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アクセシビリティの向上:EPUB、図書館及び電子書籍のアクセシビリティ

マット・エニス(Matt Enis)

2013年4月16日

2年前、エジプトを訪問中に、DAISYコンソーシアム事務局長ジョージ・カーシャ(George Kerscher)は、同国の主要な図書館に、プリントディスアビリティのある利用者が利用できる図書が、ごくわずかしか所蔵されてないことに気づいた。職員とボランティアは、より多くの図書をアクセシブルにすることに取り組んでいたが、毎年ほんの一握りのタイトルしかアクセシブルにすることができず、成果は限られていた。

部外者としてこのことに気づいた(自らも全盲である)カーシャは、それがまさに、アメリカ合衆国における、これまでのアクセシブルな図書の制作プロセスを示す縮図であることを理解した。出版社が図書を制作し、その一部のアクセシブル版を、非営利機関と図書館が制作する。量をこなすのは不可能である。カーシャは、これを実感できる例として、オーディオブックを制作している非営利機関で、カーシャ自身がアクセシブル技術担当シニアオフィサーを務めているラーニング・アライ(Learning Ally)では、ピーク時に年間7,000の図書が変換されていたと指摘する。しかし、アメリカ合衆国だけで、年間30万タイトルを超える印刷図書が出版されているのだ。

新たなEPUB3標準規格は、180度の方向転換を約束するもので、出版社は、アクセシビリティ機能を電子書籍制作のワークフローに統合することができるようになり、プリントディスアビリティのある利用者を含む誰もが、すぐに利用できる電子書籍が生み出される。

「10年前は、『盲人図書館は、どうしたらもっと多くの図書を制作できるか?』が問題となっていました」と、カーシャは語る。「今は、毎年出版される図書はすべて、細かい設定をすることなく、すぐにアクセシブルにできると考えられています。これまで情報へのアクセスを大きく制限されてきた人にとっては、これは、ただただ信じられないような話です。」

新たな標準規格

無料で利用できるオープンソースのEPUB標準規格の策定には、同じくカーシャが会長を務める国際電子出版フォーラム(IDPF)が責任を負い、その最新のイテレーションが開発された際には、アクセシビリティ機能が不可欠な構成要素として検討された。ときにはEUB3は、EPUB2と、特にアクセシビリティを目的として考案されたDAISYコンソーシアムの標準規格とが融合したものとして説明される。

アマゾン(Amazon)社のKindle系の商品は明らかに除かれるが、バーンズ&ノーブル(Barnes & Noble)社の NOOKや、Sony Reader及びKoboなどのほとんどの電子書籍リーダーと、Android及びApple iOSタブレット上で作動するアプリケーションの大部分は、EPUBフォーマットをサポートしている。出版社とデバイス製造業者がEPUB3をサポートし始めれば、プリントディスアビリティのある人々の読書風景は大きく様変わりするであろう。

EPUB3がどのように役立つかを示す一例として、テキストの読み上げがあげられる。音声合成技術は、デジタル化された資料へのアクセス改善に役立てられてきたが、単独では決して適切なアクセシビリティツールとは言えない。多くの電子書籍リーダーにおいて、音声合成技術は、電子書籍のナビゲーションにはまったく役に立たず、標準的なレイアウトによってもたらされる視覚的手掛かりを無視し、すべてのテキストコンテンツを同等に扱うのがデフォルトとなっている。

このため、典型的な音声合成による読み上げでは、電子書籍リーダーが、まず長い目次を次々と読み進め、その後、本文と補足記事または脚注の間を予告なく移動する。表やグラフ、図あるいは数学の方程式の解説は全くなく、これらはただ省略され、教科書の場合、特に問題となる。

小説などの時系列的な物語でさえ、音声合成による読み上げは、目に見えるページの内容と一必ずしも致しているわけではない。電子書籍リーダーが読み始め、読み続けているのに、目に見えるページは変わらないこともある。ユーザーが再生中に誤って画面に触れると、テキストの読み始めの部分に戻ってしまう。

数式と数式を表わすマークアップ言語

EPUB3では、MathMLのマークアップを方程式に使用しているが、これは、プリントディスアビリティのあるユーザーのために、方程式を読み上げる機能を電子書籍リーダーソフトに追加するものである。

箱入りのウェブページ

これらは、EPUB3で対処される、目立った問題のごく一部である。

EPUB3仕様のチーフエディターで、この標準規格に関するいくつもの論文や書籍(『EPUB3とは何か?(What is EPUB3?)』及び『EPUB3ベストプラクティス(EPUB3 Best Practices)』など)の著者であるマット・ガリッシュ(Matt Garrish)は、EPUBフォーマットで制作された電子書籍を、「箱入りのウェブページ」と説明する人もいると述べている。多くの点で、これは的確な表現である。

これまでの標準規格であるEPUB及びEPUB2では、ウェブマークアップを使用して、ハイパーリンク、音声及び映像によるマルチメディアコンテンツなどの機能をサポートし、埋め込み型のメタデータと、リフローやサイズ変更が可能なテキスト、デザイン用の カスケードスタイルシート(CSS)及び新機能追加用のXMLの利用を促進していた。EPUB3では、デバイスが新たな方法でコンテンツをレンダリングできるように、HTML規格の最新版であるHTML5を使用している。

HTML5では、「これまでのEPUB2及びHTML4よりもはるかに優れた、構造化されたマークアップを行います」と、ガリッシュは説明する。「HTML5は現在、セクショニングやasideタグ及びfigureタグなどの、意味的・構造的に、より重要な要素を取り入れています。この結果、一次コンテンツを二次コンテンツと区別できるようになり、アクセシブルなデバイスを使用している人にとっては、話の流れがはるかにたどりやすくなっています。」

EPUB3はまた、読者が一冊の電子書籍全体のコンテンツを確認し、検索できる、総合的なナビゲーションツールの創造を促進する。と同時に、HTML5とEPUB3は、MathMLもサポートしている。MathMLは、数式を単なる画像として表示するのではなく、XMLを使用して数式の意味を保存する。この結果、ブラウザまたは電子書籍リーダーは、目が見えるユーザーには方程式または数式としてこの情報を表示し、プリントディスアビリティのあるユーザーには、音声合成機能を使用して数式を読み上げることができる。一方、標準的な機能として、聴覚障害のあるユーザー向けには、映像クリップや音声クリップのキャプションと字幕を、プリントディスアビリティのあるユーザー向けには、映像や図の解説を、それぞれネイティブサポートするとともに、メディアオーバーレイを使用したテキスト表示とナレーションの同期もサポートしている。

「EPUB3は、まさに、EPUB2と、現在私達が図書制作に使用しているアクセシブルなフォーマットであるDAISYとを一体化するものです」と、ベネテック・リテラシー・プログラム(Benetech Literacy Program)担当バイスプレジデント兼ジェネラルマネージャーのベッツィー・ビューモン(Betsy Beaumon)は語る。ベネテックは、プリントディスアビリティのある人々のためのアクセシブルなオンライン図書館、ブックシェア(Bookshare)の運営母体で、非営利機関である。「これは本当にチャンスです。(中略)出版のプロセスはすべて電子化されつつありますが、これは、デジタルで制作されるすべてを、最初から確実にアクセシブルにするチャンスなのです。」

現在の情勢

電子書籍とデジタルコンテンツがますます普及するにつれて、アクセシビリティ強化に向けて、全米盲人連合(NFB)などのアドボカシー団体も切迫感を募らせていった。昨年6月にNFB会長のマーク・マウアー(Marc Maurer)から、当時の国務長官ヒラリー・クリントン(Hillary Clinton)に提出された告訴状は、世界各地の図書館及び教育センターに、Kindleデバイスを置くというアマゾン社との1650万ドルの契約を、国務省が突然取り消したことに、重要な役割を果たしたと言える。NFBはまた、2012年12月、アマゾン本社前で、幼稚園から高校3年生までの教室へ同社が進出することについて、同社のデバイスは、限られた、また問題のあるアクセシビリティ機能しか提供していないと主張して批判し、抗議行動を行った。

作家協会(Authors Guild)対ハーティトラスト(HathiTrust)の訴訟へのNFBの関与もまた、2012年10月のハロルド・ベーア・ジュニア(Harold Baer Jr.)判事による、スキャンと保存は、プリントディスアビリティのある人々によるアクセスを促進することができ、それゆえ、変換は可能であり、公正な使用に当たるとする判決を左右するものであった。この判決に対しては、控訴が申し立てられている。

図書館も例外ではなかった。2011年にNFBはアメリカ合衆国司法省市民権局に対し、カリフォルニア州サクラメント公共図書館による、音声合成機能のないバーンズ&ノーブル社(B&N)のNOOKという電子書籍リーダー貸出プログラムについて、訴状を提出した。これに続き、NFBは2012年5月にも、フィラデルフィア自由図書館の同様なイニシアティブについて、利用者による集団訴訟を支援し、アクセシブルではない電子書籍リーダーの購入に連邦補助金を使用するプログラムは、1973年のリハビリテーション法第504条と、障害を持つアメリカ人法第2部の両方に違反していると主張した。どちらの図書館も、技術調達契約にアクセシビリティ要件を盛り込むことに同意し、和解に至った。1月には、博物館図書館サービス振興機関(the Institute of Museum and Library Services)が、これらの訴訟を引用し、図書館に対し、いかなる電子書籍リーダープログラムにおいても、アクセシビリティを重要な基準とすることを促す勧告を出した。

これらの訴訟にかかわった図書館は、基本的に、アクセシブルな電子書籍リーダーの貸出について、選択肢が限られているという問題に直面していた。そして、デバイス製造業者の意識改革に向けたNFBによる幅広い取り組みを代行する役割を、いつしか自分達が果たすようになったことを、ある程度理解するに至った。

アップル(Apple)社のiPadは、現在アクセシブルな電子書籍リーダーの代表とされ、ジェスチャーベースのVoiceOverを使用した36言語による画面の読み上げ、音声合成機能、ズーム機能、そして、特別なニーズを満たすために考案された複数のハードウェア及びソフトウェア製品との互換性を特徴としている。しかし、このようなタブレットコンピューターは、これらの図書館が当初貸出していたNOOKのような専用の電子書籍リーダーに比べて、はるかに高額である。

同様な、音声合成機能を含むアクセシビリティ機能を内蔵したBlioという電子書籍リーダーソフトウェアプラットフォームも、2010年に登場した。ベイカー&テイラー(Baker&Taylor)社はBlio専用の書店を経営しており、同社のAxis 360デジタルメディアライブラリーにサポートが統合されている。しかし、このアプリケーションを携帯型電子書籍リーダーとして使用するには、やはりタブレットPC(Android またはiOS)が必要である。

印刷版から電子版への移行は、今なお初期の段階にあるが、それは急速に進行していると、NFBアクセス技術スペシャリストのエイミー・メイソン(Amy Mason)は説明する。それゆえ、訴訟が必要だったのだ。現在、これらの変革を推進し、アクセシブルではない技術とプロセスの浸透を許容するのではなく、アクセシビリティ機能の搭載をデバイス製造業者に期待するとともに、これを出版社のワークフローにおいて日常的に行われる工程とすることが不可欠である、とメイソンは語る。

「だからこそ私達は、これほど強く訴えたのです。だからこそ私達は、このような訴訟を起こしているのです。一部の人にとって、現在不当だと思われることに対して」と、メイソンは言う。「今、これを変えなければ、私達は後れを取り戻そうと永遠に追いかけていくことになります。永遠に後手に回るのです。それでよいわけはありません。」

平等なアクセス

残念ながら、多くの企業にとって、アクセシビリティはいまだにあまり重要な関心事ではない。特に、メイソンは業界トップのアマゾン社の歴史を、この問題に関して「消極的な対応を積極的に進めている」一例として特徴づけた。

音声合成機能が2009年に第2世代Kindleに初めて導入されたとき、全盲のユーザーにとって、支援なしにこれを利用することが難しかったのは有名な話である。音声合成機能は、本を開くたびに一連のタッチスクリーンメニューを通じて利用しなければならなかった。ユーザーはその後、基本的に再生を押してリーダーに読み上げを続けさせるが、正確にテキストをナビゲートすることはほとんどできない。また、音声合成機能はすべてのタイトルで利用できるわけではなく、アマゾン社は、初代Kindle FireとKindle Paperwhite などのその他の最新モデルでは、この機能のサポートを完全にやめてしまった。

しかし、Kindle に関するアクセシビリティの改善が、とうとう実現しつつあるようだ。2012年12月に、アマゾン社は「視覚機能障害のある利用者」からの情報が、同社が今年度からKindle Fire で、音声ガイドナビゲーション、調整可能なフォントサイズ及び変更可能なテキストカラーなど、新たなアクセシビリティ機能をサポートする計画へとつながったと発表した。また1月には、音声合成・音声認識プロバイダーであるイヴォナ社(Ivona)の買収を発表した。イヴォナ社は、最新のKindle Fireで使用されているソフトウェアを、既に提供している。

アマゾン社では、電子書籍に独自のファイルフォーマットを使用しており、同社のデバイスはこれまでEPUBをサポートしたことがない。しかし、Kindle Fire の.kf8電子書籍フォーマットでは、HTML5及びCSS3の同様なサポートを出版社に提供しており、EPUB3と同等の機能性が実現可能と言える。

B&N社もまた、NOOKのアクセシビリティ強化に取り組み始めたが、昨年秋に行われたNOOK HD+の音声合成機能のベータテストでは、この機能がKindleと同様な問題を抱えていることが明らかになった。2012年11月にメイソンとNFBアクセス技術コンテンツスペシャリストのクララ・ヴァン・ガーヴェン(Clara Van Gerven)が投稿したブログ記事によれば、音声合成機能には、枝分かれ方式のタッチスクリーンメニューを通じてアクセスしなければならず、ユーザーがそのようなメニューをナビゲートしやすいようにはなっていないうえに、出版社は特定のタイトルについて、この機能を利用できないようにすることができるとのことである。

EPUB3では、デバイスのインターフェースに関する貧弱なアクセシビリティサポートを解決することはできないため、新たな標準規格によって、プリントディスアビリティのあるユーザーのために電子書籍をレンダリングする方法が大幅に改善されたとしても、デバイス製造業者は引き続き、これらのユーザーが自社のデバイスで書籍を検索し、利用するのを支援する方法を開発することに取り組む必要がある。

EPUB3が提供する、追加設定の必要がない強化策でも、アクセシビリティの改善は可能である。カーシャは、これまで障害のある人々にサービスを提供してきた図書館は、今後も引き続き、たとえば触れて読む絵や、画像、表及びグラフの詳細な解説などを作成することによって、既成のコンテンツを改善できると説明する。電子書籍や電子教科書で、ノートテイキングやノートシェアリングなどの新しい機能が普及するにつれて、出版社は、それらの進歩についていく方法を見つけて行かなければならなくなるだろう。

大学図書館は、この種の課題を認識し、これに対する取り組みを始めている。昨年11月、北米研究図書館協会(Association of Research Libraries)は、プリントディスアビリティのある利用者向けのサービスに関する報告書を発表したが、この中で、適応技術ツールを「作動させるためには電子テキストを的確にコード化する必要がある」と、特に強調している。さらに、「研究図書館と広く研究の場において、これらの技術ベースのアクセシビリティ課題に効果的に取り組む最善の方法を見つけなければならないという切迫感が高まっている」と述べている。

図書館による支援

先月、国際出版社協会(the International Publishers Association)は、EPUB3を電子書籍出版の推奨標準フォーマットとして承認した。また、出版社が、米国指導教材アクセシビリティ標準規格(NIMAS)によるアクセシブルな電子書籍の米国指導教材アクセスセンター(NIMAC)への提出を義務付けられた際の、新たな推奨フォーマットとして、EPUB3はDAISYに優先するとした。これにより、出版社に対し、これらの機能を電子書籍制作のワークフローに盛り込むことを奨励できるであろう。

〔訂正:NIMASプロジェクトディレクターのスキップ・スタール(Skip Stahl)は、コメントの中で、これは間違いであると指摘し、「EPUB3は、確かに候補ではありますが、NIMAS標準規格の更新については、まだ決まっていません」と述べている。〕

カーシャは、アクセシブルな電子書籍の大幅な増加は、従来型の公共図書館を訪れるプリントディスアビリティのあるユーザーからの要望の増加につながる可能性があると指摘する。図書館を「我々の社会における情報の核心」と説明しながら、カーシャは、これまでよりもはるかに多くのコンテンツに突然アクセスできるようになったプリントディスアビリティのあるユーザーにとっては、読者への推薦図書の紹介のような単純な機能が、真の支援となり得ると述べている。

「ただ本を一冊つかんで、読み始める人もいますが、次に何を読むかはそれほど深く考えていないものです」とカーシャは語る。「人は、より良い選択をすることもあれば、一層悪い選択をしてしまうこともあります。図書館は、読みたい本を明らかにする手助けをしてくれると私は考えます。」


原文:
Matt Enis. "Accessibility Upgrade: EPUB, Libraries, and Ebook Accessibility".Library Journal, 2013-04-16
http://lj.libraryjournal.com/2013/04/technology/ebook-accessbility/, (accessed 2013-05-13).