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図書館等のためのわかりやすい資料提供ガイドライン

序文

国際図書館連盟(International Federation of Library Associations and Institutions:IFLA)の「特別なニーズのある人々に対する図書館サービス分科会(Library Services to People with Special Needs Section : LSN)」により、1997年に「読みやすい図書のための IFLA 指針」の初版が発行され、その改訂版が2012年に出版された。

この指針は、「すべての人が、理解できる形で、文化、文献及び情報にアクセスできることが、民主主義的な権利である。すべての市民が、十分な情報をもとに選択をする能力を持ち自分の人生を決めるという民主主義的な権利を実践するためには、現在の社会の状況を示す情報へのアクセスが不可欠である」という考え方を示している。

また「読めるようになれば、世界観が広がり、自らの人生を切り開いていけるので自信がつき、読むことを通じてアイデアや思考、体験を共有し、人間として成長していくことができる。」という人間としての発展を支える図書館の役割を明確にしている。

この指針が示す「理解できる形」には、「読みやすい(easy-to-read)」という概念に基づいて作成された出版物が含まれる。そして、この読みやすい情報や資料の普及には、それぞれのコミュニティにおいてさまざまな情報や知識を収めた資料を収集して提供する図書館が重要な役割を果たすと述べている。

この「読みやすい(easy-to-read)」図書の出版の発祥地の一つであるスウェーデンでは、読みやすくわかりやすい図書(スウェーデン語で「LLブック」)を国の予算で1000冊以上発行した後、2015年にその発行の責任をアクセシブルメディア機関(Myndigheten for tillgangliga medier : MTM)と呼ばれる障害者のための国立図書館に移管した。MTMは、これまで主に視覚障害とディスレクシア等の発達障害、あるいは本を読むための動作の課題などに対応するアクセシビリティを有するDAISY図書を提供してきた。しかし、その上で、MTMは今新たにLLブックの利用者のニーズに対応するDAISY図書の開発にも取り組んでいる。

日本でも知的障害者を対象とした情報提供のガイドラインや図書が少しずつ広がっている。しかし、印刷物を読むことや理解することが困難な成人やヤングアダルトを対象にした出版物の普及は思うように進んでいない。

日本政府は2014年に国連「障害者の権利に関する条約」(障害者権利条約)を批准し、2016年4月に「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」(障害者差別解消法)を施行した。

この差別解消の流れは、民主主義社会における基本的人権である情報アクセスの保障をアクセシビリティと「わかりやすさ」を備えた情報と資料の提供によって推進する絶好の機会である。

そこで、すでに発行された上記IFLA指針や国内外で発表された出版物の「わかりやすさ」に関する作成ガイドラインを参考にしながら、日本語の特性や文化を考慮しつつ、特に図書館員に向けた情報と資料の提供を促進するためのガイドラインを作成する専門委員会(構成員については、最終ページを参照)を設けて本書を編集した。

本書が、多くの図書館員に読まれ、これまで読んで理解することに困難を抱えてきた人々に対する、アクセシブルであってわかりやすい資料の提供が促進されることを期待する。