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読みやすい新聞の発行に関する見解

以下の内容は、読みやすい図書の出版者、特に読みやすい新聞の編集や、その発行の企画に携わっている方々のために、実践上のヒントと提案のリストを作成しようと試みたものです。

ここでは、編集戦略や、その他のジャーナリズムの課題にかかわる選択についても、かなり詳しく論じられています。

本冊子は、ターゲットグループ、技術的なソリューション、コストレベル、および編集戦略の解説を通じて、新たな読みやすい新聞の出現を促し、またこれを進める手助けをすることを目的としています。本冊子を製作するに当たり、低コストの方法はもちろん、より高いコストがかかる代替策についてもきちんと説明するよう、細心の注意が払われてきました。

ここで述べられている見解や提案は、他国および他のジャーナリズム関連業界における出版事情にも通用するものと期待しております。

なぜ読みやすい新聞が必要なのか?

その答えは明らかでしょう。ジャーナリズムの真髄は、できるだけ多くの人々に読んでもらいたい、理解してもらいたいという野心です。民主主義の国では、ディスレクシアの人々や、学習障害者、知的障害者、移民および学童が、社会で起きている出来事についての情報を確実に得られることが、きわめて重要なのです。さらに、読みやすい新聞の発行は健全な経済投資であり、少なくとも悲惨な結果を生む投資ではないということは、はっきりしています。読みやすい新聞のターゲットグループは非常に多種多様なので、もし成功すれば、多くの読者を引き付け、財政的にも健全なベンチャービジネスとなるでしょう。

8 SIDORのターゲットグループ概要

数字は非常に大まかなものです。

スウェーデン

人口 9,000,000(900万人)
知的障害者  120,000
ディスレクシアの人々  800,000
高齢者 1,500,000
児童/ティーンエイジャー 2,000,000

上記のターゲットグループに、移民、教育を受ける意欲がない人々や、教育を十分に受けていない人々、失語症やその他の障害がある人々などが加えられます。

理論的には、スウェーデンの人口の少なくとも3分の1が、何らかの読みの障害を抱えているか、あるいはスウェーデン語の読みが未熟な人々です。

8 SIDORの歴史-基本データ

8 SIDOR(8ページ)は、1984年に初めて発行されました。これは発行部数約13,000部の週刊新聞で、スウェーデン全土の購読者に郵送で配布されています。また海外の読者にも、電子メールを利用し、PDFフォーマットの新聞が多少配信されています。毎号(年間で51号を発行)100,000人を超える購読者がいると推定されます。

8 SIDORはLL財団(読みやすい図書基金、あるいは読みやすい図書センター)が所有しており、同財団の理事は、政府によって任命されています。8 SIDORは国から補助金を支給されています。LL財団は、毎年約30タイトルの図書を出版している出版社も所有しています。

8 SIDORのおもな(というよりむしろ優先的な)ターゲットグループは、知的障害がある成人です。その他のターゲットグループとしては、ディスレクシアの人々、移民、高齢者、学童、そしてさまざまな読みの障害を抱えている人々があります。

購読者の50%以上は、小学校の低学年のクラスです。通常、購読しているクラスには8 SIDORが1部ずつ置かれています。

購読者のおよそ20%から30%は知的障害者ですが、正確な数字の確定は困難です。

8 SIDORの編集部は、4人の記者と1人のカメラマンで構成されています。

方針

8 SIDORは、国内および世界の時事問題、スポーツ、音楽、演劇、映画、芸術および文化的な出来事に関する偏りのないニュース記事を購読者に提供することを、おもにめざしています。

8 SIDORがニュースを評価する際の方針は、以下のようにまとめられます。

  • ニュースの全体像がわかるようにまとめたものを読者に提供する。
  • 重要な動向や出来事を分析し、その真相を明らかにする。
  • 特に読者にとって難しいトピック、あるいは読者を不安にさせるようなトピックに焦点を絞りたい。
  • 一言で表現する。(過去に起こったこと、現在起こっていること、将来起こるかもしれないことについて書く。)

8 SIDORには、特集記事、徹底インタビュー、料理のレシピ、そして消費者問題に関する記事も掲載されます。

8 SIDORのデザイン、レイアウト、および言葉づかいに関する方針は、特に知的障害者のニーズと能力に合わせて設計されています。

8 SIDORは、クロスワードパズルやクイズ、読者からの投書にも、比較的大きなスペースを割いています。

活動

8 SIDORでは、ニュースの背景や特集記事などを中心に、さまざまな問題を扱った付録紙(全4ページ)を月1回発行しています。この付録紙は、8 SIDORとともに配布されます。また別冊版として、年に1回、年間ニュースランキングが製作されます。
1996年(初年度)には、6,000人を超える人々がこのランキングに参加しました。
8 SIDORは、インターネットのウェブサイトを開設し、平日には毎日のニュースを掲載しています。
8 SIDORは、ニュースの要約をスウェーデンの地方紙に販売する通信社を持っています。

さらに:

  • インターネットに毎日ニュースクイズを掲載
  • 朗読サービス。合成音声によるインターネットニュースの読み上げ。
  • 読者が過去のニュース資料を検索できるインターネットニュースアーカイブ
  • 編集長によるウェブ日記。この日記はニュースの評価、ニュースの動向などに関するコメント形式で書かれ、概して、ニュースの真相を明らかにしようという試みである。

購読者専用のウェブ新聞が提供するのは

  • 世界各国の地図と国旗を掲載した記事
  • 国連、EC、OASD、IMFなどの重要な国際機関に関する情報を掲載した記事
  • お客様新聞サービス。購読者は8 SIDORのウェブサイト上で、自分自身の新聞を製作、発行できる。
  • イラスト付きのレシピ
  • 年2回発行のさまざまなトピックに関する冊子

製作

8 SIDORは、Macintoshコンピュータで、InDesign およびPhotoshopなどのDTPソフトを使用して製作されています。写真はコンピュータでスキャンされ、配布されます。

8 SIDORは、三大新聞のアーカイブとネットワークで結ばれており、スウェーデンの大手通信社(Tidningarnas Telegrambyra、略してTT)と資料の利用に関して契約を結んでいます。

8 SIDORは、スウェーデンの大手写真代理店とネットワークで結ばれています。このネットワークを通じて、代理店のニュースアーカイブにアクセスします。このように、選択、配布、および操作は、すべてコンピュータ上で行われます。

校正後、DTPソフトで作成された原稿は、インターネットを通じて印刷会社へ配信されます。

まとめ:

8 SIDORは、政治的決断の結果、誕生しました。それは、比較的お金のかかるプロジェクトですが、その独自の活動のための資金を調達できる段階へと、徐々に到達していく可能性を秘めています。編集部がめざしているのは、現代的な新聞を自力で発行することです。民主主義的な理想と、ニュースの編集と選択におけるジャーナリスト的な/プロフェッショナルなアプローチ、そしてマーケティングを結びつけ、商業的に成功するよううまく導いていくことで、国の補助金への依存を少なくして(あるいはまったく無くして)いくことができるでしょう。

8 SIDORの背景にある戦略について、さらに詳しく:

8 SIDORの背景にある戦略を簡単にまとめると、次のようになります。

読みやすい/わかりやすい報道とは、新聞報道と、ジャーナリストによる読者へのアプローチの方法を、何かほんの少し変更することであるのは確かです。ジャーナリストやメディア所有者、そして政治家たちは、驚くほど多くの一般大衆が、日刊新聞を読むことができないと気づいていますが、ほかに代替策が無いのです。ですから、何らかの形の読みやすい新聞を作ることを、真剣に考えていかなければなりません。私の考えでは、成人人口の20%から30%は、何らかの読みの障害を抱えていると思われます。

民主主義の背景にある思想そのものを考えれば、私が言いたいことは非常にわかりやすく説明できるでしょう。人々は、社会で起こっていることについて知らされる権利を持っています。情報提供する責任は、ジャーナリスト、メディア所有者、当局、政治家、そして民間企業にあります。もし一般読者が理解できなければ、私たち全員が失敗したということになります。私たちの責務は、自分たちが伝えたいことを理解してもらうこと、しかも、わかりやすくするということです。もし伝えたいと思う面白いことが何かあるなら、誰もが必ず理解できるようにしようではありませんか。

8 SIDORの編集長として、私は、読みやすい新聞が多くの目的を果たすことができると信じています。読みやすい新聞は、ためになり、考えさせられ、面白く、ジャーナリズムとして興味深く、そして、少しの利益をもたらすことができるでしょう。

というわけで、ここで言いたいのは、こういうことです。多くの人々が何かを必要としており、その何かとは、民主主義的な権利でもあり、また利益をもたらすこともできる、と。これは非常に素晴らしい、民主主義的な、かつ、ビジネス上のチャンスであるように思われます。

次に、8 SIDORと、私たちのアプローチの方法について説明しましょう。私たちは、常に一貫して、不可能と思えることを行うことにより、多数の読者を引き付けようとしています。つまりそれは、知的障害者と読みの能力が限られている人々、両方のための新聞の製作です。

8 SIDORの戦略は、きわめて単純です。私たちは、ある一つのターゲットグループ、すなわち知的障害がある成人を対象に、記事を書き、翻案し、編集します。しかし私たちは、学童、ディスレクシアの人々、読みの能力が限られている人々、移民など、広範囲にわたるさまざまなグループを対象に、8 SIDORを販売しています。不思議なことに、この戦略が成功しているのです。私たちは知的障害者のために記事を書いていますが、読者の大部分は、知的障害者ではありません。

これは当然だと、私は考えています。8 SIDORの読者グループが多岐に富んでいるため、この新聞は充実した内容になっています。一般大衆にとって8 SIDORは、ある特定の障害者グループを対象とした機関紙ではなく、読みやすいスウェーデン語で書かれた、質の高い新聞でなければなりません。8 SIDORは本質的に、ジャーナリズム業界の製品なのです。

苦心して準備された文章は、余計なものが省かれ、混乱を招く大量の詳しい情報や美辞麗句を使った直喩などはなく、論理的な流れに沿っているため、非常に効果的なようです。また、ページレイアウトも、スペースを多く取り、直接的でわかりやすい写真と論理的なプレゼンテーション方法を使って、落ち着いた環境の中で文章を提示することによって、効果を高めています。

8 SIDORのコンセプトは、このように言うことができます。「8 SIDORは、薄いけれども内容の濃い、そして読者にとって魅力的な、大手の新聞を製作することを目的としています。そして、個々の読者グループに、プラスアルファを提供するバージョンや製品も、この新聞に加えて発行していきます。」

なぜ、読みやすい/わかりやすい新聞は、このように多様な読者グループの興味を引き付けるのでしょうか?知的障害者のために書くことは、読者がどのようにテキストと写真を理解するのかに関して、基本を探究する独自の機会を提供してくれます。私たちはそれに従って編集します。私たちはシンプルをめざしていますが、それは、流暢で好ましいスウェーデン語で書かれたテキストを簡略化することとは違います。

このように考えたうえで、もう一度結論をまとめてみましょう。読みやすい報道とは、ジャーナリズムの世界を活性化する、何か新しいものであるといえます。読みやすい新聞は、できるだけ多くの人々が理解できる新聞であってほしいものです。私は、それは称賛に値する野望であると思います。そして、わかりやすい当局、わかりやすい政治家、わかりやすいEU代表が現れることも期待するばかりです。

最後になりますが、ヨーロッパにおける読みやすい出版社間の連携により、大きな成果を上げることができたと、私は信じております。私たちが協力できる興味深い分野としては、技術、グラフィックデザイン、マーケティング、共同市場の問題などがあります。

その他の読みやすい新聞:

読みやすい新聞は8 SIDORだけではありません。

  • スウェーデンで最も古い読みやすい新聞は、På lätt Svenska(PLS)です。PLSのおもなターゲットグループ(実際には、唯一のターゲットグループです)は、移民です。現在PLSはSesamと呼ばれており、ストックホルムのジャーナリスト集団、ストックホルムFria Tidningによって発行されています。
  • ノルウェーでは、Klar Taleが多くの読者を引き付けています。ターゲットグループは学童、知的障害者および移民です。
  • フィンランドのSelko Uutisetは、LL-Bladetという名称で、スウェーデン語でも発行されています。おもなターゲットグループは知的障害者です。
  • デンマークでは、Pa Let Dansk(PLD)が移民をおもなターゲットグループとしています。しかし、PLDは他のターゲットグループも引き付けたいという大望を抱いています。
  • ベルギーのWablieftは、十分に教育を受けていない人々や、読書意欲に欠ける読者をおもなターゲットグループとしています。これはフラマン語で書かれています。
  • ベルギーにはフランス語で書かれた読みやすい新聞もあります。L’Essentielのターゲットグループは、十分に教育を受けていない人々や学童です。
  • Due Paroleはイタリアで発行されています。Due Paroleのおもなターゲットグループは知的障害者です。 これらの新聞社は、ヨーロッパの協力団体を通してゆるく結びついています。この団体がめざしているのは読みやすい新聞の開発で、これらの新聞社の大部分は、同じ方向に向かって発展しているようです。それは、さまざまなターゲットグループを対象とした、質の高い報道に専念することです。