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さわる絵本の作り方

セリア図書館

掲載者注

Celiaは、創設者の名前、Cely Mechelinに由来する。 1890年に創立され、1978年から教育省所管の国立専門図書館となる。
当初は、視覚障害者を対象としていたが、現在は、視覚障害者だけでなく、一般の印刷物を読むことができない人に アクセシブルなフォーマットで図書を製作し、提供する国立の専門図書館としてサービスを行っている。

DINF関連コンテンツ:
セリア:フィンランドの視覚障害者図書館

DINF掲載記事は2002年頃のパンフレットを翻訳したもの。
ちょうど変革期で、視覚障害者以外の一般の印刷物を読むことができない人にサービスを拡大しようとしていた時期であった。

参考サイト:
Celia(English version) http://www.celia.fi/web/guest/english

About Celia  http://www.celia.fi/web/guest/aboutcelia

 

表紙

表紙:マルヤッタ・トゥーラ(Marjatta Tuura)『リンゴの木の1年(Omenapuun vuosi)』

写真:セリア図書館所蔵(以下同じ。)

目次

さわる本から得られる学び、そして発見の喜び

私たちは絵の世界に暮らしています。幼いころから、私たちは身近に絵を見ることに慣れています。おとぎ話や絵本は、子どもの思考と言語の発達に不可欠です。書店や図書館には、目が見える子どもたちのための、ありとあらゆる美しい絵本があふれています。しかし、視覚障害のある子どものための本を探し始めると、私たちはすぐに問題にぶつかってしまいます。書店にも公共図書館にも、そのような本はありません。

さわる本は視覚障害児のための絵本です。目が見える子どもたちにとって印刷された絵本が大切であるように、視覚障害のある子どもにとってさわる本は大切です。さわる本の助けを借りれば、視覚障害のある子どもはおとぎ話の冒険に加わり、その世界に繰り出し、さまざまなものやことがらについて知ることができます。さわる本は、なじみのない動物や抽象的な現象など、視覚障害のある子どもの好奇心をそそる、新しく、わくわくするようなものすべてを示すのに役立ちます。さわる絵を使って、新しい、驚くべきことをページの中に発見するとき、視覚障害児は相反することがらを理解できるようになり、発見の喜びを体験できるのです。

さわる絵本は物語の魅力を高めるだけでなく、視覚障害のある子どもが触覚によって情報を得る能力も高めます。さわる絵には既に点字印刷が含まれているので、さわる絵に慣れている子供のほうが、教科書に使用されている隆起印刷による絵の読み取りと点字の学習を始めやすくなります。また、さわる絵の中でボタンやファスナーを扱い、ひもを結ぶことを通して、子どもの微細運動能力が向上します。異なる材料の感触や、それらが出す音と匂いは、子どもの感覚の感受性を高め、周りの世界を概念化し、解釈する助けとなります。

子どもも大人も、一緒にさわる絵本を楽しむべきです。視覚障害のある子どもたちは、さわる本のページにあるさまざまなものや動くパーツを見つけて喜びます。しかし、もしその絵と実物との関係を説明する大人が誰もいなければ、そのような子どもはそれらを理解することができないでしょう。絵は現実を描きますが、それはいつも実物と同じであるとは限りません。牛の絵は実際の牛と同じではありませんし、本の中の車も、私たちが運転できる車と同じではないのです。形もまた、現実の3次元世界のものとは異なります。視覚障害のある子どもは、絵を理解するために多くのアドバイスを必要としますが、そうして本から得られる知識と経験は、絵を見るごとに、また本を読むごとに増えていきます。当然のことですが、できるだけ正確な形と材料を使用することによって、このような子どもが学びやすく、また理解しやすくなります。

そして何よりも、絵本は視覚障害のある子どもの人生に喜びと冒険をもたらすのです!

パヴィ・ヴォーティライネン(Päivi Voutilainen)

作業グループ:イルメリ・ホルスタイン(Irmeli Holstein)、ヴオッコ・ニューベリ(Vuokko Nyberg)、セイヤ・ライッカ(Seija Räikkä)、アンネリ・サロ(Anneli Salo)、パヴィ・ヴォーティライネン(Päivi Voutilainen)

写真1

写真1:さわる絵本を見ているところ

年齢に合わせて、ふさわしい本を

子どもたちの目が見えるか見えないかにかかわらず、どのような種類の本を面白いと思うかには、年齢が重要な役割を果たしています。ですから、本のテーマや文章の長さ、絵の量と種類、その他の詳しい内容を考える際には、読者の年齢と発達段階を考慮することをおすすめします。本のレイアウトはわかりやすくカラフルにしなければなりません。このガイドブックでは、さまざまな年齢の子どもたちを対象としたさわる本を作るヒントを皆さんにご紹介します。

写真2

写真2:ミンヤ・スルクマキ(Minja Sulkumäki)『表面と色(Pintoja ja värejä)』

はじめての本

幼い子どもたちにとってはじめての本は、文章が少ない、または文章がまったくない絵本です。布は、このような本に最適の材料です。このような本は、すべてやわらかいページだけで構成することもできます。読者の手は小さいので、絵を大きくする必要はありません。1ページに1つのはっきりとした絵と、その絵に描かれているものの名前が記してあれば十分です。本のページのサイズは、たとえばA5にするなど、どちらかといえば小さめにしたほうがよいでしょう。

このようなはじめての本の絵は、必ずしも何かを描写したものである必要はありません。たとえば、さまざまな感覚刺激を与えるものでもよいですし、手と目の協応を刺激し活発にするものでもよいのです。このとき、はっきりとした色のコントラストが重要です。本には、形や感触が異なる、さまざまな質感のものや材料を取り入れるとよいでしょう。なじみのあるものを本に付けてもよいでしょう。

写真3

写真3:ヴオッコ・ニューベリ(Vuokko Nyberg)『探して、選んで(Etsi ja valitse)』

幼い子どものための絵本

子どもが成長し話し始めたら、本の文章を増やしていかなければなりません。挿絵はまだシンプルにしておかなければなりませんが、できるだけ変化に富んだものにし、さまざまな背景の上に、異なる質感や形、ものを置きます。1ページに2つか3つの絵があれば十分です。本には、音や匂いを入れてもよいでしょう。

本は子どもの日々の生活を描写できます。また、なじみのない、あるいは抽象的なものを表現できる絵もあり、これらについて子どもは大人と話し合えるでしょう。このようにして、子どもは新しいことや概念を学んでいきます。

就学前・学齢期の子どものための本

就学年齢に近い子どもたちは、長めのおとぎ話や物語を読んだり聞いたりすることができます。また、情報や、ちょっとした作業を取り入れた本に興味を示します。このような本には、より複雑な絵や小さめの細かい描写を入れてもよいでしょう。しかし読者はまだ幼いので、本が重すぎたり扱いにくかったりしてはいけません。

写真4

写真4:カトヤ・メリルオト(Katja Meriluoto)『宝の臼(Sampo)』

学齢期の子ども向けのさわる本には、さらに多くのテーマを取り入れてもよいでしょう。冒険、趣味、感情、あるいは家族生活や通学などの日常生活を描くこともできます。また、論理的な思考を必要とし、その発達を促す本も人気があります。

さわる本の作り方

テーマと文章

さわる本の文章は、自作することもできますし、ほかから借りてくることもできます。印刷された本を原作として使ってもよいでしょう。印刷された本をさわる本にするときには、挿絵の数を減らしたり、挿絵を簡単にしたりしなければならないことがよくあります。原作の作者名と書名は、常に明記しなければなりません。製作したさわる本を販売する場合は、著作権の問題も考慮しなければなりません。著作権所有者の許諾が必要です。オリジナルの文章の場合は、自由に出版できます。

写真5

写真5:ヴオッコ・ニューベリ(Vuokko Nyberg)『小さなたんぽぽのたねインナ(Inna pieni hapsihaiven)』

あらゆる種類の詩、歌、そして韻文は、子どもを楽しませながら、その記憶力を発達させます。民話や昔ながらのおとぎ話を読むのは楽しく、これらは多くのユーモアとともに、思考の糧を与えてくれます。さわる本のテーマを選ぶ際には、男の子と女の子の両方が気に入るものを選ぶことが賢明でしょう。

文章と挿絵は、子どもの年齢と発達段階に合わせて考えなければなりません。文章の長さとページ分割によって、挿絵を入れるページの数が決まります。文章が長い場合は、別冊にするのもよいでしょう。

文章はタイプするのが望ましく、文字サイズは最低でも16ポイントとします。文章を手書きにする場合は、テキスタイルマーカーを使います。また、文章の上に点字を加えることもできます。

文章以外に、効果音や本の朗読、歌などを録音したものを付けることもできるでしょう。

挿絵を考える

さわる絵は通常、目で見ることを想定した挿絵に比べて、細かい部分がずっと少なくなっています。挿絵を考える際には、物語にとって重要な絵、そしてさわる絵にできる絵を選ぶことから始めます。また、絵が文章の内容と一致していることが重要です。ページの一番下に、どの向きに絵を読んでいったらよいかを示すガイドラインやひもを付ける場合もあります。

写真6

写真6:アンネリ・サロ(Anneli Salo)『魚釣りの旅(Onkiretki)』

それぞれのページには、違う絵を入れます。通常、物語を伝えるには、絵のページが5枚から10枚あれば十分です。絵はシンプルなものが一番で、1ページに1つか2つのキャラクターがいれば十分です。読む人にとってもっともわかりやすいアングルにするには、キャラクターを真正面または真横から描きます。また、キャラクターの一部ではなく、全体を使った方がよいでしょう。奥行きのあるさわる絵は、理解するのが難しいのでおすすめできません。

動物や人間のキャラクターをよりわかりやすくするには、すべての手足、両目、両耳、両羽、そして尻尾が見えるようにします。また大きさの比は、キャラクターの大きさを反映したものでなければなりません。現実世界で最大の生き物は、絵の中でも最大にしなければならないということです。一番簡単な方法として、もっとも大きい動物を最初に作り、その後、それに合わせてほかのキャラクターの大きさを調整していくやり方があげられます。

ときには、絵をもっとわかりやすくするために、実物を少し変えなければなりません。あるものを拡大し、別のものを縮小しなければならない場合があります。また、ある特徴を非現実的な方法で強調しなければならないこともあるでしょう。たとえば虎やシマウマの縞、あるいはテントウムシの点模様を、盛り上げたり別の材料で作ったりして、さわって区別しやすくすることができます。既製品の動物の人形で音が鳴るものもありますが、これらを挿絵に使ってもよいでしょう。

形と材料

さわる本はさまざまな形に作ることができます。アコーディオンのような形にすることもできれば、製本することも、また、穴とひもを使ってばらばらのページを束ねた形にすることもできます。バラバラのページだけの本も考えられます。厚紙で作るさわる本には、らせん綴じを使用するのが一番適しています。

写真7

写真7:アコーディオンのような形等の本の製本の仕方のイメージ写真

本の中でさわって読む体験が多ければ多いほど、読者はますます楽しめるようになります。さわる本を作るなら、さまざまな材料とそれをさわったときの特徴に詳しくなってください。はっきりとした色彩と好ましい色のコントラストは、弱視の子どもたちには欠かせません。色は、絵を説明する親やそのほかの人たちにとっても重要です。会話の中に色を示す形容詞を取り入れることで、ひいては子どもの語彙を豊かにしていくからです。

土台布には、手触りと色が区別しやすい布を使います。例えば、色の濃い、フワフワしたクマのぬいぐるみの挿絵には、明るい色でなめらかな土台布を背景に使い、明るい色の固い挿絵には、暗い色の柔らかい土台布を使います。

写真8

写真8:ハイディ・エルヨーマー(Heidi Erjomaa)『ラリー学校へ行く(Lassen koulumatka)』

材料を選ぶときには、挿絵は手で読まれること、またときには口でも読まれることを忘れてはなりません。表面の感触のほどよいコントラストと、実物そっくりの材料も、真実性を高めるために重要です。手袋を絹製にしてはいけませんし、ゴム長靴をタオル地で作ってはいけません。詰め物には衛生的な材料を使います。固い材料は耐久性があるのでおすすめですが、先がとがった材料や、チクチクする材料は、けがにつながる可能性があるので、本の中で使用してはいけません。

写真9

写真9:サンニ・ハイニカイネン(Sanni Heinikainen)『服を着よう!(Opi pukemaan)』

年齢の高い子どもたちを想定したさわる絵には、ファスナーやスナップボタン、ボタン、マジックテープ、ポケット、ハンドルなど、微細運動能力を強化するパーツを入れてもよいでしょう。

音楽と音

ガタガタ、チリンチリン、キーキー、シューシュー、バリバリ、パチパチなどの音は、さわる本をさらに魅力的にします。すべてのページで音を出す必要はありませんが、それでも、たとえば小さなチリンチリンと鳴る鈴など、何らかの音源を本に入れるべきです。普通の材料でも面白い音を出すことができます。たとえば、ビニール袋の中の片栗粉は雪を踏むような音がしますし、厚紙の表面に布を1枚袋状に糊付けし、その中にとうもろこしの粒を入れると、波のような音がします。ホビーショップでは押笛を売っていますが、これをさわる動物の中に隠し、動物を鳴かせることもできます。くしゃくしゃにした紙やビニール、それからチョコレートの箱に入っている詰め物も、カサカサという面白い音を出します。

さわる本の中では、小さなオルゴールさえも使うことができます。ただし、電池で動く装置は避けた方がよいでしょう。

匂い

さまざまな香りやスパイスが、さわる絵の中で使われることがあります。また、材料の中には、独特の匂いがするものもあります。しかし、強烈な香りはアレルギー反応を引き起こす可能性があることを忘れてはなりません。また、香りや匂いには、時間がたつと薄れて行く傾向もあります。

安全第一

さわる本は常に子どもにとって安全でなければなりません。本には、ゆるい部分やすぐに壊れてしまう部分がないようにします。幼い子どもたちは、本を口で調べることがよくあるので、絵には毒性や、ゆるんで取れてしまう細かいパーツがないようにしなければなりません。はずしたり、動かしたりすることを意図したものはすべて、丈夫なひもで取り付けなければなりません。ひもは子どもの首に巻きつかないように、長すぎないようにします。また、パーツはマジックテープで固定したり、スナップボタンで閉じる小さなベルトで固定したりすることもできます。

毒性のある材料や糊は避け、表面の掃除がしやすい材料を選びます。本を図書館の貸出用資料にする場合、貸出の合間に掃除機でほこりをとったり表面を拭いたりしてきれいにする作業に耐えられるものでなければなりません。

写真10

写真10:トゥイヤ・ヘラネン(Tuija Herranen)『蜘蛛(Hämähäkki)』

さあ、はじめましょう:さわる本の製作例

ページの土台布には、単色で汚れをはじく、挿絵が付けやすい布を選びます。土台布の色は、色のコントラストを出せるように、挿絵に合わせて選びます。すべてのページを同じ色にする必要はありません。

土台布の内側に厚紙や耐性のあるプラスチックの板を1枚入れると、ページがよりしっかりとします。厚紙を使う場合は、折れ曲がったり濡れたりするのを防ぐために、糊つきのビニールシートで覆います。とがっている角はすべて丸くします。厚紙のページを使って、布の裏側にページのサイズを描いておきます。布を裁断するときには、縫い代を残し、本を綴じる場所を考えることが重要です。

挿絵は土台布にしっかりと縫い付けます。ものを付けるときには、釣り糸で付けるととても丈夫です。挿絵は一部だけを付けたり、とりはずしたままにしておくこともできます。とはいっても、とりはずせる挿絵は、ひもやマジックテープなどで、本に付けておかなければなりません。

挿絵のページは、ページを縫い合わせたり厚紙を入れたりする前に、まず挿絵と文章の部分を仕上げます。挿絵を付けたページと裏側にくるページを中表に合わせ、ページのサイズを描いた線に沿ってピンで留めます。製本する側は開けたままにし、それ以外の部分を縫い合わせます。次に縫い合わせたページを表に返します。裏返しできないとても大きな絵や固い絵は、ページを縫い合わせ、表に返したあと、最初にとり付けます。

ページ番号をマーカーやビーズ、ボタンなどで表示します。ページの中に厚紙を入れます。製本用に残しておいた側でページをしっかりと締め、縫い合わせます。製本用に残しておいた部分を内側に折り込み、縫って閉じます。最後に、各ページに穴を開け、ひもを通して結び、まとめます。

写真11

写真11:セイヤ・ライッカ(Seija Räikkä)『子どもたちのイースターブック(Lasten pääsiäiskirja)』

厚紙で作るさわる本

厚紙は、さわる本の台紙としても利用できます。独特なさわる絵を使った厚紙の本は、就学前の子どもたちや、それより少し年上の子どもたちにもっとも適しています。厚紙に糊付けされた絵は平べったいので、布の本の絵よりもわかりにくいからです。とはいえ、厚紙の本にも指で理解できるものを取り入れることができます。たとえば、動物の耳やしっぽは、一方だけ留めてもう一方の端は留めないでおくことができます。同様に、スカーフの端を結べるようにしたり、ドアを開け閉めできるようにしたりすることもできます。ファスナーを利用して、時計の針が動くようにすることもできます。風車などの多くのものを、動く平らなミニチュアモデルにできます。

厚紙の本の場合も、可能な限りすべてのパーツを縫いつけてから、できあがった挿絵を各ページに糊付けしたほうがよいでしょう。

写真12

写真12:シルヴィ・サラプー(Sylvi Sarapuu)『形(Muodot)』

奥付

セリア図書館(Celia Library)
P.O. Box 20
FIN-00030 IIRIS
Finland

住所:
Marjaniementie 74, Itäkeskus,
00930 Helsinki

電話番号:+358 9 2295 2200
E-mail: info@celialib.fi
www.celialib.fi

ヘルシンキ 2008年

裏表紙

裏表紙:ティツィアナ・マンタチェティ(Tiziana Mantacheti)『テントウムシ山へ行く(Leppäkerttu lähtee vuorille)』