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どのようにしたらコミックストリップをさらにアクセシブルにできるのか?

クヌート・ウェスタッド(Knut Westad)およびマリ・タンジェン(Mari Tangen)

コミックストリップ形式は、絵を使用し簡単な方法で話を伝える機会を多数提供し、また、テキストと絵を織り混ぜて、互いに補いあったり対比させたりすることができる。しかしコミックストリップは、何もしないでいても読みやすいわけではない。読みやすくするには、テキストつきの図書と同様に、改変が必要なのである。

コミックストリップを読みやすく改変するときには、絵と内容、そしてどこにテキストを配置するかを考える必要がある。すべての要素は、それぞれシンプルにわかりやすくできる。さらに、内容、絵、およびテキストは、1つのコミックストリップ(2個以上の連続したコマ)の中で調和がとれていなければならない。入念に考えられたレイアウトは、話の流れをつかみやすくする。優れたレイアウトと、もし可能であれば、エキサイティングなレイアウトは、楽しい読み物を生み出し、読者を次のストリップへ、次のページへと「引き込んでいく」だろう。

内容

シンプルな内容が必要な人向けのコミックストリップでは、一般の図書と同じ要素を検討する必要がある。時間の流れを守らなかったり、プロットや人物、場面展開が多すぎたりすると、話が理解しにくくなる場合がある。また、あまりに多くの予備知識を必要とする場合も難しい。直線的な1つの話が、発生順に語られるともっとも理解しやすい。

コミックストリップを読みやすくするためには、まず絵を明快かつ具体的に、そして理解しやすくしなければならない。中心人物と背景の描写は容易に見分けがつくようにし、例えば色の選択やテクニックの使用に関して、一貫していなければならない。人物、事物、そして背景は、読者を混乱させることのないように、その特徴を常に備えていなければならない。

コミックストリップや映画で通常使われる技は、登場人物や事物に目立つ特徴を与えることである。ヒロインにえくぼがあるとか、悪者にいぼがあるとか、車にスピード線を付けるとか…。これらの効果を慎重に使用することで、絵がわかりやすくなるだろう。

すべての動きは左から右へ、本の中での言葉の方向と同じに描く。左に向かう動きは、登場人物が体を後ろ向きにしたり、戻ってきたりするときにだけ使う。

コミックストリップ作家の伝統的な表現技法では、さまざまな表現様式の対比を利用し、絵とテキストで同じ内容を表現しないようにする。しかし、読みやすいコミックストリップを望むなら、テキストと絵の間にある程度の一致が必要である(例1)。コミックストリップの作者が、表現媒体として非常にあいまいな様式にこだわるなら、それは読者にとって大変いらだたしいことだろう(例2)。

特に深刻な読みの問題を抱えている人にとっては、まったくテキストのないコミックストリップが解決策となる可能性がある。その場合、それは一連の絵なので、コミックストリップと呼ぶ条件は満たされていないといえるかもしれない。しかしここでは、これもまたコミックストリップと呼ぶことにしている。フィリップ・デュパスキエ(Philippe Dupasquier)の、アクション満載の『大脱走(The Great escape)』(カッペレン 1988年)と、レイモンド・ブリッグズ(Raymond Briggs)の詩的な『スノーマン(The Snowman)』(ギルデンダール 1978年)は、どちらも「コミックストリップ言葉」で語られる物語で、テキストはないが、コミックストリップの効果を利用している。

レイアウト

コミックストリップの改変には優れたレイアウトが必要である。読みやすくするためには、1ページに載せる絵を少なくしなければならない。同じサイズの絵を使用し、各ページに載せるコミックストリップは2つだけにするとうまくいく。「吹き出し」では、従来ブロック体の文字が使用されてきた。適切な書体を選び、一般のテキストのように、小文字と大文字を使用した方がよい。

テキスト

読むのが得意な読者でも、不適切に配置されたテキストはうまく読むことができない。どの吹き出しが最初なのか、読者がわからなければ、語り手が読む流れを意図せずして止めてしまったことになり、読者はその絵やページ上で、間違った地図を持ってクロスカントリーレースに参加しているといえる。

細かな描写が多く、視点の選択が複雑で、支離滅裂な展開のために、内容が理解しがたいページでは、吹き出しやテキストボックスをきちんと配置することで、混沌から抜け出せる場合がある(例5)。

読みやすくするためには、吹き出しやテキストボックスをどこに配置するかが非常に重要である。作者は常に、テキストをはっきりと目立たせ、またできるだけわかりやすく配置する最適の方法を考えなければならない。下の1つ目と2つ目のコマでは、読む順番に疑問の余地がないように吹き出しが配置されている。しかし3つ目のコマには問題がある。自分で試してみるとよい。読む順番を確認するために、念のためダブルチェックをする必要があるだろうか?

吹き出しの位置が異なる3つの例

誰が最初に話しているのか、疑問に感じることがないようにしなければならない。最初のセリフを言う人は、通常絵の左側に立っており、セリフは、自然に最初に読むことになる吹き出しに書かれる。

絵の上方にまっすぐ横に並んだ吹き出しや、左上の角から右下の角へと斜めに並んだ吹き出しは、読む順番について誤解を招くことはほとんどない。人物が読者の方へ移動してきたり、読者から(絵の中へと)遠ざかっていったりするときに、重なってしまっている場合は、吹き出しがどの人物のものなのか、「吹き出しの矢印」で明確に示すことが重要である。

古いコミックストリップに多く見られるが、それぞれの絵の下に、テキストをひとまとめにして表示することがある。テキストの最初の部分は、絵の内容の説明だけだが、その後少し踏み込んで、次の絵への橋渡しのような内容を記したり、絵の描写をモノローグやダイアローグで補ったりする。コミックストリップのこのような様式は、テキストが理路整然とした文学作品として読まれる場合があるので、むしろイラストつきの物語に近い。絵の中の吹き出しやテキストボックスにテキストが書かれていないということは、読む際にテキストと絵の間を素早く移動しなければならないので、テキストを読むことが大変な負担となる可能性がある。一方、シンプルなテキストがついた「すっきりした絵」は、大量のテキストを読みたくない読者にとって、読む動機付けとして役立つであろう(例3)。『王子ヴァリアント(Prince Valiant)』は、絵の下にテキストがついているコミックストリップの例である。

擬音語・擬態語とアイコン

テキストとレイアウトの中間として、音の描写がある。
「ブルーン(WROOOM)」、「バーン(BANG)」、「バシッ(SMASH)」などの擬音語は、絵の中では通常色つき文字で描かれ、何かスピーディーなことや、危険なことが起こっていると教えてくれる。絵の中の人物の頭上の「グーグー(zzzzzzzzzzzzz)」は、眠っていることを表している。車の後の空中に描かれた3本の線は、スピードが速いことを、また、2人の人物の間に描かれたたくさんのハートは、夢中で愛していることを表している。これらの要素が深い考えなしに使用された場合、絵が台無しになったり、読みとりにくくなったりする可能性がある。だが目的を持って使用されれば、テキストの代わりとなったり、テキストを詳しく説明したりし、読者を1つの絵から別の絵へと導いたり、さらに/あるいは、読者がそれ以上テキストを読む必要がないほど理解しやすくする、ユーモラスな言外の意味を生み出したりする。

いくつかの「コミックストリップのルール」 -物語、目、そして動きの方向性

読む方向は通常、左から右である。通常の「ストリップ分割」(2つから4つのストリップ)されたページでは、読者はページ下部に向かってz字型に目を移動させながら読む。水平の分割線が破られることなく、また読む方向に疑問の余地がない限り、z字型移動は繰り返される。そしてZ字型移動は、次の絵の場所がわからなくならない限り、続けられる。

細かな描写が多すぎたり、視点が複雑であったり、支離滅裂な話であったりするために、展開にまとまりがないコミックストリップでは、吹き出しやテキストボックスをきちんと配置することによって、読者の混乱を正す効果があげられる(例4)。

コミックストリップ中のテキストと絵-例による説明

例1

この絵はアイダ(Ida)がバスを降りるところを描いている。
テキストボックスにはこう書かれている。「アイダはバスを降りたい。」
アイダの頭から出ている、考えを表す吹き出しには、次のようなテキストが書かれている。「私はバスを降りている。」

バスを降りるアイダの絵

この例には、実は同じ内容の3つのメッセージが含まれている。テキストなしの絵であっても、まったく同じ内容が伝えられるであろう。もっとも読むことが苦手な読者には、このような改変が必要だろう。

例2

さらに一般的な語りのテクニックは、考えを表す吹き出しに書かれている内容とは違うことを絵で示すもので、例えば、より大きな場面の描写があげられる。それは、往来を走るバスや、上空から撮影された町の一部の写真で、アイダがバスに乗る前の場面であろう。あるいは、この絵にあるように、マクロな視点を使用してもよい。この絵はバスの車中で、考えを表す吹き出しは、ある人がバスを降りると決めたことを示している。私たちには手と切符しか見えないので、この人物が誰かを読者に伝える要素を含めることが重要である。それは絵の端にあるショルダーバッグや、ちらりと見えるだけのチェックのジャケットなど、物語のこれより前の部分で読者に提示された物でもよい。しかし、これがバスの切符を持っているアイダの手をクローズアップした絵であると理解するには、読者はかなり苦労しなければならない。

例2

(アイダは考えている。「私はバスを降りる。」)

バスを降りようと考えているアイダの絵

これら2つの例の特殊効果の使用に注目するために、もっと大きなつながりの中からこれらを取り出し、1つのコマとして提示した。このコミックストリップを読みやすくするには、この例の前後のアイダをすべて見せなければならない。

例3

ここでは、テキストが吹き出しではなく、コミックストリップの下に表示されている。

現代のアクションストリップでは、テンションを高めるために、クローズアップ、事物や人物、顔の断片的な描写のような映画的な効果を多用する。 この例にある、絵だけの描写は理解しにくい。この人物は、恐れているのか?いらついているのか?怒っているのか?

テキストは絵を説明しており、読者が絵を理解しているか否かに関わらず、読むことができる。

顔の断片的な描写

-誰かそこにいるの? 彼女はたずねた。

例4

縦長の長方形のコマに描かれたいくつかのクローズアップが、ドラマチックな効果を増すために使用されている。テキストの吹き出しはストリップの上方に水平に配置されており、読む方向については何の疑問もない。

ストリップの上方に水平に配置された吹き出し

-あなたはぼくを信じないのですか?-多分わしたちは…見なければいけない… そこにいるのは誰だ?

例5

次のページの絵は複雑である。場面は、読者に向かってくる動きとして描かれ(最初の絵)、その後読者から離れていく場面となっている(二番目の絵、山奥に向かっている)。吹き出しは、誰が最初と最後に話しているか、疑問の余地がないように配置されている。z型のパターンは壊されているが、最初にどの吹き出しを読むべきかは、はっきりしている。

順序よく配置された吹き出し

-これが正しい洞窟だ。私にはわかる。
-奥に行くほど寒くなるよ。
-寒くなるし、じめじめしてくるのさ。足元に気をつけろ。滑りやすいぞ。

参考文献

レイモンド・ブリッグズ (Briggs, Raymond)『スノーマン(The snowman)』
ロンドン ハミッシュ・ハミルトン(Hamish Hamilton)1978年

フィリップ・デュパスキエ(Dupasquier, Philippe)『大脱走(The great escape)』 アメリカ合衆国 ケンブリッジ キャンドルウィック・プレス(Candlewick Pr)1996年 ISBN 9781564028501

ウィル・アイズナー(Eisner, Will)『コミックと連続的芸術 世界でもっともポピュラーな芸術様式の原則と実践 第22版(Comics & Sequential Art. Principles & Practice of the World’s Most Popular Art Form. 22nd edition)』 フロリダ タマリック(Tamaric)プアハウス・プレス(Poorhouse Press) ISBN 0 9614728 1 2