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事例報告

西澤 東(青森県弘前市立大成小学校 LD、ADHD通級指導教室)

スライド1
(スライド1の内容)

青森から来ました。LD・ADHD通級指導教室を担当しています。教室名を「まなびの教室」と言いますが、実はそれと似た名前で、「まなびの家」という文化財が私の学校のすぐ近くにあります。「まなびの家」というのは、作家の太宰治の昭和の初めに旧制の弘前高校に通っていて、下宿していた家です。その後、彼は東京帝大の方に進むわけですが、その太宰の本の中に「選ばれし者の恍惚と不安」という言葉があります。私はシンポジストに選ばれた恍惚は全然なく不安だらけですが、お話を聞いてほしいと思います。

スライド2
(スライド2の内容)

不安といえば、青森は雪が多いんです。歩道の脇に雪が1メートルも積んである。ここが道路ですが、車が1台しか通れなくなっています。ここでこの車が向こうの車が来るまでずっと待っているのです。するとどんなことが起こるかというと、通勤時間が非常にかかります。また、道路の幅が狭くなっていますから、接触事故も増えます。読みの苦手さを持つというのもこれと同じで、文章を読む時に、時間がかかるし、エラーしやすい。雪道の場合は、道路の雪かきしなきゃいけない。除雪車が入ることで、道路が広くなり、車が通りやすくなる。DAISYは雪道での除雪車のような役目をしているのかもしれないと思っています。

スライド3

本題に入ります。先ほど野村先生からもお話がありましたが、DAISYではこの3つのことができると思います。今日のお話しするのは②と③です。②は指導のために利用できるようになった事例と、③では一斉授業で利用できるようになったというお話をしたいと思います。

スライド4
(スライド4の内容)

まず②についてです。前もって予習をさせ効果があったことは先行事例として割と出てきているように思います。今日話す事例は、毎日の学校の個別指導の中でDAISYを使ったもの、そしてその音読効果についてどうだったかをお話ししたいと思っています。毎日なので、校内で通級している子の事例です。1日1時間、国語の時間、取り出し指導で、通級指導教室に来ています。もう一つは、先ほど奈良の先生のお話にもありましたが、一斉授業の中で、DAISYを使ったという報告は今まであまりありませんので、少しチャレンジしてみようと思い取り組んだ報告です。

通級指導をしていると、通級指導を受けている子はDAISYを個別にできますが、実際は通常学級には読みに苦手さを持つ子は複数います。その子たちを視野に入れた実践を工夫しないといけないだろうと思っています。一斉授業でマルチメディアDAISY教科書を利用する意味は、そこにあると思っています。

まず1つ目ですが、個別でDAISYを使った事例です。小学校2年生の男子の事例です。私の住む地域は、教育出版の国語の教科書を使っています。この子は2年生で、2年生の教材をスキャナでとったのがこれです。これは2年生の5月。これは7月。これは10月です。3つを比べると明らかに違うことは、行間が狭くなっています。それから1行の文字数もどんどん増えているわけです。それから文節の区切りが5月と7月まではありますが、11月になると、文節の区切りがなくなります。この生徒にDAISYを使いました。

スライド5

児童は通常学級に在籍しています。障害名はLDと広汎性発達障害を併せ持っています。遠視性の乱視、弱視があるので、眼鏡を使用しています。眼鏡を使用しての視力は0.7くらいです。諸検査の結果は、大阪と奈良でも共通した話なんですが、言語性がよくて動作性が低いというのはこの子も同じでした。語彙は生活年齢以上にあり、話を聞けば理解する力があります。

最初にこの生徒にどんなことをしたかというと、教科書は文節で分かち書きされている教材を使いました。これを使って、音読の有効性について少し考えたわけです。

スライド6
(スライド6の内容)

3つの方法でやりました。アは、普通に教科書を開かせて自力で音読するという方法でやってみました。イは、DAISYを使って黙読させました。それぞれ違うページを使っています。ウは、音だけを聞かせて、教科書を黙読させています。この3つの方法で、2日間、練習しました。

その後で、もう一回教科書を開かせて、録音して、音読の正確さや速さを確かめてみました。心理学実験ではないのできちんとした統制された条件下ではやっていません。学校ではそこまでなかなかできないです。結果としては、3つの方法のどれでも、文節を区切って実際に読めるようになりました。つまり、A君の場合、教科書に文節の区切りがあることがすごく重要だった。逆に言えば教科書に文節の区切りがあるとマルチメディアDAISYを使った音読の必要性のニーズはそれほど高くないのかもしれません。

音読にかかった時間は、アです。教科書を見て自力で音読練習する方法が一番短かった。一番短縮されたのです。そこで考えたのは、イとウは黙読。実際には音読はされなくて、耳から音声が入ってきて、聞いて理解するという流れだったので、A君の場合は、声を出して読むことが大事なのかなと考えたりもしました。

もう一つは、今度は教科書が文節で分かち書きされていない教材です。この場合はどうなのかということを確認しました。

方法は、アは先ほどと同じで、教科書を見て自力で音読するという練習方法です。イは、さっきと違うのは、マルチメディアDAISYを使って黙読した後、教科書の同じ箇所を開かせて音読させる。音読させるという手続きを入れました。ウは、音だけを聞いてテキストを黙読した後、同じ箇所をテキストを見て音読させる。これも音読させるという手続きを入れたわけです。

スライド7
(スライド7の内容)

2日間練習しました。結果的にどの方法でも音読の時間は短くなっています。ただ、文節を正しく区切って読めなかったエラー数は、イの方法、要するにマルチメディアDAISYを使った音読練習が一番少なかったのです。教科書の文節が分かち書きされていない教材の場合、A君にとって、マルチメディアDAISYを使った音読練習は、文節のまとまりを意識させる上で有効だった可能性が高いと思っています。

ただ、勝手読みや抜かし読みは、やはりどの方法を使っても間違いの数はほとんど同じで変わりなかったんです。勝手読みや抜かし読みの間違いの数もマルチメディアDAISYを使うことですごく減ったとなれば良かったのですが、残念ながらこれは同じでした。

A君の場合は、勝手読みや抜かし読みの軽減を図るには別の音読練習が必要であることが示唆されたわけです。ただし、議論としては、音読が正確にできなくても、内容が理解できればいいんだという議論もあります。そこまで音読の正確さをLDの子どもたちに求めるのかという議論もあると思うんです。ただ、A君は今、小学2年生なので、音読の正確さやスピードをまだ通級指導の中で求めてもいいと僕は思ってるんです。LDの子の音読のつまずきが中学年、高学年と軽減されないということがあるとすれば、音読よりも書いてある内容を理解することが大事だという議論をしていかなければいけないのではと思います。

今度は③に関わる報告です。一斉指導で使ってみたということです。これは3年生の通常学級を使いました。児童数は20名です。配慮の必要な児童は担任の先生に聞いたところ、読みの苦手さを持つ子は複数でいます。そのうち1名が私のところに通級していました。

教材は、「俳句に親しむ」というのを使いました。平成23年度から小学校の国語の教科書は大幅に変わったんです。伝統的な言語文化に関わる内容が教科書に入ってきて、古文や漢文も高学年の教科書に載っています。3年生は俳句です。

指導書を見ると単元の目標は、「五七五の定型に込められた情景、季節感、気持ちなどを味わいながらリズムよく音読する」とあります。音読するというのが伝統的な言語文化の内容に出てきている。音読なのですね。

子どもの書いた俳句が書いてあって、俳句のルールを確認しています。季語があったり、五七五の17音でできているということがここに書いてある。ここから実際に、春の俳句、小林一茶と与謝蕪村が出てくる。こういう構成になっている教科書を使ってやってみました。

実際に作ったのはこれです。方法は、7月の初めの1時間を借りました。用意したものは、パソコンとプロジェクタとスピーカーと電子黒板です。教室に電子黒板をセットしてそれにDAISY教科書を投影させています。子どもたちは電子黒板の前に集合させました。机があると前の方に子どもたちが詰めて座れないので、椅子のみです。教科書も持たせませんでした。前時は学級担任の先生が指導しています。俳句とはどんなものか説明して子どもたちに俳句作りをさせて、紹介しあうという指導をしています。子どもたちはまだ教科書は読んでいない状況でした。その後本時に入ります。

スライド8
(スライド8の内容)

ここでは内容読解の指導をしています。簡単に言うと、俳句のルールを教えたりしています。本文に線を引いたり書き込みしたりしながらです。五七五でできている。季語もある。電子黒板に映して電子ペンで書きながら説明して指導しています。

スライド9

その後で、マルチメディアDAISY教材を使って音読に入りました。音読は4つやっています。最初は黙読です。黙ってハイライトの部分を見ながら、集中して聞こうというふうにしました。2つ目は音声が流れた後、読む。3つ目は音声と一緒に読む。4つ目はスピーカーの音を消して、読ませるという手続きで読む練習をしています。

この2つの俳句について内容の指導をしています。五七五の区切り、季語、省かれている表現、写真が何を表しているかということを指導していました。そして、そこまででいったん、指導は終わりにしました。そして、アンケートを渡して書くように指示しました。

アンケートは次の5つです。1つは普段、読書が好きか嫌いかを聞いています。2つ目は、教科書の音読は得意か苦手かというのを聞いています。3つ目のパソコンというのはマルチメディアDAISYを使ってということです。自力で教科書を読むのとどっちが好きか。4つ目はマルチメディアDAISYで読むのと自分で読むのでは、どっちの方がわかりやすいですかと聞いています。最後は自由記述で感想を聞きました。

結果ですが、読書が好きと答えたのは7人です。それに対して、教科書の音読が得意と答えたのは2名です。読書は好きだけど、音読が得意と感じていない子が3年生くらいだといるわけです。読書が嫌いは7名です。音読が苦手は8名です。読書も嫌いで音読も苦手と答えているのは20人のうち5名でした。

スライド10
(スライド10の内容)

パソコンで読む方が好きは16名でした。多いですね。パソコンの方がわかりやすいのは11名です。教科書よりもDAISYで読むのが好きな子の中にも、文章の理解のしやすさということだけで言えば自分で読んだ方がよいという子もいるわけです。

自由記述は20名中17名が肯定的な評価でした。20人いると否定的な子もいます。あまり変わらない、つまらない、どちらとも言えないという意見でした。

スライド11
(スライド11の内容)

実はこの子どもたちは、2年生のときにもマルチメディアDAISYを使ったアンケートを取っています。私が教室に行ってマルチメディアDAISYを使って指導しています。

2年生の時は「かさこじぞう」という民話を使って指導しています。今年は「俳句に親しむ」をDAISYで指導しているわけです。比べてみると違いがあります。

2年生の時は、「パソコンの方がわかりやすい」は5名です。自分で読む方がわかりやすいが11名で、マルチメディアDAISYの評価があまり高くありませんでした。違いが生じた理由として考えられるのは、三つほど考えられます。一つは、今年の教材の方が俳句なので音読そのものが難しかったから、その分、DAISYが好評だったのかもしれないと思っています。

2つ目は、道具立ての違いです。2年生のときは電子黒板を使っていません。スクリーンを黒板に貼って、音読の練習だけに使っていました。内容読解の指導はしていませんでした。

3つ目として考えられるのは、3年生の方が場の設定の工夫がされていたことがあげられるかもしれません。2年生の時は全員を前に集めませんでした。こどものアンケートを見ると、「文字が見にくい」というのがありました。音も聞こえにくいというのもありました。今回は机を使わず、椅子だけで前に集めたので、見えやすいし音声が聞こえやすかったのもしれません。

考察として、まず1つ目としてあげられるのは、マルチメディアDAISYで読むのに対して好意的な子どもたちの中にも、文章理解する上では自分の音読のスピードとの違和感を感じている子がいるということです。再生スピードがもっと速いほうがいいとか、このスピードは自分には合わないとか。一方でもう少し再生スピードが遅い方がいい子もいるんです。自分の音読のスピードとの違和感を感じるというのが、多分、一斉指導だとあるのかなと思います。

2つ目は、音読の負荷がかかる教材、今回の場合で言えば、伝統的な言語文化に関わるような教材の場合、マルチメディアDAISY教科書が有効なのではないかということを考えています。

3つ目は、授業者にとってどうかを考えると、これは私の感じたことなので一般化はできないのですが、子どもの音読のつまずきを見取る、把握できるのはやはり大きいと思います。少し遅れてつられて読んでいる子もいるし、画面を見てない子もいたりするんです。画面を見ないで音読している子も見つかるかもしれません。それからちょっとみんなより1テンポ遅れたりする注意力の問題もある子とかも把握できるかもしれません。子どもの音読の状態像をすごく把握しやすい。これは授業者にとって大きなメリットだと思っています。

通常学級での授業のあり方として、授業のユニバーサルデザインが主張されてきています。発達障害のある子どもたちにとってはわかりやすい。そうでない子どもにとっても、あれば便利だという指導方法です。そのとき、聴覚系の入力が弱い子どもたちにとっては、授業を視覚化するのはすごく大事だという指摘があります。私もそう思っています。授業の視覚化という手立てとして、マルチメディアDAISY教科書やデジタル教科書がどうこれから絡んでくるのかというのも興味深いところだと思っています。

一斉指導で指導する際の検討事項の一つ目としては、今回は3年生の子どもに試して、どう受け止められるかを確認したわけですが、低学年や高学年ではどうかということです。実はいくつか子どもたちにアンケートを取ったりしています。低学年の子どもたちは概ね好評です。読み聞かせと同じようなものだからではないでしょうか。1年生の教材で「おおきなかぶ」があるのですが、それをDAISYでやると、子どもたちはすごく喜んで大好評でした。一方で、高学年の子どもたちに物語教材を聞かせたときは、評価は分かれていました。自分のスピードで黙読したい、こういうのは自分にとってはそれほど必要ないという子もいれば、すごくわかりやすくて、「先生、またやってください」という子もいて、すごく分かれる。受け止め方がすごく違うんだなと思っています。

2つ目は、通常学級でマルチメディアDAISY教科書を使った方が有効性が高い教材の検討です。この教材は通常学級でも使ってみた方が子どもたちにとってもいいだろうという教材を検討していくことを実践の中で探っていく必要があるのではないかと思っています。

3つ目は、一斉指導には一斉指導のデメリットがあるわけで、子どもたちが自己決定して選択して、「僕はこれを使う」といふうになるような場の設定の工夫を考えていくことが必要かなと思います。子どもたちが自分で情報を得て、自分でその情報から問題解決をしたり、いろいろな一般的な知識を得たりするのは、子ども自身が主体的にしていかなければいけない。そのときに自己決定できるような場の設定も必要かなと思っています。

以上で報告を終わります。