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事例報告

赤瀬 瞳(大阪府富田林市立富田林小学校 発達障がい通級指導教室)

スライド1
(スライド1の内容)

こんにちは。私は大阪の方からやってまいりました、通級指導教室の担当の赤瀬です。

今日お話しするのは読み書きに困難を持つ児童A、というのは、小学校5年生の男の子のことです。この子どもが私と出会ったのは小学校3年生の7月です。7月の個人懇談の折にお母さんが「おかしい」ということで担任に相談がありまして、面談させていただきました。まず教科書の本読みの宿題がなかなかできないと。とにかくバトルになると。なかなかしないので怒ったりなだめたりしながらさせてしまうと。そういうおうちの方の努力で、担任の方は読めてるので気がついていなかったのですけれども、おうちですごく困ってらっしゃる。逐次読みがたどたどしい。とても時間がかかるので疲れる。

スライド2
(スライド2の内容)

植物の観察の絵、ちょうど3年生でホウセンカの観察をしてたんですが、どう見ても、ホウセンカには見えない。図工の絵を描くのも難しいと。幼稚園の頃から何を描いているのかわからなかった。文字の形が悪くて漢字がなかなか正確に書きにくい。毎回、「丁寧に書きましょう」というコメントを担任の先生に書かれてしまう。友達とのトラブルが多くてよく泣きます。1年生の時は、授業中、お腹が痛い、頭が痛いということで保健室によく行っていました。

そういう状況だったので、ぜひもう少し詳しく診てほしいということで心理検査をしました。これはK-ABCの検査ですけれども、4枚のカードを使ってモデルと同じ形に置くんですけれども、これを作って「先生、できました!」と見せるんです。…これを見て、「はい、できました!」と自信を持って言うんです。…これを見て「はい、できました」。…これを見て「はい、できました」。…これを見て「はい、できました」。というふうに、私がえっ?と思うような間違い方をしている。普通は検査をしていて間違えていると自信なさそうな顔をしたり、手で触ったりグチャッとしたりするんですけれども、彼は自信を持って「できました。」と私に訴えたので、あ、ちょっと見え方が違うんだなと思いました。

そこで人物像を描いてもらったんですけれども、これは大好きなお姉ちゃんを喜んで描いてくれたんです。これを自信を持って私に見せてくれました。手がないしボディーのイメージが非常に弱いですね。

これは漢字です。いつもこの辺りに「漢字をしっかり練習しましょう」「正しく丁寧に書きましょう」といつもコメントを書かれるんです。先生に部分的に直してもらっているんですけれども、なかなか形にはなりにくいという状態でした。

これは点結びですけれども、これは、左から右に移しています。ところが、今度、上から下へ移す時にどうしても、三角にとがるんです。ここでもそうですし、ここでもそうです。ここでもとんがるんです。微妙にとんがりが出ている。

それで、K-ABC検査をしました。K-ABCの結果ですけれども、模様の構成が5。10が平均ですが5でした。絵の統合は9。模様の構成がぐっと低いんです。

スライド3
(スライド3の内容)

これはWISCです。WISCも非常に凹凸があります。中でも知覚統合以外は全部100以上あるんですけれども、知覚統合が非常に低い。絵画完成は6、積木模様が9で組み合わせは5です。積木模様が9というのはなぜなんだろう。10が平均ですから、そんなに低くないんです。もう一回調べ直すと、WISCというのは早くできると加点がつきます。だから実際はなかなか形として組み立てられなくても、組み立てができた部分について早ければ加点がつきますので、加点がついて9になっていました。こういうことなんだなと私も分析しました。

スライド4
(スライド4の内容)

検査結果から弱いところが出てきます。抽象的刺激の視知覚、図形、記号、人物、物、そして有意味刺激の視知覚、視覚的処理過程、図形的認知、空間認知。こういう弱さがみえてきました。

スライド5
(スライド5の内容)

検査の結果から強いところも十分あります。漢字なんかは非常にまじめですので読みそのものはできるんです。

スライド6
(スライド6の内容)

支援の方法なんですけれども、私のところは通級ですので、まずどうしたらいいかとすごく悩みました。まずDAISYを利用していきたいと思いました。もう一つは、視機能トレーニング、ビジョントレーニングもしていきたいと考えました。

スライド7
(スライド7の内容)

また、学習の中身については、文章を丁寧に正確に読んで意味理解をしていくということで、例えば、算数の文章問題も全然読まないで勘で数字を掛けたり割ったりするので間違うんです。勘が当たれば当たるんですけれども、なかなか当たらないときは当たらないという状況ですので、全部、線を引かせて「読む。読み取る。」ということを大切にしていきました。

いつも本人に言うのは、「見たことと読むことは違うんだよ」と、違いをはっきりと言っています。

オプトメトリストにも一応紹介をしました。

DAISYの使い方ですけれども、初見で読む場合は音声で聞いたり音声と一緒に読んだりしています。その後は消音にして読む練習をします。DAISYのパソコン画面と、教科書を見比べながら読むんです。それは本人が自分で考えました。パソコンの文字、ハイライトのついたところを見ながら、今度はパッと紙媒体を見ながら見比べながら読んでいっていました。ハイライトになるスピードが自分の読みのスピードと合わないので、文字数が多いところはハイライトを止めて読んで、読み終わったらまた再生して次を読むという方法でいきました。

スライド8
(スライド8の内容)

最初の頃は私がパソコンを操作していましたが、すぐに「自分で操作をしたい。」と言って自分で使うようになりました。どんどん矢印キーを使って転換の間がなくなるくらい早くきちんと使えるようになってきました。それで随分読めるようになっていったんです。次に、プロジェクタを利用しました。板書の文字は距離感が違いますのでなかなか読みにくい。パソコン上の文字は読めるけれども、板書をしっかり読むために、今度はプロジェクタに映して、スクリーンを板書にかけて読む練習をしました。そうすると、近くで見るのと距離のあるものを見るのと、そして映すのと、そこは違ってきますので、そういうトレーニングをしていきました。

3年生の10月か11月頃から使い始めて3年生の終わりに、「モチモチの木」があるんですけれども、そのときは通級の方では結構スムーズに喜んで読んでいたんですけれども、おうちでの宿題ではバトルになったそうです。

次、4年生の初め、6月に「白いぼうし」があるんですけれども、そのときはお家でも「バトルしなくてよくなりました、自分で読みます」ということで随分変わってきました。

半年少しで読みは変わってきたように思います。ずっとビジョントレーニングもしていますし、いろんな意味で読むことの抵抗感が随分減った。ということは、追視する力がついてくるんです。追視することができてくると文字をしっかり見る。ビジョントレーニングと合わせて、感じが随分変わってきました。

例えば5年生になったら「大造じいさん」があるんです。結構長い文章です。今は「わらぐつの中の神様」、実はこれ、19ページあるんです。2月の中旬にクラスでこれに入るからというので、私が1月の終わりから入り始めました。19ページは通級でも一度に読めません。だから4つくらいに区切って4回に分けて1つを読んでいくようにしています。それぐらいしないと、長くて長くて気が遠くなりそうです。でも、読むのは嫌がりません。その意味ではずいぶん根気がついてきたなと思っています。

なるべくクラスでやる前に通級の方で読んで、そして読み込んでいって、クラスの方では、紙媒体の教科書で読んでいくようにしています。みんなと一緒の場所では紙媒体の教科書で読んでいくようにしたいというのが彼の望みだったので、そんなふうに使っています。

これは4年生のときの「ごんぎつね」です。大分、使いました。

スライド9

ちょうど4年生が終わる頃、印象評定を作ってみました。聞いてみました。マルチメディアDAISY教科書を使ってみて、どうなのかと本人に質問をしました。「文字が読みやすくなったか」「はい」。「文字を読むとき疲れにくくなった」「いいえ」。「正しく文字や文章を読めるようになった」「はい」。「集中して読めるようになった」「はい」。「何度も同じところを再生できるので確認しやすくなった」「はい」。「自分から本や教科書を読もうと思う機会が増えた」「はい」。「前より文章を読みたいと思うようになった」「はい」。「これからもマルチメディアDAISYの教科書を使いたい」「はい」。こういうふうに彼は答えてくれました。2番以外は全部肯定的な回答でした。本人も、やっぱり読みやすいんだと。もっと使いたいんだということを表現していました。

スライド10
(スライド10の内容)

スライド11
(スライド11の内容)

私自身、読む力は育ったなと自分で思っています。紙媒体のものも大分読めるようになってきたと思っています。文字の形が随分意識できていますし、追視するには根気が要ると思うんですね。文字を追視するって読みにくい子にはすごく疲れると思うんですね。だから根気が続かなくて嫌になるんでしょうけれど、そういう意味での根気は随分ついてきたと思います。

同時にやっていたビジョントレーニングですけれども、ぐるぐる回してどこに赤い玉があるかなというゲーム的な追視です。これは視知覚のソフトを使っています。これも視知覚です。点結びをよくやっています。これは細部を見比べる。「同じのはどれ?足の指の形を見るんだよ。背中の柄を見るんだよ」と。細かいところまで注視していく力も大事だと思いますので、丁寧に細かいところまで見るんだよということをやっていきました。

これは目と足、手の協応。注視をしていく。これは2年前、3年生の7月頃の漢字です。これが5年生になったくらいのときの漢字です。4年生の秋ぐらいに担任の方から、「漢字が随分ときれいになってきた、丁寧になってきた」と。読みは1学期に、「随分と読めるようになったね」と言われていました。4年生の2学期に、「随分と形がよくなったね、正確になったね」と言われています。これが2年前の字です。細かいところまでがわからない。ふにゃふにゃとなっている。部分的に先生が直しています。なかなか形が正確にとりにくかったんです。これが5年のはじめの頃です。今はもう少しきれいなっていると思いますけれども、細かいはねや止めとか、細かいところまできちんと書けるようになってきたと思います。そのことはすごく自分の自信になってきています。

スライド12
(スライド12の内容)

スライド13
(スライド13の内容)

スライド14
(スライド14の内容)

成果ですが、読むことへの抵抗感が薄らいできました。「俺もなかなかいけるやん」という達成感や自信がすごくついてきました。プリントの問いを読むようなってきました。以前は勘で答えることが本当に多かったです。読めてきたことで問われている意味がわかってきたし、やっとテストの点につながってきた。2年たって、今年度の秋、2学期からテストの点がすごく変わってきたなというのがあります。というのは、1学期の7月の保護者面談があったとき、本が上手に読めるようになった、漢字テストがよくなった、漢字がきれいになった、と。

「でも先生、初見の文章問題の読解がすごく悪いんですよ」と保護者に言われたんです。私もエッと思って。算数や理科は線を引っ張って読むようになったんですけれども、それは算数や理科は、教科書に関係することです。でも国語の文章問題の読解というのは、例えば自分が学んだことの読解の文章もあれば、全然違う教材の読解を出す場合があるんです。すると初見なんです。初めて見る文章だから、あーっと思っちゃうんです。だから本人に聞いてみました。「あなた、読解、悪いみたいやで」と聞いたら、「そうやで」って。「僕、5行しか読めへんもん」って言うんです。「5行ぐらいの中から1問目は問題が出るから。だから1問目は合うねん。」って言うから。「えっ、なんで?そら、あかんやろ?」って本人に話ししました。「今の君は随分読めるようになっているから、読めるから読みなさい」と。「必ず算数みたいに線を引きながら読んでいくんやで」って。「見ることと読むことは違うから、パッと見て見たと思うたらあかんよ」って。「読んでいくんやで」と大分言いました。

スライド15
(スライド15の内容)

そしたら2学期のテストでは非常に点がよくなりました。それは、通常の担任の先生もすごくほめてくれて、本人もすごくうれしかったようです。2学期の終業式の日には、私にお礼を言いにきました。「ありがとうございました」と。すごく自分自身がよくなっているという達成感とか自信が随分と出てきて、何でもチャレンジするようになったと思います。

だから彼には苦手なこととどう向き合ってチャレンジしていくかということをいつも考えてほしいと私は思っています。その辺りが随分と変わってきたと思います。漢字と文字が正確できれいになって、漢字テストもそこそこ、たいてい100点とか、結構いい点を取れています。

自己肯定感は高まってきたので精神的に落ちつきました。誰かに何かを言われたらすぐに切れたり、カーッとなったりしていたのですけれども、ちょっと聞き流すことができるとか、ちょっとおおらかに考えられるとか、そういう部分が随分と変わってきたかなと思っています。

私も保護者も子どもも本当にうれしいのですけれども、なかなか広がらないというのは、子ども専用に使えるパソコンとAMISをインストールするのにセキュリテイ制限がかかっていますので、それでちょっと使いにくいということがあるんだろうと思います。私自身もいろんなところでDAISYのよさについては宣伝しているんですけれども、そのたびに皆さん、使いたいと言っています。でも「セキュリテイ制限でAMISが入れへんねん」、「インストールできへんねん」ということをよく聞きます。だから隣の市の羽曳野市は、委員会が業者に頼んでインストールするということができています。「僕のところは業者に頼んでインストールしてもらうわ、やっとできたわ」と言っていました。パソコンに堪能な方でもなかなかできないみたいなので、私のところも委員会にきちんと言って。その辺りを委員会も含めて協力してもらえるように訴えていきたいなと思っています。

スライド16
(スライド16の内容)

非常に私自身は感謝しています。こんなふうに、この子たちが今の世界の、日本の一番先端のいい教材、いい学び方が利用できるというのはすごくすばらしいと思います。たくさんの方に利用してほしいと思っています。そのために、ボランティアの方には本当に感謝していますので、もっともっと法的な整備ができることを期待しています。以上で終わります。