パネルディスカッション 野口 武悟(専修大学 文学部 准教授)
これまでの方の報告にもありましたけれども、読みが困難な児童・生徒の支援の問題というのは、どこか特定のクラスや特定の教職員だけの問題ではありません。今必要なのは、学校全体で認識を共有し、理解を深めていくということ。そして、一人の教職員だけですべての支援を行うのではなく、チームで当たっていくという視点だと思います。
支援を行う際に必要なのは、例えば DAISY教科書をはじめとした、読みの困難な児童・生徒の学習活動や読書活動に有効な各種の DAISY資料、こういったものを関心のある先生、知っている先生だけが使うのではなくて、教育資源として各学校の中で確実に収集、蓄積、提供できるような校内の体制づくり、仕組みというものが必要ではないかと思います。
そこで注目したいのが、これまでの方の報告の中でも何度も出てきましたけれども、学校図書館です。
なぜ、学校図書館なのかというと、それは学校教育法施行規則や学校図書館法などの法令によってすべての学校に設置が義務づけられ、すべての学校にすでに存在しているはずの設備だからです。
ただ、これまでの学校図書館はどういうイメー
ジだったかというと、恐らくただ本を読む場所というイメージだったんじゃないかと思います。
この学校図書館法という法律では、1953年にできた当時から、図書以外にも視覚聴覚教育に必要な資料やその他の資料を収集し、提供できると書かれていたんですけれども、これまで学校図書館が提供していたのは活字の図書が中心だったのです。
ところが最近の動向としては、学校図書館に学習情報センター、教材センター、読書センター、つまり、子どもたちの学びや読書を支える校内のセンター的な役割を担うことが求められるようになってきています。
そういったこともあり、収集、提供するものも図書だけでなく各種の視聴覚メディアや電子メディアも収集するようになっていますし、図書館サービスもレファレンスサービスに取り組むなど拡充してきています。
また、学校図書館の運営についてですけれども、かなめの人に関しては 2003年度から 12学級以上の規模の学校には、司書教諭の配置が義務化されています。それから学校司書の配置も徐々にですけれども、小・中学校を通して増加傾向になってきています。ただ、同時に課題もあるのですが、それは改めてお話ししたいと思います。
学校図書館は図書館という側面で、他の公共図書館や点字図書館、ボランティアの組織などともつながりやすいという、対外的な連携・協力の窓口、拠点になりやすいのではないか。そういう側面もあります。
そして何より注目したいのが、今年(2010年)の1月に、著作権法が改正・施行になりまして、視覚障害者等のための複製等が、学校図書館でも行えることになりました。皆さんのお手元には補足の資料ということで A4判1枚で、このことを説明した短い文章があるかと思います。詳しくはそちらをご参照いただければと思います。
以上のような学校図書館、既に存在しているも
のですけれども、これを、読みの困難があり、特別な支援が必要な子どもたちにも活用できるような場所に変えていく、拠点になるようにしていくということが必要ではないかと思います。
今現在の学校図書館というのは、学習情報センターや教材センター、読書センターとしての役割が期待されつつも、そこで収集し、提供しているものというのは、読みの困難がある子どもたちや特別な支援が必要な子どもたちに十分対応できるものにはなっていない、そういう現状があります。ですので、学校図書館という場で、マルチメディア DAISYをはじめとして、アクセシブルな情報メディアを積極的に収集、蓄積、提供していくことができれば、学校のメディア環境、読書環境というものが格段に向上していくのではないかと考えています。
国際的には、「ユネスコ・国際図書館連盟共同学校図書館宣言」(1999年)というものがあるのですけれども、そこでは、すべての子どもたちに学校図書館は等しくサービスを提供していくということがうたわれています。日本でも、すべての学校でそういう学校図書館を実現していかなければならないと思います。
ただ、学校図書館には課題がいろいろあります。
主な課題としては、これまでの方の報告にも出てきましたけれども、教育委員会であるとか校内の理解が必ずしも十分とはいえない。実は特別支援教育についてもそうですけど、学校図書館についても同じような状況があります。どちらもまだまだ理解が十分に進んでいるとは言えないというのが現状だろうと思います。
二つ目、学校図書館を運営する人材であるところの司書教諭や学校司書に関しては、配置が徐々に進んでいるとは言いましたが、制度的な弱さがあります。例えば、司書教諭は、11学級以下の規模の学校、つまり小規模の学校には設置義務はありません。また、現に配置されている学校でも、司書教諭の定数が措置されていませんので専任での配置は難しい。現状では兼任という形で配置されているのが実情ということになります。つまり、学校図書館に司書教諭が常駐することは難しいということです。
また、学校司書に至っては、そもそも法制化されていないというのが現状ですし、雇用の形態も非正規だったり時間勤務が大半ということで、常に学校図書館に居て、関われる状況がまだ十分に作られていないというのが現状になっています。
それから、三つ目、予算の話。予算的な面がやはり弱い。先ほど河村さんの話にもありましたけれども、地方活性化交付金をうまく学校図書館に活用してほしいということで、全国学校図書館協議会も呼びかけているんですけれども、これがどれだけ実現できるかは非常に大きいと考えています。
そしてもう一つ、四つ目になりますが、地域資源、地域のリソースにかなり地域間格差があるという状況です。
例えば、先ほど狛江の先生の報告の中で、公共図書館のハンディキャップサービスの方から情報を得たという話がありましたが、このハンディキャップサービス(障害者サービス)もかなり地域で温度差があるのが実情です。また公共図書館による学校図書館支援というのも同じような状況があります。どこでもやっているというわけではないということです。
それから現実問題として、マルチメディア DAISYを学校図書館で収集、蓄積をしていくといったときに、そもそも教科書そのものの提供をどうするかがまずもって先決しなければならない現時点にあっては、それ以外の資料については、まだまだ今後の長期的な課題になるわけです。
そして、それらを製作して、収集、蓄積する際に、当然、専門的なボランティアの方々が必要になるわけですけれども、そういう方々がどこの地域でもいるというわけではない現状もあるわけです。
そういった課題があるわけなんですけれども、こういった課題を解決していくことができれば、学校図書館は、読みの困難がある子どもたちや特別な支援が必要な子どもたちの学びや読書にとって、かなり大きな役割を果たすことができる存在ではないかと思います。
その解決のためには、まさに今、単なるお金のバラマキではなく、根本的な解決施策を国がとっていくことが必要だと考えています。
以上で、私の報告を終わります。ありがとうございました。