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平成20年度 DAISYを中心としたディスレクシアキャンペーン事業
~DAISY教科書提供体制の確立を目指して~

セッション2 「マルチメディアDAISY教科書の製作・提供」

講演を行う中村芬氏の写真

中村芬(NPO法人デジタル編集協議会ひなぎく 理事長)

こんにちは、名古屋からまいりました、NPO法人 デジタル編集協議会ひなぎくの中村です。今ご紹介にありましたように、私どもは日本障害者リハビリテーション協会が早くからされておりました、DAISYの厚生労働省の助成を受けられた仕事についてお手伝いをしてまいりましたし、いろいろなところで、日本障害者リハビリテーション協会の力をいただきながら、力を少しずつ蓄えながら、音だけの図書を製作してまいりましたけれども、あるとき弱視の方から、文字を読むことができないだろうかというようなお話があったんですね。そのときに、音だけのものしかやってこなかったので、ちょっと文字は…というような感じだったんですけれども、タイミングよく、Sigtuna(シグツナ)というものに変わってまいりまして、そのときに、本当にびっくりしたんですけど、こんな世界があるのかというような感じでした。今まで、本当に音だけ変換するということについては、力を持っておりましたけれども「何、これ?」というのがSMIL(スマイル)の登場でした。「SMIL?」

本当に聞いたときには、私たち自身がびっくりしてしまいまして。図書の製作どころか、まずそれと戦わなければならない状態でした。ですが、待っていらっしゃる利用者のことを考えて、みんなで力を合わせてとりあえずやってみようということでやり始めたのが、一番最初です。

ですから教科書に至るまでに2年という蓄積があります。普段使われている小学校や中学校の教科書は100ページぐらいのものですけれども、医学書となると700ページからあります。本当に、私たちが目にしたくないような怪我の状態のものだったり、それからリハビリの状態だったりといったような、いろんな図もあるものです。そういうものをスキャナでこつこつと撮って、文字化けしたテキストを直して、それでHTML化するわけですけれども、それで「できたかな~」と思ってかけますと、フリーズしてしまうんです。「どこがいけないんだろう?」と、今度はソースを開けなければいけません。それこそ、パソコンのそういったソースまでを見ることはなかったんですけれども、みんなで「どこだ、どこだ」ということで、額を寄せ合って「これだ」というようなことで、「どうしたらこういうことになるんだろうか」というようなことが、日常的にありましたが。

そういう中で力をつけていたところへ、2002年ですが、関西のほうで講演会がありまして、そのときには、まだ十分に行き渡ってはいませんでしたけれども、ディスレクシアのお母様が、自分の子どもに使うことはできないだろうかということで相談をされました。そうすると、「ひなぎくで医学書のようなものをつくっているみたいだから教科書は作れるかもしれない、一度聞いてみてごらん」ということで連絡が来たのが12月の中旬です。中学生の国語の教科書、社会、地理、歴史。もう目の前に3学期が始まります。私たちは、今まではのんびりとつくっていましたけれども、3学期に間に合う部分だけでも何とかしようということで、お正月返上でつくってまいりました。

その子どもさんが、それからずっと、それを使っていただいたんですけれども、高校受験というようなことを控えていらっしゃって、本当にこんな高学年の子どもが、今までよく頑張ってきたなというふうに思っておりましたけれども、先ほど来言われているように、文字を読むことができないという方でしたので、多分初めての方でヒットしたんだと思うんですね。他の障害があってDAISYが不向きではなくて、ピッタリと合っていたということで、彼はそれまでできなかった試験ができるようになり、国語が読めるようになり、国語が読めれば社会も理科も読めるようになったそうです。そんなことを親御さんから連絡をいただいて、よかったなというふうに思いましたし、高校受験頑張れよというようなことで、私たちも応援しておりました。

そんな中で、あちらこちらから、本当に日本の北から南から、私どものところへ依頼がまいります。やっとここにたどり着いたというのを、最近ですが、それでもまだまだDAISYは行き渡っていないんだなというのを、そんなメールをいただいたときに感じます。私たちは10年近く教科書に携わってきたのに、まだまだ日本全国に浸透していないんだなというふうに思います。でも、北は北海道、青森、それから南は九州まで、あちらこちらから、ネットの時代であるからこそ、いろんなところを探して、「LD」というので探されたり、「DAISY図書」というので探されたり、「DAISY教科書」というので探されたりして、私どものところに到達してくださっているようです。

そんな中、教科書というのは4月に子どもに渡されますが、一般に市販されると言うか、普通に手に入るのは4月末しか本屋さんで買うことができません。ひと月、子どもたちは何も分からない状態で授業を受けていることと思います。私たちは、それでも4月末に送ってこられた教科書を手分けして、とりあえず3分の1だけね、先生、前のほうからお願いしますという願いを込めて、まずお届けします。5月の連休明けぐらいに、やっとそれが届けられるかなという感じです。後半を、夏休みを挟んで全部渡していくというようなやり方でしたが、ふと気が付いたときに、教科書は読むことができない人にとっては、そこにあっても、最後まで何が書かれているか分からないんだと思います。このときに、4月の時点で子どもにDAISY図書が渡っていれば、先生が前のほうから進もうが後ろに飛ぼうが、どこに行かれても、「あ、私もDAISY製のものを持っている」という気持ちで子どもさんが、生徒さんが授業に参加することができるんじゃないかなということにやっと気が付きました。

昨年度ですが、日本障害者リハビリテーション協会が中心になって、「たつの子」のプロジェクトを立ち上げられましたが、それに参加したときに、例えば先ほども「ねずみのよめいり」というのがありましたが、「ねずみのよめいり」の物語だけでいいんじゃない?というような話がありました。私たちは、教科書は初めから最後まで全部つくるものだと思っています。ただ、そのときには時間がないので、それでいいんじゃない?というような声もありましたし、あとのところは間に合わなくても仕方がないから、というので、後手後手に渡すような状態にもなっています。ただ、この状態は、例えば今、どんなグループでも、スキャナで撮って、映像もスキャナで撮って、多分、小さい大きいというか、それぞれのフォントでされると思うのですけれども、そんな中で、出版社からデータがいただけたりすると、もっと早くに製作することができるかなというような思いを、この間抱いてきました。

昨年、「障害のある児童及び生徒のための教科用特定図書等の普及の促進等に関する法律」、随分長い名前なんですけれども、これによってDAISYがひょっとしたら陽の目を見るかもしれないという嬉しいニュースを私どもはキャッチしました。と言うのは、これまで教科書というものは著作権の問題がありまして、普通のところで製作することはできませんし、個人に渡すことはできましたけれども他の方にお分けすることはできませんでした。この法律ができたことによって、たくさんの子どもが同じ時期に手にすることができるんだなあというふうに、この法律が通った時点では思いましたけれども、先ほど言いましたように製作に随分時間がかかります。こんなことで、もっと日本国中に、こういうことができる力のある人が出てくるといいなあというふうに思う反面、私の心からの願いです。出版社の中で教科書をつくっていただけると、教科書をDAISY化していただけるといいなというふうに思いますし、文科省の方にぜひ教科書に付随しておいてほしいという。どういう子どもが使ってもいいじゃないかということで、紙の教科書と一緒にDAISYが添付されるような配布をしていただけたらということを切に願って私の報告といたします。失礼いたしました。