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著作権法によって録音図書貸出しが認められないグループへの貸出し枠拡大の試みについての調査(1973:76)報告書

スウェーデン政府公文書 学校教育庁 部局V 1 1976 文書番号 76:5630

項目 内容
発表年 1976年
備考 学校教育庁出版物「全ての国民のための文化」(kultur at alla)付録

この報告書は、学校教育庁の任命によりこの有意義な録音図書貸出し対象枠拡大の調査を統括し、評価したエスキルステューナ県立図書館の元司書グンボリー・ニィマン(flansbibliotekarie, Eskilstuna)によって編集された。


中略


1.2 録音図書と(視覚障害者)以外の障害者

視覚障害者のため録音図書が製作されるようになった後、録音図書は他の障害を持つ人々にも明らかに役立つと理解されるようになった。

視覚障害者以外の障害者達が抱える読書困難は、すでに介護支援センター(vardsinstitution)によって様々な器具で補助する手段が模索され始めていた。読書台、ページめくり補助器具、多面レンズ眼鏡(乱視用補助器具)、マイクロフィルム図書などだが、それらは障害者達にとって充分な補助とは言えなかった。機械的な器具を使って本を読むことは、彼らにとって大変だった。

これらの器具を使うのに精神的あるいは肉体的に問題のない障害者を持つ人々でさえ器具の使用によって読書欲や理解力が半減してしまう。

字を読むことが学べない、または読むのに最低限の能力しか身につけられない障害者や、特に知的障害者によくあるように、読んでも理解をすることのできない障害者もいるのだ。


中略


2.1 著作権法条文(Upphovsrattslagen)

録音図書使用を拡大させられるような条文が、「文学及び芸術作品に関する著作権(1960)」に含まれている。著作権法の第18条中の1項目にこう記されている。録音図書を借りて耳で読む権利は厳密に範囲が限定されているが、視覚障害者及び「その他の重度障害者」を含めて貸出せるように範囲を広げている。

この「障害者」の定義は現在使用されていないため、条文が曖昧なものとなっている。

そのため補助規定文として、説明が記されている。「この権利に保護されるのは字を判別するだけの視力を持たない人々、及び障害によって商業出版された作品の内容や挿絵を理解することに困難を覚える者である。」

判例により後にこの規定は、手の機能に障害を持つ人々なら誰にでも適用できると解釈されるようになった。

録音図書を上記のような貸出しの権利を持つのは、当時国立及び県立図書館(Stats-och lansbibliotek)、ストックホルム国会図書館(Stockholms statsbibliotek)、スウェーデン盲人協会(De blindes forening)、図書館サービス社(Bibliotekstjanst AB)だけであった。


中略


2.4 著作権法の改定による録音図書の貸出し

この解釈では、現実には従来の方法で読書ができなくても手の機能に障害のない多くの人々は除外されてしまう。この中には短期または長期の病気で障害のある人々も含まれる。

そのため1970年の4月、政府管轄の障害者評議会(Statens handicaprad)は(国王の権利により)著作権に関する第18条を以下のような文面に改定するよう政府に公式に要求した。「文学及び音楽的な作品が出版される時は点訳されて貸し出されること。図書館及び各団体は条分に従い、出版された文学作品を従来の方法では文学を読むことができないか、または特にこのような媒体を必要とする障害者に貸出す目的で、録音して提供することを国王より許可される。」


中略


3.試行作業計画

3.1

1973年春、視覚以外の障害を持つ人々を対象とした録音図書の貸し出し調査計画を立てる活動グループが結成された。このグループには政府管轄の障害者協議会の代表者、学校教育庁、スウェーデン盲人協会、ストックホルム国会図書館の社会的図書館機構協議部門(Stockholms statsbiblioteks avdelning for social biblioteksverksamhet)などが加わった。1973年の2月には県立図書館の元司書グンボリー・ニィマンが学校教育庁の調査のリーダーに指名された。

活動グループはこの試みをUTU-調査(録音図書貸出し対象枠拡大に関する調査:UTVIDGAD TALBOKSUTLNING-forsoket)と名づけ、精神的または肉体的な理由によって一時的に、または継続的に従来の方法で読書をすることに大きな困難を覚える人々を対象として行った。最初に対象として挙げられたのは知的障害者、精神障害者、行動障害者だった。またその後に回復期の患者、長期療養者も含められた。失語症や失読症の患者や難聴者も対象内に入れられた。

3.2

大人の知的障害者、失語症者、難聴者等に向けて、ゆっくりと読み上げられた簡単な録音図書(lattlasta talbocker)が必要であることが明らかになった。ただちにスウェーデン盲人協会の図書館にそのような録音図書が数点並べられた。14冊の適当な録音図書が1973年の11月にすでに上記の図書館から一般の図書館に向けて貸出しのため送付されている。その中にはゆっくりと読み上げられて録音された図書も何冊か含まれていた。


中略


3.3 調査地域

活動グループは情報を収集でき、色々な援助を受けられるような場所に調査の地域を限定した。

元々この調査の対象として複数の介護支援センターがある大規模な地方自治体を持ち、大きな療養者用図書館(patientbibliotek)を持つ4つの県が指名されていた。

精神障害者援助委員会(omsorgssytrelse)の意見を取り入れ、録音図書が豊富に揃っている県が選ばれなくてはならない。県立図書館や地方自治体の図書館(kommunbibliotek)は自分の地域で行われる調査に責任を持たなくてはならない。さらに、調査委員長が選出されなくてはならない。先に打診しておいた2つの県は、この調査を行うだけの充分な資金がないと返答した。最後に県立図書館の代わりにある療養者用図書館が指名された。結局調査を行うことになった県立図書館はエスキルステューナ、クリスチャンスタッド(Kristianstad)、カールスタッド(Karlstad)に建つ3館のみとなった。それぞれセーデルマンランド県(D-lan: Sodermanland lan)、クリスチャンスタッド県(L-lan: Kristianstad lan), ヴァルムランド県(S-lan: Varmland lan)である。さらにウプサラの地方自治体内ではウプサラの国会図書館(Uppsala stadsbibliotek)が加わった。

カロリンスカ病院(Karolinska sjukhus)とルンド公立病院(Lunds lasarett)の療養者図書館の2館も参加することになった。


中略


4.3 各障害者グループ

貸出しレポートを総合した結果、調査期間中どの障害者グループが主にUTU-貸出しを利用したかがあきらかになった。(付録5、6)

付録5 障害のグループ毎の貸出し状況

障害 15歳以下 16-30歳 31-65歳 65歳より上 貸出し数
失語症 - 10人 137人 106人 676冊
失読症 13人 9人 29人 12人 198冊
難聴 8人 2人 2人 18人 80冊
精神障害 7人 24人 43人 32人 286冊
知的障害 146人 127人 35人 6人 715冊
行動障害 13人 66人 329人 225人 1745冊
回復期療養者 17人 45人 163人 157人 1306冊
長期療養者 14人 71人 260人 598人 2651冊
調査対象者総計 218人 354人 354人 998人 7657冊
視覚障害者 - - - - 56636冊
手の機能に障害がある者 - - - - 824冊
総貸出し数 - - - - 65117冊

付録6

1975年の間に録音図書を聴いたグループ

障害 16歳未満 16-30歳 31-65歳 65歳より上 貸出し数
失語症 - - - - -
失読症 - - - - -
難聴 2人 3人 - - 5人
精神障害 8人 23人 2.5人 4.5人 38人
知的障害 16人 41人 6.5人 0.5人 64人
行動障害 4.5人 7.5人 1人 - 13人
回復期療養者 - - - - -
長期療養者 - - 4人 17人 21人
読書困難 1人 - - - 1人
総計 31.5人 74.5人 14人 22人 142人

中略


4.3.4 精神障害者達

はじめ、精神病院内のUTU-貸出し利用者グループはわずかな人数に過ぎなかった。だが彼らの数は1974年から1975年にかけて4倍に増えた。このグループは経済状況が良くなるにつれてどんどん大きくなり、精神障害者達にも録音図書は必要であるという考えも浸透していった。その段階でテープレコーダーも適当な録音図書も在庫が足りなくなってしまった。これらの精神障害者達の中には文学に造詣の深い優れた読書家もいたのである。

従来の方法で読書をしたり、新聞を読むことができない多くの障害者達は、集中力が保てるよう投薬を受けていた。また文字が踊って見えるような視覚障害を持つ人もいた。障害者達の中には長文の印刷物を読むことに大きな抵抗を感じる者もいた。病院内のいくつかの病棟は騒音が響いていて、利用者達が落ち着いて読書をするのが困難であると言われていた。ヘッドフォン付きのテープレコーダーは利用者を外界(の物音)から切り離し、落ち着いて集中できる環境を作り出した。社会と精神衛生協会(Riksforbundet for social och mental halsa)は1975年に精神病院における文化活動とUTU-調査活動(en konferens om forsoksverksamhet med kulturella aktiviteter pa psykiatriska sjukfus)という会議で、精神病院の療養者たちは録音図書と録音新聞を必要としていると発表した。この発表は複数の療養者団体(patientforeningarna)によって強く支持された。

録音図書は様々な見地から精神病院において療法に利用されるようになった。中でもウッレローケシュ病院付属の長期療養施設(Langtvardsklinikerna vid Ullerakers sujukhus)では、年のため読書をする体力がない老齢者たちの読書欲を活発化させるために利用された。エスキルステューナにある精神衛生クリニック(psykiatriska kliniken)では作業療法の中にグループで録音図書を聴く活動も取り入れられた。

4.3.5 知的障害者

これら障害者グループの中で大半をしめる貸出しサービス利用者達は中年期かそれ以降の年齢の人々である。だがある障害者グループだけはまったく別の年齢層によって占められている。それが知的障害者のグループである。このグループで中心となっているのは30歳以下の人々だ。このグループも集団で録音図書を聴くことが計画された。

知的障害者たちは個人個人でそれぞれ大きな違いがある。読書能力を持つ人もいれば、短い文章なら読めるが、それ以上になると理解できない人もいる。また文字を識別することはできても、文章は読めない人もいる。読書能力を持つ人以外は皆、読書や読書に関連する文化的な活動から切り離されていて、しかも朗読を聴く事もできない。だがその介護の状況に関しはここでは割愛しよう。

グループで録音図書を聴く活動に際し、まずテープレコーダーについての説明があり、続いてこの機械でどうやって録音図書を聴くかが説明された。その後録音図書が再生された。この活動はまず短時間録音図書を流し、時折会話をはさんだり音楽を流すことから始められた。このグループ活動は、多くの場合集中力が養われて録音図書を聴く時間が長くなるにつれ、各々が自分で図書を聴くように指導されていった。なによりもすばらしいのは、調査の間にこのグループ活動に参加したほとんどの知的障害者達が個人のテープレコーダーを持ち、自由にそれを動かしてみたいと望むようになったことである。ほとんどの場合、各々テープレコーダーを借り受けることができた。彼らは小規模な公立図書館(folkbibliotek)の録音図書部から図書を直接借り出すようになった。これは目ざましい進歩である。

グループで録音図書を聴く活動が彼らにとって良い経験となったと、ウプサラ県の知的障害者達のグループホーム(hem for psykiskt utvecklingsstorda)、ホーガビィやデイケアセンターの報告書に記されている。そこでこの活動のリーダーをつとめたのは視覚障害者だった。セーデルマンランド県にあるイエッテューナホームでは県立図書館が4つの棟に1つずつテープレコーダーを設置した。活動の参加者達は同じテープを何度も聴きたがった。複数のケアホームや寄宿制のホームや養護学校でこのような活動が行なわれた。1975年の間に64個所でこの活動が行われたことが報告されている(1974:35)

カールスタッドの国立図書館では1975年の春から開きにかけて知的障害を対象に、彼らが図書館に親しむことを目的としたコースが開かれた。その中には録音図書を聴く活動も含まれていて、その図書館では参加者一人一人にそのテープと同じ内容の印刷された図書を持たせた。一冊の本を理解できること、「読める」こと、の喜びは大きかった。何人もの参加者が貸出しサービスの利用者となった。

個人で録音図書を聴くことが、重度の他の障害を併せ持つ知的障害者達にとって大きな意味を持つことがヴェイビィ海岸に建つ王位継承皇女ヴィクトリア病院(Kronprinsessan Victorias Sjukhus)の報告書に記されている。中でも重度の行動障害を持つ車椅子使用の若い少女のケースは印象深い。彼女は知的障害に加えて、自分では読書もできずテープレコーダーを扱うこともできない上、言語障害も持っていた。それでも少女は録音図書を聴くことに大きな喜びを示し、希望図書のリストを出したという。

その頃には予算が足りないにも関わらずすでに多くの養護学校(sarskola)やケアセンター(vardhem)、作業所及び寄宿制ホーム(sysselsattnings- och inackorderingshem)などに録音図書が送られ、生徒達への新しい刺激や気分転換になり、集中力を高め理解力や語彙力を増加させるこの録音図書は重要な存在となった。

これらの報告は、適当な録音図書が必要な数だけあり、知的障害者達が自由に使える補助器具としてテープレコーダーを持つことさえできれば、これらのグループが大きな進歩を遂げることを示している。


中略


5. UTU-調査による他の経験

5.1 録音図書の保管

何度か繰り返したように調査の期間中録音図書の利用が進むにつれて、図書が足りなくなった。新規の利用者はすでに熱意ある読書家となっており、有名な作者によるノンフィクションの出版を待ち焦がれていた。あるケースでは希望の図書がまだ録音されておらず、またあるケースでは入手可能な図書の数が少なすぎ、予約の列ができ、長期間待たなければならないような状況になった。問い合わせが殺到したいくつかの図書などは、予約期間が1年にも及ぶような状況になった。

録音図書の大量生産と購入が大変重要な課題になった。「すべての国民のための文化」で記された「障害の解決」(Handicapputredningens forslag)では特別な図書館の設立が力強い大きな熱意を持って提案されている。この特別な図書館は録音図書を保管し、公立図書館や介護支援センターへの貸出しの中心となる重要な機能を果たすべく設立されなければならない。

一部の県立図書館はすでに地元の作家の協力を得て、その地方の文学を録音するサービスを始めていた。UTU-調査に参加したある地方自治体では、その地方に住む高齢者へのインタビューを吹き込んだ録音図書の貸出しという大変良い試みを行った。

利用者にとってこのようななじみ深い録音図書を聴くことは楽しいものである。特にすでに読書をやめてしまった高齢者にとって有益であった。

ここで重要なのは、録音図書を聴くことによって図書の中の状況や出来事を思い浮かべ、登場人物達の気持ちを共感できることなのである。なによりも録音図書をあるグループで聴くことによって、そこに活き活きとした会話が生まれるのである。TRU(放送局)の録音図書エミリア、エミリア(レイダル・ヨンソン著)はそのための資料として使われた。このような目的の録音図書使用はぜひ続けてほしいものである。またぜひ他の地域でも同じような試みをして欲しい。移動手段が発達している現在では、このような試みに興味を持つ人々が他の地域でも出てくるであろう。

ヴァルムランド県では絵本の文字の部分を吹き込んだテープが絵本と共に貸出され、それが利用者に良い結果をもたらした。この組み合わせはケアホームや病院、それに親元に住む障害児達に活用された。

ここで話を戻すと言語上の障害を持つ人々のグループ、例えば知的障害や失語症、難聴者等には特別な録音図書(special framstallda talbok)が必要である。

様々な障害の度合いに分かれる知的障害者達にとって、難しい言葉のない一般的な内容の図書の中でも、人気のある簡単に手に取りやすいものが選書され、貸し出されていることはなにより重要である。また扱っているものが簡単で話の筋が通っていて、本の内容にすんなりなじむことができるように、時代の設定が現在か最近になっているものが好ましい。

とはいえ、様々な分野に渡っていて愉快な内容の文学やノンフィクションや日常描写が盛り込まれているような簡単な内容の本(LL-Bok:学校教育庁内にある製作部の作業グループによって出版された図書)は入念に注意を払って録音されている必要がある。失語症者や難聴者にとって、図書が様々に速度を変えてゆっくりと録音されていることは大変重要なのだ。普通にゆっくりと読み上げて吹き込むだけでは、短調で退屈な印象になりやすい。

かなりはっきりとした発音で文章の切れ目に間を置いて、ゆっくりと読み上げる必要がある。読み手の声の状態も重要である。低い声の方が聞き取りやすいのだ。

これらの特殊な録音図書の製作には解決されるべき多くの問題が残されている。これらの特殊な録音図書は印刷された書籍、特に挿絵が入った本と組み合わされていることがほとんどである。挿絵が聴き手の理解を助けてくれるからである。


中略


7. 結論

7.1 拡大された録音図書の貸出しと著作権

UTU-調査によって文字を読むだけの視力を持たない障害者、または手の機能に障害を持つ人々以外にも、様々な障害をもつ人々が録音図書を必要としていることは、UTU-調査によって確認された。録音図書はたくさんの障害者や療養者の生活状況をより良いものにするのである。