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方法

読みやすい新聞の誕生には、資金がきわめて重要な役割を果たすので、低コストの製作方法を見つけられるよう、その可能性を徹底的に調べていきましょう。

コストを最小限に抑えるには:

「新聞」という言葉の使い方を定義しておいた方がよいでしょう。
私の考えでは、新聞の最も簡単な形式は、まさにその言葉通りのものです。つまり、ニュースが書かれている何らかの紙製品です。それは必ずしも、複数のページからなる、「印刷会社」で製作された製品である必要はありません。

  • 資金不足の場合、読みの訓練を受けていない読者を対象としたニュースの提供を目的とする組織は、短いニュースダイジェストを掲載した1枚の紙を発行することで、きわめて簡単にその目的を果たすことができます。これで十分足りるでしょう。製作費は安く、配布にかかる費用も少なくてすみます。このようにすれば、購読者は(もし新聞代を支払わなければならないのなら)、ニュースを得るために多額のお金を支払う必要はなくなります。
  • インターネット上で発行することも、比較的安価な代替策です。
  • もう一点検討しておかなければならないのは、どのくらいの頻度で新聞を発行するかということです。私の考えでは、発行回数を月1回よりも少なくすることは、まず不可能です。コメント付きのニュースダイジェストを1か月に1度提供することは可能です。しかし、もしそれよりも発行回数を少なくした場合、それはとても新聞とはいえないでしょう。

このように、新聞の発行回数の選択肢としては、1か月に1度、2週間に1度または毎週、あるいは経済力があれば毎日でもよいのです。

  • ターゲットグループを選びましょう。長期的に見て、前述のターゲットグループ(知的障害者、学童、ディスレクシアの人々、移民など)をとりまぜて対象とすることが、多くの購読者を獲得するチャンスをもたらすでしょう。最も簡単で、安価な方法は、一つの、明確に定義されたターゲット、たとえば知的障害者から始めることです。おそらく皆さんは、知的障害者にコンタクトする方法を、きちんと心得ているでしょう。住所も知っているかもしれません。知的障害者向けの新聞が無いことも(少なくとも、知的障害者のニーズを特に念頭において書かれた新聞は無いということは)、ほぼ確実だといえるでしょう。選んだターゲットグループについて何か知っていれば、読者のニーズに合わせて製品全体をあつらえていくことができます。

コストレベル別の製作戦略

以下にあげるのは、私が描いたいくつかの製作シナリオです。これらのシナリオでは、コストレベルを低、中、高の3段階に分け、レベル別に、読みやすい新聞の製作方法に関するヒントや提案を提供します。

1. 低コストの代替策

低コストの代替策では、理想主義がキーワードになります。

インターネットニュース:

これは、印刷された製品よりも多くの読者を得られる可能性がある、最もお金のかからない製品であるといえるでしょう。

  • オーナーと編集者の権限:インターネットニュースは、個人が自主的に発行するか、あるいは団体やメディア企業の出資によるかのどちらかです。これは、多くの読者を引き付けることができますが、投資や給与の支給、開発などに使用できる資金を得ることは、ほとんど、あるいは、まったく望めないでしょう。
    編集者1人でも、イラストや専門的なレイアウト、リンク、その他を完全に備えた、プロフェッショナルな新聞を、インターネット上で簡単に製作でき、また配信もインターネットを通じて行うことができます。
  • 発行頻度:日刊あるいは週刊など、何でも可能です。
  • 新聞の規模:最新のニュースを掲載したウェブページ数枚と、データやリンク、過去の記事、インタビュー、特集記事、写真など何でも、何ページでも。
  • 印刷:何も印刷しません。
  • 編集事務所:なくても大丈夫です。これは自宅で製作される場合が多いです。
  • 編集スタッフ:おそらく1人だけでしょう。
  • 設備:コンピュータ、スキャナ、鉛筆と紙。低コストの新聞は写真やイラストがなくても何とかなるので、高価なカメラ類は必要ないでしょう。
  • 計画:ウェブ新聞では、ニュースと、必要であれば写真を入手する方法だけを、企画すればよいでしょう。ニュースソースが身近にあれば、あとは一生懸命働き、それに専念するだけです。
  • 購読料:購読料は取りません。できるだけ多くの読者を、できるだけ頻繁に引き付けることが目的です。多くの読者を引き付けられれば、たとえば商業的なプロジェクトの可能性や、広告から資金を得られる可能性が出てくるかもしれません。
  • マーケティング:インターネット戦略やサーチエンジンなどの知識が役に立つでしょう。インターネット取引のコツはたくさんあります。

印刷された新聞:

新聞を印刷すると決めたとたんに、コストは増加します。
しかし、低コストを維持する方法がいくつかあります。

  • オーナーと編集者の権限:読字障害がある人々(知的障害者、あるいは移民、ディスレクシアの人々、学童など読む力が未熟な読者)を支援する組織が、当然のことですが、このような低コストの新聞のオーナーです。編集者はこの組織内の関心のあるメンバーの中から採用されます。
  • 発行頻度:月刊
  • 新聞の規模:1-2ページ
  • 印刷:ゼロックスコピーか謄写版印刷。紙代とコピー代を考慮する必要があります。組織のスポンサーがコピー代を負担しますか?あるいは購読料収入をこれにあてますか?
  • 編集事務所:なくても可能です。編集者(たち)は、自宅やその他どこでも、使えるスペースで何とかしなければなりません。
  • 編集スタッフ:編集スタッフは給料を支払われません。スタッフは組織のメンバーです。低コストの新聞は高品質のジャーナリズム製品とはとてもいえません。それには別の目的があるのです。おそらくそれは、もっと本格的な新聞を作るための第一歩なのです。スタッフは余暇、夜、週末などに活動します。
  • 設備:コンピュータ、鉛筆と紙。低コストの新聞は写真やイラストがなくても何とかなるので、高価なカメラ類は必要ありません。
  • 計画:編集スタッフが同じ目標や目的を共有していれば、長期計画の打ち合わせは特に必要ありません。
  • 購読料:購読者は組織の住所録に掲載されている人の中から選ばれます。郵送で配布するのではなく、実際に会う人や、事務所を訪れる人に、あるいは会議や学校の図書館、路上で配布することにしてもよいでしょう。
  • マーケティング:言葉の厳格な意味でのマーケティングはほとんど必要ありません。口コミのマーケティングに頼ります。

2. 中コストの代替策

印刷された週刊新聞:

この代替策では、新聞社は設備費と人件費にあてる資金を十分に稼ぐ必要があります。多くの読者を獲得し、引き付けるために、新聞を魅力的で、ジャーナリズム的にも面白いものにしなければなりません。新たな読者を獲得するには、マーケティング戦略の知識も必要です。それでいてなお、目標は、おもに読字障害を抱える人々に新聞を提供することにあります。利益目標は無いので、スタッフは現実の財政状態に合わせて、ジャーナリストとしての志をはたしていくことになります。

  • オーナーと編集者の権限:この代替策では、おそらくより高いジャーナリズム的な目標を掲げているので、このことを組織内でもはっきりとさせておく必要があります。編集スタッフは、発行団体の中の独立した部門です。新聞には専用の予算があてがわれ、編集長は発行活動に、報道面でも財政面でも責任を持ちます。オーナーの組織は、おそらく、依然として低コスト代替策の場合と同じタイプだと思われますが、中コストの新聞は、低コストの新聞が成功した結果であるといえるでしょう。
  • 発行頻度:隔週発行あるいは毎週発行。ニュース分析、時事問題に関する議論、特集記事だけを扱うのなら、月刊のニュース雑誌の発行も可能です。
  • 新聞の規模:週刊新聞、あるいは隔週刊新聞の場合、最低4ページ
  • 印刷:印刷費は、当然、予算の中で最も多くを占める項目の一つです。印刷費を最小限に抑えるには、写真印刷の量を制限すること(1ページにつき写真1枚)があげられます。白黒写真の方が安く、また印刷前工程や印刷工程全体を通じて扱いやすいです。少なくとも、かつてはそうでした。もし新聞がIndesignやQuarkXPress、あるいは類似のDTPソフトで作成され、写真がPhotoshopで加工されるのなら、印刷前工程における写真関係の追加料金を、印刷会社から請求されることはないでしょう。
  • 編集事務所:これも、依然として低コスト代替策と同じタイプです。しかし、編集事務所の家賃を支払わなければならなくなる可能性は、低コストの場合よりも高いでしょう。
  • 編集スタッフ:少なくとも2人の記者がいれば、品質の維持や発行の継続がしやすいでしょう。
  • 設備:コンピュータ、スキャナ、そして高速インターネット通信以外の先進技術は必要ありません。
  • 計画:編集計画を立てる際に、給与、病欠、休暇などを考慮する必要があります。
  • 購読料:専門の購読管理会社のサービスを利用する方が、おそらく賢明でしょう。住所変更、支払、請求書などに関する質問に回答する面倒が多い仕事は、他の人に委託した方が、業務を簡素化できるでしょう。
  • マーケティング:目的は、面白くて魅力的な新聞の製作なので、マーケティングの専門家を使い、読者となる可能性がある人々が、こちらの狙い通りの印象を新聞から受けられるようにします。

ウェブによる代替策:

ほとんど同じツール、オーナー、スタッフ、そしてジャーナリストとしての野心を利用して、インターネット新聞だけを発行することも選択できます。印刷と配布のコストがかからないので(場合によっては、購読管理のためのコストもかかりません)、面白く、魅力的なウェブページの作成に、時間を費やすことができます。ただし、読者とのコミュニケーションに、より多くの時間を費やさなければなりません。インターネットの世界とそのユーザーとが、これを求めているからです。製作するウェブページは、一般に公開するか、あるいは料金を支払う読者だけに公開するかを選ぶことができます。8 SIDORのように、その両方に公開することもできます。

3. 高コストの代替案

印刷された新聞とウェブ新聞:

高コストの読みやすい新聞とは、あらゆるジャーナリズム的な手段と、商売のためのマーケティング手段および財政手段を駆使して、全国的に配布される、現代的な新聞であるといえるでしょう。そのような製品が入り込める場所が市場にあるかどうかは、論争の余地がありますが、おそらく、あるでしょう。夕刊の中には、すでにそれを実現しているものさえあります。このような新聞のオーナーになるには、豊富な資金と、出版、印刷、ジャーナリズム、技術などの分野における熟練した専門家が必要です。

従来の新聞と唯一違う点は、何らかの理由で読みやすいテキストを必要としている読者を獲得しようという野心です。それは厳密には、おもに広告収入に依存した商業新聞でなければなりません。定期購読者さえも必要ない、ニューススタンドでの売り上げだけに頼る新聞も考えられます。大手新聞社でしたら、成功することができるかもしれません。大手新聞社と小さな新聞社との提携によって、この種の新聞がうまくいくと錯覚してしまう可能性もあるでしょう。二社のうち、大手新聞社の方が名声や信用を得、読みやすい新聞の方は、財政や印刷、配布、売上、製作などに関して、信用と相乗効果を借り入れることができると。

しかし、これは実現可能なプロジェクトではなさそうです。もし実現可能であれば、すでに大手新聞社がやっているでしょう。あるいは、ひょっとしたら、狭義では読みやすい新聞であると主張することができる大手の新聞が、すでにいくつか存在しているかもしれません。