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パネルディスカッション  田中 和美(元公立中学校特別支援教育コーディネーター)

今年の夏休み、読み書きの苦手な小中学生と一緒に、読書感想文を書く機会がありました。まず、その報告をしたいと思います。

マルチメディアデイジーと読書

資料01

小学校や中学校で夏休みの課題に「読書感想文を書く」というのが出されることが多いと思います。読み書きがしんどい子どもたちにとって、とても負担の大きい課題です。まず、読むのが大変です。その上、感想を書かなければなりません。学校でも習ったことがない文章を読んで、何枚も感想を書くという課題は、考えただけで難題です。でも、書かなくてはと、まじめな子どもたちは、思うのです。

マルチメディアデイジーと読書感想文

資料02

読書感想文のためには、たくさんのスキルが要ります。まず、本を選ぶ。そして読む。読むには、音と文字の対応から、読解のプロセスー単語・文・談話(文章)の 3つのレベルでの処理を並行しながら進行していく力がいります。また、メタ認知というか目的に応じて読んだり、重要なことに目をつけたり、要らないところを読み飛ばしたりする力がいります。それから、書くは、題材を集めたりプランニングをしたり、文章化したりします。文章をちょっと距離をおいて対象化し「書こうと思ったことが書けているか」を、チェックして推敲するなど、いろんなスキルがいるわけです。いつのまにか出来るようになっていることに、一つ一つ躓いていたりしています。

読書感想文を書く

資料03

だから、読み書きの苦手な子どもたちのしんどさは、普通、作文は嫌だと言うレベルとは違った困難さを持っているといえます。でも、実は力は持っています。いい感受性も。また、読み書きはしんどいけど、話す聞くは、すごかったりします。では、その力を出せるというのはどういうことか、どうしたらいいかと、私もすごく悩みました。

持っている力

資料04

今回の手順ですが、まずマルチメディア DAISYで読むということでやってみました。図書は大体1時間以内で読めるものにしました。それから心情を読み取らないといけないものではなく、どちらかというと説明的な文章、あるいは全体の動きがあって、流れがわかりやすいものを、相談して決めました。
書く方は視覚的に書くということを心がけました。伝えたいことを意識して題材を集めて、さらにそこから選んで構成を考えるという手順でやってみました。

手順

資料05

スライドはちょっと映りが悪いですが、書くのに、この黄色いカードを使いました。子どもたちは読んだ感想をいろいろ語ってくれますが、一枚のカードに一つのエピソードを書いていきます。出たもの、あるいは一緒に書いたものを、その後選択して決める。一番書きたいことを屋根、主題にします。その主題に従って、書くことを決めて、書いたエピソードを適切な位置に貼っていくのです。書いたものを、対象化して統合していくということです。

書いたことを組み立てみよう

資料06

「干し柿」という説明文を読んだ小学生は、「干し柿のなぞをとく」の「なぞをとく」ことを大きな主題にして、屋根に書きました。そしてこれに関係して、彼が感じた内容やエピソードカードを選びました。(お子さんによっては「どんな話でどこに行くの?」とか、他の人が読むということを意識して、具体的に聞いていきます。)そうして並べて、初めと終わりをつけて仕上げたわけです。今、どこを書いていて、エピソードの重複がないかという点検もしながら書けて、よかったのかなと思います。関連の得意な四字熟語が出てきたり、語感が出てきたり、とても個性的ないい文章になりました。ともかく、一生懸命書いてくれて、すごい力をお持ちだなと思って、私の方がドギマギしながら、感想文の講座を終えました。

書いたことを組み立ててみよう

資料07

今回、マルチメディア DAISY図書で読んでみて、やはり読みの負荷が減りますし、読みのストレスが緩和されると感じました。通し読みで全体がわかるというのは、やはりそうだと思います。自分で読める自信も感じました。DAISY図書ならば読める力を発揮できる、というのは、読めるということだと思います。それが書く意欲にも伝わっていくと感じます。

マルチメディアデイジー図書で読む

資料08

読み書きの苦手な子どもたちにとって、マルチメディア DAISYは、アコモデーションつまり合理的配慮です。ピントの合ったメガネをかけたら、よく見えた!というように、DAISY図書で読んだら読めたよというのは大事なことだと思います。

さて、今までの経験から、二つのことを考えています。

読み書きの苦手な子どもたち

資料09

DAISYの出会いと学びということで、一つ目は、本人の力が発揮できるように、27万とも、今日伺ったように 50万とも言われる読み書きの困難な子どもたちが、このツールに早く出会ってほしい。「早く」というのは、一つのキーワードだと思います。「奈良デイジーの会」の冊子によると DAISY教科書の利用者は 2009年 12月 300人でした。2011年の冊子によると、約 500人です。今日伺うと 638人ということで、日本障害者リハビリテーション協会の方の数値からも、今すごく増えているのがおわかりだと思います。つまりニーズがあるということです。でも、まだまだこの数だというのは、これが合う人に存在が伝わっていないのではないかと思います。

マルチメディアデイジーの出会いと学び

資料10

それから二番目、マルチメディア DAISYを使った学びについて、さらに認知に応じた工夫が必要です。今日もたくさんの実践発表があるので、それを積み重ねることだなと思います。

早く届いてほしい

資料11

その一つ目ですが、「早く」というのは、学童期の語彙を思うからです。1歳半から子どもたちの語彙の爆発期になりますが、そのころ1日9語獲得すると言われています。でも、学童期の語彙もなかなかのものです。高橋登(大阪教育大学)は、小1年生のときに1万語、3年生で2万語、5年生で約4万語の語彙を持つといいます。ということは一日 20語ぐらいの語彙を小学生の子どもたちが獲得していることになります。また、それは、何によるかというと、教科書と本、つまり読書で得ることが多いというデータが出ています。もちろん子どもたちはテレビも見ているし、会話していますので、日常の会話やテレビの視聴からもあるのですが、テレビの語彙というのは会話なので、レベル的にはまだまだ語彙を広げるという範囲にはいかないのです。やはり語彙を増やすのは、教科書や読書です。ということは、マルチメディアDAISY教科書というのはすごく大事な位置を占めていると考えます。

語彙と読書(高橋登,2006「学童期の語彙能力」)

資料12

また、学童期の語彙は、1歳半頃の語彙と違って、時間をかけて深くなっていくということです。さらに一定の語彙を獲得すると、それに基づいて新しい意味を憶測する力を知っていくという語彙です。だから、小学校や中学校で語彙を獲得すると、その語彙から読書能力、ひいては学力にいきますから、DAISY図書というのは、そういう意味でも大事なところを担っています。逆に読みのしんどさをもつ子どもたちは、力があっても学力がつきにくくなってしまうことになるのです。

学童期の語彙能力

資料13

私の経験から、マルチメディア DAISY教科書で学んだ生徒が、「読みたい」といって図書館に行ったことがありました。自分のメガネが合って、これなら読めると思うと、読む意欲も出るのです。

読みたい・学びたい

資料14

二つ目、認知からと言ったのですが、このデータ DN-CASを見るとわかるように、読み書きのしんどいお子さんは、同時処理が強く(もちろん個によって違いますが)どちらかというと継次処理が苦手なことが多いようです。それから WISC-Ⅲでみると、知覚統合は結構強く、処理速度が弱い。こういうことをみると、先ほど DAISYを読んだときに、全体がわかるなと感じたのは、やはりこういう力が強いところからくるのです。そういう意味でも DAISYの有効性がいえると思われます。また、これらのデータでみると、他に、弱いのが、プランニングとか注意。ワーキングメモリーや記憶に関係するところが、やはりしんどいのだろうなと思います。強い所を生かして、弱いところを補う方略を考えていく必要があります。同時処理に関連した課題では、全体的な意味を理解するというのが得意になってくるようです。

DN-CASの読み障害とADHDプロフィール

資料15

WISC-IIIの読み障害とADHDプロフィール

資料16

そういうお子さんは、それを生かして DAISY図書を使う。それから継次処理が苦手だったら細かな点を覚えるのが苦手なので、先ほどのように途中でちょっと止めて、ここまでどうだったかなと振り返りながらDAISYを使うといいのではという、DAISYの使い方についても、今後、検証が要るかなと思います。

同時処理に関連した課題

資料17

継次処理に関連した課題

資料18

この西岡先生のスライドのように、DAISYの学び方はいろいろあると思うのですけど、ピントの合う DAISYの学び方で、その子の認知を利用しながら学んでいくといいのではないかと思うのです。

中学年以上のDAISYの目的

資料19

それからもう一つ、今私が考えていることがあります。

それは今のこととつながっているのですが、マルチメディア DAISY教科書での学びが役立った。でもテストが解けないということがあります。テストは、DAISYではないからです。大学のセンター入試とかテストとか、評価も DAISYが使えたらいいなと思います。アメリカでは ADA法により、(まだ読みはスクリーンリーダーの段階だと聞いていますけど)耳から聞いてテストを受けることもできているそうです。

マルチメディアデイジーでの学び

資料20

今年度1月の大学入試センターから開始する配慮では、今のところ、1.3倍の時間延長と別室受験と拡大の試験問題となっていますが、この先には DAISYでテストを受ける、そういう時代が来てほしいと思います。DAISYで学習し、DAISYなら読めるなら、それは DAISYがその人のメガネです。そのために、それが平等で合理的なテストであるという検証も必要だと考えています。

マルチメディアデイジー図書での学び

資料21

最後に、読みの困難な子どもたちはやはり義務教育の中でマルチメディア DAISY教科書とぜひ出会ってほしい。

自分に合う使い方、自分の認知に合った使い方をしたら「私も読めるよ」と、自信を持っていけると思います。このツールがあるから大丈夫なんだという自尊感情を持ちながら、豊かな学生生活や読書生活を生涯にわたって楽しんでいけたらと願っています。なにができるかわかりませんが、読み書きのしんどさをもつ子どもたちのことを、これからも考えていきたいと思っています。どうも有難うございました。