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国際セミナー
「防災のユニバーサルデザインとDAISYの役割」

【タイにおける防災の取り組みとDAISY=EPUBの活用】

モンティエン・ブンタン(タイ上院議員、タイ視覚障害者協会会長)

スライド1 (スライド1の内容)

皆さん、こんにちは。まず今回主催してくださった日本障害者リハビリテーション協会、この重要なシンポジウムに招待くださいましてありがとうございました。何回も東京に来たことがあります。ただ、上院議員になってからはあまり来ておりません。今回また来ることができて大変うれしく思っております。

スライド2 (スライド2の内容)

タイと言いますと多くの方は微笑みの国として知られています。私の顔からもそれは明らかだと思います。また、私の知っている限り恵みの国とも言われていたと思います。最近までタイの人々は、私たちは世界の中でも最も肥沃で最も安全な国に住んでいると思っていました。皆さんがそう思われるかどうかわかりませんけれども。こちらの写真は新年のカウントダウンイベント、また水の祭り、また笑っている子どもの写真です。

スライド3 (スライド3の内容)

突如として、アジアの津波が2004年12月26日、クリスマスの翌日に起こりました。津波がタイを含めて地球の半分に影響を及ぼした絵がこちらに出ています。アジアの津波、2004年12月にありましたけれども、日本の方々にとっては津波は新しいことではないかもしれませんけれども、タイは世界で最も安全な場所だと思われていたので、津波が都市や人々を襲って大変大きなショックを起こしました。

スライド4 (スライド4の内容)

スライド5 (スライド5の内容)

こちらが非常に有名な観光地の写真です。津波前と津波後です。津波前、カオラックというのは大変美しい場所で、日本人の観光客もよく来ていました。津波の後、すべてが崩壊されて泥だらけになり、美しい場所が残っていません。

スライド6 (スライド6の内容)

もう一つ、街の車や船が全部破壊されてしまいました。ですから美しい微笑みの町の風景が変わってしまいました。

スライド7 (スライド7の内容)

こちらは被災者たちです。

スライド8 (スライド8の内容)

そして3年後、DAISYコンソーシアムと国連の機関やタイの視覚障害者協会を通して、障害者の災害準備国際会議がプーケットで開催されました。その2年後に再度会議を行って防災訓練も行いました。様々な違う種類の障害を持った人達が参加しました。また、タイの西海岸のモルガン人という先住民の住んでいる地域も行きました。河村先生もおっしゃいましたけれども、主に西ヨーロッパの観光客は引き潮で、水位が下がった時に海に行ってしまったということがありました。でもこの先住民の人たちは、そのとき山のほうに逃げていました。そのようにしてモルガン人たちは知識があったので津波から生き延びることができました。

スライド9 (スライド9の内容)

もう一つショッキングなシーンをお見せしたいと思います。近代のタイの歴史の中で起こった最大の洪水、2011年の洪水です。多くの国にとって洪水というのは、他の災害に比べると第5位ぐらいの位置付けかもしれません。しかしタイにとっては歴史上最大の洪水と言えるかもしれません。

スライド10 (スライド10の内容)

こちらは世界遺産です。ある産業地域、そして空港。空港はバンコクの中でも一番の高台にあるんですけれども、完全に洪水に見舞われています。また、2011年の近代史上最大の洪水によって、町全体がこのように川のようになってしまいました。70年前にもこういうことがあったんですが、当時と生活様式が全く違いました。その頃はみんな船に乗ってお互いに笑っていたんですが、今度は街が川のようになったときは喜ばずにみんな泣いていました。

スライド11 (スライド11の内容)

スライド12 (スライド12の内容)

もう一つ、こちらは障害者・高齢者です。手伝ってもらっている人たち、正しい支援を受けている人、あるいは正しくない、船の上に引きずり込まれている人もいます。

スライド13 (スライド13の内容)

2011年の洪水。これは私の家なんです。自分の家も1ヶ月半、洪水に浸っていたので、私の家も助かりませんでした。

スライド14 (スライド14の内容)

障害者にとっての問題は、他の選択肢がないのか、もっといい方法はないのかということです。洪水の後、私どもは調査をしました。洪水のとき、障害者全員ではないのですがほとんどの人が主要な避難所には行こうとしませんでした。障害のない人に比べると障害者の方が困難であったにもかかわらず避難所に行こうとしませんでした。むしろ他の州の親戚のところに行ったり、一部の障害者専用の仮設住宅に行ったり。例えばタイの視覚障害者協会の本部、あるいはパタヤにあるレデンプトルリストいう職業訓練所に避難していました。また視覚障害者は家の2階に移動して人が助けにきてもらうのを待っていたというケースもありました。

スライド15 (スライド15の内容)

次に、障害者を含めたインクルーシブな社会について。インクルーシブな社会の減災(DRR)についてお話したいと思います。

2011年の洪水のとき、全国の障害者は地域的あるいは全国的なフォーラムを通してイニシアティブをとり、すべての人にとってのインクルーシブな社会を作るガイドラインを提案しました。このガイドラインの中では、障害者を含めた防災、減災、リスク軽減というのを戦略的なモデルとしました。そしてそれに基づいていわゆるインクルーシブな社会を作るということを提案しました。

平和な時は、人はバリアフリー、アクセシブル、あるいはインクルーシブなインフラを作る緊急性を感じないかもしれません。特にインクルーシブな知識の共有メカニズムの必要性はあまり考えられません。しかし、生と死が目の前にあるような状況の時は、特に障害者を含めるインクルーシブなアプローチを求める適切なタイミングとなります。

したがって微笑みの国は不確実な国となってしまいました。

スライド16 (スライド16の内容)

災害の数が増えています。洪水、化学的災害の危険、テロ行為などが増加してきている。そのことでもっと組織的かつ包括的で、インクルーシブな防災教育に対する緊急のニーズが発生しました。

こちらに写真が出ています。兵士がバンコクの近代的なショッピングセンターに近づいています。このショッピングセンターは崩壊してしまいました。また、タイの南部で暴動が起きている写真。何年も前に起こったことですが、ガス爆発で車が爆発し、何百人も死亡したときの写真です。

スライド17 (スライド17の内容)

初めての国家災害防止軽減総合計画が作られました。2007年の災害防止・軽減法があります。これは2009年に閣議で採択しましたけれども、残念ながらこの計画は利用されませんでした。

スライド18 (スライド18の内容)

タイでは現在、約5つの政府機関が防災や緊急対応に関わっています。例えば災害防止軽減局というのは内務省のもとにあります。また、気象局は情報通信・技術省のもとにありますし、国家災害警報センターも情報通信・技術省のもとにあります。また、国家放送通信委員会というのもあります。また、タイ国立救急医療センターもあります。これらの機関はすべて、それぞれ別々の法律上の管轄下にあります。このように一貫性がないために問題が起こるわけです。洪水は、それほど大きな災害でなかったはずです。急激に起こった洪水でもありませんし、日本で時々見られる、突然起こる嵐や台風と違って、タイの洪水は長引いてしまいました。

スライド19 (スライド19の内容)

これは笑える冗談ではなく悲しい冗談ですが、タイではある言葉があります。これは昨年、大きな問題となりました。初めての女性首相がインタビューを受けて、彼女は簡単に答えました。タイのすべての人に対して彼女は言ったのです。「すべてがコントロールできている」と彼女は言いました。タイの言葉で「アオユー」という言葉があります。「すべてがコントロールされている」という意味の言葉です。別の写真がここに出ていますけれども、「アオユー」という言葉は悪い言葉でもあるのです。「洪水は私には関係がない、私は十分にコントロールされてないから関係ないよ」という意味もあるんです。こうした公の発言で、適切なコミュニケーションがないと混乱も起こることがあります。コミュニティや地域社会、政府機関もどういう行動をとればいいのかわからないこともあります。そのために洪水によって大きな災害になってしまいました。彼女は、そんなことを言うつもりではなかったと思います。こんなに深刻な状況になると知っていれば、彼女はこの言葉を使わなかったかもしれません。

スライド20 (スライド20の内容)

DAISYがどういう役割を果たしたのか。そしてDAISYがこの状況でどう役に立つ可能性があるのかということです。まずTV電話。電話を使ったDAISYの再生システム、プレーバックシステムです。現在、自動的な電話回線100本が、オンデマンドでDAISYコンテンツを提供します。コンピュータは必要ありません。電話のキーパッドを使って1日24時間、週7日間、書籍にアクセスできます。簡単な迅速なDAISYの書籍を提供する方法です。統合されたニュースやウェブサイトが毎日アップデートされます。

スライド21 (スライド21の内容)

スライド22 (スライド22の内容)

ライブラリからCDフォーマットの書籍を必ずしもチェックする必要はありません。どこにいても、誰でも電話をかけることができます。電話1回あたり3バーツの値段で電話ができます。このシステムは、タイにおいてかなりうまく機能しています。まだ高速インターネットはそれほど普及していないのでこちらは大変うまく機能しています。

スライド23 (スライド23の内容)

次のスライドに移ります。テレフォニーのスクリーンショットをお見せしたいと思うんですが、どのような形で機能しているかということです。これはサーバにアクセスしまして3,000以上のタイトルがサーバに収納されています。そして電話のインターフェースを通じて同時に150本まで受電をできるようになっています。

スライド24 (スライド24の内容)

第2段階として今後進むべき方向としては、DAISYの読み上げシステムをウェブベースで提供するものです。これは「Open2Read.com」と呼んでおります。これはインターネット上のDAISYシステムです。最新技術であるワールド・ワイド・ウェブ・コンソーシアム(W3C)と、もちろんDAISYコンソーシアムの技術を使ったものです。

これはタイの視覚障害者協会が行っているもので今年から始まったプロジェクトです。2,000以上のタイトルについて既に利用が可能な状況となっていまして、音声は電話回線より優れた音質を提供できます。フルテキスト、フルオーディオのDAISYコンテンツをインターネットから利用できます。

スライド25 (スライド25の内容)

そして、実際の技術ですが、HTML5及びJAVAスクリプトの技術を使っています。そして最新のブラウザにも対応しています。Internet Explorer、Firefox、Google Chrome搭載のPC、そしてMacOS、iOS、そしてAndroidにも対応しています。これはウェブベースでの管理となっています。

スライド26 (スライド26の内容)

スライド27 (スライド27の内容)

では知識革命への道について考えてみたいと思います。

現在、タイにおいてはワーキンググループがありまして、さまざまな分野の専門家で構成されたチームがあります。ここには障害者並びにアクセシビリティに関係するコミュニティのメンバーも参加しています。また出版業界の人も参加しておりまして、EPUBを電子書籍、電子出版の業界スタンダードにしようという取り組みを進めています。

このような取り組みは偶然にもTAB(タイ盲人協会)によるウェブベースのDAISY読み上げシステム、先ほどご紹介したOpen2Read.comの開発と同時進行でシステムの開発をしております。

そして高速インターネットが3Gよりも先の世代のもの、それから法制の変更によってEPUBが国家の基準になり得るという動きが現在進んでいます。電子出版及び電子書籍のアーカイブに関する業界のスタンダードになるという動きが進んでいます。障害者関係の皆様方も積極的に参画していただくことによって、より正常な形での情報へのアクセスができるものとなっています。

スライド28 (スライド28の内容)

それを図で示したものがこちらです。「国家緊急マルチ情報管理ハブ局(National Agency for Emergency Multi Information Hub)」というプロジェクトは、コールセンターがあり、緊急コールを全国に発信します。すべてのメッセージが送信されます。皆さん、障害者の方も含めて時宜を得た形で情報を受信することができます。これはディスパッチャー、また、コールトーカー、スーパーバイザーと呼ばれる方、すべての関係者に情報が送られることになります。

現在、緊急時においてはどのように障害者の方たちに、30箇所以上を思い出さなければならないことがあるとしたら、どのようにして緊急時あるいは災害時に思い出すことが、障害者の方はできるのでしょうか。ですからこのような体制づくりについては政府機関の助けのもとできちんと確立されたシステムを作る必要があります。

全国規模のハブにおいては、知識の共有、知識の管理センターが存在しています。これは緊急時、災害時の減災に関する情報センターの方で行われています。そのコンテンツについては電子フォーマットで管理されており、プラットフォームを超えた、また複数のプロトコル間でそれぞれがコミュニケーションをとれるようになっています。

スライド29 (スライド29の内容)

マーカスさんが先ほどおっしゃったとおり、私どもは最初からアクセシビリティを担保する必要があります。ですがこれは私並びに私の同僚にとっては非常に困難な課題であり、私ども並びにエンドユーザーにとっても困難な課題でありました。どのようにそれぞれのユーザーが緊急時に対応するのかというマニュアルを作成するという作業は困難を極めたわけです。最初の段階でDAISY、EPUBが最良の方式なのか、読み上げ方式なのか、出版方式なのか、最良のインクルーシブな知識革命にとってのツールであるのかということについて、当初は疑問がありました。

スライド30 (スライド30の内容)

こちらは希望を持ちつつもまだ課題にも直面しているという写真です。気候変動が起こり、北極、南極の永久凍土を解かしています。海面が徐々に上昇しています。ですが私どももそのような動きとともに変革をもたらすことはできるわけです。そしてユニバーサルデザインのもとで最良の知識を共有することはできます。DAISYコンソーシアムの場を通じて、また主要な出版業界を通じて、障害者がインクルーシブな知識ベースの資源にアクセスをし、最終的にはすべての人を対象としたインクルーシブな社会を作ることができると考えています。

手遅れにならないうちに、今すぐ行動すべきです。

スライド31 (スライド31の内容)

発表は以上です。どうもありがとうございました。

モンティエン・ブンタン氏の写真