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平成20年度 DAISYを中心としたディスレクシアキャンペーン事業
~DAISY教科書提供体制の確立を目指して~

パネルディスカッション 「DAISY教科書提供体制の確立を目指して」

寺島彰氏の写真

寺島彰(浦和大学総合福祉学部 学部長・教授)

河村●
今まで私たちは義務教育の教科書を中心に話してきました。ところがやはり職業的自立も展望するとなると、高等教育、大学の役割がとても大事になります。
そこで大学という場から、浦和大学総合福祉学部学部長の寺島さんにお話いただきます。

寺島●
ご紹介ありがとうございました。皆さま、こんにちは。私は高等教育におけるDAISYへの期待をお話しさせていただきます。高等教育では、まだDAISYがそれほど使われていませんので、ぜひこういうこともお願いしたいということを申し上げたいというつもりでお話させていただきます。

高等教育におけるDAISYへの期待

(資料13 説明)

この図にありますように大学・短期大学・高等学校において、障害学生が非常に増えています。非常にいいことだと思うんですけれども、そういう障害学生に対する支援が十分に行き渡っていないという問題点があります。

大学・短期大学・高等専門学校における障害学生数

(資料14 説明)

例えば19年度の実態調査結果報告書によりますと、視覚障害の方が577名、聴覚・言語障害の方が1,355名、肢体不自由の方が2,068名、それから、発達障害の方も178名が高等教育機関に入学されているということが報告されております。学校の種別では、大学が一番多く、3,829名が大学に通われています。

過程別障害学生数

(資料15 説明)

在籍率でいきますと、だいたい大学で0.15%ぐらいが障害学生で、障害のある学生に対するサービスに対して、いろいろな期待があります。

過程別在籍率(%)

(資料16 説明)

私どもの大学でやっている例を少し挙げさせていただきます。まず、原則的に、障害を理由に入学を断らないことにしています。私が学部長をしていますので、そういう方針にしています。しかし、ここまでくるのにかなりの困難を経験しました。

障害者サービス

(資料17 説明)

私はバックグラウンドが障害者リハビリテーションですので、この関係の従事者は、障害のある方の人権を守るのが当たり前だと思っているんですけれども、文部科学省関係と言いますか大学はそう思ってないみたいなところがあります。障害者リハビリテーションの出身者は、障害者の人権でありますとか情報保障だとかその重要性をたたき込まれていますので、当然だと思って発言しても、大学では、だいたいいろんなところでトラブルが発生します。ところが、私どもの大学にはリハビリテーションセンター出身の教員が3名おりまして、3名で、お互い励ましながら頑張って、現在は、トイレ介助もやっています。立位を保持できない肢体不自由の方に、便座への移動を含めたトイレ介助をやっていて、関東近辺で私どもの大学しかやっていないらしくて、そういう学生の方が入学していただけるのが続いております。

私も情報保障が当然必要だと思って、授業でもいろんな工夫をしています。例えば視覚障害の学生が授業を取っている場合には、だいたいその前週の土曜日に1日かけまして、印刷物を全部電子テキストに直すんですね。それをメールで送るんですけれども、結構大変なんです。1日かかるんです。まず、スキャナで読み取って、OCRで全部テキストファイルに落として、MSWordに作り直すんですけれども、表とか図が、結構多いんです。表は何とかなるんですね。情報保障だからやるしかないなあと思って、膨大な統計表みたいなものがあっても、時間をかけて頑張れば何とかなる。しかし、図をうまく説明するには結構悩みます。だいたい電子テキストに直すだけで、12ページぐらいの論文を直すのに1日かかるんです。さらにそれをマルチメディアDAISYにしてあげようと思って、録音し始めると、それは1日じゃ終わらない。だから、とりあえず今はテキストファイルを作成し、Eメールで事前に送っているという状態なんです。ただ授業期間中は結構大変なんですね。私は、学部長ですから、いろいろ仕事があって、障害学生が増えると、これは大変だなということがあります。ぜひ、DAISYで、そういうのを助けていただけると本当ありがたいなと思います。

現状でのテキストにかかわる課題

(資料18 説明)

もちろん、最初は、大学の教員がDAISY化をやるのが一番手っ取り早いと思ったわけです。専門用語も、みんな知っていますから、読み間違いとかがないので、結構いいんだろうなと思っていたんですが、やってみると大変だということが分かりまして、そういうことを行ってくれる組織が、やはり必要なんじゃないかなというふうに、今は考えています。

それからもう1つの問題は、私がつくったものを、その人にしかあげられないんですね。どこの大学でも同じような論文を読んでいるだろうなと思うんですけれども、それを、例えば他の大学に配布すると著作権上の問題になります。毎年、30ぐらいは論文をテキストに変えているんですが、それはその人だけにあげていて、他の一般の学生にもあげられないというそういう状態なので、そこも何とかしてほしいなと。そんなことを考えておりますけれども。

本日はディスレクシアの方の話ですので、少しその話をしたいと思っています。現状では、視覚障害、聴覚障害、肢体不自由の方が、高等教育機関におけるサービスの主な対象になっていますが、その大きな理由は、補助金が身体障害のみを対象にしているということです。大学には障害学生支援のための補助金がありまして、5名単位になっていまして、5名でだいたい450万円ぐらい大学に支払われます。10名になると800万円ぐらい文部科学省から補助金が来るんですけれども、その対象者は身体障害者だけで、しかも肢体不自由の方は初年度のみということになっています。

障害者支援の次のステップ

(資料19 説明)

また、それは、補助金全体に含まれていますので、それを障害のある方に使わなくてもいいんです。何に使ってもいいという、そういう構造になっております。ですから、例えば情報支援だと言って大学側に働きかけても、なかなか理解してもらえないようなところもあります。こういう場面は実は紐付きの補助金のほうがいいと思います。これは障害のある方のために使わなければならないということであれば、例えば、朗読など、そういうところに使えると思うんですけれども、そうでもない補助金になっているということがあります。

ディスレクシアへの支援のニーズ

(資料20 説明)

それからディスレクシアについては、先ほどの報告の中で5%とか10%とかの割合の方がおられるということですので、多分おられると思うんですけれども、把握が難しいんですね。他の障害の方は手帳とか持っておられたりして、自分が障害者であるという意識を持っておられるので、本人が、自分が障害者であると言っていただくと、動きやすいんですけれども、「あなた、ディスレクシアなの?」って聞けないんです。なかなか難しいところがあるんですよ。そういう、自分が障害者かどうか、障害認識を持っておられるかどうかというむずかしさがありまして、今のところ、ディスレクシアの方に対する支援ニーズは、十分調べ切れてなくて、実際にはやってないというのが実態です。また、そういう方がおられれば、教材の準備も必要だろうと思っているわけですが、把握の部分で十分できてないがために、まだあまり進んでいないということです。

大学としては、今のところ、発達障害の方までは、発達障害者支援法や学校教育法の改正によって対象となってきたわけですけれども、今後、例えば高次脳機能障害でありますとか、もっと重度の肢体不自由の方でありますとか、そういう方に対する対応を考えていく必要があろうと思います。ただし、その前の段階として、身体障害のある方に対してでも、まだサービスが不十分であり、大学のひろがりも必要であると思います。以上です。

河村●
ありがとうございました。実は10年ちょっと前に、全国の国立大学の学長の組織している協議会が、アメリカに、キャンパスにおける学生の支援の実態調査に行って帰ってきたレポートがあります。第1番に印象深かったこととして、行ってみたら、支援を要する、支援をしている学生の大多数が発達障害の学生、特に学習障害の学生だったということにビックリして帰ってきたという報告がありました。やはり制度的にも実態的にも、日本の大学は結構遅れているところがあるんですよね。ですから、今おっしゃられたように、もっともっと大学が先頭を切ってこれから変わっていってほしい、またそのためには、ニーズを、きちんと汲み上げた効率的な体制づくりが望まれるところだと思います。