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「DAISYによる教科書づくりを考える」 -欧米から学ぶ-

基調講演

「合理的配慮」としてのDAISY版教科書・教材の動向

河村 宏
デイジーコンソーシアム会長

皆さん、こんにちは。今ご紹介いただきました河村です。皆さんのお手元に今日の講師資料があるかと思います。これをご覧いただきながらお聞きいただくと大変幸いです。

まず、平日のお忙しい中、いらしてくださいました皆さんに、深くお礼を申し上げたいと思います。それからDAISYコンソーシアムの仲間の皆さんも、たくさん今日この会議に参加してくださいました。ありがとうございます。

今、自分に合ったスタイルで教科書を読めない子どもたちが、残念ながらどこの国にもまだたくさんいるという事実から、私たちは今日の会議をスタートしたいと思います。もちろん、北欧とかアメリカでは素晴らしいサービスがあり、そういうサービスを受けて十分な学習環境の中で学習をしている子どもたちもいます。しかしながら国全体を見てみますと、まだまだどこの国にも、自分に合ったスタイルが見つけられない、あるいはそういう教材がなく、模索をしているというのが現実だと思います。

その中で、お互いにそれぞれのいいところ、こういうのがよかったという事例をみんなで集めて、それを分け合って、そして自分のところでも工夫をするという段階に、私たちはあると思います。

今回、先ほどご紹介がありましたDAISYコンソーシアムの理事会をやって、だんだん分かってきたことがあります。世界中から情報を集めてみると、やはり世界はDAISYを中心に誰もが読めるようにする、そういう目標へ向かって確実に進んでいるということがよく分かりました。特に障害者の権利に関する条約、障害者権利条約の効果というのは、徐々に出てまいりました。

アメリカにおきましてもオバマ大統領は権利条約を批准する方向で、新しいステップを踏み出したと聞いております。日本政府も、今国会に権利条約批准に関する法案を提出すると聞いております。また世界中で数多くの国がすでに権利条約を批准して国内法を整備しています。

それらのすべての国々に共通することは、「教科書を読める」ということは、誰もが保障されなければならない障害者の重要な権利であるということ、そして権利条約を批准するということは、それを法律で保障するということに他ならないと思います。そういう大きな世界中の歩みが前へ進む中で、どうやってそれを保障するんだと。具体的に何を提供すると保障できるのかということが、いよいよ私たちが一生懸命考えなければならない、そういう段階になりました。

もともとは視覚障害者の「印刷物が読めない」ということに対する1つの回答としてDAISY規格を作りましたけれども、これはアメリカでは非常に明確に、連邦政府が決めた教科書、教材のアクセシビリティの法律で決めた規格ということで採択されています。ただ、DAISYという名前は使われておりません。NIMASと書いて「ナイマス」と呼んでおります。NIMASという名前の規格になっています。でもこれは、後でジョージ・カーシャさんからのお話にあると思いますけれども、緊密にDAISY規格につながっていることが規格の上でも確認をされているものです。つまりDAISY規格が改訂されると自動的にこのNIMAS規格も改訂をされる、そういうつながりのある規格になっています。

もう1つ重要な動きは、電子出版という動きだと思います。電子出版のこれからの世界標準ということで、誰もが信じておりますePub(イーパブ)、このePubの規格の中には、DAISYと同じ、「ナビゲーション」というふうに私たちが呼んでおります目次の機能がしっかりと入っています。これはDAISYコンソーシアムが貢献した成果です。

そして先ほど申し上げました、アクセシビリティの国際基準となる権利条約のもとにおいては、あらゆる出版物が障害のある人にもきちんとアクセスできるというのは、当たり前の権利になります。これを保障しないというのは障害者に対する差別になります。そして法律でもって差別を撤廃していくという積極的な措置がとられることになります。そういう意味で、今、DAISYは大きな転機を迎えております。具体的にどういう将来になるのがいいのでしょうか。ひと言で申し上げますと、今、オーディオのプレイヤーですね、音楽を聴いたりするプレイヤーを買うときに、MP3がかからないと聞いたら、皆さん買うでしょうか?MP3がかからないプレイヤーって言ったら、たぶん、あまりみんな買わないですね。

いずれ、例えばインターネットのブラウザ、今、Internet Explorerとか、Firefoxとか、あるいはワープロでMicrosoftのWord、あるいはOfficeの製品、そしてOpen Officeなどというフリーのソフトもありますけれども、そういったワープロで、最後にDAISYでセーブできるというふうなものが、近々皆さんの前に出てまいります。そしてワープロを選ぶときに、あるいはブラウザを選ぶときに、DAISYを再生したり、DAISYでセーブできないとなると、自分が作った文章がすぐに読むことに障害のある人に提供できません。それよりは、すぐにみんなで読めるものが作れるワープロにしよう、あるいはプレイヤーにしよう、インターネットのブラウザにしようというふうになっていく、それが近い将来のDAISYの目標になってきました。

去年ぐらいですと、そういうことを言うと随分大げさなことを言っているというふうに思われたかもしれません。でも今私たちは、かなりの確信を持って、世の中はそういう方向へ今動き出しているというふうに、昨日までのDAISYコンソーシアムの理事会で確認をいたしました。その意味でとても責任が重くなってきたというふうに考えております。

本日は、日本人だけでなくて様々な国からここに参加者がおります。この後パネルディスカッションのときにパネリストからもご意見いただきますけれども、この会場にいるみんなで、それぞれの経験を出し合うことができれば、より充実した会議になると思います。おそらく主催者は、誰に発表してもらおうかと、とても迷ったと思います。とても良い実践がいろんな国でたくさん行われているからです。でもその中から、何人かの方に最初発表していただいて、そしてパネルディスカッションでそれを補いつつ、会場みんなでさらに深めていくというふうな構成になっています。ですから皆さん、後半は全員参加でこの会議をやるというつもりで、どうぞ発言もご準備いただければ幸いです。

日本でもいよいよ著作権法が昨年9月に、教科書について、あらゆる障害のある生徒にとにかく教科書へのアクセスを保障する、そういう措置を認めるということが法律の上で決まりまして、すでに施行されております。来年1月1日を目標に、同じような、すべての障害のある人に読むことを保障する、そのための著作権法改正が、今、文化庁によって準備されているというふうに聞いております。これは長い運動の成果です。特にLD親の会から、この交渉を進めた著作権委員会の委員長さんが出ておられますけれども、10年近い交渉を大変粘り強く取りまとめて進めてくださいました。そういう意味で、みんなが長い期間待望して日本で何とかしようというふうにやってきたことが、いよいよ著作権法という形でできる環境が整いつつあります。その次はどうやって実際に教科書・教材を提供するのか、その実務的な流れをどうやって作るのか、そのための資金をどうするのか、そのための技術をどうするのかということになってまいりました。

そういう、日本にとって大きなターニングポイントになる今日、そして世界中のDAISYに向かっての大きなうねりが、昨日確認されたばかりの今日、みんなで近い将来、そして遠い将来、すべての人が、一度出版されたものは誰でもが自分のスタイルで読める、そういうことを目指して、午後半日、活発な意見交換を期待したいというふうに思います。

以上をもちまして私の基調報告とさせていただきます。ご清聴ありがとうございました。