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平成20年度 DAISYを中心としたディスレクシアキャンペーン事業
~DAISY教科書提供体制の確立を目指して~

パネルディスカッション 「DAISY教科書提供体制の確立を目指して」

山内薫氏の写真

山内薫(墨田区立あずま図書館)

河村●
続きまして次のスピーカーは、地域の図書館でずっとこれまで活躍をしてこられた山内薫さんです。ここで、アメリカの例を井上さんが引かれましたが、これはNIMACという、教科書について、今1万タイトル以上、NIMACのデータベースにはあって、それをダウンロードしてそのまま、あるいは加工してニーズに合うように提供して、アメリカでの教育活動が行われているということですが、北欧の国では図書館が大活躍をしています。国立図書館、そしてそれと連携して大学図書館・地域の公共図書館・学校図書館が連携をして、図書館というものが情報支援の上、あるいは教育的な支援の上で大きな役割を果たしています。それでは地域の図書館で様々な障害のある利用者とこれまで接してこられました山内さんから、次の発言をいただき たいと思います。


山内●
あずま図書館の山内と申します。よろしくお願いします。私は公共図書館という立場で、すべての人に教科書をという課題を、今までに経験したことをベースにお話ししたいと思います。主として墨田区の図書館が今までに取り組んできました拡大写本による教科書を提供する中で感じてきたことを、マルチメディアDAISYとの関わりでお話ししたいと思って来ました。

今まで何人もの方々の要望に応えて拡大教科書を作製してきましたけれども、はじめは、レーベル症という遺伝性の視覚障害の男の子の例で、その子のお母さんに学齢前から相談を受けていました。彼は就学指導委員会では盲学校を勧められていましたが、お姉さんが地元の学校に通っていることですとか、近所のお友達と同じ学校に行きたいということで、統合教育を望んでいました。当時、彼の視力は0.01でしたので、点字による読み書きしか考えられないと言われまして、図書館では点字の指導とか点字の教科書づくりをして支援することになりました。彼が学校に行き始めて近所のお友達と遊ぶようになり、ファミコンで遊ぶようになったんですね。それまで彼は、まったくテレビには関心を示さなかったんですけれども、友達と一緒にファミコンで遊びたいので、テレビの画面に目を付けて、一生懸命その画面を見るということをしましたら、視力が0.03まで上がりました。

小学校の4年生になったときには、もう既に点字ではなくて拡大読書器で教科書が読めるようになっていて、隣の江戸川区の弱視学級に週何回か通級するようになりました。彼が5年生になったとき、その隣の区の弱視学級の先生から拡大教科書をつくってほしいという要望があり、国語と算数と社会の教科書を拡大写本で作製しました。その教科書は、1つの文字が12ミリから14ミリというかなり大きな文字でないと読めないということで、判型もB4を縦にしたものを使っていましたから、読むときには、これから読む部分を手前の机の下に引いておいて、読み進むに従って、どんどん上に上げながらでないと読めないというような大版のものでした。

その拡大教科書を彼は1年間使ったわけですが、担当の先生のおはなしでは、拡大写本の教科書を使い始めたら、それまで拡大読書器で教科書を読んでいたときのスピードよりも3倍から4倍の速さで読めるようになったということでした。

次の年に新たな教科書をつくるために、彼に図書館に来てもらって、6年生の教科書を書くための見本を見てもらったんですが、その時点で、その前につくった教科書の、面積比半分、つまりB4の大きさで書いていたものを、B5の大きさに縮小したものでも読めるようになっていました。彼が小学校に入っていたのは、もう十数年前ですので、そのときはマルチメディアDAISYは存在しなかったわけですが、もしそのときにマルチメディアDAISYの教科書があれば、彼は十分マルチメディアDAISYを使って学習できたのではないかなというふうに思いました。

ほかにも拡大教科書の依頼はたくさんありました。養護学校などからの依頼は、だいたい国語の教科書でしたが、教科書全部ということはほとんどなくて、1学期に1単元、1つの単元を1学期かけて勉強するというような形の要望でした。つまり3学期で3つの話を先生が選んで、1つの話を1学期かけて勉強するという人が多かったと思います。ですから、そうした方の場合も、マルチメディアDAISYの教科書があれば、その先生の選んだ3つだけではなくて、すべての単元、教科書に載っているすべてのものに触れることができたのではないかと思います。そうした意味では、マルチメディアDAISYの教科書というのは不可欠であろうというふうに思いました。

それから、月に1回、近くの学校の特別支援学級に出かけてお話しや本を読む機会があるんですけれど、そうした学級でも、6年生の生徒が3年生の教科書の1単元を1か月かけて勉強しているというような様子を見ていましたので、やはり教科書に載っているすべての題材に触れるということが、特別支援学級の中ではできていないような状態だったようです。

また、知的障害者の授産施設などにも行っていますけれども、知的障害者の授産施設と言いましても、必ずしも知的障害ではなくて自閉的な方がいらしたり、様々な方がいらっしゃいます。コミュニケーションに障害を持っていたり、自閉的であったりという方がおられて、中にはディスレクシアではないかなと思われるような方も何人かいらっしゃいます。

授産施設に行っているある女性が図書館に来館したときに、初めてマルチメディアDAISY図書の『赤いハイヒール』を、見ていただきました。そのときの、その女性のマルチメディアDAISYを見る集中力というのは、ものすごいもので、物語の半分過ぎぐらいになりましたら、ハイライトされている文字を一緒に声に出して読み出したんですね。おそらく、その集中力が、思わず声を出させたのではなかったかと思いました。

その後「走れメロス」のマルチメディアDAISY図書をいただきましたので、同じ方にそれも見てもらいましたが、「走れメロス」については、さすがに使われている文字が難しかったので、なかなか集中して見ていただけなかったんです。そこで、「走れメロス」の大活字本があるので、その本を持ってきて、音を聞きながら本を見ていただきましたが、そうしたら、そちらのほうが、ずっと物語に集中できたように思いました。ですから、マルチメディアDAISYだけということではなくて、マルチメディアDAISYを使いながら実際の本も用意しておいて、活字で見ることもできるというようなことが、効果があるのではないかというふうに思いました。

それから拡大写本ということでは、その拡大写本の技術をマルチメディアDAISY教科書にどう反映できるかなということを考えています。拡大写本の場合には、100人いれば100通りの見え方をしているというふうに言われているように、弱視の方の見え方というのは本当に1人1人違います。ですから図書館に拡大写本の要望が来た場合には、その方に普段書いている字を実際に書いていただき、その字よりもだいたい半分ぐらいの字できれいに書いた見本を3種類ぐらい作成して見ていただき、その中で読みやすいというものを選んでもらって、さらになお3種類ぐらいの見本をつくって、どういう字の大きさで、どういう字の間隔で、どういう行間で教科書をつくるかということを決めていくわけです。

そうした中で、『拡大教科書作成マニュアル』(国立特殊教育総合研究所編著、ジーアス教育新社、2005)とか、『拡大教科書がわかる本』(宇野和博著、読書工房、2007)というような本も出ておりまして、その拡大教科書の作り方の本の中には、電子教材の可能性というようなことが書かれています。例えば、画面環境を容易に変えることができるために、その日の目の調子に合わせて、つまり同じ人が利用する場合でも、その日の目の調子に合わせて背景の色や文字の色を調節したり、文字の字体や大きさ、行間、あるいは文字の間隔を瞬時に変更することができるようになるというようなことが出てきます。それから検索やリンクの機能を使うことによって、読みたい場所や挿絵、写真なども瞬時に表示させることができる。さらに辞書の単語検索などにも有効である。3番目には音声や画像を盛り込むことができるために、英単語の発音ですとか、例えば調理の過程の音を聞くとか、そういうような教材をつくることも可能ではないかと思います。視覚だけではなくて音声を併用することで、誤読を減らしたり読書効率を上げることができる。また、例えば理科の実験などの、どういうやり方をするかという動作をともなうような教材の提供も可能ではないかというようなことも書かれています。ですから今後、マルチメディアDAISYの教科書を考えた場合にも、そうした動きのあるものですとか、実際の音ですとか、そういうものが体験できるような教科書づくりがなされていければいいのではないかというふうに思っています。

公立図書館には、かつて様々な理由でまともに教科書を利用できなかった方が、たくさん利用なさっているというふうに思います。墨田区の図書館では、教科書を図書館資料として貸し出ししています。昨日ちょっと調べましたら、光村の国語1年の教科書、これは平成13年の検定ですけれども、その教科書が40回借りられていました。それから下の「ともだち」、1年下ですね、これは32回借りられていました。また東京書籍の「あたらしいさんすう」の1年生用のものも29回も借りられているんですね。そうした意味で、公立の図書館にマルチメディアDAISY教科書が備えられていて、誰でも利用できるような状況にできたらというふうに思っています。

以上です。

河村●
ありがとうございました。ちょっと付け加えますと、スウェーデンでは、国立図書館が全国の図書館に対して、オンラインでDAISY図書を提供しているんですね。ですから地域の図書館は、国立図書館からオンラインでダウンロードしてすぐ利用者に提供できる。大学生は直接国立図書館から自分でダウンロードしてDAISY図書が読めるというサービスになっています。