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図書館等のためのわかりやすい資料提供ガイドライン

9. 普及に向けて

9.1 わかりやすい資料のマーク

LLブック、手話つき本、布の本、マルチメディアDAISY等、わかりやすさに配慮した資料は、複数種類あるが、今は、図書館によって、さまざまなジャンルに配架されているのが現状である。たとえば、写真だけで料理の方法がわかるLLブックは、図書館によって、一般の料理の本の中に入れてあったり、写真集の中にあったりする。このような状態では、わかりやすい資料を必要とする人たちが、資料があることにも気づかず、探すこともできない。わかりやすさを必要とする人たちに、わかりやすい資料が届くためには、見てすぐ識別できるように、わかりやすい資料のマークを作り、各資料に貼る、あるいは、わかりやすい資料のコーナーを設けてコーナー標示にマークを使う。そうすることで、わかりやすい資料の存在を知らせ、利用する人を増やすことができる。

現在、EU等では、わかりやすい図書のマークが制作され使用されている。将来的には、International Organization for Standardization(国際標準化機構)により、世界標準規格のマークが制定され、日本でも、積極的に利用する方向で検討することが望まれる。

9.2 わかりやすい資料の作成・提供研修

わかりやすい資料の作成・提供に関する研修は、現状では、ほとんど行われていないだろう。本ガイドラインで述べてきた以下のような内容についての研修の機会を各図書館、博物館、公民館、行政機関、学校・大学、障害者施設・団体、出版社などで設定することが望ましい。

  • わかりやすい資料の種類と特徴について
  • わかりやすい資料の作成・提供が必要となる背景や理念について
  • わかりやすい資料の作成・提供が必要となる人たちの特性やニーズについて
  • わかりやすい資料の作成・提供にかかわる著作権法の規定について
  • わかりやすい資料の作成やリライトの方法と留意すべき点について
  • わかりやすい資料の提供の方法と留意すべき点について
  • わかりやすい資料の作成・提供にあたっての関係者(ステークホルダー)との連携について

わかりやすい資料の作成・提供に関する研修は、一部の職員・社員のみが受ければよいわけではない。職場の全体研修として取り組みたい。たとえば、図書館では、こうした研修は「障害者サービス」の担当職員だけが受ければよいと思われがちだが、「図書館利用における障害者差別の解消、つまりすべての人が利用できる図書館に図書館自らが変わる」(『図書館利用における障害者差別の解消に関する宣言』日本図書館協会、2015年)ことを実践するためには全職員が受ける必要がある。

なお、各図書館における研修に際しては、公益財団法人日本障害者リハビリテーション協会や、公益社団法人日本図書館協会障害者サービス委員会にお問い合わせいただければ、適した講師の紹介や派遣も可能である。

9.3 ネットワークの活用

わかりやすい資料の提供を考える際に、すでにサピエ図書館で成功を収めているネットワークを活用した共同製作と資源共有が注目される。

紙の出版物が数に限りがある「物」であるのに対して、電子出版物は情報と電子媒体と呼ばれるその容器とで構成されている。ネットワークにつながるサーバーに格納されている電子出版物を読むために、手元のタブレットやスマートフォン、あるいは専用読書器やPCに、ネットワーク経由で複製することをダウンロードと呼ぶ。ダウンロードしてもサーバーにある電子出版物が減るわけではない。この特徴を生かすと、図書館が分担して製作したわかりやすい資料を多くの人に効率的に提供する方法が見えてくる。製作者から見ると、1人に提供するための製作コストも10万人に提供するための製作コストも同じである。

ネットワーク経由の効率的な提供システムを可能にするための公衆送信権の制限はすでに完了している。

9.4 障害者差別解消法を生かして

2006年12月、第61回国連総会で採択された障害者権利条約をわが国も2014年1月に批准したことに加え、2016年4月に障害者差別解消法が施行されたことにより、障害者を中心に、わかりやすい情報や資料の普及については環境が大きく進展した。

公立の図書館等においては、障害のある利用者等からの意思の表明がある際、過重な負担と判断されない限りにおいて、合理的な配慮の提供が法的義務となり、私立図書館においてもそれが努力義務とされている。従来とは違う提供の義務化により、罰則規定はないものの、わかりやすい情報や資料の普及は飛躍的に進められるものと期待できる。

仮にわかりやすい情報や資料の提供がなされなかった場合、各自治体に設置される地域障害者差別解消支援協議会等によるあっせんや勧告、さらにこれらに応じない場合は図書館等の事業所名の公表などが行政により適切になされることに至った。

わかりやすい情報や資料の普及に向けては、当該条例と法律の周知が不可欠である。