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プロフィール

野村 美佐子(のむら みさこ)

(公財)日本障害者リハビリテーション協会 情報センター長

日本DAISYコンソーシアム事務局長/IFLA/LPD常任委員/IFLA/LSN通信員/日本図書館協会 障害者サービス委員会委員

1998年に(財)日本障害者リハビリテーション協会に入会。情報センターで障害者の情報アクセスに関する国内外の情報収集・提供を担当し、特に情報先であるIFLA(国際図書館連盟)での障害者サービス分科会に1999年より委員として活動にも参加。2001年より認知・知的障害者のためのマルチメディアDAISYの研究・開発・普及に取り組む。2004年から2007年、アジアでのDFA(DAISYfor All)プロジェクトに関わる。現在はDAISY教科書が必要な児童・生徒に届くことを願って普及活動を行っている。

2007年より情報センター長。

【講演要旨】

「DAISY教科書提供の取り組みと現状について」

2008年9月より、小学校と中学校の読むことが困難な児童・生徒へのマルチメディアDAISY教科書提供が、製作ボランティア団体のネットワークにより行われている。当初は対象者保護者からの依頼が多かったが、現在は先生からの依頼が多い。そしてマルチメディアDAISY教科書の利用促進のために、地方自治体、教育委員会やセンター、小・中学校、学校図書館、公共図書館などが動き始めたところである。しかし、2008年の教科書バリアフリー法で法律的な支援は得たものの、拡大教科書と同様の予算措置はされず、マルチメディアDAISY教科書の周知が十分に行きわたっていない。これまでの成果と課題をまとめ、今後の展望について述べたい。

山中 香奈(やまなか かな)

兵庫県LD親の会「たつの子」副代表

【講演要旨】

「DAISY教科書利用者が願うこと」

読み書きが困難で国語の授業についていけず、療育の先生にもそろそろボトムアップが難しいと思われていた長男が小学校4年生の冬にマルチメディアデイジー教科書に出会いました。「ボクはみんなみたいにはできひんけどデイジーあったらできるんやな」と満面の笑顔で「わかる」喜びを私に伝えてきました。現在中学校2年生になった長男は自分で読んでも中々理解できない文章もデイジー教科書があれば理解できると言い、自宅にはいつでもどこでもデイジーが再生できるようにパソコンや再生機器がならんでいます。デイジーは長男にとって視力が悪い人のメガネのような存在であり必要な道具となっています。また我が家では長男だけでなく長男とは全く違うタイプの次男もデイジーを必要としております。義務教育が終了したからといって要らなくなるものではありません。デイジーは彼らにはこれからもっと必要な道具となっていきます。

赤瀬 瞳(あかせ ひとみ)

大阪府富田林市立富田林小学校 発達障がい通級指導教室
特別支援教育士/自閉症スペクトラム支援

本校の通級指導教室では、児童一人一人の特性やニーズに応じた指導を心がけています。

その中に、読みに困りがあるために、読みに対して拒否感の強い児童がいました。その児童はマルチメディアデイジー教科書を有効に活用することで、正しく文章が読めるようになり、読みへの抵抗感が少なくなり、読めないことへのコンプレックスが減り、読めることへの達成感も出てきて、自己肯定感が高まってきました。

マルチメディアデイジー教科書を読める体験や自信が紙媒体の教科書やプリントの文章、読むことへの抵抗感も減ってきました。

読みに困りのある児童への指導でもう一つ大切にしていることは、ビジョントレーニングです。マルチメディアデイジー教科書の活用とビジョントレーニングを組み合わせることで、読み能力だけではなく、書字にも大きな変化が出てきました。漢字の形が正確になり、文字がきれいになってきました。しかし、児童が学習に対するモチベーションを高めるために必要なことは、トレーニングではなく、読める、楽に読めるという結果なのです。そういう意味でも、すぐ読めるという結果を出せるマルチメディアデイジー教科書の活用は大切だと考えています。

細川 恵未(ほそかわ えみ)

奈良県香芝市立関屋小学校 教諭

通常学級の一斉授業の中で、DAISYを使用した事例を紹介します。

「みんなと一緒に勉強したい。」読み書きに困難を持つM君は、クラスの中で、クラスの友達と同じ勉強がしたいと強く希望していました。その願いをかなえるために、昨年度から通常学級の中でDAISYを使用するようになりました。個人用のパソコンと、ヘッドホンを用いてDAISYで学習を進めてきました。また、テスト問題もDAISY化していただいたものを使って取り組んできました。

また、一斉授業の中でもDAISYを使用したいと考え、実践してきました。大きなスクリーンを用いてDAISYの画面を映し出し、範読に利用したり、一斉読みやグループ読みで利用したりしました。教室にはDAISYを自由に使うことのできるDAISYコーナーがあり、全校で取り組んでいる朝の読書の時間にも、「DAISY紙芝居」と称してDAISYを活用してきました。実践途中ではありますが、DAISYを活用したことによって「クラスのみんなと一緒に」という願いをかなえ、自己肯定感を高めることのできたM君の姿と、これからの課題についてお話しできればと考えております。

西澤 東(にしざわ あずま)

青森県弘前市立大成小学校 LD、ADHD通級指導教室
特別支援教育士 臨床発達心理士

LD,ADHD通級指導教室を担当した当初の5年前は自作したマルチメディアDAISY教科書を使ってLDの児童の読みの指導をしていました。今年度、日本障害者リハビリテーション協会にマルチメディアDAISY教科書のダウンロードを申請し、活用させてもらい、教材のすばらしさに日々感謝している次第です。

今回の発表では、一つ目として、通常の学級での一斉指導でDAISY教科書を使って授業をしてみた報告です。児童にどう受けとめられたかをアンケート結果をもとに考察し、DAISY教科書を通常の学級で使うとすれば、どのような使い方があるかについて話題提供したいと思っています。

もう一つは、LD,ADHD通級指導教室でのDAISY教科書を使った指導の事例を報告します。LDの児童がDAISY教科書を使った場合の音読指導の効果についてお話したいと思います。

河村 宏(かわむら ひろし)

NPO法人支援技術開発機構 副理事長

DAISYコンソーシアム 理事
日本DAISYコンソーシアム 運営委員長
国立障害者リハビリテーションセンター客員研究員
静岡県立大学グローバルスタディーズ研究センター客員研究員
IFLA/LPD常任委員
JICA障害分野支援委員

1970年から1997年まで東京大学総合図書館に勤務。(財)日本障害者リハビリテーション協会情報センター長および国立身体障害者リハビリテーションセンター研究所障害福祉研究部長を経て現在にいたる。すべての人が共有する知識と情報のデザインを追及し、情報アクセス権と著作権の調和を目指した活動に取り組む。また、ソーシャルインクルージョンの立場に立ち、障害者・高齢者の災害に対する事前の備えへの情報支援と国際協力に力を注いでいる。

【講演要旨】

「EPUB3とDAISYの連携による可能性」

教科書・教材のアクセスの課題は、読むことに困難を抱える子どもや大人が、社会で役割を持って生きるための自立を支える一本の柱です。「読める教科書だけがあってもしょうが無い」のは事実ですが、教科書すら読む環境が無いのでは、現代社会で自立することは極めて困難です。子どもたちの自立の必要最小限の条件である教科書・教材のアクセスの保障に私達が共通の関心を持ち、協力し合っているのはこのためではないでしょうか。

技術的には、DAISYはやっと日本語をほぼ完全に表現できるようになりました。DAISYがというよりは、Webや電子出版全体がこれまで日本語の縦書きやルビをきちんと表現できていなかったのが、DAISYもがんばったEPUB3の国際共同開発によってできるようになったのです。動画も使えるようになりました。これらの新しい条件を活かして、教科書・教材や試験問題のアクセスの保障をどう前進させるのか、2015年にデジタル教科書導入という動きを見ながら、一刻も早い教科書・教材のアクセス保障の実現について、主に技術の面から述べ、皆さんと討論したいと思います。

井上 芳郎(いのうえ よしろう)

障害者放送協議会著作権委員会
同放送・通信バリアフリー委員会(いずれも専門委員)
埼玉県立坂戸西高等学校教諭(情報科)

障害者放送協議会の専門委員として、文科省、文化庁、厚労省、総務省などへの要請活動や、関係団体等の協力を得て、広く社会一般へ情報保障と著作権の関係などについての理解・啓発活動に従事。みんなのデジタル教科書教育研究会会員。

【意見要旨】

「DAISY教科書導入は喫緊の課題」

2008年9月施行の教科書バリアフリー法、2010年1月施行の改正著作権法によりDAISY教科書製作に関し法的・制度的制約が大幅に緩和された。しかしながらせっかくの立法趣旨が十分生かされているとはいい難く、必要とする多くの児童生徒の手元には届いていないという残念な実態がある。そもそも検定教科書は学校教育での使用が義務付けられているものであるから、紙教科書へのアクセスが困難な児童生徒に対しては、国の責任においてアクセシブルな「代替」教科書が無償(義務教育)または廉価(高校教育)で、提供されなければならない。最近デジタル教科書導入に関する議論が盛んであるが、紙教科書へのアクセスが困難な児童生徒の存在を考慮した議論は相変わらず少ない。しかし一部とはいえ、民間団体や各地方議会などで、DAISY教科書に関する有効性や必要性などについて認識が進みつつある。このような現状を紹介し、今後の普及のための方策を考えていきたい。

田中 和美(たなか かずみ)

(元)公立中学校教諭 市特別支援教育研究部員 特別支援コーディネーター
(現)支援教育相談員 大学院教育学研究科(障害児教育専攻)在学
「奈良デイジーの会」・「のびのび先生サークル」会員・特別支援教育士

【意見要旨】

「マルチメディア教科書の意味と広がり」

読み書きの苦手な児童・生徒は、文字の苦手感から本を読むことが億劫になる。その結果、語彙が伸び悩み、また学力がつかないという悪循環になりがちだ。持っている力を引き出す可能性のあるデイジーというツールと、まず出会ってほしい。そして、出会う機会を、義務教育で与えて欲しいと強く願う。学力保障は、大事なキーワード。それを保障する意味でも、教科書はすべての児童生徒が読めるものでなくてはと考える。何といっても教科書は包括的であり体系的だからだ。当たり前のこととして、マルチメディアDAISY教科書を必要な子どもたちに届けてほしい。今回、マルチメディアDAISY教科書の効果と評価、また、広めかたを、共に語りたいと考えている。さらに、その学びの広がりについて考えてみたい。

野口 武悟(のぐち たけのり)

専修大学 文学部 准教授

大学、大学院にて障害児教育と図書館情報学を専攻し、現在は、図書館の障害者サービスや障害児・者の情報保障について研究している。2006年より専修大学文学部に勤務し、現在は、日本学校図書館学会理事(研究委員)、一般社団法人学校図書館図書整備協会理事なども務める。主な著書に『一人ひとりの読書を支える学校図書館:特別支援教育から見えてくるニーズとサポート』(2010年,読書工房,編著)、『図書館サービスの可能性:利用に障害のある人々へのサービス その動向と分析』(2012年,日外アソシエーツ,共編著)など。

【意見要旨】

「DAISY教科書とともに多様な学習メディアの提供を」

読みに困難のある児童・生徒に対してDAISY教科書の提供が必要であることは言うまでもない。しかし、彼らの学習にとって必要なのは、教科書だけではない。学習参考書や資料集、辞典・事典類など、学習に際して教科書と同時に利用しなければならない学習メディアは多岐にわたる。2011年から実施されている新しい学習指導要領では「言語活動」の充実が柱のひとつとなり、各教科の教科書には「学校図書館で調べよう」などの課題が多数盛り込まれるようになった。学校図書館に並んでいる様々な図書などを授業で活用する場面は一層増えるものと思われる。彼らの充実した学習を保障するためには、教科書とともに、こうした教科書以外の多様な学習メディアもDAISYなど彼らが利用できる方式で提供していくことが重要であり、そのための体制づくりが急がれる。

神山 博(かみやま ひろし)

青森公立大学 経営経済学部 教授

あおもりDAISY研究会代表、通訳IRC副代表。

2010年に「あおもりDAISY研究会」を立ち上げ、DAISY体験セミナー、製作講習会等を通して、県内利用者ニーズの発掘、製作者への呼びかけと情報交換を始めた。

専門分野は材料情報学、福祉情報工学、コンピュータ・シミュレーション、理論を用いた材料研究。現在の研究テーマは、アクセシブルなデジタル図書(DAISY)、ナノ構造シミュレーション、入力デバイス開発。著書・訳書:「初めて学ぶコンピュータ」「自然科学とコンピュータ」「フーヴァー分子動力学入門」田中実監修、神山博ら訳。所属学会は、情報処理学会、日本特殊教育学会、LD学会他。

【意見要旨】

「あおもりDAISY研究会」では、DAISY教科書ネットワークの構成団体としてマルチメディアDAISY版教科書を製作するとともに、県内利用者ニーズの発掘や情報交換をおこなっている。昨年度から製作者養成講座を開催しているが,ボランティア製作者・ナレーター確保の難しさと共に、図書を製作するためのスキル修得の難しさも実感している。表記に関する利用者側のニーズが多様化すれば、現状ではオーサリング環境の機能制限を補うスキルと製作時間が必要となるが、現時点ではまだ負担軽減に有効な決定打がなく、製作時間を増やす等の対症療法をとるしかない。これが製作者の負担感の増大につながる。しかし多くの図書製作場面で遭遇するHTMLタグの書き換え・追加・削除等の編集作業は定型的であることが多いので、その定型処理部分を半自動化すれば個々の製作者の負担を大幅に軽減することができる可能性がある。さらにDAISY版教科書のレイアウトを統一すれば、自動化も夢ではない。当日は負担軽減のための半自動化を併用することを前提にした製作者養成について報告したい。