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平成20年度 DAISYを中心としたディスレクシアキャンペーン事業
~DAISY教科書提供体制の確立を目指して~

パネルディスカッション 「DAISY教科書提供体制の確立を目指して」

山中香奈氏の写真

山中香奈(兵庫県LD親の会たつの子 副代表)

河村●
それではパネリストの最後になりますが山中香奈さんにご登壇いただきます。兵庫県LD親の会たつの子副代表でいらっしゃいまして、同時に小学生のDAISYユーザーのお母様であります。今日は、DAISYユーザーのお子さまの側にいて、一緒にこれまでDAISYを使ってこられたご体験をお話しいただけると思います。よろしくお願いします。

山中●
皆さん、こんにちは。兵庫県神戸市からまいりましたLD親の会たつの子の山中と申します。よろしくお願いいたします。

まず最初に、先ほどから「たつの子プロジェクト」と言って皆さん何のことだろうと思っていらっしゃると思いますけれども、私たちの会の子どもたちにDAISY教科書を提供していただいているというプロジェクトなんですけれども、その製作に携わっていただいている方々が、この中に来ていらっしゃると思います。普段お目にかかることもない、こういう機会もないと思いますので、この場をお借りしてお礼を言いたいと思います。どうもありがとうございます。今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。

私の子どもは、男の子が2人おりまして、小学校5年生と小学校2年生なんですけれども、2人とも発達障害をもっております。今日は5年生の長男について、ちょっとお話をしていきたいと思っております。

マルチメディアDAISY版教科書の活用

(資料21 説明)

息子がDAISYを使用し始めたのは2007年の年末のころです。いただいたサンプルに収録されておりました新美南吉の「ごんぎつね」は、3学期に授業でやることが分かっておりましたので積極的に使うように勧めました。年明けになると、奈良DAISYの会さんが息子に合わせて、もっと読みやすいように改良してくださったCDが届きまして、教科書と同じ挿絵と、自分のオーダー通りになっているDAISYに喜び、今まで以上にDAISYで「ごんぎつね」を読んでいました。他の物語も読んだりいたしましたが、このとき1か月ぐらいは、「ごんぎつね」を読んでいました。

DAISYを使用しはじめて

(資料22 説明)

それまでの本読みは、平仮名だけであってもすべて拾い読みだけだったのですが、DAISYで学習した文章は、すらすらと読むようになり文章の理解も進みました。そして大嫌いだった国語が嫌いではなくなったと言うのです。これには驚きました。「ママ、学校で先生が読んでいるところが分かるようになったよ」と嬉しそうに報告をしてくれました。目線がちょっと外れたら、もうどこを読んでいるか分からなくなる、一度分からなくなるともう元に戻れない。しかも内容理解も乏しく、先生の説明も質問もあまり分からない、そんな状況での国語の授業は理解できなかったと思います。国語嫌いになるのも当然だったと思います。ところがDAISYの学習を始めてから、目線を外しても、またどこを読んでいるのか探し出せるようになっていきました。このことは、私以上に息子のほうが驚いていたようでした。

家庭での変化

(資料23 説明)

DAISYでの学習で特に思うことは、息子が自分で学習することができるようになってきたということです。息子は学年相当の漢字が読めないし書けません。小学校5年生ですが小学校3年生の漢字でもあやふやです。今までは教科書が新しい単元に入ると、漢字に振り仮名を振る作業をしないといけませんでした。それは必ず親が指導しないといけない作業です。振り仮名を振りながら本を読ませて、読み間違いを指摘して一緒に読み進めていく、結構時間がかかるものでした。ところがDAISYを始めたら、その作業がいらなくなったのです。これには本当に驚きました。

ディスレクシアの息子がどうしてDAISYを使うとよく分かるのでしょうか。息子の様子を観察してみました。息子には視覚認知の問題も大きいのですが、どこを読んでいるのか分からなくなるという困難があります。文意を理解しながら読んでいるわけではなく、目の前にある文字を読んで音声にしているだけの本読みですから、行がずれても文字を読み飛ばしても気が付かない状態です。なので、DAISYは今読んでいるところをハイライト表示してくれるから、常にどこを読んでいるか分かる。DAISYは、自分で読む労力から解放されることで内容理解が容易になる。息子は、文字を見て、それを音声化することが特に苦手なので、読むという作業に労力を使いすぎ、読み終わっても文章内容はまったく分かっていません。覚えていないというほうが適切かもしれません。しかしマルチメディアDAISYは、常にハイライト表示の箇所を読んでくれています。どこを読んでいるのか分からなくなるということはありません。

なぜDAISYだとよく分かるの?

(資料24 説明)

この写真は、担任の先生が驚いた「ごんぎつね」のワークシートです。見えにくいかもしれませんが、主人公「ごん」に多くの吹き出しが付いています。「ごんぎつね」に関しては、予習期間が長かったことと、お話の内容を気に入ったことなど、プラスの要素がたくさんあったせいかもしれませんが、物語のあらすじも、主人公の心情理解までも、しっかりと理解していたように思います。このようなことは今までにはありませんでした。しかもこれは音読にも現れており、セリフには抑揚まで付くようになっておりました。

「ごんぎつね」のワークシート

息子の変化ですけれども、ここに挙げた以外にもいろいろあるのですが、ある日息子に「DAISY使ってどう思った?」と聞いたとき「僕、DAISYあったら何でも読めんのになあ。何でもっといろんなDAISYがないの?」と言われました。私は息子が読みたいと言っていた「ハリー・ポッター」が借りたくて、点字図書館へ電話してDAISYが借りられないか聞いてみましたが、そこでは借りることができませんでした。またある日、「DAISYやって、何か感じることあった?」と聞いたとき、「僕は国語大嫌いやったけど、DAISYやったらな、先生の言うことが分かるようになったんやで。僕はみんなみたいにはできへんけど、DAISYやったらできるんやなあって思ったわ」。

息子の変化

(資料26 説明)

私はこの言葉を聞いたときに、たとえ学習障害でも、ディスレクシアでも、勉強が嫌いなのではなく分かりたいという気持ちを持っていて、分かるためのツールさえ見つければ、学習意欲や自己肯定感の向上を促すことができると思いました。DAISYの学習を始めてしばらくすると、読める漢字が増えていることにも気が付きました。漢字に興味を持ち、ドライブ中でも看板の文字を読むようになってきている息子を見て、DAISYの効果を感じました。

さらに昨年秋ごろ、サンプルでいただいた「走れメロス」のDAISYをものすごく気に入り、毎日枕元にパソコンを持ち込んで寝るまで「走れメロス」を流していました。ある日、学校の図書館から本を借りてきました。よく見ると「走れメロス」でした。後日息子に本屋に連れていかれた主人は「走れメロス」を買わされていました。息子が本をねだったのは、これが初めてのことでした。息子は本当は本が好きなんだなと実感した一件です。毎日学校で学習する国語の教科書が読めない、理解できないというのは、とても辛いことです。DAISY教科書は息子にとってはなくてはならないツールです。一刻も早くDAISY教科書が必要としている人に提供されるようになることを願っております。ご清聴、ありがとうございました。