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平成19年度 DAISYを中心としたディスレクシアキャンペーン事業
シンポジウム DAISYを中心としたディスレクシアへの教育的支援 報告書

パネルディスカッション

「DAISYによるディスレクシアに対する教育支援」

パネルディスカッション風景

司会:寺島彰(浦和大学総合福祉学部 学部長・教授)

パネリスト:河村宏氏の写真

パネリスト:
河村宏(国立身体障害者リハビリテーションセンター研究所 特別研究員)

パネリスト:井上芳郎氏の写真

井上芳郎(全国LD親の会 事務局員)

パネリスト:山内薫氏の写真

山内薫(墨田区立あずま図書館)

パネリスト:中村芬氏の写真

中村芬(NPOデジタル編集協議会ひなぎく 事務局長)

パネリスト:南雲明彦氏の写真

南雲明彦(アットマーク国際高等学校)

寺島●

皆さん、こんにちは。これから、パネルディスカッションとして、現在、DAISYのいろいろな領域で活躍してされている先生方に、 現状、問題点、そして、将来のありかたについて、このパネルディスカッションでお話をいただければと考えております。

少しだけ自分の紹介させていただきますと、私は、そもそもソーシャルワーカーで、現在の研究テーマの1つは、福祉機器を活用 したソーシャルワークであり、DAISYには一番最初から関わっております。最初は、視覚障害者の方の録音図書としてDAISYが始まり ましたので、その頃、私は視覚障害に関わっておりましたので、DAISYにも関わらせていただきました。 視覚障害者の方のDAISYについてお話をさせていただきますと、既に視覚障害者の方の録音図書は各点字図書館で、カセットテープから DAISY化が進んでおりまして、先ほど聞きましたら10万タイトルくらいできているということなのですが。その過程の中で、厚生労働省 がお金をたくさん出しています。先ほど挨拶されました、片石さんは、厚生省の福祉機器専門官だったことがあるのですが、その頃、 厚生労働省がDAISY図書作成のための予算化を3年くらいやっていたと思います。その結果、現在、全国の点字図書館にDAISY図書が何万 冊と充実していると、私は、把握しています。

そういうわけで、これまでのお話の中で、ディスレクシアの方々に対する教育支援が不十分であるということなので、 それに関しては、教育を担当する文部科学省の支援が得られれば良いのではないかと感じました。

さて、一番最初にお話をしていただきますのは、河村先生ですが、先生はご存知のようにこのDAISYの第一人者で ございますし、最新の情報をお話いただけるということです。まず、最初に、パワーポイントを使って、 スウェーデンのいろいろな状況などをお話いただき、その後、全員が前に並びまして、パネルディスカッションに 入っていきたいと考えております。

それでは河村先生、よろしくお願いします。

河村●

それでは、15分間ですので、少し、早口にならないように気をつけながら進めたいと思います。

タイトルとしては、「ディスレクシア支援環境としてのDAISY」ということで、主にスウェーデンの最近の 状況をご報告しながら、一緒に考えさせていただきたいと思います。

実は昨日の朝、スウェーデンから帰ってまいりまして、最後にお会いしたのがスウェーデンのディスレクシア 当事者の団体の事務局のインガーさんという方です。このインガーさんが手にとって、私に今一番いいDAISYの 読書法を見せてくださいました。DAISYのプレイヤーにイヤホンをつけまして、目の前にその本の現物を手に持って、 耳で聞きながら時折指を当てたりして読みます。インガーさんは、人それぞれなのだけれども、私にとってはこれが 一番いいのですと言っていました。インガーさんは、スウェーデンの国立録音点字図書館が、大学生のディスレクシアの 学生を支援したときの、第1期生だそうです。このDAISYによる支援を受けて、ストックホルム大学で、確か福祉学だったと 思いますが、勉強して学位をとったとおっしゃっていました。彼女は、PCの画面にテキストを出して耳で聞きながら 読むというのは、実は自分は苦手ですと言って、自分に一番いいスタイルはこれだというのを見せてくれたのですね。 ただ同時に、そういうテキストが画面に映るほうがいいという人ももちろんいますということでした。

(スライド1)

ストックホルムにあります市立図書館の児童室の一角にDAISY図書コーナーがありまして、ちょうど 画面の真ん中より左側に、背中にラベルが、同じような黄色いラベルがずらりと貼ってある棚と、右側は 本が背表紙が見えるようになっています。この本は、ずいぶん厚い本ですね。何か日本刀なんかも写ってい て、私は内容はわからなかったのですけれども、ほとんど字ばかりの数百ページある本でした。

(スライド2)

(スライド3)

これはスウェーデンの国立の点字録音図書館(TPB)が作ったものです。TPBが作った、中にCD-ROMで格納されている 普通の本、それが書架に並べられています。こんな分厚い本、児童室にこういう分厚い本があるというのに本当に びっくりしたのですけれど、それが国立図書館で作った録音図書と一緒に装丁されて並んでいる。そういうものが けっこうたくさんあるということに、非常に印象を受けました。

こちらはBook and DAISY。普通の本とDAISYというコーナーになっていて、児童室の一角であります。その同じ一角に、 ディスレクシアの、主にディスレクシアの子どもを持つ親に向けての情報提供のスタンドであるというものが今写真に 写っているものです。これは私の配布資料のほうにも同じ写真が載っておりますので、お手元でご覧いただくことも できると思いますが、いろいろなリーフレットを立体的に配置して、特に教科、教科ごとにこういうリソースがあります、 というのが細かく棚に並んでおりました。つまり、学習ということに非常に焦点を置いて、親の方たちにこういうリソースが ありますよ、ということを提供しているスタンドです。これが児童室にあり、同時に成人用のDAISY録音図書と、オーディオ・ ヴィジュアルの図書も置いてある広い成人用の閲覧室があるのですが、そこにも両方に、この同じスタンドがあります。 つまり、公共図書館として非常に力を入れて、当事者団体、あるいはディスレクシア支援機関と提携してキャンペーンを 行っている姿がここにある、というふうに思います。機関誌なども置いてあって、自由にとって持っていけるようになって います。

(スライド4)

(スライド5)

(スライド6)

(スライド7)

こういう本は、ではどこでどうやって作られているのだろうか、ということで私たちは国立図書館の、特に教科書を作っている スタッフのところに行きました。実は、SITという、日本でいいますと特殊教育の国立の研究所にあたるようなところから、 国立録音点字図書館、TPBに対して、仕様を決めて、ガイドラインを決めて、こういうふうに製作してくださいという外注をしています。 仕様を決めるところはSITが専門的に決める。それを実際にDAISY図書にするところは、そのノウハウを持っている国立の録音点字図書館が 行うという分業をしています。

こちらは、オリジナルの図書を左手に持って、今画面上のDAISYプレイヤーにかかっているDAISY図書と比較をしているところです。 カラムに分かれている、たとえば1つのページが2段に分かれているものを、DAISY図書のほうでは必ず1段にしています。つまり、横に1文字に 読んでいかなければいけないというときは、それはそのままでいいのですが、下まで行って折り返して上に行くというふうになっている ときには、それは下にくっつける。後半の下へくっつけるという作り方をしています。リニアという言い方を彼らはしていましたが、 一直線に並べるということが基本的な製作の基準になっています。これはどういうふうに読むのかという順番を、誰が見ても、 どのプレイヤーで再生しても必ずその通りの順番に読まれるように作るのだというのが製作の基準の一番の根本にあるところです。

(スライド8)

従いまして、このサンプルで私たちがわざと意地悪く、2ページにわたっている表などはどうするのですかと聞いてサンプルを見せて もらったのです。そうしたら、1ページずつ、これは切りますというふうにした例がこれです。2ページにわたっている地図などはどうする のですかと聞いたら、1ページにして、残りの1ページのほうに全然字がなければ、そこは空白にしますというところまで徹底的に、 とにかく順番、一直線に読んだときに誰が読んでも同じ順番になるようにして、それで理解できるようにするということに徹底した 製作基準を持っているということに、まず非常に感銘を受けました。

(スライド9)

これは、もちろん個別のアダプテーション、個別の子どもに応じた適用というのは後にあり得ると思うのですけれども、でもコレクション として、全国でこれで一応、基本的な資料を提供するのだというところについては、これらの明確な基準をもって、この規格に沿って作って いくということをやっていました。

実際の製作のプロセスは、出版社からPDFファイルでもらうことが多いと言っていましたが、PDFでファイルをもらって、それからテキストを 抽出して、絵も抽出して、そしてXMLファイル、DAISY規格ですね、XMLファイルにしていくという作業です。ものによっては、絵がぜんぶ入って いるもの。Aと言っていました。Bというのは絵がなくて、点字、点訳するときに必要な情報だけのもの。Cというのは、教育的なアダプテー ション、教育的なmodificationですね、方角が含まれているもの。この3つのタイプに分けてガイドラインがあって、 それに沿って作っている。ものによっては3つ全部を作りますということでした。一番多いのはAであるそうです。

この録音点字図書館というのは、文化省のもとに1980年に設立されています。それ以前には100年ほどの歴史を持つ、視覚障害者団体の 図書館だったのですね。それが、国の施設として新たに出発して、今日に至っているわけです。2008年の予算は、文化省が12億円、 教育省が5億円を拠出して、スタッフは88人である。大学生に対しては直接サービスをしていまして、1,800人、今サービスの対象としていて、 80%以上がディスレクシアを持っている学生であるということでした。

(スライド10)

2007年の利用統計ですが、450の施設、これは図書館とか病院とか、いろいろな国内外の施設ですが、6万タイトルをダウンロードしました。 オンラインでダウンロードして、それからコピーを作って貸し出すということなのですね。ですから、6万を貸し出したわけではないのです。 実は、ダウンロードして、そのマスターを持って、それから貸し出す。そういう第一線の図書館のダウンロードのサービスが6万ということです。 今、50,300タイトルのダウンロードが可能であるということでした。

(スライド11)

以上がスウェーデンなのですが、米国の大学に関しては、昨年末にモンタナ大学から渡部テイラー美香さんという方に来日していただきまして、 一緒に国内で共同研究をしながら、現地のレポートもしていただくことができました。この渡部さんの報告の中でも、大学で読みに障害のある学生 への支援環境としては、やはり代替フォーマット、代わりになるフォーマットの提供機関というものが非常に大きな役割を果たしているということを おっしゃっていました。このレポートについては、日本障害者リハビリテーション協会のウェブサイトにもありますので、あとでご覧いただけると 思います(参考資料:目に見えない障害のある大学生の就学支援:アメリカモンタナ大学の実例)。 アメリカではRecording for the Blind & Dyslexicという団体がCDに納めたDAISY録音図書を郵送方式、それから ブックシェアという団体が、テキストのみのDAISY図書、これはシンセサイザーで聞くものです、テキストのみのDAISY図書をダウンロードで提供している。 ダウンロードで提供しているブックシェアは、うなぎのぼりの人気で非常に今、便利に使われているということでした。

(スライド12)

このブックシェアから、昨年の秋に大きなニュースがありました。米国の教育省が、障害者教育法を推進するために、このブックシェアに 5年間で3,200万ドル、レートによりますが三十数億円ですね、を提供して、米国内の全ての学校で26歳以下の読みの障害のある学生、生徒に DAISY教材および点字教材、これはもとは一つのファイル、XMLファイルです。DAISY教材および点字教材で提供する契約を結んだ。 これによって、向こう5年間で10万タイトルのDAISYおよび点字の教科書、教材の増加が見込まれるということです。

(スライド13)

日本はどうなのかということですが、先ほど寺島さんからご紹介がありましたように、平成10年度から12年度の3年間、この間、いわゆる 景気浮揚の補正予算というものがありましていろいろな無理もあったのですが、それでも3度にわたる厚生省の補正予算によって、DAISYの 全国的な導入が実現したわけです。これによって、日本の全国の点字図書館がDAISYへの切り替えの基本的な成果を完了したわけですね。

(スライド14)

実は、そのときに私たちは、これが学習障害や知的障害の人々にもDAISY図書は有効と思われるということをアピールしたのですね。 ところが、著作権の壁が厚く立ちふさがっているということがわかっておりましたので、この後に井上さんのほうからご報告があります、 障害者関係17団体で組織します障害者放送協議会、その協議会での活動にかけて、なんとかこの著作権の問題を打開して、この点字図書館等で 作っているDAISY録音図書、これがもっと他の人たちにも使えるようにということをアピールしました。

これは、当時日本障害者リハビリテーション協会がDAISY録音図書目録、これは全国の公共図書館、それから中学校、高校に配っていますけれども、 大活字版で配った目録も、平成12年3月に発行された前書きにこのようなことを書いているわけです。それから、もう既に8年経ってしまっている わけですね。この後、井上さんのほうから報告がありますように、いろいろ状況が変わってきております。

まとめといたしまして、まず日本では、スウェーデンや、今日さまざまな報告がありましたイギリスや、いろいろ外国の「いいなあ」というような ところへ行くためには、ディスレクシアの人々が何に困っているのか、これをみんなが広く知るということがまず根本課題であるということは、 明らかだと思います。

(スライド15)

そして同時に、著作権その他の法律と支援、これがやっと今、世界中の障害者の運動で成立しました、国連の障害者権利条約の主旨にもとるところが 非常にたくさんあるので、それをその主旨に沿って改正していく。そうすることによって、かなり前進することができるだろう。

具体的に言えば、日本では既に約10万タイトルのDAISY録音図書があります。これは、テキストのついていない録音図書ですので、人によっては 「これではよくわからない」という人も当然いるわけですが、アメリカやスウェーデンでは、多数の人々が、この録音図書を視覚障害者と一緒に 使っているDAISY録音図書で、かなり成果をあげているということが言われています。先ほどの、1,800人、ディスレクシアの学生が大学で勉強している とスウェーデンの例で申し上げましたが、この人たちはほとんどが音だけのDAISYを使って今勉強していて、さらにテキスト付きのDAISYに期待をしてい るということなのです。

ですから、その意味でも、法律や制度をより現状に合うように変えることによって、既にある資源を十分に活用できるようにし、さらに、今日報告の ありましたようなマルチメディアのDAISYもきちんと作り、管理し、基準を確立して全ての教科書、あるいは図書館の本がDAISYで読めるようにしていくと いうことに向けた環境作りが必要かと思います。

そのときに、先ほどから「さまざまな人がいるのだ」ということを前提に、当事者が参加した広い視野での国際的な交流を含めた、技術開発と制度 づくりが必要だと思います。DAISYコンソーシアムという国際団体としましては、日本語対応も含めた、そういうDAISYを国際的な標準として、 より広く使われていくような発展というものを、今努力しているところであります。

以上で、終わります。

寺島●

それではただいまから、DAISYによるディスレクシアに対する教育支援についてパネルディスカッションを始めたいと思います。

続いて発表いただきますのは、井上さんです。パネラーの方が、それぞれ、自己紹介、活動内容、問題点、それから、将来に対する 提案を含めてお話を15分程度でお願いします。

井上●

井上でございます。今日のパンフレットに、簡単に紹介が書いてありますのでそちらをご覧ください。学習障害、LDの親の会をもう20年近く やっております。ただ今日はそのお話はいたしません。先ほど河村さんからちょっとお話がありました、障害者放送協議会の著作権委員会での 取り組みが主になります。こちらは大体10年くらいのお付き合いです。今日は講演資料をとても大きく見やすく印刷していただきましたので、 こちらをご覧になりながらお聞きください。

最初に、発達障害という言葉が出ています。これは発達障害者支援法という法律、私どもの親の会その他関係の団体等の働きかけで 成立した法律ですが、そこで規定される発達障害のことです。発達障害には、LD(学習障害)、ADHD、自閉症、等が含まれます。 それから今日のメインテーマのディスレクシア、これは大きな括りの中ではLDに含まれるのかと思います。

次に著作権法のことですが、なぜ教育支援のテーマなのに著作権法が関係してくるのかということです。著作権法といいますと、 もっぱら著作者の権利を保護する法律であると受け取られがちなのですが、その第1条にはこう書いてあるのです。 「文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もつて文化の発展に寄与することを目的とする。」 まさに教育というのは「文化の発展に寄与する」活動でありますし、寄与どころか、文化発展の原動力そのものといってもよい。 つまり著作権法というのは、教育活動といいますか教育支援を下支えしているということにもなるのです。

(スライド16)

次のページをご覧ください。著作権法という法律は非常に込み入っていて、度重なる法改正でいわばパッチワークのように 作られてきた経緯があります。その第35条に、学校など教育機関で複製する場合のことが書いてあります。 先ほど濱田さんもちょっと触れられましたが、学校で授業を行う教員、著作権法では「教育を担任する者」については、 一定の限度内であれば著作者からの許諾なしで複製することができる。DAISYにすることも、コピー機でコピーし、必要数を印刷して 配布してもよいのです。ただし、「その授業の過程における使用に供することを目的とする場合」にできる、と書いてあるのですね。 だから、例えば別のクラス、あるいは別の学校のお子さんに配布したりすると、法律を厳密に解釈すると違反になるかも知れない。 それから、「教育を担任する者」の法律上の解釈では、その「配下にある者」も含まれるというのですね。 「配下にある」というのはどういうことかというと、教科担任が学校の事務職の人や、高校ですと実習助手の方などにお願いして 複製するような場合を想定しています。ただ学校の外部の人に頼む場合には、「配下にある者」となるかどうか、グレーゾーンに なってくるかと思います。

(スライド17)

ですから、現在私どもで要望しているのは、例えば授業で使用する教科書をDAISY形式でももっと自由に複製できるよう、 この第35条で規定している条件をもう少しゆるやかにしてほしいということなのです。

次の3ページですけれども、視覚障害や聴覚障害の方たちについては、現状の著作権法では、そこに書いてあるように、 一定の要件を満たせば著作者の許諾なしで、DAISY形式の複製物を作ることができます。ただ、これはこれでまだ不十分なのですね。 視覚、聴覚障害の方からも要望もあります。そういう取り組みもしております。

(スライド18)

今から約10年前の1999年ですが、お隣の河村さんから障害者放送協議会に呼ばれまして、著作権法改正に係わってLDのことも 取り組むべし、というご提案を受けました。一緒に文化庁著作権課に行きまして、いろいろ要望もいたしました。 当時はまだ国全体としての施策が整っていないという理由で、残念ながら学習障害については「こういう課題がある」という指摘だけで 終わってしまいました。それから10年近く経ち、その間に諸外国ではどんどん先に進んでしまい、日本ではすっかり遅れてしまったのです。 しかし遅ればせながら2006年1月、ちょうど2年前ですが、文化審議会著作権分科会報告書というのが出ました。 その中でディスレクシア、「難読・不読症」と書いてある、この訳語が適切かどうかはおきますが、ディスレクシア という文言を入れてもらうことができました。

(スライド19)

4ページ目になります。中間まとめが、昨年の10月12日付で出ました。この中ではさらに具体的に、例えばデイジー図書に ついては教育上有効である、とか視覚障害、聴覚障害の場合と同じように対応する必要性が高いというまとめがなされました。

(スライド20)

(スライド21)

(スライド22)

ただ具体的な対応については、きっちり法律を改正すべしとまでは書かれていません。そのへんがたいへん悩ましいところでして、 今後のさらなる取り組みが必要なわけです。いろいろな方面への働きかけが必要ですが、特に著作者の権利制限をする場合に対象者の 拡大をしていくことなどが考えられ、いろいろ著作者側からも注文があるので、折り合いをつけていくということになるのでしょう。 ちなみにこの報告書全文は、文化庁のホームページで公開されておりますので是非ご覧下さい。

先ほど河村さんからもお話がありました、一つの追い風となっているのが、5ページに載せました、いわゆる障害者の権利条約があります。 昨年9月の終わりに外務大臣がニューヨークで署名してきましたが、これから批准をしなければいけないわけです。この条約の第30条の第3項に こう書いてあるのです。日本政府が仮訳で日本語に直したものです。「締約国は、国際法に従い、知的財産権を保護する法律が、障害者が文化 的な作品を享受する機会を妨げる不当な又は差別的な障壁とならないことを確保するためのすべての適当な措置をとる。」そして「知的財産権 を保護する法律」には著作権法も入ります。この条約を批准するためにも、ここをクリアしなければならないわけです。日本の現状のままの著 作権法では批准はできないと、私どもでは考えています。

(スライド23)

6ページ目には「結論」ということで2つだけ書きました。読みの困難のあるLDの人、LDの親の会なのでこういう言い方をしますが、ディス レクシアというふうに読み替えていただいて結構です。こういう人たちにDAISY図書を提供するということは、別にワガママでもなんでもない わけで、これは合理的な配慮ということなのです。情報にアクセスする権利や学習する権利、それらをきちんと保障するための合理的な 配慮であるということです。例えば、誰もが駅を使えるようにエレベーターをつける、歩道と車道の段差をなくす、点字ブロックをつけるとか、 全くそれらと同じように配慮をしていくことで、社会的環境要因を改善していくということです。

(スライド24)

もう一つは、残念ながら現状のままでは日本の著作権法はバリア、障壁になっているのではないかということ。DAISY図書を普及させようと 多くの方が努力されているのですが、なかなか広がっていかない。バリアとなっている著作権法を改正し、一日も早く解決する必要があると いうことであります。

今日、追加で配布させていただきました資料についてです。昨日開催された、第10回文化審議会法制問題小委員会での配付資料から関係する ところを抜き刷りしたものです。(配布資料:資料1 第23回文化審議会 著作権分科会における意見の概要) 1枚めくっていただきますと丸印が3つありまして、その2番目の丸印についてです。これは文化審議会著作権分科会でのある委員からの発言です。 この方は作家であり、著作者側の立場からの発言なのです。そういう意味でも非常に貴重だなと思うのですが、一部だけ読みます。 「障害者の中には学習障害児童のように緊急性の高い方がおり、慎重に議論をしている間に、障害者の方が致命的な損失をこうむることのないよう、 なるべく早く結論を出すべき。」要するに子どもさんはどんどん育っていくので、1日の猶予もならないということです。 「点字図書館等が録音図書を作っており、膨大なコンテンツがあるので、これらを学習障害児童にも利用できるようなシステムの変更も併せて検討 すべき。」ともおっしゃっています。これは先ほど河村さんの指摘にもありますが、既存のDAISY図書が有効に活用されるべきだということです。 もちろんディスレクシアのお子さんや、大人の方たちに特化したDAISY図書も必要であると思います。

この資料のあとの部分は、いわゆるパブリック・コメントといいまして、一般に広く意見を求めたものを文化庁著作権課の責任で取りまとめたものです。 ざっと読みますと、権利者サイドからの注文もあるのですが、総論としては、やはり障害を持つ方の情報保障は重要な問題である、という認識では意見が 一致しているかと思います。

今日の資料に戻ります。追加資料ということで何枚か用意しました。ブックシェアに関しては先ほどの河村さんのお話にありました。 もう一つ、7ページになりますが、NIMASという、米国でのシステムで、本格的に動き始めて3年くらいだと思いますが、これは幼稚園から高校生までの 方を対象に、教育支援等する際の情報保障のための仕組みなのですね。英文のままで申し訳ないのですが、ワークフローということで、説明図があります。 出版社側の責任で教科書の電子ファイルを作成し、紙の教科書とともに納品するというものですね。各学校ではこれをダウンロードしたのちに加工して、 一人一人のお子さんのニーズに合わせて利用していく。現在の日本の著作権法ではこのようなことはできません。逐一許諾をとっていけば、部分的には できるのでしょうが、日本でもこういうことを実現するためにも、一日も早く法改正が必要となると思います。 (p.141の下、p.142の上下のスライド)

(スライド25)

(スライド26)

(スライド27)

最後のページの追加資料は、米国での1996年の著作権法改正、いわゆるチェーフィー改正、これは議員の名前だと思うのですが、についてお示ししました。 日本はこれから12年遅れてしまっているわけです、一刻も早く追いつければということで、今後とも取り組みを進めていきたいと思います。以上です。

(スライド28)

(スライド29)

山内●

あずま図書館の山内と申します。よろしくお願いします。私は、ずっと墨田区の図書館で仕事をしてきました。実は、講師のプロフィールというところに 紹介されている「本と人をつなぐ図書館員」という本を出版しました。私もその本を今日初めて目にしたのですが、会場の後で販売していますので、もしよろ しければ見ていただければと思います。

私は公立図書館の立場からこのシンポジウムに参加しているわけですけれども、残念ながら日本の公立図書館でディスレクシアの方に対する取り組みという のはほとんど行われていないというのが現状だと思います。先ほど河村さんのスライドで、スウェーデンの図書館の子ども向けのDAISY図書コーナーの様子が出 ていましたけれども、ああいうコーナーが日本の図書館にも一日も早くできればいいなと思います。

また、ディスレクシアそのものに対する認識も図書館員の中にほとんどないのではないかと思います。今日は墨田区での僅かな例と、それから墨田区の図書館で もう30年くらい前から取り組んでいる拡大写本のサービスというのがあるのですが、その拡大写本サービスとマルチメディアDAISY、あるいはDAISYの関係について お話をさせていただこうと思っております。

2004年に日本図書館協会が、障害者サービスに関する全国調査をしました。その中で、様々な障害の利用者がいるかどうかという設問があって、学習障害者の 登録者を聞いたところ133の図書館で497人いるという回答が上がっています。全回答館が2,843館ですので、およそ4.7%くらいの図書館で学習障害の人が利用登 録者の中にいる、という結果になっているのですけれども、これらの利用登録者の方をそれぞれの館が、どうして学習障害者と判断したのかということは一切 わかりません。図書館に来館して利用する個々の人について、その方が学習障害であるとかディスレクシアであるとかというような判断というのは通常不可能 ですから、本人が申し出るか、あるいは子どもの保護者ですとか教師が、学習障害の子どもなので何か適切な資料はないかというような相談をしてくるような ことがなければ、図書館の日常業務の中で学習障害という障害は顕在化してこないと思います。まして、読むことが苦手なディスレクシアの人が、図書館を利用 するというのはあまり考えられなくて、先ほど奈良の方の報告で、図書館に行ったという報告がありましたけれども、何らかの働きかけがなければ図書館を積極 的に利用することはないのではないかと思います。

ですから、結局図書館に座して待っていても、決して学習障害の方やディスレクシアの方へのサービスというのは果たせないだろうと思います。

もともと日本の公立図書館というのは、障害者サービス、図書館利用に障害のある人へのサービスと言っていますけれども、このサービスは公共図書館 以前から、点字図書館が視覚障害者の方にサービスしておりましたので、そこに範をとって、視覚障害の方へのサービスを中心に展開してきました。 ですから、現在でも図書館利用に障害のある人、あるいは障害者サービスと言えば、ほとんどの公立図書館で視覚障害者へのサービスが障害者サービスとして 行われていると言っても過言ではありません。もちろん入院患者ですとか、施設に入所している方へのサービスも若干ではありますが行われていますけれども、 まだまだ少ないのが現状です。ですから、ディスレクシアないし学習障害の利用者の方々に対するサービスの実践というものも、ほとんど報告されていない 現状です。

ここではディスレクシアの方に対してどういう教育的な支援ができるかということを報告しなければならないのですが、残念ながら今の段階では、 ほとんど公立図書館ではそれは困難だということになります。

一応、私が経験したわずかな例をまずお話させていただいて、その後、今後公立の図書館でどういうふうに取り組んでいったらいいかという 希望的観測を述べたいと思います。

墨田区でも、日本障害者リハビリテーション協会の作られた新しいマルチメディアDAISY図書をいただくと、利用者に見てもらうのですが、 その利用者というのはほとんどが知的障害の方です。知的障害の方の中には、本当にマルチメディアDAISYを楽しみにして、同じものを何度もご覧になって いる方もいます。今日も新しいマルチメディアDAISYをいただきましたから、ぜひまた見てもらおうと思いますけれど、現在墨田区の図書館で 持っている、マルチメディアDAISYを利用しているのはほとんどが知的障害の方ということになります。

今私はあずま図書館に勤務しておりますが、昨年までは緑図書館に勤務しておりました。緑図書館の近くの緑小学校という小学校に特別支援学級、 その当時は身障学級と言っていましたけれども、そういう学級があり、そこにディスレクシアではないかと思われる男の子がいました。 このみどり学級へのサービスは2003年の4月から毎月1回行き始めたのですが、大体、読書の時間に30分くらい、本を持っていって本を読んだり、 あるいは手遊びをしたりとか、歌を歌ったりというサービスをしていました。最初4月に訪問したときに、全く教室に入らないで、教室の外に出て いってしまう男の子がいました。その男の子は、実はその前の年、別の小学校の2年生のクラスにブックトークに行ったときに、とても印象に残って いた男の子でした。そのクラスで一人だけお話を聞けなくて落ち着かない男の子がいたのですが、その子がみどり学級に、3年生になって転校して きた彼でした。その男の子が、ようやく5月になって、一応席にはついたんですけれど、お話はまったく聞かないんですね。 そこでその子が何をやっていたかというと、分厚い「イミダス」を読んでいたのです。それは、読んでいるというよりも、ページを開いて、 指で項目を指さして、指を動かしながら音に変えているというような状況でした。「イミダス」ですからかなり難しい漢字なども含んでいるの ですけれども、かなりのスピードで指さしながら読んでいました。

半年くらい経つとやっと紙芝居とかお話を聞けるようになり、いくつかお気に入りの絵本などもでてくるようになりました。ある時、 好きな食べ物は?ってみんなに質問したとき、その子はナムルって答えたのです。なぜ小学校3年の男の子がナムルが好きなのかわからなかったの ですが、担任の先生が、実はこの子の家はお好み焼き屋さんなのよ、と教えてくれたのでした。たまたま図書館で曝書と言って、特別整理があって、 その打ち上げをそのお好み焼き屋さんでやったときのことなのですが、その子が宴席に来まして、僕の鞄をあけて、僕の鞄の中に入っていた 出たばかりの福音館の「かがくのとも」という月刊絵本を取り出したのです。取り出したらさっとページを開いて、やはり左手の人差し指で文字を たどりながら、その本をどんどん読んでいったのです。この「かがくのとも」というのは全部平仮名で書いてあって分かち書きがしてあるもの なのですけれども、ちゃんと意味をとって読んでいました。今から思えば、どうも彼はディスレクシアだったのではないかと思います。 彼は情緒的に非常に不安定な子どもなので、クラスの中ではやはり、担任の先生も補助の先生も、落ち着いて席に座らせるとか、そういう方に 力を持っていっていました。ですから、結果的には図書館として、例えばマルチメディアDAISYの教科書を持っていくというような支援ができ なかったわけなのですが、非常にそれが残念だなと思っています。

彼は去年の4月から中学生になって、今度2年生になります。直接は会っていませんけれども、クラスの子などから聞くと、とても楽しく 中学に通っているということでした。

もう一つは、昨年の暮れに、隣の葛飾区のよつぎ療育園というところの言語聴覚士の方から電話がかかってきました。もしかするとこの中に いらっしゃるかもしれないのですけれども、その方は墨田区の小学校の言葉の教室の指導をしている方で、今日司会をなさっている、野村さんから 紹介されて連絡をくださったのです。墨田区に言問小学校という小学校があって、そこに言葉の教室があるのです。 今年は29名が在籍しているようなのですが、その中にやはり何人かディスレクシアの子どもがいるようで、マルチメディアDAISYについての 質問を受けました。墨田区の場合、やっと音声版のDAISYに取り組むということが始まったばかりで、マルチメディアDAISYに関する取り組みは まだ今のところ全くできていません。そのうち、子どもさんと親御さんが訪ねてきてくださるのではないかと思いますけれども、今後の問題として、 一つは現在のDAISY作業に携わっている方たちに、マルチメディアDAISYに関する取り組みを検討していただくことと、それから先ほどお話し ましたように、墨田区で古くから取り組まれている拡大写本サービスというのがありますが、その拡大写本サービスと、音声資料と、 そうしたものがドッキングして有効な資料になり得るのではないか、というようなことを検証したいと思っています。

最初の、神山さんのお話にもありましたけれども、縦書きとか横書きとか、字と字の間隔、白黒反転とか分かち書き、色を変えた 振り仮名を振るとかのお話がありましたが、これは今まで墨田区の拡大写本サービスでいろいろな方たちに試してきたものと全く共通している 部分なのです。ですから、音声と併用した拡大写本ということで、とりあえずはマルチメディアDAISYまではいきませんけれども、 支援ができないかなと考えています。

実は、拡大教科書の運動というのが、一定の成果をあげています。今回のマルチメディアDAISYの教科書についても、この運動と リンクして展開できたらいいのではないかと思っているのですが、今から10年前に拡大写本ボランティアグループと、それから弱視者問題 研究会という弱視者の団体と、それから東京の公立図書館の3者で、全国拡大教材製作協議会というのが設立されました。 私もその設立発起人に名を連ねていたのですけれども、その後は図書館とか弱視者団体が抜けてしまって、拡大写本のボランティアグループの 方々によって運営されています。

2003年からは、拡大写本を製作するボランティアの場合、教科書会社にファクスを送れば、個々の著作権者に許諾を得なくても拡大教科書を 作れるようになったということと、2004年からは、今までは弱視学級や盲学校だったのですが、通常の小中学校でも拡大教科書が国費で無償 供与されるという道が開けたのです。これは、出版されている拡大教科書だけではなくて、ボランティアグループが製作した拡大教材について も国費で保障されるということになりました。

ところが、全国の弱視学級や通常学級に在籍している弱視の子どもからの製作依頼がボランティアに殺到することになりまして、依頼を断ら ざるを得ない事態に陥るケースも出てきているようです。この全国拡大教材製作協議会によりますと、2004年度は依頼の6割から7割、2005年度は 新たに168件の教科書を作ってほしいという依頼がこの団体にあったのですけれども、そのうち43%しか対応できなかったという報告があります。 この協議会は教科書データの、デジタルデータの提供を強く訴えていたわけですが、去年11月の、その会が発行している最新の会報に、同協議会と 教科書協会の間で検討会議が3回開かれて、20年度の小学校3年の国語、社会、理科、それから中学校1年の国語、地理、理科の32種類の教科書のうち、 20種類について、本文のテキストと、あるいは画像のJPGをCDのデータで提供してもらえる、というようなことが載っております。 ですから、かなり拡大教科書に関しては、教科書会社からこういうデータがもらえるということで、進展して きているわけです。

こうしたデータはマルチメディアDAISYでももちろん使えるわけで、おそらく弱視の子どもの中には、マルチメディアDAISYにしてパソコン上で 文字を自分の好きな大きさにしたりして、あるいは白黒反転にしたりというようなことをすれば、実際の紙媒体の拡大教材よりもマルチメディア DAISYのほうが使いやすいという人が、おそらく半数以上いるのではないかと思います。ですから、そういう意味でも、この拡大教材とマルチ メディアDAISYづくりの協同というのができたら本当にいいのではないかと思います。

最後になりましたけれども、公立図書館の現場に立ち返ってみた場合に、視覚障害者サービスにとってもマルチメディアDAISYは不可欠だという 認識が未だにあまりないのです。従来の音声資料は、音声だけですから、最大の欠陥は例えば文字の表記がわからない、従って同音異義語の問題 ですとか、ある文章を音声で聞いて引用しようとした場合にその表記がどうなっているかということがわからないというような問題があったわけ ですけれども、もしテキストを同梱しているマルチメディアDAISYであれば、その問題は一挙に解決するわけです。 国立国会図書館が学術文献録音サービスというサービスを行っていますけれども、こうした学術文献などこそ、テキストを同梱したマルチメディアD AISYにすべきではないかと思っています。

また、ディスレクシアという障害に対する認識がないという点もなんとかしなければならないと思いますけれども、ディスレクシアの方は 図書館で待っていても利用しないと思いますから、先ほどお話した墨田区のように、言葉の教室ですとか、地域の学校などと連携していく必要が あるだろうと思っています。

墨田の例は、次回このような会が開かれたときに、そこでは成果を発表できたらと思っています。以上です。

中村●

NPOデジタル編集協議会ひなぎくの中村です。私どもは、先ほど河村さんがお話されました、厚生労働省のデジタル変換のとき以前から、 デジタルのテープからの変換を行っていた団体なのですが、最近は視覚障害者の方の変換はもちろんですけれども、ディスレクシア、それからLDの 方の教科書、図書の変換を行っております。今年度は教科書、絵本、図書を含めて30タイトル、それから公共のところからの依頼がありまして、 これが6タイトルほどで、少ない人数でよくやったな、という感じではあります。

ただ、先ほど奈良デイジーさんからもありましたけれども、教科書の重複製作というものがありますので、いくらか協力しあってやれると いいなあと思いますけれども、そのためには基本線というか基準というものをしっかりと私たちのほうで作っておかないと、管理センターなり なんなりの立ち上げも難しいのではないかという感じがいたしました。

それから、昨年度なのですが、私は拡大図書のことをずっと考えてはいたのですけれども、今、山内さんのほうからお話がありましたように、 大きな進展が拡大図書のほうにあったということで、これは私たちのマルチメディアDAISYと協同することができないかなと考えています。 なぜそういうことが大きなうねりになってきたのかという話題の宇野先生が手を挙げられて、というようなこともありましたし、私どもの地元でも 拡大図書をボランティアの手によってなされていて、先ほど報告がありましたように、40%弱くらいしか製作ができていない。拡大図書がこれだけ 認められて、図書館などにも置かれている状態で40%。ディスレクシア、それから学習障害といわれる子どもたちは、この40%より満たない、 本当に数パーセントでしかない状態ではないかと思います。ですから、これまで培ってきた音声化されたものだけではなくて、マルチメディア化 されたものをもっともっと作っていくためには、私たちの力を拡げていかなければいけないのかなと思います。これまでに製作されてきた方もあると 思うのですね、各地にDAISY製作を行っていらっしゃるグループもあると聞いておりますけれども、どうやらこれは、ぽつんぽつんと各地に点在して いるだけで、横へのつながりが一向に見えてこない。これが、マルチメディアDAISYがうんと進んでいかない原因かなと思っています。

10年前の厚生労働省の3年間のときのような大きなうねりとは、そんな贅沢なことは言いませんけれども、昨年も私はこのことを言いました。 文科省に行って、紙の教科書だけではなくて、媒体を変えて、マルチメディアDAISYを添付してほしいということを、申請したいと思っており ますし、そういう願いを持ちながら、この1年間、マルチメディアDAISY図書および教科書を製作してまいりました。皆さんからの賛同の声が 聞こえて、拡大図書の協議会の方たちとも手を携えていけたらいいなという希望を抱いて今回は出てまいりました。以上です。

南雲●

はい、アットマーク国際高等学校の南雲明彦と申します。プロフィールはこちらの青い紙を見ていただければわかると思うんですが、 ちょうど1年半前に、先ほど講演なさったEDGEの藤堂さんとたまたまお会いする機会があって、自分の恩師と一緒にたまたま訪れたんですが、 そこでトム・クルーズやアインシュタインなどの著名人の「私達はディスレクシアなんです」というポスターを見せてもらい、これは 「自分のことだ!」、と思いました。自分以外で「こんな人達、ほんとにいっぱいいるんですか?」と話したら、「はい、いっぱいいます」 という話を聞いて。そのとき、自分が本当は何者かがぜんぜんわからなくて、ただ自分は頭が悪いと思っていたので、すごく安心したのを覚えています。

一応僕は、高校を、読み書きが苦手だったために、4つ替えているんですね。高校を4つ変えるって、すごく辛いものがありました。 品川裕香さんがおっしゃる通り、勉強がしたかったんです。みんなと一緒に、思い出を作りたかったんです。ただ教室に入ると読み書きばかりで、 自分は話せるんですけれども、教室内で話していたら注意をされるし、でも、自分は「話すことでインプットとアウトプットを繰り返す」という 覚え方しかできなくて、教室の中ではそれができなくて、孤独な想いを味わってきました。机に向かってはいるけれども、結局読み書きが できなければ何もできない。空想にふけることしかできないんです。だから、クリエイティブな考え方を持つようになったのですが。

では、どうするかと必死で考えてはいたんですけれど。小学校、中学校あたりはなんとか乗り切ることができた。なぜかというと、 小学校3~4年生くらいからおかしいなとは思っていたんですね。その頃は、一緒に漫画を読んだりとか、みんなでするわけですけれど、 僕は漫画が読めないのですね。文字を追えない。小さい単行本などはぜんぜんわからなくて、ぼやけてしまうのですよ。でも、本を閉じて しまえば、人は見えるわけですよね。なぜこれだけ見えないのだろうというのがよくわからなくて、なんか目が悪いのかなあというので 眼科に行っても、特に異常はないと言われるし。

何とかそれでもそれを乗り切れたのは、先生がすごくわかりやすかったのです。だから、自分は読めないし書けないからもう、 その行動はやめよう、と決めました。だからノートなども、1ページ目、2ページ目は書いていたのですね、何とか。でもそれ以外は全部 書いていないんですよ。そのページだけ開いていると書いているように見える。ペンを持って書くふりをしていれば、書いているように 見えるし、ページも違っていてもとりあえず開いて、先生に見えないように隠して開いていれば、それで何ページを開いているかわからないし 、ただ、それでも、教科書自体を間違っては怒られますけれども。 そういうことがあると、自分自身が少しずつ傷ついていきます。やはり、周りと同じようにやりたいんですよね。やりたいのだけれどできないし、 それからは本が嫌いで読むことはほとんどなくなりました。せいぜい、イラストを追うことぐらいしかできなくて。今も嫌いなのですけれど。 でもそれって何か、おかしいというか、その前にできることってあったのではないかなと思って。

それでこのDAISYのことを知って、自分が小学校くらいからこれを使っていたら、きっと授業の時間に孤独を味わうことはなかったのでは ないか、と思いました。しかも、どんどん勉強が遅れていく自分というのが嫌だったんですね。それが、人と競い合うわけではないですけれど、 自分がいざ何かやりたいことが見つかったときに、読み書きができないというだけで、その道が閉ざされてしまったりとか、すごく遠回りして しまうというのは、すごく嫌なんです。それは絶対させたくない、してほしくないし。支援の道って沢山存在していると思うんです。 ここに来てくださった方々は、比較的その子たちに対してなんとか支援をしようとなさってくれる方だと思うんですが、本当に、学校を出れば、 いろいろな人と出会います。そのときに、学校での読み書きだけではないのですね。ビデオ屋さんに行って会員カードを作るときにも、書け なかったり、誓約書を読めなかったりしたら、結局それで詐欺にあってしまったりとか、実際自分もあったんですけれど、結局ちゃんと読め ないから、それを相手も察知して騙されるということもあり得るかもしれないですし。幼い頃から読むことに抵抗がなければ、 少しの「想いやり」という支援と、教育的支援を受けていれば、きっと、きちんと読むことができなくても、きちんと自己受容することができる。

どうしても楽ではないんですけど、やっぱり楽しく学校生活を送れるし、不登校にならずに過ごせます。自分も引きこもっていることが2年 あったので、家にこもるって本当に嫌なんですよね。できればこもりたくないけど、外に出ればそれはつきものになってくるからどうしようも ないし、でも家にいても本が読めないのって、それはすごく悔しくて、歯がゆい。ですので、小学生くらいのときから、こういうDAISYにふれて、 本を読む楽しさ、活字を追う楽しさというのをもっと子どもたちに知ってほしいなと思います。以上です。

寺島●

どうもありがとうございました。今までのお話をお聞きしていますと、大きく4つの課題が出てきたように思います。

1つは、最後に南雲さんに言っていただきました支援のシステム作りをどうするか。それから、それに関わりますけれども、2つ目が、ディスレクシアの 方が今何に困っているのかをまず調べる必要があるのではないかということ、それから、大きな問題ですが、著作権の問題、そして、普及をどうすれば いいかという、普及のシステムの問題です。

さて、まず、今までのパネラーのお話について、ご質問したいということがありますか。会場の皆様でご質問がありましたら、おうかがいしたいと 思いますが、ございますか。

会場●

河村先生にお伺いしたいのですが。私は、視覚障害者の第1級の者なのですが。先ほどから聴覚障害者とマルチメディアDAISYのお話が出ておりましたが、 一つ気になることが、最近視覚障害者の間で点字離れが進んでいるということがあって。

例えばマッサージの勉強も含めて考えると、そういう人たちもマルチメディアDAISYがあったほうがいものなのか、それともやはり点字というものを 守っていく意味でも点字の教育が必要なのかということをちょっとお伺いしたいのですが。

河村●

国立身体障害者リハビリテーションセンターと、4つの国立視力障害センターで、理療教育の教材をどうするかということで、大いに今議論と研究をして いるところなのですね。非常にいいご質問だと思います。

現実の、特に理療教育のコースにおられる方たちのほとんど90%以上は、弱視の方たちなんですね。教材を点字で、3年間の理療教育で国家試験を 受けるための膨大な教材を点字で読めと言っても、とても無理という状態にありまして、その実態がわかってまいりまして、マルチメディアDAISYに することによって、そこから点字も出せるし、要するにテキストデータと音声データの両方が備わっているものがマルチメディアと定義するとすれば、 そこにテキストと音声と、さらに画像も全部シンクロナイズされて表示できる。その中の、自分の必要な部分だけを必要な形で取り出すということも可能であろう。

だから、教材は全て、理想的にはマルチメディアDAISYで作っておいて、その人が点字で読みたければ点字出力する。そして、拡大文字で読みたければ、 カラーコントラストとか字の大きさとか行間とかフォントとか、いろいろ選びながら一番自分に適した表示にする。さらにそのときに音声も付けて読みたければ、 それも同時に付ける。そういうマルチセンサリー、「多感覚」という言い方をしていますけれども、どれでも選べるという教材を作る技術ができたので、 やはり理想的にはそれを作っていくことではないかというのが今の中間的な結論です。

結局そのためには、先ほどからあります、基準をどういうふうにしていくのかという非常に重要な問題がありまして。これはかなり試行錯誤もありますので、 個人のカスタマイズと言っていますが、カスタマイズされる部分と、それから基本になる部分とをどうやって区分けしていくのかということが重要で、その意味もあって、 スウェーデンに大学生用の教材と、それから義務教育課程で作っている教科書を、DAISYのマルチメディアで作るときにどういう基準を持っているのか、 それを探りに行って、昨日帰ってきたところなのです。同じような基準づくりというのは米国でも行われておりますので、それらを、全部DAISYのスタンダードの 中での話なのですが、DAISYのスタンダードの中での解釈のしかたというのもいろいろありますから、それらをきちんと立てていく作業というのが必要だろう。

その中で、点訳というのは常にテキストを伴うDAISY製作のときにはいつもターゲットとして必ず不可欠の部分というふうに、DAISY規格を開発するほうでは 考えておりますので、マルチメディアDAISYをあまねく普及していくということは、点字で読める素材も増える、と私どもは確信しています。

会場●

そうしますと例えば私のような視覚障害者の点字も読めて、DAISYも使えるような人たちの意見というのも、重要性を持ってくるのかなと思うんですが。 私は毎回「点字ジャーナル」というA3版の大きな雑誌を購読しているのですが、非常に読みにくいなと思って毎回読んでいるのですが、インターネット版と 活用しつつ読んでいるのですが、そういうものも今後、そういうDAISY化されるといいなと思うのですが、そのへんはいかがでしょうか。

河村●

それでは簡単に申し上げますと、今DAISYの点字のほうの規格で、数学記号をXMLで書く、MathMLというものを取り入れるということが正式に決まりました。 ですから、グラフとか、数学的な記号というのは、点字でもXMLというテキストファイルの中に取り入れることができるという技術開発が終わりましたので、 ますますそういう科学的な読み物についても、あるいは大学レベルの教科書についても、点字でも読める。それから、視覚的にグラフ、あるいはそのグラフの テキストによる読み上げといったものにも対応できるというような将来が開かれていると、DAISYの規格開発のほうでは考えています。

会場●

基本的なことというか、私の認識がいたらないかもしれないのですが、南雲さんのお話を聞いていて、ディスレクシアというのがどういう状況なのかと いうことを、もしかしたら私が認識をし違えていたのかもしれないので、確認のために教えていただきたいのですが。本を見ると、文字がダブってしまう。 だけれども、本を閉じて、普通に人の顔などはきちんと見えるとおっしゃいましたね。ということは、ディスレクシアの標準的なアセスメントの方法が 確立されていないということにつながるかと思うのですが、簡単に言ってしまうと、視覚検査ではわからないのかということが一つ。これは南雲さんに聞いて いるわけではないかもしれないのですけれども。そうすると、例えば文字だけ、本を読んでいるときに、文字ということになってしまうとそういう状況が起き るのか。でもそうすると、例えば五線譜などがダブって見えてしまうというのは、それはまた違いますか。もしくは同じ仲間になっているのでしょうか、 ディスレクシアで。

寺島●

ちょっと、話が複雑になってしまうと思います。この問題については、文献などを読んでいただいたほうがいいと思います。たぶんいろいろな形が あるのだと思いますので。

藤堂●

一言だけ、いいですか。定義のなかに、視覚とか聴覚に問題があるわけではない。ただそれを処理する過程に問題があるというところだけ一言、 考えておいていただくといいかなと思うのですね。見えてはいるんだけれども、それを音として認識するとか、意味として認識するところでずれたり、 消えたりしていく。画像として受け入れるときにずれたりというところだと思います。それだけちょっと簡単に。

会場●

そのへんかなと私も思っていたのですが、実は院のときに、漢字の認知処理の、処理の形態の部分、認証の部分と、あと、考えたのですけれども。 そこに異常があって、漢字がよく認識できないというのと、それは見えているのだけれども、その後の情報処理でできないというのが、どこで境界が あるのかということをちょっとやっていたので、そのへんが、ごめんなさい、最初に見えているということから、他のことでも見えているとか見えて いないということが、再現可能であって、そこに原因があるのか、それともやはり、認知処理の部分に問題があるのか、そこにちょっと教えていただき たかったのです。ごめんなさい。

寺島●

当事者側の見通しは明るそうですが、権利者側のほうをどうするかというのが、課題みたいですね。課題の中にはシステム作りについての提案が ありましたが、それも関わっているような気がしますね。具体的には、まだ、何もありませんが、どういうふうに著作権について処理をするのか、 例えば、聴覚障害に聴覚障害者情報文化センターというのがあるのですが、その専門はビデオに字幕を入れるというものなのですけれども、 著作権処理をやっていたりします。そういったものも考えられる。あるいは、視覚障害の関係では、タイトルが重複しないようなシステムは もうあるわけで、今、そういうことがマルチメディアに関して無いとすると、そういったものも作っていく必要があるのかなという感じもしました。

少し、教科書問題について、話を進めていきたいと思います。と言いますのは、この会場には、中学、高校の先生方が多く来ていただいているとの ことですので、実態はどうなのか、例えば、教科書をマルチメディア化するということで、いろいろな障害のある方に効果的であるという話が午前中に あったのですが、自分の学校も変わりそうだとか、授業がよくなりそうだ、そんなことはあるのでしょうか。もし、会場の先生の中で少しコメントを いただければありがたいのですが、いかがでしょうか。

会場●

特別支援教育は19年度から全面実施になって、ものすごい勢いでやはり、制度化が進んで、システム化が進んで、校内体制もかなり進んでいます。 うちの学校でも当然そうで、校内のコーディネーターとか、それから特別支援指導計画とか、形はもうできています、どこでも。

ただ、それを具体的に教科書となったときに、だいぶアセスメントはできるようになったのだけれど、聞けるツールがないということで、 少人数グループでやるという、あるいは個別にやるということのほうが、限界があるわけですね。ですから、教科書を読むということは、 私もLD学会等でDAISYを見て、これはかなり使えるだろうなと。要するに、自習ができるわけです、子どもたちがね。これで、読み書きを、 漢字の読めない子はもうそれ以上進まないわけですから、かなりこれは有効だろうということがわかって、私たちもやりたいなということで 今日来たのですけれども。これは全国的に、これを知ると現場とかぜひ欲しいというのはもう目に見えていますね。

低学年の子はまだいいにしても、高学年になるともう読むことに対する二次障害、意欲がほとんどなくなってしまうということが高学年から 中学年におきる。そうすると今度は受験のときにものすごく厳しくなるという、受験の制度のほうを含めて、このDAISYが広まることによって、 多くの子どもたちが救われるのではないかと感触を持っていますので、ぜひ進めていただきたいと思っています。

寺島●

ありがとうございました。はい、河村さん。

河村●

実際にどう作るのかというのは一番難しい部分がありまして、今、これは世界中で同じなのですね。スウェーデンで聞いたノルウェーの話 というのは、ノルウェーでは著作権法を開放したから、学校の教室で先生たちみんなでスキャンして、テキストファイルを作ってどんどん 提供すればいい、という動きになっている。でも、スウェーデンの、特に当事者団体は反対である。つまり、DAISYのような規格にちゃんと則って、 図書としてきちんと作ってもらわないと後で困る。だいたい先生たちにそんな負担を強いてもろくなものはできないというようなことでした。

ですからやはり、教科書は出版としてきちんとしたものを作って出して、全国で手に入るというふうにする、というのが一番重要なことなのだと思います。 そうしますと、もちろん、最後の手段として、著者が駄目だと言っても、出版社が嫌だと言っても、DAISYにできるという、そういう本来の人権とし てのアクセスする権利というのは大事だと思います。つまり、誰かが嫌だと言ったらアクセスできなくなってしまったら人権侵害になるわけですから、 先ほどありました、国連の障害者権利条約というのは、それを法律的に権利として認めようという条約で、日本政府はそれを調印したわけですから、 これから批准に向けてそういう法整備を進めるというのが第一段階ですね。

同時に、もう一つは、ファイルをやはりきちんと提供してもらって、誤りのないテキストで作りたいわけです。だから、喧嘩腰で「なら勝手に作る」 というふうにやると、今度はスキャンして全部目で見てテキストを起こしていかないといけないわけですね。権利だからやってもいいよと言われても 、これは膨大な労力が無駄にかかるわけです。だから、権利は権利として確立したうえで、出版社とやはりきちんとお互いに協議をして、どうやって 協力体制を作るのかということが、次の課題だと思います。

我々は権利であるという点は絶対に後退させてはいけないと思うのですけれども、同時に、そういう方向で法律は整備する。同時に、だからといって 勝手にやるのではないのですよ、やはりちゃんと協力してください。その中でよりよい教科書、教材を一緒に作っていくというところに、教科書会社もテーブ ルに着いてもらい、当事者も入り、学校、それから最後、就労していくということもありますから厚生労働省の役割も重要ですし、早期ということに なれば当然就学前の対応で厚生労働省も文部科学省も一緒に入ってもらわなければいけないわけですよね。

そういった上で、さらに今度は、情報にアクセスする権利となると、国会図書館というのが実は大事な機能を持っているのですね。 全ての出版物を収集して、書誌情報、一つ一つの本がどういうものであるかという情報を国民に提供するという重要な役割を持っているのです。 そこの役割が何か今すごく曖昧になってしまっているのですね。ですから、そういう、障害者のニーズによっていろいろやっている情報提供施設だけでは なくて、本来国民の誰にもこういうことを提供しなければいけないという、出版社、それから2つの、厚生労働省、文部科学省、そして国立国会図書館、 これらが一緒に入って、できるだけ早く、どういうふうにこの教材をしっかり作って送り出していくかということを、大急ぎで立ち上げる。 そういうテーブルを、こういった場から用意していくということが、もうここ1~2か月の間に必要なのではないでしょうか。

来年度予算の概算要求というのは4月、5月でそろそろ詰めなければならないのですよね?8月には省庁の来年度予算はもう全部決まっていなければ いけないわけです。そこから逆算すると、著作権法の改正まで待っていられないのですね。改正はこうなるべしということを前提にして、それの 改正された後に動き出す体制作りを今から始めなければいけないと思います。

寺島●

他に高校の先生、小学校、中学校、高校の先生がおられれば、ご発言いただけますか。困っている例とかそんなことでも。

井上●

私の本業は高校の教員なのです。実は私がかつて教えていた生徒さんの中にも、ディスレクシアを疑う生徒がいました。現状であれば 校内委員会を設置し、コーディネーターのもとに個別の教育支援計画を作成して、この生徒さんにはこういうところに着目して指導すべし、 ということになったのだろうと思います。

ただ、高校生ともなりますと、先ほどからお話がありますように、やはり個々の取り出し的な授業というのはなかなか抵抗があります。 ですから、その授業全体の中でうまく組み込んでいく、あるいはバリアフリーな授業、ユニバーサルデザイン化された授業というものが 必要かなと思います。

例えば板書をされるときに、そういう生徒さんがいるという前提で、ちょっと配慮をする。配布物があるようならば事前にあげておくとか、 さらにできれば拡大コピーするとか、その生徒さんに応じた工夫があると思うのです。板書をきっちりと丁寧にわかりやすくすると、 他の生徒さんもわかりやすくなる。ですから、特別支援教育というのは「特別」だけを目指すのではないと思うのです。全ての生徒さんが 助かってくると思うのです。

教科書について言いますと、確かにDAISY化された高校教科書はほとんどないです。文科省にも言っています、教科書会社さんにも言って いるのですが、やはり著作権法などのいろいろな壁があって難しい。ですが、教科書には教師用指導書とともにテキストファイルが付いて いたりするのですね。あるいはPDFで提供されているものもあり、そこからテキスト部分の抽出もできます。最近は読み上げのソフトもかな 優れていますので、それでとりあえず読んでもらうとか、工夫の余地はいろいろとあると思います。

河村さんたちが開発されているDAISYは、実は通常のプレゼンテーションソフトとしても使えそうです。非常にアクセシブルでマルチメディア 対応ですから。つまり視覚障害やディスレクシアの人たちだけのものではない。そういう狭いものではないと思うのですね。非常に応用範囲が 広いと思っています。実は私自身も年をとってきて、だんだん細かい字が読めなくなってきました。ですから、今後お世話になることも あると思います。ですから、DAISYは本当に可能性が大きいソフトだと思います。

寺島●

そろそろ時間になってきましたが、これまでのいろいろな意見を聞いて、最後に何か発言したいというパネラーの方はおられますか。

南雲●

当事者の立場から言わせていただくと、活字を読みたくないと思っている人は、ほとんどいないと思います。興味のあるものが目の前に現れた ときにそれが読めなくて吸収できないというのはなにより屈辱なんですよね。それができると、ものすごく楽しいし、ものすごく喜びが自分の中に 入ってくるし、そういう楽しさというのをやっぱり小さいうちから絶対知ってほしいと思います。皆さんで、学校教育や就労のことも含めて、みん なでDAISYの重要性を知っていただきたいですよね。とにかく、今現在困っている人達の為にアクションを起こしていかなければならない。 みんなで盛り上げていけたらいいと思います。

山内●

拡大教科書も、弱視の人だけではなく、聴覚障害の人や肢体障害の人、そして知的障害の人などから要望が来ているというレポートがあります。 ですからDAISYということになれば、今井上さんがおっしゃったように汎用性が広いので多くの読みに障害のある方々に利用されると思います。 DAISY版の教科書というのが一日も早くできたらと思います。

河村●

マイクロソフトから申し入れがありまして、WORDの中できちんと構造をつければ最後にDAISYになるというソフトウェアの開発をやっています。 これはWORDで使えるだけではなくて、オープンソースのソフトで、あるドキュメントのフォーマットになっているものは全部コンバートできると いうものです。しかもそれをさらに商業的によりよいものにしたいという人たちは自由に活用して、よりよいものを作れるというソフトで、4か月 後にはリリースされます。英語については、これは完璧に動くはずです。今、日本語のテキストを送りまして、これをなんとか完璧に処理できる ようにしてくれという要望を出しているところで、来週、日本マイクロソフトとマイクロソフト本社との間で何らかの協議が始まるはずです。 今度は日本語も立ち遅れないように、とりあえずまずWORDからなのですけれども、そういうコンバートできるようにして少しでも簡単にDAISYが 作れるようにする環境を今整えているところです。

もう一方、AMISというソフトがあります。これは再生ソフトです。これにつきましては、今はウェブのブラウザと統合する。ブラウザの中で DAISYのファイルがあれば、いつでもDAISYとして読めるという機能を持たせようというのが一つ。もう一つ、出版人の方々には、AMISをインストール しなくても、たとえばCDにDAISYのコンテンツとAMISを入れておくと、インストールしなくてもCDからプログラムを読んで再生できる。 今、インストールできないパソコンが多くなっていますよね。ですから、そういった面でも対応できるようにしようということを開発リストに挙げています。

そのようにして、なんとか、作れば、あるいは作りやすい環境、それを国際的にも整えていくということを今やっておりますので、一番新しい情報に ついてはDAISYコンソーシアム公式ウェブサイトがありますので、そこに時々刻々ご報告しています。ウェブサイトは非常に簡単で www.daisy.orgこれでトップページに行けますので、そこから情報を得ていただければと思います。

寺島●

もう時間になりました。今回のディスカッションは、課題の洗い出しというところでとどまっていますが、次回以降、少し絞っていければと考えています。

それでは、このパネルディスカッションをこれで終わらせていただきます。どうもありがとうございました。