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図書館等のためのわかりやすい資料提供ガイドライン

3. 代替資料提供のための著作権の制限

(著作法第37条と第43条により許される翻案および変形について)

2009年6月に公布され、2010年1月1日から施行された改正著作権法は、従来の視覚障害者、聴覚障害者に限定した権利制限の対象を「視覚による表現の認識に障害のある者」(第37条第3項)「聴覚による表現の認識に障害のある者」(第37条の2)とそれぞれ大幅に拡大した。したがって前項①のように、その対象者に原本をわかりやすく翻案した資料を作成して提供できるようになった。こうした資料を図書館が共有し、利用者に提供するために代替出版するという道も開けたことになる。しかしこの代替出版では、あくまでも著作権法上の権利制限を受けた人のみが利用できるに止まるので、日本語を母語としない人なども含めて広く誰でもが利用できるようにするため、著作者や出版社自らがわかりやすい翻案資料を作成して出版すべきである。

3.1 著作権法第37条第3項(視覚障害者等のための複製等)

この条項の対象者として文化庁著作権課の解説の例示には視覚障害者の他、発達障害者、色覚障害者ということばが挙げられているが、日本図書館協会が中心となってまとめ2010年の2月に公表された「図書館の障害者サービスにおける著作権法第37条第3項に基づく著作物の複製等に関するガイドライン5)」では、その他に聴覚障害者、知的障害者等すべての心身障害者、発達障害者、学習障害者、寝たきりの人、一過性の障害者、入院患者等々が挙げられている。

また同ガイドラインでは「当該視覚障害者等が利用するために必要な方式」として録音、拡大の他、シンボルやリライトを挙げている。

3.2 著作権法第43条(翻訳、翻案等による利用)

視覚障害者等・聴覚障害者等(第37条の2)が利用するために必要な方式の中で「障害者権利条約」の第2条「定義」で謳われている意思疎通の方式にある「平易な言葉」が、わかりやすいことばやわかりやすくリライトすることを指す。具体的には第43条で「次の各号に掲げる規定により著作物を利用することができる場合には、当該各号に掲げる方法により、当該著作物を当該各号に掲げる規定に従つて利用することができる。」とし、視覚関係の第37条第3項では「翻訳、変形又は翻案」、聴覚関係の第37条の2では「翻訳又は翻案」による利用が認められている。具体的にはこの翻訳および翻案によって文章をわかりやすくリライトすることができる。

聴覚による表現の認識に障害のある者に認められている「翻訳と翻案」は、たとえば字幕を付ける際に必ずしも発話者のことばを一言一句文字にするのではなく翻案して文字化することを認めている。さらに、書きことばをもたない手話という言語に文字(書記日本語)を翻訳・翻案することも想定していると思われる。

文化庁著作権課が解説したホームページの中に「デジタル録音図書の作成、映画や放送番組の字幕の付与、手話翻訳など、障害者が必要とする幅広い方式での複製等を可能とすること」という文言があり、手話翻訳ということばを使っているので、視覚による表現の認識に障害のあるものの中に、日本手話を母語とする人も含まれ、文字を手話という言語に翻訳することが想定される。したがってこの第43条の翻訳には、日本語で書かれた文章を日本手話という言語に翻訳して提供することも含まれるだろう。書記日本語の日本手話への翻訳では、なじみのないことばなどをいかにわかりやすく手話で表現するかということが大きな要素となっている。この手話翻訳とわかりやすいことばによる翻案の間には大きな共通点がある。

また第37条第3項にのみある変形はテキスト化やマルチメディアDAISY化、あるいはシンボル化、触知資料化など、主に媒体変換を想定したことばと受け取られるが、さわる絵本、布の絵本、拡大写本、マルチメディアDAISY化などでの素材の変形、拡大写本などでの文字の色・フォントの大きさや白黒反転などの文字の変形などが考えられる。読むものの素材、色なども読みやすさやわかりやすさに大きく影響を及ぼすので、考慮したい。


5) 国公私立大学図書館協力委員会, 全国学校図書館協議会, 全国公共図書館協議会, 専門図書館協議会, 日本図書館協会. 図書館の障害者サービスにおける著作権法第37条第3項に基づく著作物の複製等に関するガイドライン.2010.2.18, https://www.jla.or.jp/portals/0/html/20100218.html,(参照 2016-11-01)