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著作権法改正と障害者サービス 第7回
聴覚障害者(ろう者)サービスの現況と展望

山元 亮・山口俊裕

 『図書館雑誌』2010年11月号に「改正著作権法と聴覚障害者情報提供施設について」(小野康二氏)の記事が掲載された。特に「図書館との連携」の中で「手話による絵本の読みきかせ」、「対面手話朗読」について書かれているが、この「対面手話朗読」は長年の課題である。
 枚方市立中央図書館は今から6年前、2005年4月にオープンした。6階建ての建物の5階に障害者・高齢者サービス資料室および映像スタジオがある。中央図書館の開館以降、試行錯誤しながら聴覚障害者サービスの新規事業を提供してきた。
 主な聴覚障害者サービスとして毎月第4土曜日の午後2時から2階のこどもフロアで「手話でたのしむおはなし会」を開催している。「手話でたのしむおはなし会」はきこえる子どももきこえない子どもも、誰でも一緒に楽しめるおはなし会である。ろう児の参加は年間1~2回と少ないが、平均して、毎回、30名ぐらいの参加がある。
 また、成人の聴覚障害者を対象にした「手話ブックトーク」も年3回開催している。内容は手話による昔話や本の紹介だ。読み取り通訳はなく、手話だけで進行する。
 当館の聴覚障害者サービスの取り組みは、本誌2007年5月号p.298~300に掲載されているので、今回は手話字幕付映像資料制作について紹介したい。

●手話字幕付映像資料(ビデオ・DVD)制作について

 枚方市立中央図書館では手話・字幕付き映像資料の制作を行っている。手話による講演等を収録し編集した映像資料(手話版)とその映像資料の手話を翻訳し日本語字幕をつけた映像資料(字幕版)がある。日本語字幕付映像資料(字幕版)の制作には中央図書館に個人登録している字幕挿入等編集協力者に協力をいただいている。
 映像資料の収録・編集そして日本語字幕挿入の技術を習得するため、2005年度に字幕挿入等編集の講習会を開催し、字幕挿入等編集協力者を募った。滋賀県立聴力障害者センターのビデオ編集の担当者を講師に招き、5回の講習を実施した。
 講習の内容は次のとおり。
 ①字幕制作の流れ、②聞き取りについて(漢字の使用範囲・ルビについて・その他)、③要約について(「要約とは?」・文字数とタイムの関係・ジャンルによる要約方法の違い)、④要約の決まり(半角分のスペースの入れ方・句読点・字幕の位置・文体,表記の統一・その他)
 講習終了後、7名(ろう者4名、聴者3名)の字幕挿入等編集協力者の登録があり、現在を活動していただいている。
 しかし、字幕挿入については手話を適切な日本語に変換する翻訳作業が難しく、手話を正確に読み取る技術と日本語の豊富な知識が要求される。そのため、翻訳作業には膨大な時間が費やされ、日本語字幕付映像資料の完成には相当の時間がかかった。
 そこで、2008年度に字幕挿入等編集協力者を対象に翻訳技術のスキルアップを目的とした日本手話翻訳技術の養成講座(研修)を、関西手話カレッジ専属の講師を招き、2回にわたり実施した。講習の内容は次のとおり。
 ①通訳と翻訳との違い、②同時通訳と逐次通訳の違い、③サマリー(要約)について、④その他
 講習を受けたからといって、すぐに翻訳技術がアップするわけではない。やはり翻訳に関しては継続的な研修が必要だと感じている。
 2011年1月末までに制作した手話・字幕付映像資料(DVD)は40タイトル(VHS:1タイトルを含む)。このうち手話版(字幕なし)が28タイトル、字幕版(手話を翻訳して日本語字幕を挿入)が12タイトル。
 当初、字幕挿入等編集協力者に無償で字幕挿入等編集をお願いしていたが、2008年度からは字幕挿入等編集作業に対する謝金の支払いが可能になった。
 現在、枚方市内在住の聴覚障害者の手話語りを主に収録している。枚方市内の聴覚障害者に中央図書館の映像スタジオまで来館していただき、戦争体験、ろう学校の思い出、枚方市の今昔など自由に思いのまま手話で語っていただき、収録している。収録に際しては、「収録した映像を編集して、図書館所蔵の資料として利用者に貸出すること」や「収録・編集した映像資料に日本語字幕を挿入して、図書館所蔵の資料として利用者に貸出すること」の許諾を得ている。
 また、枚方市内等で開催される聴覚障害者の講演会なども講演者や主催者の許諾があれば収録している。
 2010年4月に「聴覚障害者のための利用案内2009年改訂版 字幕版(DVD)」が完成した。多くの聴覚障害者(ろう者)はろう学校や地域の学校で教育を受けたが、教育環境が整っていない場合が多く、十分に日本語を理解することができないことがある。活字による図書館の利用案内では内容が理解できないこともあり、手話による利用案内を制作した。中央図書館が開館したときに制作した「聴覚障害者のための利用案内 2005年版 字幕版(DVD)」は、「日本語対応の手話が多く、内容がわからない!」というろう者の声(手話)があった。
 2008年4月の異動で中央図書館にろうの職員が配属され、ろうの職員が2名になった。ろうの職員2名を中心に日本手話の出来る聴者の職員1名と図書館ボランティアの聴覚障害(ろう)者1名と手話通訳のできる図書館障害者サービス専門員1名の5名で「聴覚聴力障害者のための利用案内 2009年改訂版 字幕版(DVD)」を制作した。この利用案内にはろう文化を取り入れ、自然な手話で会話をしながら図書館を紹介している。ろう者にとってわかりやすく理解しやすい案内を目的に制作した。この利用案内を借りたろうの利用者からも好評である。
 枚方市立中央図書館では年に3回、成人の聴覚障害者を対象にした「手話ブックトーク」を開催している。この「手話ブックトーク」では新しく制作した映像資料の紹介、手話による昔話、テーマを設定して、そのテーマに関する本の紹介などを手話だけで進行している。対象は聴覚障害者であるが、手話サークルのメンバーや手話学習中の聴者の参加も多い。「手話ブックトーク」は毎回収録し、その後、収録した映像を編集して「中央図書館の手話ブックトーク 手話版」の映像資料として貸出をしている。これには字幕版はなく、手話版のみだが、月平均1~2回貸し出されている。

●最後に

 本が好きな聴覚障害者はいる。しかし、活字が苦手な聴覚障害者もいる。
 手話は本(活字)として残すことができない。ろう文化、ろう運動、ろうの歴史などを後世に残し伝えるためにも、手話を映像資料として収録・貸出・保存することは大切だ。まだまだ、手話の映像資料は少ない。ろう者の第一言語である手話の映像資料が図書館にあれば、聴覚障害者がもっと図書館を利用してくれるかもしれない。
 自分が住んでいる市町村の図書館に自分の言語である手話での情報がたくさんあれば、「図書館も使えるな!」と思うかもしれない・・・。耳はきこえないが、字は読める。字は読めても、内容がわからない人がいる。わからないことをわからないと言える人はきこえる人にも少ないのではないか。
 ろう者たちから要望されている「対面手話」への道のりは険しいが、今やっているサービスを充実させ、PRをして、一人でも多くのろう者に来館していただきたい。

(やまもと りょう,やまぐち としひろ:枚方市立中央図書館)

[NDC9:015.17 BSH:1.障害者サービス 2.聴覚障害]


この記事は、山元亮,山口俊裕.聴覚障害者(ろう者)サービスの現況と展望.図書館雑誌.Vol.105,No.4,2011.4,p.232-233.より転載させていただきました。