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未来の学習教材 読み書きの障害/ ディスレクシアがある人々のために
要求事項及び潜在的なニーズに関する調査報告

指導環境

1980年代にコンピューターが初めて使われだしたとき、当然抵抗を感じる人々もいた。純粋に技術的な用語を使っての操作がやりにくかったこと、また人と機械との相互関係がまだ発達していなかったこと、そして明確な標準規格がなかったことなどがその理由としてあげられる。更に、誰でも利用できるという普遍的なアプローチや、コンピューター技術の可能性、利益、及びどうやってそれを日常生活に取り入れることができるかに対する洞察も何もなかった。コンピューターの利用に当たっては、それぞれの教師がそれまでの考え方を変えるよう強いられたが、それには、既にできあがっていた個々の指導法に対する見直しをする意志が必要とされた。このような考え方の変革がどのように行われたかは、1984年の、指導におけるコンピューターに関する協会の結成に、その一つの例を見ることができるであろう。この組織は10年後名前を変え、今は、DUI(スウェーデン語で、「教育におけるコンピューター」)として、スウェーデンで知られている。この組織の目的は、指導にコンピューターを利用している教師を支援することである。このように、純粋な技術としてのコンピューターから、日々の指導の場面で活用するコンピューターへと見方を変え、焦点を移していくのには、明らかにかなりの時間が必要であった。

コンピューターの受け入れがこれほどゆっくりとしたペースであったのは、現代の知識観から考えれば理解できる。私たちは誰もが個人的に、理論と実践の両方において、新しい情報を知識に変えていかなければならないが、私たちが外部から受け取る、技術と補助的な福祉機器に関する情報は、私たちの以前の経験と創造的な方法で結びつけられなければならず、それは一夜にしてできるようなことではないからだ。

同様に、特別に配慮された教育を受ける権利がある障害者に関しても、その指導にコンピューターを導入するプロセスにはやはり時間がかかる。今日、新しい技術の助けを借りて、特別な教育を行う必要条件は整っており、ユーザーのニーズに合わせてインターフェースが改良され、標準化されているが、未だに、ユーザー同士で、或いはその周囲の人々が、誰でも利用できるということにはなっていない。そのため、技術開発と並行して、多くの教育的かつ経済的なイニシアチブが必要とされるであろう。読み書きの障害/ディスレクシアがある人々は、自分自身で技術とそれを補う手段とを発見し、学ばなければならない。これは逆に教師その他の教育に関わる人々も、個々の生徒のニーズに合わせた指導を採用できるように、そのような知識を持つ必要があるということである。そして、どの福祉機器と教材がそれぞれの生徒に必要かについて、指導計画を立てる早い段階で問題とする所まで、状況を進展させなければならない。これは更に各教師が自分の指導方法を、生徒のニーズにあわせて見直す時間をとる必要があることを意味する。これを実施するには、教師は雇用者である学校長から、このような考え方の変革が必要であるというはっきりとしたシグナルを受け取らなければならない。そして、教員養成大学もまた、学校にとって基本的な重要条件として、障害のある生徒とそのための特別に改良された教材及び福祉機器について民主的なアプローチをするよう、未来の教師を教育する義務がある。現代の知識とこれまでの経験に基づくアプローチが求められるのである。

特殊教育のための教材

1990年代の初期から、スウェーデン語でSIH(スウェーデン国立障害児教育研究所)として知られる学校の障害者問題に関する研究所が、様々な障害がある児童や青年のための特殊教育教材の開発、製作及び販売を担当してきた。SIHの活動には、出版社が製作した教材の改良と、SIH独自の教材開発、製作、宣伝、及び販売活動があり、教材の開発は、イェーテボリ、ウーレブロ、ソルナ(ストックホルム)とウーメオにある研究所の教材部で行われている。データペタゴーゲン(Datapedagogen)と呼ばれる部では、研究所が販売するコンピュータープログラムのユーザーサポートを行っており、更に重要な仕事として、出版社や個々の制作者に対して製作をサポートしたり、市場に適した教材に関する情報を提供したりしている。

SIHは、特殊教育に対する特別な責任を負い、視覚障害や全般的な学習障害、また身体障害がある生徒や、聴覚障害がある生徒のための教材を製作していた。例えば、テープに録音した教材(録音図書)が視覚障害者のために製作され、それには、写真や絵の口頭による説明や、テープを変える際の分かりやすい指示などが入っていた。このようにSIHは、当初は読み書きの障害/ディスレクシアがある生徒を対象としていなかったが、1990年代の終わりにかけて、ディスレクシアの人にも以前録音した教材を提供するよう、一時的に依頼され、それ以降、この一時的な解決方法が、もっとよい代わりの方法がないので、続けられていた。

SIHは2001年7月で廃止され、SIT(スウェーデン特殊教育学会)に取って代わられた。SITもまた読み書きの障害/ディスレクシアがある生徒を担当することになった。しかしSITは教材の製作は行わないため、教材と福祉機器に関する特別調査委員会が報告書を提出するまで、問題は解決されないまま残されてしまった。

スウェーデンのSIH(SITではない)とノルウェーのLSは共同で、学校をあらゆる人にとってアクセシブルにするために教材開発のガイドラインを作成した。この努力は、2つの文書に結実した。一つは、よい教材製作全般に関する文書で、もう一つは(写真参照)各ユーザーグループの特性を扱った文書である。

SITへの移行期間中、SIHは、ノルウェーの協力団体である、LS(ラエリングッスントレット)との、「障害者のための教材開発ガイドライン」に関する共同プロジェクトに取り組んだ。この協力活動の一部として、FMLAに関わりのある人の中から、読み書きの障害/ディスレクシアの知識を持つ専門家が選ばれた。

読みやすい図書

1968年、スウェーデン学校教育庁の前身であるSO(スコールーベルスティルッスン)により試験的なプログラムが始められ、様々な出版社との協力により読みやすい図書が出版された。特に、スウェーデン知的障害者協会(FUB)が、分かりやすいニュースのニーズを指摘してからは、学習障害者やその他の読みの問題を抱えるグループに対してニュースを提供する条件に関する調査が、1984年、全国録音新聞委員会に依頼された。そして「8ページ」という新聞の第一号が発行され、3年後には、これを定期的に発行していくことが決定された。8ページの発行を担当するLL財団が結成され、読みやすい図書の出版は、SOからLL財団へと移行された。1991年の春にはLL財団はLL-フーロゲッツという独自の出版社を設立し、ELLENという雑誌を使った図書の通信販売も始めた。1997年に、LL財団は読みやすい図書センターと言う名称を使い始め、読みやすい資料を製作するという考えに基づいて活動している。

読みやすい、という概念は、内容が具体的で筋が簡単な文章を基本としている。登場人物や場所の設定が少なく、一般に一連の出来事が時間を追って描写され、フラッシュバックや先に飛んでしまうことがない。文章もまた具体的でなければならない。長い、一般的でない単語は避けなければならない。例えば、「refectory(食事室)」という言葉の代わりに、「cafe(カフェ)」という言葉を使う。抽象的な概念や、2つ以上の解釈がある表現は、読みの障害がある人々には難しいと考えられる。"He is a big actor.(彼はビッグな俳優である。)“という文は、その俳優の体が大きいのだと取られてしまう可能性があるし、「お金をどぶに捨てる」という比喩的な表現が、文字通りの意味に解釈されてしまうかもしれない。また、能動態(「彼らは2人の若者を雇った。」)の方が、受動態(「2人の若者が雇われた。」よりも好まれる。この他、同義語は避けて、文章中の同じ事柄は、一貫して同じ単語を使って表すのがよい。

LL-フーロゲッツ出版社では、多くの読者がピリオドやカンマのような句読点を区別するのが苦手なため、一般に右マージンが不均等な、フリースタイルの印刷形式を普段使っている。読みやすい文章では、できるだけ従節を少なくするべきで、従節を挿入することは絶対に避けるべきである。この他、適切な、十分な余白を取ったレイアウトと、文章の内容を意識的にサポートする方法で、絵や写真を利用することも重要である。

読みやすい図書センターはまた、ディスレクシアなど、読みの障害がある人々を対象とした図書の製作も担当している。この活動は、同じ基本概念に基づいて行われているが、他のグループを対象とするときよりも、知的レベルが高い図書が製作されている。しかし、センターでは学習教材は製作していない。

録音図書

スウェーデン国立録音点字図書館(TPB)はスウェーデンの視覚障害者による政治的な活動の結果設立された。スウェーデンの視覚障害者のニーズを満たすために、視覚障害者の協会(DBF)が1950年代に図書館を開設し、そこで録音図書を製作したのが始まりである。DBFはその後1975年にスウェーデン視覚障害者協会(SRF)となり、1980年にTPBが組織されたとき、図書館は国の施設となった。スウェーデンの著作権侵害に関する法律、URL§17セクション2によれば、TPBは、「朗読或いは他の音声録音からのダビングによる音声の録音を通じて、文字で書かれた形式の作品を利用することができない視覚障害その他の障害がある人々に貸し出すため、出版された文献のコピーを製作する権利がある」と定められている。政府はこのような録音図書の製作を認める許可証を発行する。TPBでは録音図書の貸し出しは行われるが、販売はされていない。TPBの他にも、スウェーデン特殊教育研究所もまた、録音図書を製作する権利を持っているが、録音方法は、視覚障害者のニーズに即している。このことは、作品が脚色されておらず、書き言葉のニュアンスを保った方法で朗読されていることを意味する。絵や写真その他の図も詳しく説明されている。

SRFの活動が成功を収めたことは、視覚障害者だけでなく、その他の読みの障害がある人々にとっても多くのことを意味した。1980年代の初め、TPBの図書館は、録音図書の貸し出しを拡大するよう指示を受けた。この時、視覚障害者以外の読みの障害がある人々にも、録音図書を利用する権利が正式に与えられた。しかし、1990年代半ばになっても、FMLSはTPBと共同で、読み書きの障害がある人々が実際に録音図書を利用できるよう保証するために活動を続けていた。なぜなら、スウェーデンの図書館司書全てが、これをはっきりと認めているわけではなかったからである。1996年と97年の全国的なディスレクシアキャンペーンを経てはじめて「読みの障害があるその他の人々のニーズ」という言葉が認められるようになったのである。

1980年代には、TPBは大学の学生にプロジェクトベースで、録音図書による専門文献を提供し始めた。結果は大変好評で、この方法は、1990年代初期に常設のコースとなり、ディスレクシアの人々も参加できるようになった。

現在、TPBは高等教育を受ける視覚障害、ディスレクシア及びその他様々な障害がある学生が、それぞれのニーズにあったメディアを使って受講に必要な文献を利用できるよう保証することに責任を負っている。今日、ディスレクシアの学生はこのサービスを利用する、最大のグループである。