講演3「教科書、教材出版に最低限求められるアクセシビリティに関するEPUB規格」

国際DAISYコンソーシアム チーフ・イノベーション・オフィサー/IDPF会長、アメリカ
ジョージ・カーシャ

カーシャ氏

ありがとうございます。本日はお話ができて大変光栄です。日本財団の皆さま、日本障害者リハビリテーション協会の皆さま、そして日本DAISYコンソーシアムの皆さま、誠にありがとうございました。

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アクセシビリティ・ベースライン・プロジェクトの紹介をしたいと思います。これは規格についてのさまざまな話し合いを通じて進んでまいりました。ブラッドさんが先ほど、ベースラインの話をしていましたが、これを世界各国に展開していこうとしています。

我々はサプライチェーンすべてを網羅した基盤を作りたいと思います。製造からディストリビューション、ディストリビューション・チェーン、そしてエンドユーザーがそれを検索して発見して購入してというところまで、デジタルブックのライフサイクルすべてがアクセシブルにならなくてはいけません。その鎖の一部が切れてしまうと、障害を持った方がアクセシブルな形で入手することができなくなってしまいます。ですから、すべての要素、すべてのステップが重要です。これをすべての人に明確に説明しようとしています。

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我々が行っていることには4つの側面があります。

まず、EPUBのアクセシビリティの仕様が必要となります。DAISYのアブニッシュ・シンさんとチャールズ・ラピエールさんがEPUBのアクセシビリティとディスカバリーの共同委員長をしていまして、アクセシビリティと適合性の規格を開発しています。出版社からのインプット、そして業界全体の協力をいただいてすばらしい開発をしてまいりました。

同時にEPUB 3.1の開発も進んでいます。既に開発は完成しましたが、メンバーの投票も間もなく数週間後には行われまして、年内には両方とも正式なスタンダード、標準となります。ですので、アクセシブルな本の適合性と発見に関しての基準が必要、というのが1つ目のポイントです。

また、アクセシビリティの認証のチェックツールと世界各地で実行可能なプロセスも必要です。これを可能にするソフトウェアも開発されます。多くはHTMLのチェックツールの形での開発となります。EPUBは基本的にはHTMLを元にしていますので、アクセシビリティのチェックに関してもHTMLを活用します。しかし、本にはウェブページにはないものもあります。本は1つの出版物であり、ウェブページとは異なります。ですから、適切な形で読み進めていくことができるナビゲーションが必要です。このためにはページ番号や注記など、ウェブページにはない部分が必要となってきます。つまりHTMLや WAIC(Web Accessibility Infrastructure Committee:ウェブアクセシビリティ委員会)のガイドラインを超えて、出版物に必要な特徴を追加していかなければなりません。

また、閲覧システムの評価もしています。epubtest.orgにおいてテストを行っています。閲覧システムをテストして本当にアクセシブルかを評価するものです。アクセシブルなコンテンツ、そしてアクセシブルな閲覧システムの両方が必要ですので、適合性を評価する上でも本のテストをして、閲覧システム、システムの評価をしなくてはいけません。アクセシビリティの高い本とアクセシビリティの高い閲覧システムがあればすばらしい結果になりますし、どちらかが欠けていても問題が発生します。

また、インクルーシブ出版のウェブサイト(inclusivepublishing.org)も開発しています。今、アクセスしていただいても結構ですが、あと数か月でさらにアップグレードする予定です。世界のあらゆるソースからのコンテンツをここに追加していきます。我々の方がインクルーシブな出版に関するウェブサイトのコンテンツを作るというのではなく、世界のすばらしい研究等をここに加えていきます。

BISG(Book Industry Study Group:ブック・インダストリー・スタディ・グループ)は3月に、出版社のためのクイックスタートガイドというすばらしいものを作りました。これは6言語に翻訳されています。BISG、それから翻訳に貢献したVitalSource(バイタルソース)が提供しています。バイタルソースというのは閲覧システム、ディストリビューション・システムであり、また、閲覧システムのアクセシビリティ・スコアでも100点をとっているところです。

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EPUBアクセシビリティの仕様はWCAG(Web Content Accessibility Guidelines:ウェブコンテンツ・アクセシビリティ・ガイドライン)2.0に基づいていますが、ページ・ナビゲーションも加わっています。DAISYではゴー・トゥ・ページという有名なナビゲーションがありますが、紙の印刷物でできることを、電子書籍でもできるようにしたいのです。教師が55ページを見てくださいと言ったら、障害のある学生が同じように電子書籍でそのページに飛ぶようにする、そのためのナビゲーションです。

また、メディアオーバーレイもあります。これはウェブ上にはありませんが、メディアオーバーレイというのは、テキストと音声の同期です。これはDAISYの作り出した概念で、DAISYコンソーシアムはページ・ナビゲーションや、メディアオーバーレイというDAISYで得た経験の概念を今度は主流化して一般化しようとしています。DAISYコンソーシアムはEPUB 3を認証していますが、その中でメディアオーバーレイというのは、DAISY側から導入したものです。

また、特化した出版物という概念もあります。WCAGというのはユニバーサルデザインで、誰でも使えるものです。しかし、例えば点字の本というのはすべての人が読めるわけではありません。つまり特定の利用者のために特化した出版物ですが、点字の本がアクセシブルではないと言ってしまうと、それは大きな間違いです。利用している人にとってはアクセシブルなのです。オーディオブックに関しても同様です。オーディオブックというのは、視聴覚障害のある人の間では人気がありますが、聴覚障害がある方にはアクセシブルではありません。しかし、我々の規格としては、特定の利用者にとってはアクセシブルであり、いい商品だと考えています。

視聴覚障害の方の話をしたついでに、ちょっと話はそれますが、手話のビデオとテキストを同期するというのは、簡単ではありません。というのも手話というのは、言葉を順番に追っていくというよりは、その章や文で概念を手話で表現しているからです。ですから、「テキストから音声」に比べて、「テキストから手話」というのはまだありませんし、もう少し先になるのではないかと思います。

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EPUBのアクセシビリティに関しての仕様については、IPレビューがほぼ終了して、メンバーの投票を今年中に行いますが、それに加えてさまざまなテクニックがあります。これは、ウェブ上でのWCAGと並行していて、WCAGのガイドラインや、テクニックの用例があります。アクセシブルにするためのコードは実際どのようなものなのか、というようなもので、テクニックは規格とは異なるものです。規格自体は何年も使うものですが、テクニックに関しては技術の進歩に伴って更新されます。数か月に1回、または半年に1回、常にテクノロジーの進化を反映する形でアクセシビリティ・テクニックに関しては更新していき、ベースラインをどんどん上げていきたいと思います。

EPUBコンセプトをW3C(World Wide Web Consortium:ワールド・ワイド・ウェブ・コンソーシアム)とWAI(Web Accessibility Initiative:ウェブ・アクセシビリティ・イニシアティブ)のガイドラインにも導入しています。現在、WCAG2.01に向けた改定作業が行われていますが、IDPFとW3Cの統合の可能性について、最近よく話が出てきてくるようになりました。EPUBはHTMLを基準にしていますが、CSS(Cascading Style Sheets:カスケーディング・スタイル・シート)もSVG(Scalable Vector Graphics:スケーラブル・ベクトル・グラフィックス)もすべてW3Cの仕様ですので、IDPFとW3Cの統合というのは極めて現実的だと思います。

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また、アクセシビリティの認証というのは極めて重要です。ウェブページにはこのようなものはありません。WAIガイドラインはあり、ウェブページに関してはA、AA、AAAといったものがありますが、認証プロセスは現在ありません。しかし、教育のための出版、そして今後の教材の購入に関しては極めて重要だと思います。

ベネテックのベッツィ・ボーマンさんが、ボーン・アクセシブルという言葉を作り、活動を開始しました。ボーン・アクセシブル、そしてバイ・アクセシブル(Buy Accessible)。最初からアクセシブルなものを出版し購入するというものです。これはベネテックのDIAGRAMセンターのウェブページに詳細が掲載されています。 認証は、段階的なプロセスです。本の構造を見て、正しい読み順になっているか、適切な表題が挿入されているか、イメージ、それに関しては代替テキスト、もしくは注記で説明があるか、もしくはそのほかの形で表現されているのか。そういったことを見ていきます。

ベースラインとしては、出版社は詳細な長い説明文をつけないでしょう。また、分子の3Dモデルを提供することはないでしょう。それは最低限のベースラインではありません。時間の経過とともに対応していきますが、ボーン・アクセシブルの教科書を入手するというだけで、まだたくさんのサポートが必要なのです。

認証プロセスに関しては、基本的なベースはできています。本の構造を見て、イメージ、画像を特定するという流れになりますが、代替テキストが適切かなどといった認証プロセスはあくまでマニュアルで行わなくてはいけません。ウェブページでは、例えば代替テキストがあったとしても、そもそも有用でないというものもあります。ほとんど書いていない、もしくは意味のある説明でないということがウェブページでは頻繁にあります。我々がパートナーとしている出版社では、取り組み方法を変え、そもそも著作者の方に代替テキストを準備するようにと指導してくださっていることもありますので、今後は認証された出版社が出てくると思います。

皆さんご存じかもしれませんが、VPAT(Voluntary Product Accessibility Template)、は、自主的、自発的なソフトウェアや製品に関してのアクセシビリティ宣言です。多くの場合、企業は嘘をつきます。製品のアクセシビリティに関して「アクセシブルですか?」と聞きますと「当然そうです」と言いますが、私が使おうとすると一切アクセシブルでないということがよくあります。ですから、世界的な規模で、第三者が本当にその教科書がアクセシブルか否かを認証するということが必要だと思うのです。ベネテックがボーン・アクセシブルのイニシアティブを強化し、出版社に働きかけて、こういった認証プロセスを通じてよい商品を作るサポートをしているのは、心からありがたくすばらしいことだと思っています。

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DAISYコンソーシアムは、そこまで大きな組織ではありませんので、我々が世界中すべての認証を行うというのは不可能です。その能力もなく、また言語能力もありません。ですので、我々は、DAISYコンソーシアムのメンバーが、各地域で認証を行うことを期待しています。我々の方から世界標準となるソフトウェアやプロセスを提供します。そうすれば世界各国で同じプロセス、同じ基準のもとに認証することが可能になります。

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DAISYの認証というのは今後採用されるプロセスになるだろうと思います。しかしそこにベネテックが認証しましたというバッジ、印をつける。少なくとも北米ではベネテックというのは非常に教育業界で有名ですので、そういった認証の印をつけるということは、とても意味のあることです。このことによって一連の認証プロセスが世界中のデジタルな教材において行われることを願っています。ですから、DAISYコンソーシアムを通じて今後、認証プロセスのパートナーを募集しています。

W3Cにおいては、いずれかの機能の2つを実装しなければ認証することができません。それを現在我々、IDPFの EPUBでは行っていませんが、EPUBのアクセシビリティスペックにおいて現在、あるパートナーが認証プロセスを我々が適切に実行するための手助けをしてくださっています。ソフトウェアがどのように機能しているのか等をさまざまな形でフィードバックしてくださっていますし、ほかのDAISYのパートナーもこのようなサポートをしてくださると期待しています。

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私からのプレゼンテーションは以上です。ありがとうございました。

【質疑応答】

会場●
手話についての説明が少しありましたので質問させていただきます。米国では手話もサインド・イングリッシュからASLまであって、英文と対応できるものから、先ほどカーシャさんが説明しましたように、意味の単位でしか対応できないようなものまであるわけです。その辺について、我々日本でも同様なので、目的に応じて、読者のニーズに応じて、難聴者とかデフの人たちのニーズに応じて、動画を入れ替えるということを容易にできるような仕様を考えているんですが、そういったことについて何かアドバイスがありましたらお願いします。
ジョージ・カーシャ●
手話については、例えば長編の本を読む際にどうすればいいのか、いろいろ検討してまいりました。500ページのDAISYのオーディオブックというのは20時間の録音となります。つまり20時間の手話を見るということはかなり大変ですし、作るのも大変です。また、耳の聞こえない方はテキストを見ることはできますが、手話を使われる方は、テキストを読むことにそこまで長けていらっしゃらない場合もありますので、手話を使う方にテキストの読み方をより教育することが重要だと思います。そうすればEメールやウェブサイトなどさまざまな文章をより容易に読むことができます。たくさんの材料を手話で見るのではなく、やはり文章で読むということが有用だと思います。テキストと同期した手話を活用して、EPUBにあるSMIL(Synchronized Multimedia Integration Language:スマイル)やメディアオーバーレイを使用して、耳の聞こえない方たちに、読書を教えることに注力した方がよいと思います。多くの専門家の方とは意見が違うかもしれませんが、少なくともそれが私の見解です。
会場●
ありがとうございます。私が考えている考え方を少しだけお話しさせていただきますと、文章を読むために手話による説明は初等的な教育の段階で非常に有用であると。赤ちゃんとか、あるいは小学校低学年とか、そういうふうに考えています。現状では、極端な言い方をしますと、教科書を家に持って帰ってもなかなか読むのが難しい、履修するのが難しいという状況です。そういうときに手話がついているような電子書籍が欲しいなと考えています。ありがとうございました。
カーシャ●
私も完全に意見が一緒です。点字の教育に関しても、若い読者がコンピューターの技術を使うことなく、点字そのものを学ぶということが有用ですし、手話に関しても教材の手話版を見ながら勉強するというのは有用だと思います。ただ、児童書で例えばオーディオがある場合、ピンという音がしてページをめくるといったようなものがありますが、手話の場合は、手話と絵本を交互に見なくてはいけませんので、それが困難なのではないかと思っています。そういった意味では、聴覚障害のある方にいろいろなフィードバック、サポートをいただいて、そのような教材を作成する手助けをしていただく必要があります。ビデオ、テキスト、オーディオ、すべて同期することは可能で、そのビデオというのは、手話のビデオであることも可能です。聴覚障害のある方にもう少し我々の取り組みに参加していただいて、こういった教材を一緒に作り上げていく必要があると思います。
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