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DAISY普及と著作権法上の課題について
-特に学校教育の場において-

埼玉県立毛呂山高等学校 井上芳郎

 もともとDAISYは視覚障害者用の録音図書作成システムとして開発されてきたが、最近では視覚障害以外で通常の印刷物を読むことに困難のある人たちにとっても極めて有用であることが理解されはじめてきた。このあたりの経緯については別稿にゆずるとして、ここではDAISYを普及していく際に障壁となっている著作権法上の課題について述べたい。
現行の日本の著作権法では、障害者のための情報保障という観点が欧米等の諸外国と比べ大きく遅れている。端的な例を挙げるなら、同法の規定でいう「障害者」とは「聴覚障害」と「視覚障害」しか想定されていない。これ以外の情報保障が必要な人たちへの規定はまったくなされておらず、例えば正常な視力がありながら文字情報を取り入れることに困難のある、いわゆる「ディスレクシア」または「読むことのLD(学習障害)」の人たち等に対しての配慮はまったくない状態である。そのため、視覚障害者のために作成された録音図書を、これらの人たちがそのまま利用することは現行法上できない。すでに欧米等では視覚障害者以外にも、通常の印刷物を読むことに困難のある多くの人たちが録音図書を利用しており、そのための法的な裏付けや公的な形での財政支出もされていると聞いている。日本においても早急な取り組みが望まれる所以である。
 現在文部科学省を中心として特別支援教育の一環で、LD(学習障害)等に対する主に学校教育の場での支援が始まりつつある。少しずつではあるが成果も上がってきている。しかし残念ながら、情報保障に関する学校現場での認識はまだ低く、例えば学校で使用している教科書や基本図書をよりアクセシブルな形に変換して利用するという発想は少ないようである。ごく少数ではあるが一部の保護者、教員やボランティア等の努力により、教科書等をマルチメデアDAISY化する試みがなされ成果をあげている。
 ところで、この「DAISY化」をする際に障壁となっているのが、前述した著作権法上の規定であり、さらにはDAISYの普及を妨げている一因ともいえる。視覚障害者以外のために録音図書を作成するには、逐一著作者の許諾を取らなくてはならないし、せっかく作成した録音図書もライブラリーとして共同利用することはできない。 今後、このような人たちの情報保障の手段としてDAISYが広く普及していくことが望まれ、そしてさらに理想を述べれば、教科書等の教育用図書や広く社会一般で提供される公的文書などが、公表時点においてすでにDAISY化された形で提供されるべきものと考える。すぐには実現不可能であるとしても、少なくとも非営利目的の第三者が著作権者の許諾なしに著作物を自由にDAISY化し、必要としている人に提供できるような道は開いておくべきである。この前提条件としては、現行の著作権法の見直しが強く望まれるところであり、今後日本社会が目指している、情報バリアフリー化にもつながっていくものと思う。