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図書館等のためのわかりやすい情報・資料ガイドライン普及セミナー

講演「日本におけるわかりやすい情報・資料ガイドラインの目的と意義」

野村美佐子(国際図書館連盟 特別なニーズがある人々を対象とした図書館サービス分科会(IFLA-LSN)常任委員会議長/日本図書館協会 障害者サービス委員会 委員)

野村美佐子●こんにちは。今、紹介いただきました野村と申します。

本日、「図書館等のためのわかりやすい情報・資料ガイドライン普及セミナー」ということで4月からガイドラインを作り始めたのですが、今でき上がっているのは残念ながら最終版ではなくドラフトです。ですから皆さんのご意見等がまだ反映できるかと思いますので、ぜひご意見をいただければと思います。

なぜこのガイドラインを作りたいと思ったのかというところから始めさせていただきます。

私が所属しているIFLA-LSN=特別なニーズがある人々を対象とした図書館サービス分科会が国際図書館連盟の中にあります。2年前にたまたま私が議長をさせていただくことになったのですが、17年前から国際図書館連盟の中に障害サービスの委員会というものが2つあるのですが、そこに関わっていた結果、議長という役をさせていただくことになりました。その前の「読みやすい図書のためのIFLA指針」というものを2010年に改訂版として日本図書館協会から出版させていただきました。これは世界中で使っていただくために私が所属するIFLAで作り始めたものです。ただし、日本が漢字であること、中心である欧米はアルファベットだということで、日本の環境や文化にすごく関係してくると私は考えました。そういったものを考えながら、かつ日本における著作権とその状況をかんがみたガイドラインを作りたいということで、今日、パネルディスカッションで登壇する方々と相談してガイドラインを作ることにいたしました。そういう経緯があります。

簡単にどういうことがコアになっているかというお話しさせていただきます。

実はパワーポイントを書いていますが、残念ながら視覚障害者用に配布できませんでしたけれども、基本的にはテキストは配布しております。その中に書かれていることをまとめていますのでお許しいただければと思います。また、要約筆記も入っていますので、アクセシブルな中でガイドラインについてお話しできればいいかなと思っています。

コアになるものというのは、やはり「読みやすい図書のためのIFLA指針」というのがあると思います。その中で、日本語もそうかもしれないのですが、参加とか文化とか情報にアクセスできることが民主主義的な権利なのですね。こういうことは日本にはなかなか染み込んでこないような気がします。保障ということがあるのですが、民主主義的な権利で、そこからすべての市民が十分な情報ごとに選択する権利を持ち、自分の自主性を決めるという。民主主義的な権利を実践するためには、社会の状況も必要であるし、そのための情報へのアクセスが必要であるということ。そういう権利の立場から人権であるということがメインになっていくと思います。

もう一つ、図書館の立場で言うと、人生を豊かにすることがすごくあると思います。人生を豊かにするためには読めること、そして理解することが、とても必要だと思います。そういったことができるのが図書館の役割だと思います。

なぜかというと、地域にはそれぞれ図書館があります。簡単に行けます。そして、図書館によるかもしれませんけれども工夫をする図書館員がいる。例えば今回お集まりになった図書館員の方々の工夫が、わかりやすい情報やわかりやすい資料の提供の普及になっているのではないかと思います。

そして今、障害者の権利に関する条約が2014年に日本では批准され、そして2016年、今年の4月、障害者差別解消法として施行が始まりました。そういった意味では情報のアクセス保障、つまりアクセシビリティとわかりやすさを備えた情報と資料の提供の普及にとてもいい時期ではないかと思っています。これを機に、みんなが一緒に勉強して、また、そのためにこのガイドラインが使えればいいかなと思っています。

そういった意味で、わかりやすさに関する国内のガイドラインを参考にしながら。IFLAのガイドラインはEUでも米国でもたくさん作っているのです。わかりやすい情報を提供するということで理解が促進されれば、行政の内容も効果的に情報の保障ができるだろうと思います。

そういった意味で、専門委員会を設けてガイドラインを作成したドラフトが皆様のお手元にあるものです。IFLA=国際図書館連盟を皆さん、ご存じですか? 初めて聞く方はいらっしゃいませんか? …ではここは必要ないのかなと思いますが、一応、このガイドラインの元になっているのが国際図書館連盟の障害者の情報アクセスを支える活動というものです。

そして二つの分科会、セクションがありまして、一つがプリント・ディスアビリティの人々のための図書館サービス分科会、IFLA/LPDです。視覚障害者と印刷物を読むことに障害がある人々を対象とした図書館サービスに取り組んでいます。主な目的は、この分野の国内的・国際的協力の推進、研究開発の奨励、情報へのアクセスの改善です。もともと昔は盲人図書館サービス分科会、視覚障害者図書館サービス分科会という名前でしたが、今は広い形で、プリント・ディスアビリティがある人々のための図書館サービス分科会となっています。

もう一つが、特別なニーズがある人々を対象とした図書館サービス分科会=IFLA-LSN。これが私の所属しているところです。何らかの理由で従来の図書館サービスを利用できない人々への図書館サービス及び情報サービスに携わって、そのためのガイドラインを作っています。

私が所属している特別なニーズがある人々を対象とした図書館サービス分科会は、どちらかというと視覚障害者以外ですごく幅広く担当していました。病院や受刑者、聴覚障害者、読みやすいガイドライン、そしてディスレクシアのある人々への図書館サービスガイドライン、ホームレスガイドラインと、様々なガイドラインを作ってきました。私が所属しているのはいろんな専門家の集まりです。逆に言うと一つの目標に向かって何を一緒にやれるんだろうと、いつも課題でしたが、ここのところ、アクセシビリティがキーワードとなりまして、病院や聴覚障害者の図書館へのアクセスなど、さまざまな観点からアクセシビリティをみんなで追求することができるのではないかということで、来年度のIFLAでのセッションはアクセシビリティになりました。みんなでどのくらいできるのか、私は議長として心配なところなのですが、一つは共通のものがあったのでホッとしております。

それから、LLブックを皆さんご存じかと思いますけれども、「LL」を訳すのがとても難しかったのです。英語ではeasy-to-readです。それを私は今まで「読みやすい」と訳してきたのですが、それに加えて、いろいろなところから考えると、easy-to-understandも含まれるということです。つまり「読んで理解することができる情報」ということで、今回、「読みやすい」という言葉を意識的に避けて、「わかりやすい情報・資料の提供」という形にさせていただきました。今までのガイドラインとはちょっと違っていると思います。

特に影響されたのはLLブックの発祥地であるスウェーデンです。では、スウェーデンではどうなっているか、少しだけお話しします。

スウェーデンにおける図書館と合理的配慮を考えた場合、スウェーデンでは既に2009年に差別禁止法ができています。それが改正されまして様々な部分から差別を禁止する法律であるとなっていきました。それで平等オンブズマンというのができたのです。新差別解消法では、「アクセシビリティがないものは差別とする」と規定しているのです。日本ではそれほどまでの規定はされていませんけれども、そこまで言うのであれば、かなり普及が進んでいるのではないかと思っています。

やはりこの法律のもと、図書館も平等の機会を提供するという観点から、合理的配慮を提供しなければならないという中で、スウェーデンの図書館の大会のときに私も参加させていただいたのですが、そういった部分がすごく包括されて、民主主義的な権利から、そういう形で図書館関係者が見ているというのはすばらしいことだと思いました。

具体的には、公共図書館を中心に合理的配慮を考えていったわけですけれども、障害者、そして移民ということがすごく強調されています。図書館法の中に日本では移民ということはあまり入ってこないと思いますが、マイノリティーに焦点を当てているというところを感じました。

そしていろいろな読みやすい図書というものが毎年30冊ずつ、これまで800冊くらい作られました。今はMTMというアクセシブルなメディア機関に2015年から移管されました。移管した思いというのは、MTMがDAISYを推進しているということで、もっとわかりやすさを追求したい、そういうものも必要だという当事者の思いが入っていた。私自身、そう当事者の方に聞かされました。そういったことがあったのです。意外と当事者の思いで動いたということがわかりました。そういったことは直接聞かないと本当にわからなかったんですけれども、政治かなと思っていたら、意外と当事者の声は強いんだなと思いました。

彼らの思いというのは、紙だけでないマルチメディアといったもので、もっとわかりやすさを追求してほしいということでした。

ガイドラインの概要のお話にいきたいと思います。

今日、初めて読むということで、すぐに意見は出ないとは思うのですが、「わかりやすい」というのは、スウェーデン語でLLといいます。日本では様々な呼び方をされていて混乱させてしまうかなと思いますが。ここではeasy-to-understandという意味を含めて「わかりやすい」という言葉で統一しています。

それからガイドラインの対象者は、読んで理解することに困難がある成人及びヤングアダルトになります。

基礎となる理念というのがガイドラインの中にありますが、障害者の権利に関する条約、障害者権利条約の29条に、accessible and easy to understandという表現があります。その中で、障害者が意見を持ち公的な意思決定に参加する上でのアクセシブルでわかりやすい情報と資料を求めている。そういったことを基礎とした内容となっています。

それから、わかりやすい情報と資料を提供する方法についても具体的に述べていきたいと思います。その部分については専門委員の方にさらにパネルディスカッションで詳細に述べていただけると思っています。

それからもう一つ大事なことは、二つのわかりやすい情報と資料製作プロセスということがあると思います。原本があり、その中の文章や単語を書き換え、写真やイラスト、図版を加えたり、マルチメディア化したりすることで原本のわかりにくさを解決するということです。要するに最初に原本があって、それをリライトすることになります。

もう一つ、わかりやすい文章や言葉を使い、必要に応じて図版を使ったりマルチメディア化したりして最初からわかりやすい情報と資料を作成するということです。こちらは、どちらかというとオリジナルになると思います。

そういった観点から著作権制限をする場合としない場合を想定した提供について述べていきたいと思います。

日本でも37条の著作権制限の中で、リライトするなどの配慮をした資料を図書館で提供し、ネットワークを通して全国の図書館に共有していただける方法があると思います。それをもし著作者がOKと言うのならば、誰でも使えるようになるわけです。できたら最後には誰でも使える場合があるという。もちろんオリジナルを作る場合でしたら、その可能性の方が多いのですが、図書館ができる代替出版という形の中で、誰でも読める本、わかりやすい本を共有できるのではないかと思っています。

以上が概要ですが、もっと細かい部分を皆さまに見ていただければと思います。

で、課題と展望。本当にまだまだドラフトですし、課題がいっぱいあると思います。用語の使い方にしても、まだ統一されていない部分が多いです。

今回、「図書館のための」というのをつけました。それは、前に作りました、わかりやすい図書、IFLA指針とは違った部分です。図書館に提供してもらいたい、図書館にやってほしいという意味合いの中でガイドラインを作っています。図書館員の方の参加が多いと聞いていますので、ぜひご意見をいただければと思っています。

実際に情報については目次を見ていただきますと、こういった内容になっています。「はじめに」、それから「2つのわかりやすい情報と資料の製作プロセス」ということで、1番と2番をお話ししましたが、3番目に、やはりどうしても著作権の壁にぶつかります。では著作権をなくしてみんなで共有できるものを作ろうという方法もありますでしょうし、その中には、当事者が、すぐ読みたい、わかりやすいもので読みたいという思いとか、それから、オリジナルを作ることで、単に限られた人、障害サービスを必要とする人だけでなくて、使えるものがあればみんなで共有できるのではないかと思っています。

それから、「対象となる人々とそのニーズ」ということがあります。それぞれ知的障害者、発達障害者というように定義づけていくことが、いいことなのか。基本的には読んで理解することができない人が対象なのですが、これを文章の中でどうやって皆さまに理解させていくかというのが一つの問題になっています。この辺の部分の議論はさせていただきました。

というのは一つの障害だけではなくて、もう一つの障害ということもあり得るということなんです。この障害だからこういうものとは言えないのですが、ある程度ニーズは必要かなと思って、今回は特徴的な障害の方の定義を書かせていただきました。その辺も議論になるかなと思っております。そして、「わかりやすい情報と資料の作成について」、できるだけわかりやすく書こうということで書いております。

それから、「電子的技術の活用」ということです。マルチメディアの一つとして、電子出版の面からのフォーカスもしています。

また、「図書館でわかりやすい情報・資料を提供する」のところで、具体的にこういったことが考えられるという内容についても書いています。その辺の部分は、私が欧米で学んだことや、図書館を訪問した上での事例を述べております。

「関係者と図書館の連携」ということで、公共図書館だけが頑張ってもダメな部分というか、共有、ネットワークということがとても重要だと思いますので、その辺の関係者と図書館の連携。

9番目、「普及に向けて」ということで、実際どういったことが考えられるかを専門員の方に書いていただいたのが全体的な内容になっています。

そして、最後に課題と展望がまだ抜けているのですね。皆さんの意見を反映して、その中で最終的に展望、私たちが図書館に望むことというのを書けたらいいなと思っています。また、事例の中で、わかりやすい図書の紹介ということで、専門員の方が実際行ったことなどを発表させてもらいたいと思っています。

それから「参考資料」の中で、権利条約の「アクセスの保障」の部分を抜粋して書かせていただいております。

まだまだ不十分なところはありますけれども、あまり時間がないのですが、これから最終的に専門委員の方に協力いただきながら書いていきたいと思っています。

やはり図書館に行くということ自体が障害のある方には難しい部分があります。そういうところを実際にアウトリーチして行くのか、呼びかけのためにどうするのかというのは、やはり課題だと思っています。

その中でわかりやすさということを特に強調してというか、わかりやすい情報と資料といったことが今後、どのぐらい普及していくか。私たちは普及したいという展望ではあるのですが、ではどうしていくかということが、とても課題になっています。実際に担当する方が、わかりやすい情報、わかりやすい資料を提供するといった場合に、どういったことを考えていくのかということもあると思います。

それから、わかりやすい情報・資料を求めている人は本当にさまざまだと思います。もしかしたらストレスを抱えて読めなくなった場合には、やはりわかりやすい資料やわかりやすい情報が必要なのかなと思ってしまいます。

なぜ今そう思っているかというと、私は3週間前に、急性盲腸で病院に入院しまったんですね。この最後の部分をやっているときに病院に入いりまして、そのとき、どういったリスクがあるかを順番に言っていって署名するんです。でも急性なので読めないんです。言われていても全然聞こえないし。順番に、こういうリスクがあります、こういうのもあります、それでもいいですよね? という最後の部分に「手術をしない場合のリスク」と書いてあったんですね。敗血症になりますよとか。それを一番最初にもってきてほしかったと思ったんです。しなかった場合どうなっちゃうのというのが一番最初にきたら、ああ、もうここで署名しちゃうって思うんですけど、ずっと読んでいって最後だったんですね。やはりこういうときって、順番って大切だなと、わかりやすい情報が必要だなと私はそのときに思いました。実際に署名したのは終わってからだったんです。結局、ちゃんと読めない、書けないという状況で入院してしまいましたので。そういうときにはそういうことも必要かなと思いました。レベルはあるかなと思うんですけども。

それから、病院の中でいろいろなお知らせがボードに貼ってあるのです。やはりきちんとわかりやすくしてくれないと、これは何の情報かがわからないのです。結局は聞かなければいけなかったりするので。少しずつ体調が回復して、そういったところに目を向けられるようになって、思ったことがありました。

いろんな場合にわかりやすい情報を。例えば防災の場合。わかりやすい資料、わかりやすい情報が常にあることが必要かなと思いました。

それから、一番必要としているのはやはり知的障害者の方なのかなとは思うのですが、それ以外にもいろいろな方が必要としているし、それは効率的でもあると思っております。でも、最後には、やはり誰もが一番好きな本の出会いをしたいですよね。その出会いに、こういった出版がきっかけになるということを、私はすごく願っています。

権利も必要です。でもその権利がどう平等に与えられるかということも考えながら、そういう人たちに出会うことがある図書館員の方にはぜひ考えてほしいし、ガイドラインを有効に使ってほしいと思っております。

これで私の前座を終わりにさせていただきまして、次に、私と協力していただいた専門委員の方のお話、そして私よりももっと経験を持ってらっしゃる方々のお話が聞けると思います。ぜひ楽しみにしていただければと思います。ご清聴ありがとうございました。


スライド1
野村美佐子氏 スライド1(スライド1の内容)

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野村美佐子氏 スライド6(スライド6の内容)

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