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国際セミナー
「防災のユニバーサルデザインとDAISYの役割」

【DAISYとEPUBによる知識アクセス-災害知識のユニバーサルデザイン-】

マーカス・ギリング(DAISYコンソーシアム・IDPF技術主任)

スライド1 (スライド1の内容)

こんにちは。こちらに来ることができて大変うれしく思います。4日から5日ほど東京国際ブックフェアに参加しておりまして、6~7回、EPUBについて既にプレゼンテーションをしてきました。今日がその最後で、明日、スウェーデンに帰ります。先ほどの写真に出ていたスキンヘッドは確かに私です。

DAISYやEPUBのことをご存じの方も少しいらっしゃると思いますが、なるべく明確に簡潔にご説明したいと思います。

スライド2 (スライド2の内容)

最初のスライドは、見ていただければ明らかだと思いますが、ここには新しい特別な情報はないと思います。ただ、私の仕事の中ではこれが大事だと思っています。つまり、全体的に見るということが大事だと考えています。私は出版関係者ですが、一般的に出版業は、先ほどの自閉症の情報提供の例もありましたけれども、サプライチェーンすべてがユニバーサルに機能するようにしなくてはなりません。それにはこの5つの項目が必要かと思います。

最初はコンテンツの制作、創造です。ここで使われているツールがユニバーサルなデザインでなければ問題になります。また、コンテンツそのものが配布のために必要な特徴を持つフォーマットとなっています。また、検索インターフェース、コンテンツが供給者から消費者にいく方法も同じです。四つ目が読み上げシステム。消費者として情報を読み取るために使うデバイスも適切な特性を持っていなければなりません。また、5番目は、新技術も適切な設計が必要です。スクリーンリーダーや、デバイスなど、どういうデバイスを使っていようと、適切な特徴を持っている必要があります。特にコンテンツのフォーマットを理解して、そのフォーマットを利用できなければなりません。

ここで大事な点は、だからこそ私たちの仕事が複雑になるのですが、この5つのうち、どれか一つが適切なデザインでなくうまくいかない場合は、すべてが機能しなくなってしまいます。ですからこの5つの項目すべてが適切なデザインを持っている必要があります。

スライド3 (スライド3の内容)

3日前の朝日新聞の1面に、東京の国際ブックフェアの新聞記事があり、IDPFの記事が掲載されていました。EPUB3は私が開発している電子書籍のフォーマットのことです。日本語は読めませんので人に教えてもらいましたが、その記事のヘッドラインは、EPUB3は新しい「世界規格」の上陸ということでした。この記事は防災に関することではありませんでしたが、出版全体に関する記事でした。

皆さんの中にはご存じの方もいらっしゃるかもしれません。日本にはさまざまな電子書籍フォーマットがあります。アクセシビリティという意味では適切でないものもあると聞いています。EPUB3はアクセシビリティという特徴をEPUB全体に提供するものです。例えば、最近では、「楽天Kobo」という新しい電子書籍ストアで電子書籍を販売しています。これは新しいEPUB3フォーマットに基づいたものです。

IDPFというのは非営利団体です。出版業界向けの電子出版による国際取引標準化団体です。世界に340以上の会員があります。出版社、ソフトウェア、プロバイダ、販売店、図書館、そのほかの機関が参加しています。政府も参加しています。

DAISYコンソーシアムはIDPFと協力し合っています。EPUB3フォーマットは共同で開発しています。これはアクセシビリティな出版、そして一般の商業ベースの電子書籍の出版両方のために協力し合っています。そこでガジェット、ソフトウェア、情報などのユニバーサルデザイン、つまり誰でもアクセスできることを検討しておりまして、EPUB3はそのいい事例でありますし、電子書籍の世界ではユニバーサルなデザインの最初の事例です。

スライド4 (スライド4の内容)

ではEPUBのアクセシビリティについてお話します。これらの機能の一部はDAISYフォーマットから引き継いでEPUBの中で再利用されているものがあります。また、DAISYにもなかった全く新しい機能もあります。

全部で6つの電子書籍のアクセシビリティの側面があります。

スライド5 (スライド5の内容)

まずは、EPUB3は構造と文書のセマンティクスに注目しております。よくたとえで出すのですが、構造とセマンティクスというのは、電子書籍、文書のDNAであると呼んでいます。この構造とセマンティクスがなければ新技術は読んでいるものを理解できません。したがって利用者に適切に情報の内容を伝えることができません。これは出版業全体として大事です。主流の出版業の人たちにこれを伝えることが大事です。というのは、出版業全般、主流の中でもこれが何であるかということがまだ十分に理解されていないからです。

EPUB3でもう一つ大事なことは、電子書籍に関連づけてあまり考えられていませんが、マルチモーダルであるということです。EPUB3はDAISYのスタイルを引き継いでいます。テキストと録音音声を同期させる機能がこれに追加されています。DAISYがEPUBに含めることを提案したときに私たちの最初の関心時は、長い間、DAISYを活用できなかった印刷物に対して障害を持ってアクセスできない人たちにどう対応するのかということです。

これは、他の関係者、利用者もこの機能に関心を持つと思います。例えば児童書がその一つの例です。楽しむため、あるいは学習のためなど、読むことを勉強する上で、非常にパワフルなツールです。

また、私たちは状況に応じて障害を持ちます。例えば自動車に乗っているとき、もちろん自動車を運転しているときは本を読めません。しかし運転しながらオーディオモードに電子書籍を切り替えると、運転している間は音声で聞くことができます。DAISYのような同期というのはプリントディスアビリティの方への機能として使えますが、同時に他の利用者にも活用できますし、他の多くの方たちに楽しんでもらうことができます。

スライド6 (スライド6の内容)

またもう一つ、音声合成の強化です。事前に録音した音声のないものは、例えば発音のインストラクションを含めることができます。すると複雑な言葉をわかりやすく明瞭にすることなどに活用できます。

スライド7 (スライド7の内容)

また、リッチなナビゲーション。DAISYをご存じの方はご存じかと思いますが、これは新しいことではありません。効果的、迅速に文書の中を移動する能力は大事です。今日の議論の中でも大事なことです。EPUB3はDAISYのナビゲーションモデルを引き継いでいますし、さらにそれをDAISYが提供している以上のものに強化しています。ナビゲーションストラクチャーを提供しています。どのEPUBブックにもこれが存在し、そして迅速に大きな文書の中でも移動することが可能です。

スライド8 (スライド8の内容)

また、もう一つ、EPUB3には、もっとインタラクティブな高度なコンテンツをサポートする機能があります。DAISYよりももっと高度なものです。複雑な材料、例えば、学術文献や教科書は、MathMLという数学表現を表現する言語ですが、これが利用できます。また出版社で数学を使う場合、よく図を使いますけれども、アクセシブルという意味では図はよくありません。

そしてこの文脈の中でさらに大事なのはインタラクティブなコンテンツです。本とユーザー、両者がお互いに対話できるということです。ユーザーは、質問と答えをインプットして、本がその答えを受け取って、それに対応できるという例です。ワールド・ワイド・ウェブ(WWW)がその一つの例です。ウェブページは長い間インタラクティブなものとして使われています。

プリントディスアビリティのことをご存じの方にとってはインタラクティブなアクセスというのも一つのチャレンジです。インタラクティブな電子書籍、インタラクティブなウェブページも同じです。EPUBではワールド・ワイド・ウェブコンソーシアムのARIA(アリア)というところと協力しています。このインタラクティブ機能でアクセシブルな電子書籍になります。

スライド9 (スライド9の内容)

また、先ほどの河村先生の話の中にビデオの話もありましたが、EPUBも同じように映像、動画を取り込んでサポートしています。これについては様々な研究開発が現在も行われています。動画をどのように全員がアクセスできるようにするのか。報告されていることとしては、例えば音声のキャプション、そして文書のキャプションを動画に追加できる情報として利用するわけです。例えば視覚障害者にとっては動画を見ることができませんが、音声で何が起こっているかということを説明するものを加えることもできるわけです。本来の音声に加えて説明の音声も加えることができます。また、聴覚障害者にとっては、文章での説明を追加することもいいと思います。これもEPUB3でサポートされています。

スライド10 (スライド10の内容)

次にフォーマットの説明の最後の点ですが、ここに簡単に6つのEPUBの優れている面をご紹介したいと思います。アクセシビリティが強化されているものがこちらの表に出ています。EPUB3とEPUB2とDAISY2と3を比較しています。

七つの行があります。リッチで柔軟なセマンティクスが一つ。もう一つがリッチなナビゲーション、次がDAISYのテキストと音声の同期、4番目が音声合成機能の強化、次がインタラクティブな機能、ARIAが含まれています。次が映像と字幕、そして最後が国際化。

この三つのフォーマットすべてを説明すると時間がかかりますので全部はご説明しませんけれども簡単に言いますとEPUB3は、これらのカテゴリすべてで強化されています。EPUB2やDAISY2にない機能がEPUB3にあります。

国際化について説明しますと、EPUB3の作業、日本語の文書をサポートする研究がいろいろ行われています。大勢の日本人の専門家がIDPFで協力し合って日本語をサポートする研究をしています。それによって楽天のKoboがEPUB3だけを日本語の電子書籍ストアで利用することになりました。

では、結論です。

スライド11 (スライド11の内容)

明示的・暗示的な形で既に申し上げたことですが、EPUBはアクセシブルな出版物のための最新のフォーマットです。同じ能力を持っているフォーマット、EPUB3と同様の能力があるものは今、存在しないということです。

二点目にすばらしい点としては、これはアクセシビリティだけを考えたフォーマットということではなく、アメリカ、ヨーロッパを中心に主要な出版業界の電子書籍出版に主に使われるフォーマットになり得るということです。DAISYでのオーサリングツールや読み上げツールという意味でどの程度の影響力を持つかということでは、比較にならないほど大きなものということになります。

DAISYについては基本的にEPUB3と互換性を持つことに将来的にはなります。ですのでDAISYコンソーシアムメンバーにもゆくゆくはEPUB3に移行を促していきたいと考えています。

では今後、何が必要でしょうか。フォーマットの業界への導入への動向があります。もちろんさらなる投資が必要になります。まずは知識の普及です。DAISYコンソーシアムでは、広範な知識の集積があります。どのように電子書籍を作るのかという知識がありますので、こちらを商用化していく必要があります。

そしてEPUB3のオーサリングツールをアクセシビリティに焦点を絞った形で進めていくことです。まだEPUB3を開発するに当たって、すべてがアクセシビリティに焦点を絞っているわけではありませんので、この点を強調する必要があります。またEPUBコンテンツのアクセシビリティをチェックするツールを作っていく必要があります。これを適切に行うことによってみんなが利用できるようになります。

スライド12 (スライド12の内容)

次に、すべての関連プラットフォームにおけるアクセシブルな読み上げシステムを作るということです。現行iOS、Android、MacOS、Windowsなどの読み上げシステムがありますけれども、このすべてが完全にアクセシブルという状態にはまだなっていません。多くの作業が、新たなツールを開発するというよりは現行あるものに手を加えることによって達成可能であると考えます。

そして最後ですが、プロビジョニング、あるいは検索プラットフォームを進化させていく必要があるということです。コンテンツにアクセスするに当たってのインターフェースですが、例えば、ライブラリや店舗となるわけですが、そのようなインターフェースもアクセシブルである必要があります。

これらの五つの点を満たすためには、DAISYコンソーシアムメンバーの貢献が必須となってまいります。

では、現在の取り組みの事例についていくつかご紹介したいと思います。

スライド13 (スライド13の内容)

スライド14 (スライド14の内容)

これはアメリカの出版社、オライリー社です。これは無料で利用できる本です。「アクセシブルEPUB3」というタイトルがついています。今日お話した内容について、さらに詳しい内容が書かれています。残念ながら現在、日本語の翻訳版は出ていません。東京ブックフェアで何名かの京都の学生から翻訳したいという申し出がありました。ですのでこの書籍についても日本語版の翻訳が極力早く提供することができるようにと願っています。

そして、アクセシビリティがどの程度担保されているかというものをチェックリストを通じて確認していくということを行っています。ウェブベースのチェックリストになっていまして、出版社あるいは読み上げシステムを作っているベンダーさんの方で確認すべき事項について列挙されているものです。正しいアクセシブルになっているかどうかというのが確認できるようになっています。

スライド15 (スライド15の内容)

これが実際のウェブページ上での例となっています。これはコンテンツのガイドラインに関するものです。IDPFのホームページで閲覧していただくことができます。

ここではページ数、ページのボリューム、そしてどのようにページナンバーが機能するのかということについて。またコーディングの例についてどのように正しい形で行うのかということも書かれています。さらに、下にいきますとアクセシビリティに関するチェックポイントが書かれています。ここでは三つのチェックポイントがあります。コンテンツプロバイダが比較できるように、どの程度、要件を満たしているかというのを確認できるようなページ数に関する確認項目が三つ挙げられています。

DAISYの知識をどのように活用してアクセシブルな商用コンテンツに変えていくかということを現在行っている最中です。

では、最後のページになります。参照いただけるページとなっています。IDPF、それからEPUBに関するページです。IDPFのウェブサイト上に「アクセシビリティフォーラム」のページもあります。こちらのアドレスにアクセスしていただくと「アクセシビリティフォーラム」についてご覧いただくことができますし、もしご質問がある場合には問い合わせを行うこともできます。EPUBのユニバーサルデザインの項目についての情報もあります。それからEPUBの文書に関するサンプルも掲載されています。これはcode.google上で「epub-samples」という形で検索かけていただきますとアクセスすることができます。非常に人気なサイトでありまして、かなりの数のダウンロードが行われているサイトです。日本語によるサンプルも複数掲載されています。

最後に「Readium」ですが、こちらは無料のオープンソースです。EPUB3に関するソースのサイトとなっています。読み上げシステムに関する参考資料が載っています。もちろん現在取り組み中のアクセシビリティに関する情報もあります。テキストと音声の合成についてもReadium上に載っています。また、BookShareというアメリカの団体ですけれどもユーザーフェイスアクセシビリティについて取り組んでいる内容についても閲覧することができます。

私の発表は以上となります。どうもありがとうございました。

マーカス・ギリング氏の写真