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図書館等のためのわかりやすい資料提供ガイドライン

4. 本ガイドラインの対象となる人々とそのニーズ

読むことや理解することができないという状態は、知的障害をはじめとするさまざまな障害と共に生きる人々のニーズと提供されている資料とのミスマッチの結果である。また、知的障害者である人が複数の障害をもつ場合も多く、更に障害の医学的分類にも変更があるので、読むことと理解に関わる困難を医学的カテゴリーだけで定義づけるのは不可能である。

また、図書館としては、障害のみならず、その他の要因で「わかりやすさ」を必要としている人々についても配慮する必要がある。

4.1 障害を理由としてわかりやすい資料を必要とする人々

対象の中心となる知的障害とは、生活年齢に比べて、認知、言語、社会性、運動等の能力の発達が遅れている障害である。発達期に発症し、よく知られている障害では、染色体異常のダウン症がある。知的障害の程度には個人差があり、ものへの興味や話しことばの理解や表出もなく、全面的に介助が必要な重度の人から、定型発達の人に比べて未熟であるが、知的作業が要らない仕事に就いて、社会生活をおくれる軽度の人まで幅がある。

文字の読み書きは、幼児期後期~小学生にかけて習得するものであり、そのための能力の発達に至っていない重度の人には、ひらがなの習得は難しく、中度や軽度の人でも、ひらがなや漢字の読み書きに困難をもっている。

読んだ内容を理解する読解能力も、読み書きの習得に従って育つために遅れる。日常生活でよく知っている語彙は理解できても、なじみのない語彙や抽象的な語彙の理解は難しい。また、長い文章や、受身、「もし~ならば」という仮定の表現等も理解できない人が多い。

知的障害がある人には、難しい単語を使わずに、短い簡潔な文で表現する。漢字やカタカナにはルビを振る。また、写真や絵やシンボルの視覚イメージ情報を併用する。読み聞かせやマルチメディアDAISY等、視覚情報と聴覚情報を併用することも理解を助ける。

知的障害に加えて、自閉症スペクトラムあるいは視聴覚や動作等の障害を併せもつ人々も少なくない。前述のわかりやすさに加えて、それぞれの障害特性に応じたアクセシビリティが欠かせない。

スウェーデンでは、手話を第一言語とする聴覚障害者は、LLブックの利用者として認識されている。文字を読んだり、読んだ内容を理解する能力は、話しことばを理解する能力をベースとして発達するため、聴覚障害者の読解力は個人差が極めて大きい。したがって、抽象的な単語や、比喩、暗喩、慣用句はできるだけ避け、はじめての単語には意味の説明を加えるとよい。複文や重文の長い文章や、二重否定等の複雑な文法表現はできるだけ避けて、絵や写真を併用したり、手話のイラストを入れると、理解しやすい人が多い。

「読みやすい図書のためのIFLA指針」(1997)は、同指針が対象とする範囲を図示している。それに倣って、先に述べた知的障害者を中心とする本ガイドラインの対象とする範囲の概略を図示すると下記のようになる。個々の障害についての解説は資料編に記す。

図1 本ガイドラインが対象とする範囲(四角形の内側)
図1 本ガイドラインが対象とする範囲(四角形の内側)

(図1の説明)
「知的障害者」の大きな円の周りに、「移住後間もない人々」、「ヤングアダルト」、「精神障害」、「自閉症スペクトラム」、「ディスレクシア」、「失語症」、「高齢者」、「視覚障害」、「盲ろう者」、「手話を第一言語とする人々」、「非識字者」の円があり、お互いに重なり合っている。「知的障害者」の大きな円と各円の重なり合っているところを切り取るように四角形がある。四角形の内側が、本ガイドラインが対照と刷る範囲である。

4.2 障害以外の理由でわかりやすい資料を必要とする人々

日本で暮らす在住外国人にとって、教育、就労、防災、保健医療等の情報が漢字かな交じり文で示されることが大きなバリアになっている。これらの人々への、わかりやすい情報と資料の提供は喫緊の課題であり、特に公的な情報については、これらの人々のニーズも考慮に入れた「わかりやすさ」が求められる。

障害以外の理由でわかりやすい情報と資料を求める人々には、図書館等が著作権法第37条に基づいて製作した代替出版物を提供することができないので、この人々のニーズを満たすためには出版企画の段階から「わかりやすさ」を追求することが必要になる。障害があるわけではないが、さまざまな事情により、一時的に読解力が限られている人も対象になると考えられる。