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中国DAISY推進ワークショップ報告

野村美佐子
(財)日本障害者リハビリテーション協会 情報センター

2008年、5月25日と26日にかけて「中国DAISYワークショップ」が北京の中国盲文出版社によって開催された。このワークショップは、DAISYコンソーシアムの会長である河村宏氏のイニシアチブにより実現し、障害者団体、盲学校関係者、および養護学校関係者、および世界盲人連合アジア・太平洋地域代表など100名ぐらいの参加者があった。

このワークショップでは、最初に情報アクセシビリティの視点から、W3CにおけるW3Cウェブ・アクセシビリティ・イニシアティブ(WAI)(http://www.w3.org/WAI/)をリードする国際プログラム・マネージャーのジュディ・ブルーワー氏によりウェブ・アクセシビリティについてどのような障害を持った人が対象となるかなど具体的な説明があった。ブルーワー氏によれば4月30日にWeb Content Accessibility Guidelines 2.0の勧告(http://www.w3.org/TR/WCAG20/)が発表されるということであり、今後、それに対するメンバーおよび関係者からのコメントを募集していくとのことであった。

次にDAISYコンソーシアムとアジアにおけるDAISY for ALL プロジェクトについての基本的な情報が河村氏によって紹介され、DAISYコンソーシアムが普及する「Best way to read、best way to Publish」という概念が説明された。DAISYコンソーシアムのホームページ(http://www.daisy.org)については、DAISYウェブサイトの担当であるキャシー・カール氏によって紹介された。

DAISYコンソーシアムと企業との協力においても焦点があてられ、マイクロソフトのリード・シャフナー氏より、オフィス・ワードの中にオプションとして追加され、5月7日にリリース予定の「Save as DAISY」についてのプレゼンがあった。またシナノケンシの西沢氏による録音と再生のツールを持つハードウェアの紹介があった。このハードウェアの生産は、人件費が抑えられる中国でも始まっている。

アジアにおけるDAISYの実践について、特にDAISY for All プロジェクトのアシスタントマネージャーであるタイのモンティエン・ブンタン氏とインドのディペンドラ・マノーシャ氏から講演が合った。彼らからそれぞれの国での実践が、DAISY普及の成功事例として説明がされた。

DAISYシステムが、視覚障害者だけでなく、マルチメディアDAISYにより恩恵を得ることができるのは、認知・知的障害者、聴覚障害者、精神障害者、自閉症スペクトラム(ローナ・ウイングが1996年に提唱した自閉症からアスペルガー症候群 または高機能自閉症まで、それぞれの症例は別のものではなく、連続しているものではないかという概念)、知的障害者、非識字者、スクリプトを持たない先住民などである。具体的な例については、特定非営利活動法人支援技術開発機構の濱田麻邑氏のプレゼンがあった。プレゼンの中では、災害などにおける緊急マニュアル、開発途上国でのHIV/AIDSに対処する研修マニュアルなどのDAISY利用についても言及した。5月の上旬には南アフリカでのHIV/AIDSマニュアルをDAISY化する研修もDFAのプロジェクトで予定されており、その成果が期待される。

開発途上国においての普及においては、無料のDAISY再生プレイヤーや製作ツールが必要となってくる。(財)日本障害者リハビリテーション協会では、1998年からのDAISYの普及を始め、そのために製作ツールの開発・普及を行ったこと、そのツールを開発途上国の非営利団体に対しては無料で提供できることを筆者のプレゼンテーションの中で話した。また2001年よりマルチメディアDAISYの普及を認知・知的障害者を対象として始めたこと、DAISYのCD-ROM付き読みやすい図書出版の事例などについても発表した。その際に、当協会が製作をしたマルチメディアDAISY図書である「マッチ売りの少女」と「3匹の子豚」の英語版をサンプルとして配布を行なった。

今回のDAISYワークショップは、参加者の多くにとてもインパクトを与え、好評であった。中国におけるDAISY図書の製作については、中国盲文出版社から2007年のDFA主催の国際トレーニングに参加者を派遣しており、製作を始めているが日本と同様に漢字を利用していることでダブルバイトコードの問題などが生じている。日本での製作経験を生かしたアドバイスを日本のDAISY製作指導者から受けて、今後、多くのDAISY図書の製作が期待される。中国で今年の夏に開催されるパラリンッピクにおいては、印刷物のアクセスができない人たちのためにパラリンッピクに関連する様々な文書のDAISY化を予定しているとのことだ。この活動が中国での普及のきっかけとなることを望みたい。