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平成20年度 DAISYを中心としたディスレクシアキャンペーン事業
~DAISY教科書提供体制の確立を目指して~

パネルディスカッション 「DAISY教科書提供体制の確立を目指して」

河村●

どうもありがとうございました。それでは、ちょっと皆さんにご登壇いただきますので、短い時間ですけれども、壇上に、パネリストの方、いらしてください。先ほどの発言順に並んでいただいております。

それでは本当に短い時間で恐縮なんですけれども、パネリストの方から、今日の用意されたプレゼンテーション、短いプレゼンテーションを先にしていただいたんですが、この後、テーマはどういうふうにしたらDAISYがみんなの手に入る体制がつくれるようになるんだろうかという点について、コメントをこれからいただきたいというふうに思います。1人2分までです。それでまず、準備のできた方からお手を挙げていただきたいんですが、いかがでしょうか。寺島さん、お願いいたします。


寺島●

やはり大学の関係者がネットワークみたいなのをつくらないといけないなとは思うんですが、私がそういう中心にはなれませんので、DAISYコンソーシアムでそういう領域のサービスもつくっていただけるとありがたいと思っております。先ほど申し上げましたように、データの交換でありますとか、著作権については、まだ難しいんだろうと思いますが、いろんなところで、DAISYを必要としております。例えばビデオに字幕をつけるというのを、ある大学では手広くやっている。何千本も作成しているんですけれど、私どもに貸してくださいと言っても貸してくれない。そのためにもう一度作り直すという、無駄なこともしています。そんなことくらい何とかなるはずじゃないかと思うんですけれども、何ともなっていないのが現状です。以上です。


河村●

ありがとうございました。他の方、どうですか。今の寺島さんのコメントに関するコメント、まずありましたら。井上さんお願いします。


井上●

井上です。私は本業では、高校で教えておりますけれども、大学に限らず高校でも、似たような問題があるのかなと思います。要するに言葉としては悪いですけれども、「使い回し」ができないということですね。しかし今後著作権法が改正されれば、そういうことはなくなるはずと期待しております。

ただ著作権者の方に言わせると、やはり制限をかけたいのですね。誰もが自由に勝手に複製してしまうのは困るということ。国連の障害者権利条約の中では障害者の著作物利用の保障について謳われていますし、特に教育の場面では、そういうことは言えないと思うのです。著作権法第1条で、この法律の目的は「文化の発展に寄与するため」と書かれていますので、教育活動というのは、まさにこの目的そのものズバリなのです。私としては、来年の1月1日になれば、このような問題は解決していくのだろうと期待しています。


河村●

ありがとうございました。山内さん、いかがですか。


山内●

図書館の立場で言いますと、公的な施設として地域に設置されている公立図書館の役割は、とても大きいと思いますが、現状はとても厳しいものがあります。おそらく読みの苦手なディスレクシアの方というのは、自主的に図書館は利用していないというふうに思われますので、マルチメディアDAISY図書などの資料があるということを知らせていくという役割が大いにあると思います。

それからもう1つ、図書館では墨字訳サービスと言いまして、視覚障害者の方に代わって文字を書いたり、知的障害者の方に代わって手紙の代筆をしたりというようなこともやっているんですけれども、ディスレクシアの方に対する書くことの支援というようなことも、これから考えていけたらいいのかなというふうに思いました。


河村●

ありがとうございました。山中さん、いかがですか。


山中●

今の図書館のお話がありましたけれども、まずビックリしたのは、あずま図書館さんは、すごい理解があるんだなあというのを、感じたんです。実は一昨日、ある公共図書館さんで研究会に呼ばれまして、先ほどのような、同じようなお話をしてきたんですけれども、「ディスレクシア」という言葉を知らない、DAISYというものがあることを知らない、そういう司書の方もたくさんいらっしゃるんですね。実際、こういうディスレクシアという子どもがおります、こういうDAISYというものがあります、ぜひ図書館さん、頑張ってつくってくださいみたいなお話をしてきたんですが、じゃあ一体、今から何ができるんでしょうかということをお尋ねしましたら無言になってしまったんですね。まったく何ができるのかというのは、図書館で一切発言ができない状態なのが現状です。ただ、ありがたいことにその後、2~3件、また同じような講演依頼をその場で受けましたので、今後図書館さんと連携を取りまして、どんどん啓発活動なり理解を深めていくということは必要だと思いますし、教科書の件につきましては、保護者の立場から言えば、やっぱり教科書を春にいただいたときに、くっついてくるというのが、まず第1番、親が望むこと、親が望むと言うよりも、その子どもたちが必要としていると感じています。それがないと学習が成り立たないんですね。なので皆さん、今日聞いたお話をぜひ持って帰っていただいて、1人でも多くの人に、こういうニーズがあって、こういうことを求めている人たちがいるので法律をどんどん変えていこう、みんなの考え方を変えていこうということをぜひお願いしたいと思っています。


河村●

ありがとうございました。実は私も図書館員で、27年ほど東京大学の図書館のほうへ勤めておりまして、そのときの経験が、やっぱりDAISYを世界中で立ち上げないといけないという原動力になっています。私の場合は、国際的な規格をつくって、それを日本でも使えるようにすることによって全国的な仕組み ができれば日本もよくなるだろうということで、国際的な規格づくりをずっとやってきたのですが。

やはり図書館というのは読むことを保障する組織で、大学をつくるときは、絶対に図書館をつくらないといけない法律になっているんですね。小学校も中学校も図書館というのはなければいけないことになっているんですね。つまり生徒・学生は、自ら積極的に読んで知識を吸収する、これが教育の1つの重要な柱になっているわけで、そのことが保障されるということがとても大事な環境づくりです。先ほどの、今朝からのお話にありました、環境として、一番責任を持たなければいけないのが、やはり図書館なんだろうと思うんです。

ですから、どこか1か所でつくったら、それを「使い回す」という言い方がありましたけれども、絶対に無駄にしないで全国で使う、世界中で使う、そのためにDAISYという規格をつくったわけです。ですから、まさにそのためにDAISYは今、オンラインで貸し出せる、インターネットをまったく使ったことがない人がオンラインでDAISYを自分で選んで読むようにできるための開発も、そろそろ終わっています。オーストラリアとイギリスでは、まったくインターネットを使ったことのないユーザーに対するオンライン貸出が、もうすぐ始まります。今までCD-ROMで使っていたのと同じような、まったく同じ操作で、オンラインで好きなように選んで読める、そういうふうな仕組みになってきていますので、おそらく技術の上ではだいぶ進んだと思います。

もうひと言ずつ発言していただく時間があると思いますので、それではお1人ずつ、まとめです。井上さんからお1人、ひと言ずつお願いいたします。


井上●

井上です。先ほどの発表では詳しくは触れなかったのですが、昨年9月に施行された、いわゆる「教科書バリアフリー法」が国会で審議された際に、衆議院の文部科学委員会の名前で、「附帯決議」というものが出されているのです。その資料を挙げておきましたけれども、「すべての児童・生徒が障害の有無や程度にかかわらず、快適に利用できる電子教科書や電子教材が開発されるよう継続的に調査研究を推進する」と、謳ってあるのですね。ただ附帯決議そのものには法的な強制力はないそうですが、最大限尊重すべきものとされるそうです。

この附帯決議の内容は大変重要だと考えています。特に義務教育での場合には、教科書は本来無償ですから、DAISY教科書を普及させるのはもちろんですけれども、これが無償で提供されるべきである。

それから、いったん学校で使われる教科書ということでDAISYが広まっていくと、学校というのは、いろいろな意味で物事の普及する際の発信源になっていると思いますので、大いに期待していきたいし、我々もそのための努力をしないといけないと思っております。


山内●

昨年の1月にも会があり、そのときから果たせていないのですが、図書館で利用者を待っているのではなく、地域の特別支援学級ですとか言葉の教室ですとか、そういうところにこちらから出ていかないと何も始まらないので、早急に実現したいと思っています。


寺島●

このDAISYが生まれたころ私は厚生省に勤めていまして、予算要求をしていたことがあります。そのとき要求理由として、「新しい本ができるんですよ。今の本は文字に書かれた本だけれども、そうではなくて音声の本ができるんですよ、あるいは手話の本ができるんですよ」というように説明していたと思います。そういうことが徐々に実現されてきて、河村先生や関係者の皆様のご苦労に非常に敬意を表したいと思います。

しかし最近、学生を指導していますと、まだまだだなあ、というところもあるんですよ。例えば、音声のテキストと文字のテキストで比べると、検索について言うと、やはり文字テキストの方が10倍ぐらい早いんです。例えば、ゼミか何かで学生に指導しているときに、見えない学生は音声のテキストを使うんですね、パソコンを使って、イヤホンで聞きながら。ところが障害のない学生は普通の紙で見ている。視覚障害の学生は、能力が高いんですけれども、「何ページ見てね」とかと言うと、なかなかそれについてこれないんですよ。いっぽう見えている学生は、簡単についてこられる。今後の課題としては、そういう検索性を高めるような開発ができないかなというふうに思っています。以上です。


山中●

DAISYを30組ほど使っているという、先ほども言いましたけれども、ほとんどが家庭学習のみなんですね。学校での理解がまだ得られていなくて、当然普通学級では全然ゼロですし、特別支援学級でも1人やっているかやっていないかというのが現状です。実際問題、その教科書が学校の学級の中で使われていく、DAISYが使われていくというふうにならなければ意味がないと私も思っていますので、これからも教育委員会等々に働きかけていきたいと思っております。

河村●

ありがとうございました。それでは短くまとめさせていただきます。まず、寺島先生がおっしゃった技術の点ですが、ご安心ください。目で見るよりも扱いやすい。音だけでテーブルも読めるし数式も読めるという技術はでき上がっています。ただ、その技術を習得するのに、やっぱりちょっと訓練が必要なんですね。ですから当然、小説や何かをずっと読みたい、人生豊かにする読書と、それからどんな難しいこともチャレンジしたいという、非常に高度な読書、この両方をサポートするというのがDAISYの技術の特徴です。そのため不断の技術開発をやっているところです。それは徐々に皆さんのところにご紹介できるかなと思います。

そして何よりも重要なのは、やはり学校の環境づくりということなんだと思うんですね。今日、皆さん、いらしている方たちは、当然そういうチャンスがあれば、DAISYとそれを必要とするであろうディスレクシアの子どもたちとの出会いを何とか確保していくというのは当たり前というふうに思ってらっしゃると思いますが、ディスレクシアと思われる2人の小学生のために先生が、全部準備してパソコンも貸し出せるようにして、これから提供しようと思うのですがと校長先生にお話ししたら、校長先生が「責任を持てない」と言ったためダメになったという例があります。

やはり、まだまだこんなことがたくさんあるのだと思います。もう一方で、私たちは、DAISYを提供できる体制を、みんなでできるだけの力を合わせてやっていけば、いずれ欲しいという子には手に届くようになるのは、そんなに難しくないと思います。それを本当に教室で使えるようにするというのは、とても難しいと思うんですが、先生が変わらなければどうしようもないのです。ですからそこに向けても、これから一緒に、この会場みんなで取り組んでいきたいという期待を込めまして、このパネルディスカッションを閉じさせていただきたいと思います。どうもご参加、ありがとうございました。