デイジー活用事例集 小学校低学年
デイジーを使って読みの練習をして自分で読めるようになるまでの時間が早くなってきた。以前は親子にとって、とても苦痛だった音読の宿題が楽になった
山口県山陽小野田市立厚狭小学校教諭 縄手 昌子
1.本人の現況
小学校3年生の女子。診断はないが、LDの傾向がある。
WISC-Ⅲの結果は次の通り。
VIP90 PIQ78 FIQ82
動作性は、視覚認知能力はある程度あるが、空間的な位置関係を捉えたり全体の状況を見渡して行動の計画を立てたりすることに難しさがある。
言語性は、語彙の知識がやや少なく、聞いてイメージする力の弱さがある。
音読検査から読みには次のような特徴がある。
①単音連続読み検査
音読時間 52秒 (+2.9SD)
読み飛ばし 0個 読み誤り 8個(+7SD)
②単語速読検査
*有意味音
音読時間 51秒(+6.1SD)
読み飛ばし 0個 読み誤り 3個(+7SD)
- 「てぶくろ」→「でぶくろ」と濁音をつけて読んでいた。
- 「めじるし」→「あじるし」と似たような形のひらがなの読み間違いがあった。
- 「しゅるい」→「しょるい」拗音の間違い。
*無意味音
音読時間 62秒(+1.7SD)
読み飛ばし 0個 読み誤り 9個(+5.1SD)
- 「しゃさね」→「しゃせね」サ行どうしの読み間違い。
- 「いりいと」→「いり○と」字を抜かす。
- 「ふんばく」→「ふんぼく」「ば」と「ぼ」の読み間違い。見間違い?
- 「さっかも」→「さ○かも」促音飛ばし。
- 「たんらぜ」→「たんらせ」濁音ぬかし。
- 「きかんめ」→「きんこか」思い込みの読み方。
- 「ちゃしう」→「ちゃんしら」思い込みの読み方。
- 「ねさるん」→「ねるさん」順番が違う。
③単文音読検査
3文総計 音読時間 36秒(+11.6SD)
読み誤り 3個(+6.8SD)
- 「赤い」を「青い」と読み間違い。
- 「赤い丸 をおいてください。」切るところが違う。
- 「四角 をとって」切るところが違う。
☆+2SD以下が正常、それ以上は読みの異常があると判断される。
いずれの検査も+2SD以上で、読みに異常があると考えられる。
④2年生の教科書の音読
- 助詞の読み間違い、「は」→HA があった。
- 単語の区切りの間違いがあった。
- 行の読み飛ばしがあった。
- 単語の語頭から思いつく単語を言って、文章とは違う読みをすることがあった。
- 語尾が違う。(最後まで目で追わずに予想して読んでいる)
- 漢字の音訓の読みを間違っているところがあった。
デイジーを使用する前は、家庭で、保護者がつきっきりで、かなり時間をかけて音読の指導を行っていた。現在は行っていない。
デイジー以外では、通級指導教室で週2時間個別指導を受けている。
2.デイジーの活用による支援
デイジーは3年生9月より使用を始めた。家庭で教科書の音読練習をすることが、本人にとっても家族にとっても、とても苦痛であるという相談を受け、通級指導教室からデイジーを紹介した。使い方、練習の仕方を通級時間に指導した。
使用を始めて5ヶ月になり、現在も使用中である。
使用したデイジー教科書は、小学生の国語である。パソコンでAMISを使って再生している。
家庭では、自分の部屋で宿題の国語の音読を自分でデイジー教科書を使って行っている。学校では、通級指導教室で担任の先生と共に使っている。
デイジー教科書は、家庭で音読練習が自分でできるようになるためのツールとして使わせようと思った。そのために、基本的な操作、音読の練習の仕方を通級では指導してきた。約1時間の学習時間の最後の10分程度で指導している。現在の音読の状況を確認し、どのような速さにして、どのような音読練習をしていくと良いかアドバイスしている。
具体的には次のように練習している。
①初めての単元の時には、デイジーに読ませて内容を確認する。
自分で読むと文の区切りや読み方を間違うことが多いので、正しい内容を聞かせ、ある程度内容を理解する必要がある。
②少しゆっくりのスピードにして、文の区切りで追いかけて読むようにする。必要ならば、止めて読む。
③普通のスピードにして、声を重ねて読む。
④少しゆっくりのスピードにして、先に自分が読む。デイジーが読むのを聞いて正しかったかどうか確認する。必要ならば止める。
⑤自分一人で読む。分からなかった所はデイジーを聞いて確認。
デイジー教科書を使う前は、保護者と時間をかけ、何度も練習をして、最後には文章をだいたい記憶していた。今は自分でデイジーを使って読みの練習をし、自分で読めるようになるまでの時間が早くなってきているそうだ。以前は音読の宿題は親子にとってとても苦痛なものだったそうだが、とてもお互いに楽になったと言われている。
2学期末にまだ習っていない単元の教科書を読ませてみたところ、文の区切りについては、正しい判断をできるときが増え、文末を思いこみで読むところや拗音の読み間違えも少なくなっていた。1・2年で習った漢字に関しては、だいたい正しく読めていた。3ヶ月の間の指導でかなり読みの力がついてきていると感じた。
デイジー使用後の音読検査の結果は次の通りである。
①単音連続読み検査
音読時間 37秒 (0.8SD)
読み飛ばし 0個 読み誤り 8個(+7SD)
☆音読時間は短くなっているが、速く読もうとあせって、やはり間違いが多かった。ほとんどが拗音での間違い。
②単語速読検査
*有意味音
音読時間 48秒(+5.4SD)
読み飛ばし 0個 読み誤り0個 自己修正1個
☆読み誤りがなくなった。何の単語か思い出している様子があり、少しゆっくり読んでいた。
*無意味音
音読時間 40秒(-0.5SD)
読み飛ばし0個 読み誤り5個(+2.4SD) 語頭音の繰り返し4個
☆音読時間が短くなっている。正しく読もうと語頭音で一瞬止まって考えていることがあり、語頭音の繰り返しが増えている。しかし無意味な単語なので、速く読もうとして途中の間違いには気づかずに次に移っていた。
③単文音読検査
3文総計 音読時間 24秒(+5.6SD)
読み誤り0個 自己修正1個
☆文の区切りを間違わなくなった。スピードも速くなっている。
指導開始直後の様子と最近の様子とを比べて改善されてきた点を以下にまとめた。
- 清音濁音、また、それを含む有意味音の単語の読みの間違いが少なくなり、速く読めるようになってきた。
- 文の中から単語や熟語の抽出が上手にできるようになり、文節の区切りの判断が上手になってきた。
- 読める熟語が増えてきた。
本児の読みの困難さの原因は、以下のように考えられる。
- 文字の形を認識して読みと結びつけるまでに時間がかかる。
- 文の中から有意味な単語を見分けるのに時間がかかる。
- 漢字の場合、どの読みにして何の熟語にするのか2段階の思考操作に時間がかかる。
このような実態をふまえ、通級での指導は、
- 拗長音を含む単語の速読練習。(単語の意味も教えて語彙を増やす)
- 1・2年生の漢字を含む短文を読む練習。(どの読み方で漢字を読むか、判断力を鍛える)
- 無意味音の並ぶ文の中から有意味な単語を見つける練習。(視機能も鍛える)
- グリッドを使った形を書き写す練習。(点描写)
- 部首の意味と形を覚える練習。(漢字を意味で捉える)
など行っている。
通級での指導に加え、デイジーを活用することによって改善されたと思われる点は、次の通りである。
- 字を目で追う視筋力の力がついてきた。(色づけされたところに注目して読むので、目で追いやすい。)
- 文の区切りの判断の予想ができるようになってきた。(文を区切りながら読むので)
- 毎日、苦痛なく音読練習ができるようになった。
3ヶ月でかなり読みの改善が見られた。通級指導教室での指導と同時にデイジー教科書での音読の学習をすることにより、より良い指導効果が得られたものと考えられる。
デイジーの機能については、次の点が改善されると良いと考える。
少しスピードをゆっくりにして、先読み、後読みするときに、区切りのセンテンスが長すぎてデイジー教科書の読みが聞き取れない時があった。文末を間違いやすい児童だったので、その時には止めるように指導したが、なかなか操作がうまくいかない時が多かった。
また、音読の練習に使うときには、読めないところだけを反転させて読んでくれるような機能があると、とても便利だと思う。これからはタブレットにも対応して、そのような機能がついているものに改善していただけるとありがたい。