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ディスレクシア・キャンペーン 意識改革はゆっくりと

モーナ・エンネスタム(Mona Önnestam)
スウェーデン録音点字図書館

項目 内容
転載元 1999 New Library World No.1148

キーワード

オーディオ・ビジュアルエイド、ディスレクシア、図書館間貸し出し、公共図書館、資金提供、スウェーデン

要約

 スウェーデン・ディスレクシア・キャンペーンには70以上の協力団体が参加した。中でも重要な団体はスウェーデン録音点字図書館(TPB)で、このキャンペーンに対し、多くの資金援助と支援を提供した。短期間的な評価では、努力しただけの結果は得られていない。とは言うものの、意識改革は急速には起こらない。TPBは様々な情報と図書館同士の貸し出しを行うことにより、地域の図書館や学校を支援してきた。録音図書の情報を広めるというTPBの役割はキャンペーンにとって非常に役に立った。TPBは新しい活動を最初から始める必要はなかった。すでにやっていて良い結果を得られていることを、さらに、特定の分野に焦点をあてて行った。


スウェーデン・ディスレクシア・キャンペーンは1996年8月に始まり、1998年に終わりました。いいえ、まだ正確には終わっていません。全国キャンペーンは終わりましたが、地域的なキャンペーンはいろいろな場所でまだ続いているのです。もちろん、それがキャンペーンの目的でもあったのです。すなわち、読み書きに障害のある人たちに対する意識を変化させ、より良い支援を行うべく地域の活動やネットワークを奨励することです。

このキャンペーンはエリーサベット・レスレゴード(Elisabet Reslegård)が、提案し、指揮しました。彼女の動機は個人的な経験に基づいています。というのは、彼女のご子息がディスレクシアだったからです。しかし、ストックホルム・カルチャー・センターの情報課のヘッドとしての専門的技能がなければ、このような大成功を収めたキャンペーンを率いることはできなかったでしょう。

エリーサベットは、体系的にパートナーシップを組んでいきました。まず、ディスレクシア団体は最も重要で、図書館、営利団体、労働組合、政府当局など提携可能な全ての団体をピックアップしていきました。

キャンペーンを支援した全ての団体を記述するのは不可能です。最後には70もの団体が関わりました。この記事の中では、特に私ども、スウェーデン録音点字図書館(TPB)の試みに焦点をあてて紹介したいと思います。

TPBは政府から100パーセント資金援助を受けている国立図書館です。TPBの目的は録音図書や点字図書を製作し、貸し出し、その情報を知らせることにあります。また、その対象として、印刷字の読めない人、学習障害の人を含みます。また、印刷字の読めない大学レベルの人たちに特別なサービスを提供し、研究と開発に力を入れています。デジタル録音図書のシステムである。DAISYの開発を始めたのもTPBで、現在では国際DAISYコンソーシアムの働きにより、DAISYは国際標準規格になりつつあります。

録音図書

 録音図書はカセットまたはCD-ROMに録音された貸し出し専用の電子図書です。録音図書のコンセプトは、販売を認めないという著作権の問題があるので、貸し出しのみに限られています。スウェーデンでは商業用の録音図書は“カセットブック”と呼ばれ、区別しています。TPBはいかなる出版物でも、著者や出版社に許可なく録音図書にすることが認められています。

録音図書は、視覚障害者、身体障害者、読み書きに障害がある人、失語症の人、知的障害者、難聴者(聴覚トレーニングのため)、慢性的疾患、健康回復期の人たちなどを対象としています。

スウェーデンでは、地域の図書館(地方自治体の図書館、学校図書館)で録音図書を借りることができるのに対して、TPBは図書館同士の貸し出しを行うセンターです。TPBには45の異なる言語で5万8千タイトルの録音図書があり、毎年3千タイトルの新しい図書を製作しています。地方自治体の図書館所有の録音図書もあり、各郡の図書館には比較的大きな録音図書セクションがあります。

中心的プロバイダーかつ地域のハブ的役割

 このキャンペーンのことを最初に聞いた時、それは始まるずっと以前のことでしたが、このキャンペーンは私たちが念頭に置いているあるグループにとって益となるだろう、と考えました。最初にエリーサベットに連絡したのはTPBでしたが、その時にはまだTPBが重要なパートナーになるとは思いませんでした。実に、私たちの図書館スタッフもどのくらいの資金とどのくらいの努力を費やすことになるのか、想像も出来ませんでした。

エリーサベットは郡の図書館が各地域のハブ的存在になると気づいていました。しかし、郡や地方自治体の図書館は情報、助言または実際的な援助を求める場所が必要であるということも知っていました。キャンペーン本部はあまり大きいものではなく、TBPと協力することによって、各図書館は必要なサポートが得ることができました。各地域は全国的な情報を得ながら、独自のローカルキャンペーンを行いました。

後援

 スェーデンクローネで200万クローネ(25万USドル)かかるキャンペーンを後援してくれる国の機関を探すことが出来るでしょうか。
いいえ、それは出来ません。その時、図書館の予算は8000万クローネで、使うことはできません。私たちはこのキャンペーンを相互利益のために一大事業として一本化しました。例年行うあるグループに対しての事業にいつもより努力を注いだのです。

読むことが困難な人は、熱心な読書家ではありません。もちろん、録音図書も含みます。このような人たちにとっては、本はおもしろいと感じられないのです。録音図書を借りる権利があることさえ気づいていないでしょう。

私たちは、情報を宣伝する必要があります。“もし、読むことに問題があるなら、録音図書を借りることができます。大人向け同様、子ども向け、ヤングアダルト向けのスウェーデンの図書をほとんどそろえています。”

注目を集め、広く伝えるための媒体をこのキャンペーンで探すことができました。私たちを知っている人の間では、良い評判が得られていましたが、多くの人は存在さえも知りませんでした。そして、TPBは視覚障害者のためだけに存在していると思っている人もかなりいました。

なぜ、あえて宣伝する必要があるのでしょう。先ほど書いたように、ディスレクシアの人たちは本に関心がありません。本が読めない人は知識と理解に飢えているのです。彼らにとって、録音図書が革命なのです。そのような体験をした2人を紹介しましょう。

ファニー の場合

 ファニーは現在12歳です。彼女の家庭では本は非常に重要です。母親はありったけの販売している録音カセットを購入しました。しかし、スウェーデンではその数はあまり多くはありません。ファニーは何度も何度も同じカセットを聞かなければなりませんでした。

ある日母親は図書館員に会う機会があり、いろいろな録音図書が図書館にあることを聞きました。ファニーの母親はこう言いました。“読んでみたいと思っている本をいつでも、すべて借りられることを知った時の、ファニーの顔を見て欲しかったわ。”

今ファニーはストックホルムで一番よく録音図書を借ります。1日で1冊を読み終わってしまうのです。地域の図書館は、録音図書を配達しますが、郵便受けは小さすぎるので、録音図書を入れてもらうための大きな箱を持っています。

ファニーは他の子どもたちと同じように、自分用の本を持ちたいと思っています。個人用なら録音図書をコピーするのは合法です。ファニーはお気に入りの録音図書のコピーを取り、それらを箱に入れ、表紙にオリジナルの絵を描きました。

最近では、ファニーがそんなにたくさんの本を読んでいるので、学校の友達がどんな本がおもしろいかを尋ねるようになりました。

ロニーの場合

 ロニーは33歳で、学校時代、一度も宿題をしたことがなく、本を避けていました。何年か前、録音図書のことを聞きました。彼は胸がいっぱいになりました。“今まで誰も助けてくれたことはなかったのに、突然誰かが本を読んでくれた。目が見えるのに、本を届けてもくれる。こんなことをしてもらう価値はないのに”

彼は、録音図書を聞くことに慣れるのに、時間がかかりました。お茶を入れ、サンドイッチを作り、枕をまわりに並べて、面白い録音図書を聞いて、楽しめるだろうと思いました。15分後、彼はとても緊張して、録音図書を止めなくてはなりませんでした。本に出てくる場面が学校時代を思い起こさせ、そこで非常に集中しなければならなかった記憶がよみがえったのです。

でも、良い方法を思いつきました。音楽をかけ、テレビを見ながら、そして同時に録音図書を聞きました。しかし、一番好きなやり方は、森でのこぎりで木を切りながら、ウォークマンで録音図書を聞くことです。

彼は大きくて、難解な本、たとえば哲学、宗教、歴史などが好きで、見つけてきた風変わりな本を録音図書にしたらどうかと提案します。もちろん、私たちは録音図書にします。

読書が困難な人のなかには、本が好きになる可能性のある人や、生涯数冊の本しか読まないという人もいるかもしれません。そういう場合、録音図書というものが存在しているということを知らせることが重要です。そのような人たちに直接情報を教えることができないので、たとえば、教師などのような中間の人との連絡が必要です。

TPBのキャンペーンでの役割

 TPBは賢くやろうとしました。新しいことは何一つしていません。この特別な対象グループのためにやっていることにもっと深く関わったのです。

議事録による契約

キャンペーンの最初の1ヶ月分の給料を、エリーサベットに支払わなくてはなりませんでした。契約で、情報を必要としている人に彼女が会った時、必ず録音図書の情報を彼らに提供するという条件を明記し、給与を支払いました。従って、彼女が出席した会合の議事録に対して支払いをしました。キャンペーンの最後の1ヶ月分の給料も支払いました。最近聞いたのですが、彼女が出席した討論会で今でも“あなたの耳で読む”こと、また、TPBがいかに素晴らしいかを話していたそうです。

テレビ

 また1分間の短いビデオも作り、テレビで何回も流しました。スウェーデンでは、公共放送で、公共機関が“掲示板”と呼ばれる番組に参加することが、認められていますが、民間企業には認められていません。

そのフィルムを製作するにあたって、アイデアや脚本も含めて4人のプロデューサーに競ってもらいました。採用したプロデューサーに、優れた、完璧なアイデアだったと誉めると、“それは、私自身ディスレクシアだからかもしれない”と彼は言いました。

ビデオの中で、また吟味した雑誌の広告の中で、地域の図書館を訪れるよう、案内しています。

図書目録、ポスター、小冊子

 ディスレクシア・キャンペーンはTPBの活動と同じように地域における活動を土台にしています。録音図書の目録、小冊子、ポスターなどによる情報を地域の図書館や学校に提供しています。このような情報のカセット版もあり、すべて無料です。

地域の図書館はどのようなサービスを提供するかを独自で決めることができます。私たちの小冊子を図書館のテーブルにおいて、録音図書を実際に見てもらうこともできます。または、大きく展示したり、講演会やミーティングを開くこともできます。

キャンペーン用の特別な資料を作り、非常に好評でした。キャンペーンが始まる1年前、6トンもある図書目録やその他を郵送しました。キャンペーン中は20トン送りました。スタッフは荷造りをするのに奮闘していました。

記事とミーティング

私たちが発行している雑誌“ビブリオテーク フェル アッラ”(みんなの図書館)に、キャンペーンの記事を数多く載せました。たとえば、録音図書を読んだディスレクシアの人へのインタビューなどです。この雑誌の読者は主に、図書館司書や学校の先生で、無料で購読できます。

もちろん、いろいろな新聞、ジャーナル、雑誌にも記事を載せ、より多くの人の目に触れることができました。

また、図書館に声をかけ、内外のミ-ティングや録音図書についての講演会を、無料で行いました。多くの図書館がこのような機会を利用しました。

特別な図書

 目は見えても、読むのが困難な人たちのために、TPBは読む訓練用に特別な録音図書を製作しました。2,3種類のスピードの段階があります。一番良いスピードを選んで、同時に本文を読むことができます。需要が高まったので、キャンペーン中にさらにコピーを製作しました。豪華なイラストのあるノンフィクションも録音図書で数多く製作していますが、図書館や学校ではこのような録音図書の潜在性については完全には理解していません。

費用

 特別な活動、特別な情報資料、展示品、特別な録音図書の製作のための費用は2百万スウェーデン・クローネかかりました。通常の年における、ディスレクシアを対象にした通常の活動や、給料などは含んでいません。1996年と1997年の労働時間のほとんどはキャンペーンに費やされました

成果

 努力しただけの成果は得られたのでしょうか。私たちが希望していたのと同じ成果が得られたとは言えません。商業用オーディオブックと録音図書との違いについて、いつも混乱がありました。新聞などで、“カセットブック”という言葉が使われましたが、明らかに、写真に写っているのは、録音図書を読んでいる人です。このことがそんなに問題ですか?実はそうなのです。なぜなら、スウェーデンの公共図書館では、カセットブックの場所を尋ねると全く違う場所に案内されます。録音図書とカセットブックは違う場所に置かれているからです。

貸し出し

 録音図書の貸し出しはキャンペーンをしても、あまり増えませんでした。何故でしょう?ひとつには、ディスレクシアの人たちはあまり本を借りないからです。ディスレクシアの人たちはたくさんいて、もし1年に1冊の本を読んだとしたら、かなりの数になるはずです。

図書館に彼らが訪れた時、どうように扱われたのでしょう。必ずしも理解のある対応を受けてはいません。中には、録音図書は視覚障害者のみが借りることができる、と言われた人もいるかもしれません。商業用カセットブックを借りる方が簡単です。なぜなら、障害があると告げなくてもいいからです。

TPBから録音図書を借りたがらない図書館もあります。そういう図書館は今あるストックだけで十分だと考えています。録音図書の70%がTPBからしか借りることができません。その中には、子供用、青年用、ノンフィクションのほとんどを備えています。

録音図書を読むことは大変ですか。カセットになった本を読むことは、時代遅れです。しかし、TPBはCD-ROM(DAISY)による新しい電子録音図書を開発しています。読むことが困難な生徒の中には、電子録音図書を好む人もよくいます。キャンペ-ンの後、TPBのサービスを受けるディスレクシアの人たちの数は2倍になりました。

図書館の反応

公共図書館にアンケートを送り、ディスレクシア・キャンペーンについての意見を聞きました。ほとんどの図書館はキャンペーン中、録音図書を新しく利用する人が増えたと答えました。ほとんどは子どもや教師ですが、中には読むことが困難な大人もいました。

 図書館スタッフの知識も深まりました。録音図書について以前よりよく理解し、単に視覚障害者だけを対象にすることが少なくなりました。

多くの図書館がそのことは、キャンペーンに起因していると考え、もっとよく知りたかったと考えています。ある図書館は、最初はどちらかというと懐疑的だったが、最後には深く関わったと答えました。

録音図書利用者

 ディスレクシア・キャンペーンでは終了後にディスレクシアに対する態度と知識に変化があったかどうか調査しようとしました。そのために録音図書に対する質問を1、2つ、加えるつもりでした。しかし、残念ながら、それをしなかったので、結果を得ることができませんでした。

地方の図書館に録音図書を貸し出す場合、利用者の個人情報を得ることはできませんし、さらにわからないのは、何故ディスレクシアの人たちが録音図書を借りないかということです。今年、読み書きに困難がある人たちのための団体に対する調査を行いました。あまり多くの回答は得られませんでした。様々な地方から26の回答がありましたが、数多くの団体を代表する回答にはなり得ませんでした。その中で、24の団体は、図書館で録音図書で録音図書を借りることに積極的である、という回答で、そのことは、ディスレクシアの人たちがサービスに満足しているという事を示唆しています。

教師や親からTPBにかかってくる問い合わせの電話は確実に増えたと言えます。TPBにディスレクシアの子どもたちの支援に関する問い合わせが、増えたことは喜ばしいことです。しかし、そのほとんどは“本とテープ”に関するもので、“読むことを訓練するための録音図書”という意味での問い合わせです。はっきり言えば、ふつうの録音図書を子ども達のために使うよう、教師や親を教育するということに焦点をあてる必要があります。読書は、訓練するためだけではなく、楽しむためにあるのです。

意識を変えるということは急速には進みません。長い間、スウェーデンの人たちの録音図書に対する認識は、単に目の悪いお年よりのため、というものでした。このキャンペーンにより、様々な年齢や好みの録音図書があるという認識を広めることが多少できました。最近は録音図書とTPBのことが以前よりは知られるようになりました。

キャンペーンが残したもの

 このキャンペーンから何が得られたのでしょう?あなたの団体はスポンサーを求めていますか?あるいは私たちの経験から得られた知識をスポンサーは知っていますか。

まず始めに、エリーサベットのアドバイスをご紹介します。

  • 簡単な事から始めよう?これはどんな場合でも良いモットーです。
  • 多くの場合、ドアオープナーを探す必要があります。政府関係者、団体、企業に関わらず、あなたが手を差し伸べたいという人たちによく知られていて、信頼されている人です。
  • いつも企業の取締役、マーケティング部長、官庁であれば、それと同じような立場の人に会うようにしています。
  • 一人でミーティングに出ることはめったにありません。2人で出るほうが、効果が得られるからです。
  • そこから何が得られるか考えずに、ミーティングに出席しないこと。可能なら結果を得ること。次の機会はないかもしれないのです。

私の見解

 このキャンペーンではTPBがスポンサーでした。ほとんどの図書館は、そのような立場にはなく、後援を得ています。スポンサーの目からみた見解は、将来パートナーを理解する上で役に立ちます。

マーケティングスクールに行っていたとき、質問に答えるようにといつも教えられました。「あなたにとって、何が役に立つのか」TPBが自分たちの利益はないと考えたら、このようなキャンペーンにこれほど、努力しなかったでしょう。録音図書についての情報を広めるというTPBの使命は、キャンペーンの使命と一致していました。いわゆる、“双方プラスな状況”です。

TPBは新しい活動をする必要はありませんでした。私たちがやってみて良かったことをもっと行い、また焦点を絞り込むことができました。

ある事業を成し遂げようとする時、その結果を完全に予測することはできません。それは、おそらく良いことです。というのは、やっているうちに、良い方向になることが多々あるからです。ですから、とにかくやってみて、結果的には驚きと誇りをもって、さらに努力していけるのです。