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意見交換会「DAISY 図書はどうやったら手に入るのか?」

樋口一宗
文部科学省 初等中等教育局 特別支援教育課
特別支援教育調査官 発達障害教育担当

我が国におけるディスレクシア支援の動向

文部科学省特別支援教育課の、ご紹介いただいたところ、とても漢字が多く、ディスレクシアの方々に、全然優しくない名前をつけているなあと改めて思いました。

 樋口一宗です。
お手元の資料では、黒地に白文字で、配布用にご用意していただきました。 これから見ていただくのは、ちょっと変わっています。 先ほど、プリント・ディスアビリティという話がありました。 今、拡大教科書などの話を聞くと、文字が黒地に白と、白地に黒文字とで、どちらが読みやすいかは、人によって異なるということでしたし、先ほどの藤堂高直さんのお話では、特定の色フィルターをかけると3倍早く読めると聞いて、今日はじめて聞いて非常にびっくりしたわけですが、ひょっとしたら、そういう、まだあまり知られてないけれども、読み書きに関してとても上手い方法が、あるのかもしれないという、希望を感じつつ、今日の発表を聞いています。

私のこれからのお話は、「どうやったら手にはいるか」というよりも、「どうして手に入らないのか」という、言い訳っぽい話になるかもしれませんが。 とにかく、読み書き障害の支援として、こういったデジタル化した教科書あるいは教材を、ICT技術等を使ってもっと使いやすくするということを含めて、ディスレクシア支援の動向について話します。

1 ディスレクシアの位置づけ

 ディスレクシアの位置づけですが、我が国においては、LDの一つとなっています。 アメリカ、イギリスの英語圏の国では、LDと言えば、イコールディスレクシアというぐらい、非常によく知られていますが、我が国では何十年も昔に、0.何%、ディスレクシアがいるという論文が出て、ずっと日本人にはディスレクシアはいないのではないかと言われてきました。が、実際には、ディスレクシアの要素、素因を持った人は、世界中どこでも同じぐらいの割合でいる、5%前後ではないか、ということですが、日本では、あまり多くないと言われている一方、アメリカ・イギリスではとても多いということは、言語による違いが非常に大きいのではないかと言われていますし、私自身も、そうではないかと思っています。

 ディスレクシアはLDの一つ、つまり、読む、書く能力の習得に著しい困難を示す様々な状態です。

ディスレクシアの位置づけ

2 現在の対応
(1)特別支援教育体制

現在の対応として、特別支援教育が学校教育法に位置づけられると同時に、教育基本法が改正され、障害に応じた指導を受けられるというように「障害」という言葉が、初めて去年教育基本法に入ってきました。 学校教育法では、個々のニーズに応じる特別支援教育の制度化と、小中学校の通常の学級でも、障害に寄る困難には対応しなければならないというふうに現在変わってきています。

現在の対応(1)特別支援教育体制

 現場における支援はどんなことが行われているかについて、あちこちに聞いてみました。
実際には通級指導が、ことばの教室ではなく、情緒障害の通級指導教室です。

 この発達障害というのは・・・すみません。早口すぎましたか。

 情緒障害の通級指導教室は、主に、ADHD、アスペルガー、高機能自閉症のお子さんが通っていますが、ここにも、ディスレクシアと同じ状況を併せ持つお子さんが多いということで、通級による指導の中で、方向、縦横の概念を体で覚えたり、線書きをやったりということで、それも含めて指導しているという例がありました。
それから、言葉の教室ですが、いろんな感覚を使いながら文字を書く練習をしたり、それから、医師と面談を行い、医療と連携した指導をしているところもありました。

 北海道旭川盲学校では、視知覚の問題があるために上手く読めない状況に対して、今までの視覚障害教育の専門性を活かして小・中学校に指導を行っている。この学校は、今では視覚障害の相談よりも、LDの相談のほうが多いということです。 それから通常学級において、見落としやすい部分に注目できるシートを利用したり、ことばの教室で、学校に入る前の幼児の段階からできるだけ早く発見して、読み書きの問題をもつお子さんに、早期から支援を始めるという実践もあるということでした。

現場における支援の例

(2)新学習指導要領

 全国的に、今年、学習指導要領が改訂され、その中で、ディスレクシアの方にとって、非常に重要と思われる部分を抜き書きしてみました。

 例えば、国語の漢字の扱い。
漢字の読み書きについては、前回の学習指導要領改訂から、2学年分まとめて、示しています。 例えば、2年になると、2年の漢字は読めなければいけない、でも、書くのは、1年の漢字が書ければいいというふうになっています。 ですから、やはり書く方が難しいということで、書きについては、1年遅れでマスターすればいいということになっています。

 それから、フリガナですが、神山さんの話で、漢字とフリガナが混じっているのは、とても読みづらいという話がありました。
最近よく見かける表現で、「障害」の「がい」をひらがなで書く書き方があります。「害」という文字が含む意味合いが、いろいろあって、そう書いていますが、私はそれはとても読みづらいと感じます。

 というのは、日本語は、漢字2~3字で一つの意味を持つという見た目の特徴があります。それが、小学生に対して、もっと漢字を自然に読める経験を増やすべきということで、習っていない漢字はそのまま示して、ふりがなを付けるということが、初めて、学習指導要領に示されています。 ローマ字の指導は今まで4年生だったのですが、3年生からになりました。

 藤堂さんの発表にありましたが、タッチタイピング、現在、コンピュータに触ることが非常に多くなってきたということで、その指導を3年生に下ろしてきました。

 書くことが苦手なお子さんにとって、ワープロに早くから慣れることができる点で、非常にうまく使えたらいいんじゃないかと思っています。

 一方、小学校に外国語活動が新設されました。
小学校5年生、6年生は週に1時間、主として英語ですが、読み書きではなく、英語に親しむ、あるいは外国語を通してコミュニケーションの楽しさを知ることが主目的です。

 これがとても重要で、ここで、「ではアルファベットの書き方を覚えましょう」「英語カードを作るよ」というのをあまり一生懸命やってしまうと、ディスレクシアのお子さん達にとっては、非常に苦しい授業になる恐れがあります。

(2)新学習指導要領)

 特別支援教育課でも、英語に関する教科担当のところに行き、実は、LDの子は読み書きがつらいと。中でも英語はとっても難しい言語だと話しました。英語の先生達はほとんどそういう事実を知りません。ですから他の教科は成績がいいのに、英語だけの成績が悪い生徒を見ると、一生懸命やってないんじゃないかと思ってしまうこともあるんです。 きちんと知る必要があるということは、いつも話しているのですが、それが果たして、通常の教室で英語を教えたり、あるいはこれから外国語活動を教える先生たちに十分に伝わるようになっているかというと、まだそうではないところも、もっと頑張らないといけないと思います。

(3)学習指導要領解説

 学習指導要領の解説というのが出ています。

 これは(3)ですね。
読み書きや英語での配慮を明示しました。 これが資料に入っていないところです。

 小学校については、読み書きや計算に困難があるLDの児童に…(資料読み上げ)

 これだけの文章ですが、今まで入っていませんでした。

 中学校では、特に3行目。
「外国語科における読み書きの指導…」というところ。

 日本語では普通に勉強してきたのに、英語になったらとたんに難しくなることがあるので、十分に留意してほしいという意味をここに含めているつもりです。
ただ、すべての教師が解説書をきちんと読んで指導しているかというと、私も、昔、小学校で教師をしていましたが、あまり読んでいなかったなということを思うと、更に周知させる必要があると思います。

(4)新学習指導要領解説

(4)教科書バリアフリー法

教科書バリアフリー法については井上さんから話があったとおりです。第7条、とても重要なところで、教材等のあり方に関する調査・研究を行わなければならないということで、新規に1億円あまり、新規の予算要求をしようとしているところです。

(3)教科書バリアフリー法

(発達障害等のある児童及び生徒が使用する教科書用特定図書等に関する調査研究の推進)

教科書バリアフリー法制定のポイント

 文科省内では、これでいきましょうとなっていますが、国会の予算審議を経て、認められるかどうかです。 そこで重要なのは、「発達障害等に対応した教材等のあり方に関する調査研究事業」として、「発達障害」と銘打っています。 もちろんその中にLD、つまり読み書き障害に焦点を当てた研究になっています。 もし教育研究関係の方がいらっしゃったら、多分、この予算が通れば募集をかけてきます。様々な大学・研究所・教科書会社に委託して、研究費を渡して、研究していただきますので、はりきって手を挙げていただきたいと思います。

発達障害等に対応した教材等の在り方に関する調査研究事業(新規)

発達障害等に対応した教材等の在り方に関する調査研究事業の説明図

3 ディスレクシア支援の方向

ディスレクシアの支援の方向。

 日本語の特徴やメリットをいかしたディスレクシア支援をぜひすすめていく必要があります。
我が国において、LDとかADHDの支援はアメリカ等に比べると遅れているということで、アメリカ・イギリスに追いつけと、ずっとやってきました。でも一番モノを言ったのは、平成14年に、教室の中にどれだけ、行動・生活上に困難をしめす子どもがいるのかという、調査です。6.3%という数字が出ました。我が国においてそれだけの子どもが学習上、または行動上の困難を示すかというのを調べたこと、それが政治を動かすのに、意味を持っていました。

 では日本語を使う子どもにとって、読み書き障害の実態はどうなのか。
支援はどうすればいいか。

 英語を使う子どものものをそのまま持ち込むことができないんですね。だからこそLDの子どもの読み書き困難を改善するための教材作りの研究が、公的にはじまることの意義は大きいと思います。

 法律ができるまで、井上さんや河村さんや非常に多くの方が「必要なんだ」と訴えてできた法律です。1度法律ができると、それを後ろ盾にして、「このための研究が必要だから、予算が必要です」というのも、我々としても話がしやすくなります。今回、研究のための事業、何とかして予算を通したいと思っています。国の政治状況が今、どんなふうに進むのか、という状況であります。

 次に、私は専門外なのですが、発達障害教育担当ということと、大学院で研究したときのテーマはやはり「読み書き障害」として調べているうちに、漢字やひらがなはとても不思議なものだと思っています。ひらがな、カタカナ、漢字の3種類の文字を使う、こんな言語を使っている民族は世界中に、我々日本人だけなんですね。

 去年のLD学会で、先ほどチラシにありました、「プルーストとイカ」という本を書かれたメアリアン・ウルフ教授が、日本人はどうしてもっと日本語の研究をしないのですかとおっしゃったことが印象に残っています。

ディスレクシア支援の方向

 日本語の文法の研究もありますが、統一見解がないということを知ってびっくりしました。明治以降、日本人は、日本語がいい言語だと思わず、あまり良くないと思っていたらしいです。明治維新後に、日本語はいっそ、英語にしたらどうかと提言した文部大臣もいました。漢字は覚えるのが大変だから、なるべく減らそうという話もありました。これはつい最近までずっと続いていたのです。

 また、漢字をなくしたら、文字はひらがなか、カタカナか、それともローマ字か、大論争になっているようです。 それが、今、また漢字を増やそうではないか、ということになっています。明治以後「国語」が生まれてから初めてのことです。

 その流れの中で日本語を見直して、しかも、そのシステムについてきちんと研究して、読み書きの困難に対する対応もする良いチャンスではないかと思います。この変化をディスレクシアの子どもにとっての福音にすべきだと思います。

国語国字問題の大きな変化

4 当事者及び関係者にお願いしたいこと

「そのために何を?」ということで、当事者・関係者にお願いしたいのですが、来年度から研究がおそらく始まるので、そのときに当事者の方は、協力を是非お願いしたいです。

 うちの子、困っているから実験台、というと、よくない響きになりますが、研究の為に貢献できるように、ということで、心を痛めるようなこともあるかもしれませんが、そういったことのないように倫理規定をきめてやっているので、ぜひ協力をしていただきたい。医療、専門家との連携など、なるべくたくさんの方と連携をもち、やっていきますので、ご協力いただきたいと思います。

 DAISYはどうやって手にはいるのかについての話にはなっていなかったとは思いますが、現在、ディスレクシア支援に関係する国の動向を話しました。

4当事者及び関係者にお願いしたいこと