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シンプルな内容の図書

シンプルな内容は、認知に問題のある人、すなわち、知的障害者、認知症の人、そして、一部の失語症の人に適した改変のタイプである。あえて言うが、これらの人々は、書く対象としてはもっとも難しい集団である。

ここで取り上げるのは、まったく読めるようにならない多くの人々である。このような人々のために、レベルの異なる図書を用意する。

  •  極めて読みやすい図書
  • 読みやすく改変されてはいるが、ほとんどの場合、読む際に支援者が必要な図書

知的障害者や認知症、あるいは失語症の人の読書を支援する読書リーダーには、2つの責任がある。それは、支援を通じて、読者に経験と冒険へのアクセスを提供することと、同時に、読んでみようと思えるような刺激を与えることである。

失語症の人の多くは、大部分の言葉を失っている。しかし、たとえ言うことはほとんど意味をなさない場合が非常に多くても、彼らはたくさんのことを理解できるのである。失語症の人にもっともふさわしい図書は、シンプルなイラストが1つの単語と一緒に載っているもので、これが言葉をもう一度覚えるのに役立つであろう。彼らは多くの場合、自力で読むことが難しいので、読み聞かせてもらうことが重要である。

シンプルな内容に関して、程度の差はあるが、認知に問題のある人が理解しにくいことがいくつかある。

  •  隠喩
  •  遠く離れた場所
  •  把握しきれないほど大勢の登場人物
  •  脱線することが多い話の筋
  •  時間順でない説明
  •  大きな数
  •  珍しい単語
  •  略語

しかしここでもいえるのは、例外のない規則はない、ということである。

知的障害者は、他の人が通常経験するほど多くのことを経験していない。認知症の人は、あまりに多くのことを忘れてしまったので、単語や概念がほとんどわからない。このため作者はテーマの選択が大きく限られるように感じてしまう。しかし必ずしもその必要はなく、選択の幅は広い。知的障害者は、他のすべての人と同様に、特別な関心事や趣味を持っている。知的障害者の知識や理解力、やる気の高さを、教師が過小評価していることがよくある。認知症の人の場合は、はるか昔まで十分にさかのぼれば、彼らが「くつろいでいる姿を見る」ことができるであろう。昔のヒット曲や実際に使われていた品物も役に立つだろう。 これに関連して、知的障害者とともに活動しているベテランの1人の言葉を引用するのは、今がちょうどよいタイミングであろう。スウェーデンの心理学者、イングリッド・リルジョス(Ingrid Liljeroth)の言葉である。「誰もが、障害の程度に関わらず、何かを経験することができる。そして十分な経験ののち、しばらくすると自分が経験したことを理解することができる。さらにその後、自分が経験し、理解したことを表現できるようになるだろう。」(1973年デンマークのアーハス(Arhus)における会議にて)

シンプルな内容の図書はまた、テキストもシンプルでなければならない。シンプルなテキストのための一般原則に加え、これらの人々のために書くときには覚えておかなければならない、その他の言語事象がある。他のグループのために書く場合は、現在の文法規則に従わなければならない。だが認知に問題のある人のために書く場合は、以下は使用しない方がよい。

  • 複雑な属格
  • 受動態および分詞
  • 非人称代名詞

文分割について、このグループの読者の多くは、文中の節を分割しない方が読みやすいと考えている。その方が、読んでいる内容の要点がつかみやすいからである。

長い単語は認知に問題のある人にとって難しい場合がある。このグループを対象とした執筆ではもっとも経験の長いノルウェー人作家のリヴ・リクター・リッケンボルグ(Liv Riktor Lykkenborg)は、長い単語に関してある技を持っている。

ペール(Per)とアイダ(Ida)は練習中

Me-me-me
mete-oro-logi-cal(気象の)

In-in-sti
tute-tute-tute(機関)

Mete-oro-logi-cal
in-sti-tute(気象庁)

リヴ・リクトール・リッケンボルグ『晴れの日になるかしら?(Blir det sol?/Will it be a Sunny Day?)』
オスロ ギルデンダール(Gyldendal)1968年

彼女の知的障害者向けの本は、ノルウェー国内に限らず、他の作家のテンプレートのようなものとなった。彼女の本はいくつかのレベルに分けて作られている。短いテキストの作品と、長めのテキストの作品があり、短いテキストの作品は多くの場合、挿絵にテキストがついている。章見出しもテキストとして読むことができる。中には、挿絵で物語全体を語っている作品もいくつかある。さらに彼女の本は、オーディオブックとしても発売されており、非常に遅い速度と通常の速度の2種類がある。 フィンランド人作家のビルギッタ・ボート(Birgitta Boucht)は、シンプルな内容の図書についてこう記している。「これは特別なジャンルである。テキストは短い行で構成されているが、詩にはなっていない。これらの本には、説明のない難しい単語は一切ない。具体的であり、時系列に沿っている。浜辺の石のように清潔である。印刷に出される前に、それは多くの波で洗われてきた。つまり、このテキストを書いた人は、あらゆる不要な単語、あらゆる下手な表現、そして理解不可能なすべてのことを、削り取り、すりつぶし、洗い清めたということだ。

しかし、あとに残されたのはおとぎ話であり、言葉のきらめきである。それは語られるのではなく、行間にほのかに見ることができる。さらに残っているのは、悲しみと喜び、愛、友情など、「一般の」フィクションの本に見つけられることすべてである。」(筆者訳) (『読みやすいとはどういうことか?』http://www.papunet/ll-center/38-0-html)

知的障害者が自力で読める本の執筆は「難しい」。作者は、言葉選びに精を出さなければならない。しかし、このような図書を実現することは大変重要である。私たちは知的障害者に読める喜びを贈らなければならない。

シンプルな言葉しか残らない

参考文献

『読みやすい図書のためのIFLA指針(Guidelines for Easy-to-Read Materials)』
ブロール・I・トロンバッケ(Bror I. Tronbacke,)編著
オランダ ハーグ IFLA出版(IFLA publication)1999年
ISBN 90 70916 6 49 (publications@ifla.orgより注文可能)