してもダメで、復興するが元の町に戻してはいけないと述べた。権利条約が示している、誰も排除しないされないインクルーシブな社会を作っていくことが大切で、障害のある人の特性を考慮することはどんな人も排除しない町作りになると締めた。

 室津大吾氏(全日本手をつなぐ育成会)は、知的障害者関係11団体で作った「障害児、知的障害・発達障害者関係団体災害対策連絡協議会」の活動について述べた。
 知的障害のある人のご両親が亡くなった場合の支援や権利擁護の利用が進んでいない地域という課題があるという。

 山本和良氏(全国「精神病」者集団)の発言は、代理の方により代読された。
 震災により、通院医療機関が皆無になってしまい、転院先で亡くなってしまった人もいる。精神病院建て直しの無利子貸付ではなく、当事者と一緒に別な策をたててほしいという内容であった。

 野際紗綾子氏(難民を助ける会東北事務所長)は、難民を助ける会の被災地における支援活動について報告した。
 2日後から被災地に入って活動し、緊急支援物資の配布をしている。
 初期は藤井克徳氏の情報で、今はJDFのセンターからの情報で、どこに何々がないという具体的な指示を受けて支援してきた。
 今まで71,100人に対して物資配布を行なってきたが、人工呼吸器、ポータル発電器などが足りないという状況である。
 福祉施設グループホームの修繕活動を行なっており、家族が亡くなり家も失ったある利用者さんにとって、唯一ここにいけば仲間に会えるという場所を修繕したという報告があった。
 宮城や岩手で調整会議のコーディネートもしている。
 今後の課題は、今やることがないという人の支援で、就労支援が大事ではないかということだった。

 大川弥生氏(独)国立長寿医療研究センター研究所生活機能賦活研究部部長)は、生活機能、生活不活発病について、専門家としての支援について述べた。
 医療よりは生活機能に対処すべきと自治体に働きかけていること、専門家の支援と当事者の支援の連携が大切であることを強調した。
 高齢者、障害者の不自由さを手伝えばいいという誤解があるが、それが生活不活発病のもとになってしまっている。当事者は介助を受けていても社会的活動はできる。社会的活動に参加できていないと、災害によって障害がなかった人にも新たに障害が生じてしまう。
 平常時が一番強く現れるのが災害時であるので、これまでの対策は正しかったのか検証する必要がある、要援護者というところだけで、福祉だけで進めていたのではないかと、藤井氏の最初の報告にも触れながら述べた。

 大嶋雄三氏(CS障害者放送統一機構)は、「もっとも大切なのは何がなんでも命を守ることだ。なぜ命を守れなかったのか考えることは全国的なことである」と述べた。今回の震災は情報の問題が根底にある。災害時に健聴者との情報格差があり、それが生死を分けたことを、あるろう者の被災者の体験を語ることで伝えた。
 また、市民に音声で伝える防災無線であるJアラートの問題点に触れた。自治体の70%に普及していて、地震発生から4秒で知らせてくれるが、障害者対策の視点はないという。 これは権利条約と障害者基本法22条に抵触すると、目で聴くテレビ、アイドラゴンの設置を要請した。
 放送局の災害時マニュアルに障害者対策がないことにも言及し、字幕を増やすだけではなく、緊急時対策の必要性を強調した。

 最後に、「被災障害者等への支援と復旧・復興施策に関する要望」の内容が確認された。

被災障害者等への支援と復旧・復興施策に関する要望
  1. 被災障害者の正確な実態把握を速やかに実施してください。
  2. 障害者権利条約を指標に、当事者参加の復興計画を策定してください。
  3. 災害時等の緊急放送に関して、特にテレビ放送については関係障害団体の代表を加えての検討会を設置してください。
  4. 災害時要援護者対策を含む、防災対策の検証を行ってください。
  5. 県外に避難した被災障害者等の把握と支援を行ってください。
  6. 仮設住宅のバリアフリー化を急ぐとともに、今後の復興に向けた住宅整備を行ってください。
  7. 沿岸部・原発隣接区域における瓦礫撤去、土壌除染、ならびに医療・福祉サービスの整備を国として推進してください。
  8. 被災障害者支援活動に対する支援を行ってください。