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図書の形態

アクセシビリティが問題となるとき、図書の形態は極めて重要である。読みやすく改変された書物の出版社にとって、これは大きな課題となる。それは、最高の読みやすさを達成し、できるだけ視覚的にアクセシブルにすることだ。

ここに記されていることの多くは、「あらゆる」タイプの図書に当てはまる。文字の大きさを8ポイントにして図書を印刷するには、非常にもっともな理由が必要である。出版社が、文字を大きくすることと行間を広げること、そしてテキストの背景に濃い色の紙面を使用するのをやめることを常に守れば、かなり多くの図書がよりアクセシブルになるであろう。

出版社にとって、紙の価格が高いときにページ数を減らすことは魅力的だが、小さな印字は、読むことに問題のある読者に限らず、多くの読者に恐怖心を抱かせ、読者は逃げて行ってしまう。品質を高めることによってこそ、すべての読者をつかめる可能性が高まるのだ。

書体-スクリプト体-活字体

一般に、斜字体は読みにくい。テキスト中で何かを強調したいときには、太字を使用するとよい。しかしそれ以外は、どの書体がもっとも読みやすいかについて、確かなことを語るのは容易ではない。いくつかの調査は、もっとも読みやすいのは、もっとも頻繁に目にしている書体だという単純な結果を示している。ノルウェーの図書では、「アンチック体」を目にすることが非常に多い。「アンチック体」は多くのセリフがついた書体で、これにより読む速度が上がる。また優れたアンチック体は、ベースラインに沿って読む方向を指し示すのでよい、というのも理にかなっている。弱視の人の場合は、通常ゴシック体を好む。これは、文字にセリフがなく、全方向が同じ太さの書体の総称である。文字の線が同じ太さであることから、視力の弱い人でも読みやすくなっていると思われる。また、ゴシック体では単語がお互いにはっきりと離れているので、読むことに問題のある人にも適した書体であると考えられる。ゴシック体は遠くからでも見やすいので、ポスターに使われることが多い。本冊子のテキストは12ポイントのアリアルで書かれている。

イギリスでは、初心者向けの図書に使用されるサッスーン・プライマリーという書体が開発された。この書体は手書きの文字に少し似ており、子供たちが好んで読む書体を考慮して開発された。子供向けの絵本や初心者用図書の出版社には興味深いはずである。

線の太さが均一でない書体や、特に細長い書体、つまり非常に「やせている」書体は、読みにくい。「ベースライン」から上下に伸びる線が短い、平べったい書体にすると、テキストが単調で読みにくくなる。きっちりとした幾何学的な形の書体にも、同じことがいえる。

文字の大きさと行の長さ

テキストが読みやすいかどうかを決定するのは書体だけではない。文字の大きさも同様に重要である。たいていの人は、フォントサイズを11か12にすると読みやすくなる。数カ国の盲人協会は、一般のテキストでは12ポイントを最低基準とすべきで、そうすれば、中度弱視でもかなり多くの人が読めるようになると主張している。弱視の人や知的障害者のために読みやすく改変された図書では、通常14ポイントが使用されている。しかし、書体によっては、14ポイントが12ポイントに見える場合があることに注意しなければならない。文字の大きさは、背の高い文字(t,f,h)と背の低い文字(p,g,j)によって決まる。文字の高低差が比較的大きい書体では、a、sおよびeなどの「xハイト」は小さくなる。

文字が大きすぎると、行全体を見るのが難しくなる。文字が大きすぎることによって、行が長くなることがないようにしなければならない。1行はおよそ11cmの長さにするのが望ましい。行が長いと、次の行の最初へと戻る距離が長すぎるので、読者は改行するのが難しくなる。

しかし、長すぎても短すぎてもすべてがだめになる、ともいえるだろう。1行に30文字しかない場合、何事も多くを伝えるのは難しく、頻繁に改行しなければならないために多大なエネルギーを費やすことになる。90文字では1行が長くなり、全体を見るのが難しい。理想は55文字から60文字である。

また、3行にまとめられたテキストでは、中央の行が一番長いとき、もっともバランスがよいことも、心得ておくべきだろう。

節と文分割

テキストは、文を分割したり多数の節を設けたりして、アクセシブルにできることがよくある。文を、次の段や次のページへと続くように分けてしまったり、最悪なことには、ページをめくらなければならないように分けてしまったりするのはよくない。また、例えば一方のページに1つしか文がないような節の分けかたをしてはならない。読むことに問題のある人は、各ページの一番下で息継ぎの場が必要である。そのため、一定のスペースを空けてテキストを配置するよう、大いに苦心することが大切である。

また、右マージンを揃えて文字を配置するのも避けなければならない。これによって単語と単語の間のスペースが不均等になり、テキストを読み進めるのがさらに難しくなるからだ。マージンは揃えない方がよい。これは、読んでいる途中で止まってしまった場所に戻らなければならない読者にとって、絶対である。通常、右マージンを揃えないようにするのが最適だが、各節の最初の部分をインデントすることもまた有効である。

いくつかの知的障害者向けのパンフレットの中で、テキストをページ中央に配置することを試みた。これは成功したようである。

1行の長さが10から12のときには、文の途中で行を分けなければならないことがよくある。だが文をどこで分けるかが問題となる。多くの人は、フレーズがあるのなら、「読者を先へと引っ張っていく」ために、フレーズの途中で分けるべきだと考えている。しかし、「シンプルなテキスト」の中で記したように、一般に認知障害のある人の場合は、フレーズが1行に書かれている方が、意味を理解しやすいと思われる。少数民族については、決まり文句を分けてしまうと、文章の一貫性を把握するのが難しくなる場合がある。

節を利用すると読みやすくなるが、これは休む機会が与えられるからである。しかし、読むことが苦手な若者の場合は、これを多用することに否定的な反応が見られた。詩を連想する者もいれば、若者向けの他の図書とあまりに違うので、読んでいるところを見られたくないと考える者もいた。図書の形態が「いけてる」場合は、改変を受け入れやすかった。実際に試してみて、これらの意見のバランスを取っていかなければならない。

スペース

ページには、「エア(air)」とも呼ばれるスペースを多くとることが重要である。 行間スペースで、テキストが読みやすいかどうかが決まる場合がある。奥付のページでタイポグラフィーについて記している本はほとんどないが、特に明記している場合は、文字サイズと行間スペース(kegel)の両方に言及している。14/18エジプシャンセリフ体が、いくつかの認知障害者グループに試され、よい結果が得られた。14/18は、文字サイズが14ポイントで、行間が18ポイントということを意味する(1ポイント=0.353mm)。しかし行間を広げることで、自動的にテキストが読みやすくなるわけではなく、例えば8.5/15はあまりよくない。

行間を広げても、小さな文字は大きくはならない。原則として、行間は文字の大きさよりも20-30%大きくするとよいといわれている。14/18は、フィンランドの図書デザイナー、マーカス・イトコネン(Markus Itkonen)をはじめ、さまざまな人々に推奨されている。

また、語間スペースも考慮しなければならない。これは広げすぎると読む速さが遅くなることがあるので、広げすぎないようにする。それぞれの単語がひとまとまりとして認識されるように、文字はお互いにかなり接近させて配置しなければならない。このような「語間詰め」は、文字サイズと書体に応じて個別に行われなければならない。

段組み

図書が横向きA4サイズである場合を除き、段は1つだけにしたほうがよい。段と段の間の距離はかなり大きくとり、インデントが使用できようにする。2段組みにすると、ハイフンが多くなりすぎて、読者を混乱させてしまう。ハイフンを多用した場合、よいテキストモデルにはならない。3段組みでは複雑すぎる。

「テキストボックス」およびその他の効果的手段

さまざまな大きさの見出し、余白部分のテキスト、文字の大きさや背景の色の変更、追加記事を掲載した「ボックス」、注釈を示す星印…これらの効果的手段は、教科書やノンフィクションのテキストで頻繁に使用される。研究によれば、これらのほとんどは、読むのが難しい人にはまったく無駄であるとわかっている。これらは役に立つどころか、混乱を招いてしまうのである。図が専用のページに掲載されていないと、図の中のテキストを本文の一部として読んでしまう。単語の説明は、本文に盛り込まなければならない。追加記事を掲載した色つきのボックスは、テキストと背景とのコントラストが弱すぎるので、一層読みにくいことが多い。このような効果的手段は、読むのが難しい人のための図書に導入する前に、しっかりと検証しておかなければならない問題である。

背景と色彩

読むスピードを考えたとき、白地に黒の印刷が最適で、これに続くのが、白地に緑、白地に青、そして黄色い地に黒である。わずかに黄色い紙、またはわずかに灰色の紙もよいが、その場合黒で印刷するのが望ましい。

このような規則は、背景の色の選択にも当てはまる。これは図中のテキスト、余白部分のテキスト、章見出しなどに活用されることが多い。多くの本が、テキストの背景に色つきの紙を使っただけで、アクセシブルでなくなってしまっている。この種のグラフィック効果により、本は一層魅力的になるかもしれないが、非常に多くの場合、このような背景の色は、美しさも読みやすさも向上させないことがわかっている。

挿絵

挿絵に関して最初に行うべきことは、それが必要か否かの決定である。成人向けの小説には通常挿絵はない。一方、私たちは「図解社会」に暮らしている。実際、成人向けの小説に挿絵を入れてはいけない理由は何もない。それはディスレクシアの人と少数民族の人の読書を容易にするであろう。

挿絵を単なる飾りとして入れるべきではない。挿絵は目と脳を休めるものとして役立ち、読者をサポートするものとなるであろう。挿絵はテキストを正確に描写し、その理解を深め、本の芸術性を高める。これまでの経験から、小説中に挿絵があれば、読むのが難しくても独力で本を読もうと決心する人が増えることがわかっている。

挿絵をどこに入れるかは非常に重要である。挿絵が説明の役割を果たしているなら、該当するテキストと同じページか、隣のページに載せなければならない。芸術性を高め、読者を惹き付けるための挿絵は、馬にやるニンジンのように読者へのご褒美となるので、章の最後に載せるとよいだろう。

本の紙面を選ぶときには、表面の質感、厚さ、透光性、色、重さ、価格など、考慮しなければならないことがたくさんある。紙質は、視覚障害のある読者にもっとも重要な問題であるが、彼らにとってよい紙は、他の読者にとってもよいものとなる。

弱視の読者の多くは、光に敏感な目を持っている。光沢のある紙面の本は、このような人たちには適していない。また、不透明性を高くする必要があるが、これは、どの読者にとっても、ページの裏側のテキストが透けて見えるのはよくないからである。

紙面に少しだけ光沢があった方が、挿絵がやや目立つ。しかし、光沢のない紙面でも品質は十分である。

不随意運動が起こってしまう人や、ページをめくることなどに関する運動障害のある人のために図書を製作する際には、強い紙質を選び、しっかりとした製本をしなければならない。

画面上で読む図書

タイポグラフィーと背景の色について書かれていることのほとんどは、画面上で読む図書にも当てはまる。また、多くの「スクリーンリーダー」では、画面上のページが、いわゆるWAI標準規格に技術的に準拠していれば、書体、文字サイズ、背景の色を、各自のニーズに合わせて変えることができる。WAI標準規格については、 http://www.w3.org/WAI/ で読むことができる。

表示

本には表示を付けるべきか否か?これは読みやすく改変された書物や教科書について、常に問題とされてきた。その本が特定のターゲットグループを対象に製作されていることを知らせるべきだろうか?読者の対象年齢を記しておくべきだろうか?編集にあたって、誰がスポンサーとなったのかを伝えるべきだろうか?スポンサーは、通常奥付のページや裏ページに名前を載せたいと考える。年齢層についてのヒントを提供する必要がある場合もある。いずれにせよ、表示がある場合でも、最近は以前に比べてはるかに目立たなくなった。他のスポンサーと同様に、「すべての人のための図書」財団も、支援した図書にロゴを載せたいと考えている。ロゴは、その本が読みやすく改変されており、高い品質であることを保証するものである。

ターゲットグループの表示は、これ以上に厄介である。本の裏ページには通常、どのような人がこの特別な本に興味を持つかを伝える言葉がある。一方、私たちはできるだけ多くの読者にこの本を届けたいと考えている。本冊子と、www.boksok.no 、そしてカタログの中では、あらゆる種類の機能障害や身体障害に言及する代わりに、「シンプルなテキスト」や「シンプルな内容」などのインクルーシブな表現を使うように努めてきた。私たちは「私たちの」出版社にも、同じようにすることと、すべてのタイプの読みやすく改変された図書を「読みやすい図書」と呼ぶのではなく、その代わりに改変のタイプを説明してほしいということを伝えている。