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未来の学習教材 読み書きの障害/ ディスレクシアがある人々のために
要求事項及び潜在的なニーズに関する調査報告

第2部 ニーズに関する調査報告

発達障害、視覚・聴覚障害、或いは失語症などの特殊な言語障害が主な原因ではない、読み書きの障害がある生徒のための教材や指導法に関して

スウェーデンにおける15歳の児童の識字力

2001年12月、スウェーデン学校教育庁(Swedish National Agency for Education)は、PISA(Program for International Student Assessment:国際学生評価プログラム)という国際的な統計の結果を報告した。このプログラムは、32カ国において、読解、数学、科学に関する15歳の児童の能力を調査したものである。スウェーデンでは、152の中学と2つの高校から4,416人の生徒が参加した。

読解

以前の調査で使われていた識字力という言葉は、今回の調査では「個人の目標を達成し、知識を深め、学習の機会を広げ、更に社会参加をするために、文章を理解し、使用し、また思考する能力」と定義された。生徒は長文と短文を読まされ、実生活の中で遭遇しやすい課題を与えられた。つまり、全体を理解し、情報を探し、解釈し、文章の内容と形式について考察しなければならなかった。そして、パラメーターを基に情報検索、解釈そして思考という3つの評価基準が設定された。各評価基準は、5つのレベルに分けられ、それぞれのレベルで、生徒が使うべき知識や能力の種類が定められた。それから各課題が1から5の段階に分けられた。レベル1より下の生徒は、PISAが評価しようとしていた最も基本的な知識や能力さえ示すことができなかったというわけである。この生徒達は、読む能力がないわけではなく、読む能力を使って効果的な進歩を遂げたり、知識を増やしたりすることに深刻な問題があったのである。

他の国に比べて、スウェーデンの児童はよい結果を出した。しかし、これはそれほど意味はない。というのは、この結果は社会が要求することと関連づけて評価されなければならないからである。スウェーデンでは社会の要求は32カ国の中で最も高かった。レベル1から5の評価基準についてのスウェーデンの結果は以下の通りである。

レベル
女子(%)
男子(%)
1以下
1.8
4.6
1に到達
6.0
12.3
2に到達
17.1
23.2
3に到達
31.2
29.8
4に到達
28.7
22.7
5に到達
15.1
7.4

この結果から、スウェーデンの16.9%の男子と7.8%の女子が最も低いレベルか、それ以下であることが明らかである。研究者達はこれらの生徒は、個々の事実の詳細や主題を見つけるなど、一番単純な読みの課題だけしかできなかったと記している。また、24.9%もの女子と40.1%もの男子が、レベル3に到達しなかったが、この生徒達は、文章の複数の箇所にまたがっている結論を導き出すことと、文章から得られた情報を他のソースから得た知識に結びつけるのが難しいことを表している。更に、このような生徒達は文章の特性と妥当性を判断できない特徴がある。

任意の読書

調査に参加した国々の中で、読書に興味がある生徒達は、あまり興味がない生徒達よりもよい結果を出した。スウェーデンの男子の45%と女子の27%が、余暇に全く読書をしないと報告されている。

数学

数学に関しては、生徒は問題を数学的な用語で書き直すよう求められた。そして問題を解くために式を作るよう要求された。数学的な知識は、科学的な場面を設定した問題に加え、生徒が学校、職場、遊びなど私生活の場面で遭遇するであろう問題と似たような課題を使っても評価された。

調査の結果、生徒の得意、不得意分野をまとめてみると、スウェーデンは平均的な国であることが分かった。つまり、スウェーデンの生徒は、統計と空間認知に強いが、代数、関数と幾何学に関する問題は苦手であった。

科学

スウェーデンの生徒の科学的な知識は、OECD諸国の平均的な結果よりも上であった。これはスウェーデンの教育システムが、より多くの生徒に、科学的な場面での問題を処理するより優れた基礎を提供しているということを示していると考えられる。しかし生徒達は科学によって様々な現象を説明できるとは言い難いことが分かった。

社会的な背景

スウェーデンでは学校間の違いはほとんどない。しかし、スウェーデンは学校内での生徒の成績に最も大きな差が見られる国の一つである。スウェーデン語を母国語とする生徒達は3つの分野全て(読解、数学、科学)において最も優秀な成績を納めた。そしてそれにスウェーデン語ともう一つ他の言語を母国語とする生徒達が続いた。平均して最も成績が悪かったのは、スウェーデン語以外の言語が母国語の生徒達であった。

家庭における本の数と学校での成績にははっきりとした関係がある。本の数それ自体がよい成績につながるのではない。しかし、家庭でいつでもすぐ本が利用でき、大人が読書をするのを日頃から見ている若者達が自然に家で読書をするようになるということは、以前からよく知られている事実である。これとともに、PISAの調査を行った研究者達は、成績が悪かった者のうち50から60%は、家にほとんど本がないということを指摘している。

単語の解読

単語の認知のスピードと正確さをはかるために、スウェーデンでは単語連鎖のテストも行われた。このテストで、反射的に単語を認知する能力が、より高いレベルの読解に必要な基本条件であることが確かめられた。「だから、単語を認識する能力が低ければ、読解の重大な障害となるのである。もちろん、語彙や事前の知識不足、受動的な態度、文の構造に対する不確かな理解や、結論を導くのが苦手であるというような他の問題もある。」

識字力に対する強い要求

PISAの調査では、生徒の識字力が数学と科学の成績にどの程度影響するかを判断することもできる。報告書は、次のように記している。

「数学の課題中の文章は、短いことが多いが、しかし多くの情報を含んでいる。そして、全ての生徒がよく知っているわけではない、抽象的な概念が入っていることが多い。生徒が単語を理解できなかったり、或いは単に間違って読んでしまったりすれば、課題を理解することができなくなる。もし課題の説明を耳で聞き、そして言葉の説明を受ければ、もっと多くの生徒がおそらく正しく答えられたであろう。科学的な文章も情報が豊富で、一般に抽象的な言葉や式を含んでいる。一方、フィクションや、一般的な事実を記した散文は、たいていの場合、もっとくどくどしている。(つまり、同じ事実がいくつもの違った方法で何度も表現される。)フィクションの文章では、もし生徒が一度で事実を理解しなくても、あとで違った形でも出てくるので、理解する機会はまだあるのである。」

報告書によると、何人かのかなり年長の生徒が、「要点を拾って」読むことに慣れてしまっていて、科学的な文章や、数学的な用語や問題を含む文章を読むときに、大変苦労しているとのことである。PISAの報告書はまた、読解テストでの誤りの22%と、数学テストでの誤りの16%、そして科学テストでの誤りの15%は、単語の認知が悪いことが原因としている。そして、科学テストでの誤りの76%と数学テストでの誤りの70%は、読解の問題に関係があるとしている。報告書では、次のように述べている。

「15歳の生徒達にとって、素早くそして正確に単語を解読する能力が発達しているということが、数学や科学のテストにおいては重要である。これに加え、生徒の読解テストの成績も重要で、数学と科学のテスト両方において、成績に大きな差が出る。このことは、高い識字力が、生徒が数学と科学の教科のテストでどれだけ成功するかを決定しうるということを表している。」