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外国における認知・知的障害者へのマルチメディアDAISYの普及に向けて

(財)日本障害者リハビリテーション協会
情報センター次長 野村美佐子

 平成13年度から日本障害者リハビリテーション協会情報センターは、LD(学習障害)の研究者および親の会、DAISYシステムの専門家・知的障害者の親の会および作業所関係者等で構成をする企画委員会を設け、ここでの助言を受けながら認知・知的障害者のニーズに対応するDAISYシステムの開発および普及に取り組んでまいりました。

 マルチメディアDAISYに製作については、DAISYコンソーシアムメンバーの中でも日本が先導的に開発・普及を進めているという現状がありますが、マルチメディアDAISYの普及を推進する外国での2つの事例をご紹介したいと思います。政策的にマルチメディアDAISYを進めるアメリカの試みと実際にマルチメディアDAISY製作ソフトウェアを使用して行ったイギリスの試みです。

 アメリカにおいては教育省の特殊教育プログラム局(Office of Special Education Programs)はCASTと呼ばれる特殊技術応用センター内の全米一般教育課程教材アクセスセンター(National Center on Accessing the General Curriculum)に資金を拠出し、教材に使われる全米指導教材アクセシビリティー標準規格(National Instructional Materials Accessibility Standard-NIMAS)を制定するために全国ファイル・フォーマット(NTF)技術委員会を開きました。この委員会は教育関係者、技術の専門家、権利擁護団体および出版社など40名で構成をし、2002年から始まって2003年の10月に勧告を行い、2004年7月には、NIMASDAISY3、ANSI/NISO Z39.86標準規格がアメリカの公式なファイル形式として認められたのです。これによりK-12(幼稚園から高校3年にいたるまでの)の分野で全国的な標準規格が確立され、教科書や教室で使われる教材をこの新規格により制作すると、出来上がった新しい電子フォーマットから点字版、テキストと絵のついたコンピュータ版に変換することが可能です。

 今後、上記のNIMASを開発・維持するために特殊教育プログラム局はCASTを援助して2004年10月より2つのセンター(NIMAS Development Center and Technical Assistance Center)を設立しました。
また2004年11月の障害者教育法の再認には、NIMASを盛り込むことを必要条件とし法律的にファイルの提供を義務付けました。

 ブッシュ大統領は2004年の12月に「全ての子供たちが学ぶ事が可能であり、アメリカにおいては一人も落ちこぼさないことを確認する義務がある。」と述べて、障害者教育改正法に署名を行いました。
アメリカのファイル・フォーマットとして認められたDAISY3は、以上の流れの中で大きな役割を果たし、DAISYの普及を政策的なところから始まった事例として考えられると思います。

 今後、DAISY3の規格により、視覚、認知・知的障害者など様々な障害に対応するマルチメディアの教材が製作されることを期待して、今後アメリカの動向を見守ることにしたいと思います。

 イギリスでは、英国王立点字図書館(RNIB)のピータバラにある技術およびユーザーサービス部門と教育と雇用の部門、特に学習と雇用を推進する技術チームが2004年の初めに視覚障害者を含む教室におけるDAISY本の利用の妥当性、課題、および作業態度などを明らかにする目的のプロジェクトが立ち上がりました。この試みにはDAISYフォーマットで作成する教材の出版会社の著作権の許可とイギリスの3つの地方の教育委員会の協力、そしてドルフィン社(Dolphin Audio Publishing )のDAISY製作と再生ソフトウェアの提供と技術協力がありました。更に教育と技術省の小規模プログラムファンド(DfES)の資金により本職による本の録音、必要な機材の購入および配布、そして先生と学生がこのプロジェクトに費やす時間が可能となりました。

 この研究は主として以下の点を確定することとしました。

  • DAISYフォーマットのコース教材によって提供された付加価値に対する学生の反応
  • どのように学生が教材を使用したか、そして以前の方法を上回る利点
  • 動機と自尊心の改善
  • 学生の勉強することの喜びはDAISYによって向上したか?

 この試み3つのセカンダリスクールのkey Stage 3の読み書きを勉強する生徒に12ヶ月コースを通して行われました。Key Stageというのは英国の学校教育のカリキュラムのことでKey Stage 1 は5歳~7歳、Key Stage 2 は7歳~10才で Key Stage 3は11歳~14歳を示しています。Key Stage 3の1年間のコース終了後、この試みの成果を計るために参加した先生と生徒にアンケートを取りました。
 プロジェクトを行うためにRNIBのチームは現存するコース教材をドルフィン社の「EasePublishier」という製作ソフトを使用してDAISYフォーマットで作成し、また同社の「EaseReader」というDAISYの教材を読むための再生ソフトを生徒に配布した。

 Key Stage 3の読み書きの科目をサポートする教材としてシェクスピアの「マクベス」やジョンスタインベックの「十日鼠と人間」など7冊が使用され、テキスト、音声と絵が同期したDAISYフォーマットの教材が作成されました。これらの教材は本文、コースノート、演習、復習等すべて一まとめに再編集され、レベルの構造があるために読みやすくなっています。つまりこれらの本は生徒に主題について説明するコースノートで始まり、続いて生徒が行う本文の省や節に基づいた課題、演習があります。

 上記のDAISYのフォーマットのコース教材と再生プレイヤーを使用して先生も生徒もとても快適であると感じました。ある生徒は「DAISY教材の使用によりより簡単に読める。」と言い、またざっと目を通すことができ、再生プレイヤーを使用して自分にあったスピードで読むことができるので読むスピードが非常に改善されたという結果が出ました。先生からは大活字のテキストスタイルシートを持つ再生プレイヤーで読むことができるので、生徒の読む姿勢が良くなり、集中力が増す結果となったことに注目しました。また視覚障害者は、健常者と共通の教材を使用するのでインクルーシブな環境を作りだされることに幸せを感じたという報告があります。

 研究の結論としては、参加した生徒の読む力だけでなく、理解力や記憶力の向上が見られ、視覚障害や印刷字を読めない障害を持たない生徒もDAISYを楽しむことができました。テキスト、音声、絵は学習力を高めてくれました。またこの試みは視覚障害の生徒や印刷字を読めない生徒だけでなく教室のすべての生徒の学習を助け、向上させる力と可能性を示すことができました。こうした結果はこのプロジェクトが成功であることを意味しており、この結果を受けてDAISYの普及が更に推し進められることを期待したいと思います。

 以上のような2つの事例から学ぶことは多くあり、日本においてマルチメディアDAISYの推進する上で応用することができると考えております。


参考文献
 http://nimas.cast.org/
 http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/intl/daisycon/news/news_detail040727.html
 http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/access/04csun/george.html
 http://www.dolphinaudiopublishing.com/case_studies/e07.htm