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報告:IFLA特別なニーズがある人々を対象とした図書館サービス分科会中間会議(mid-year meeting)in ベルリン

日本障害者リハビリテーション協会情報センター 野村美佐子

2016年、2月18日と19日にベルリンでIFLAの特別なニーズがある人々を対象とした図書館サービス分科会常任委員会の会議が開催された。本会議は、ベルリンにあるドイツ人権研究所がホストをしてくれた。本研究所は、1993年に採択をした人権機構に関する「国連パリ原則」に基づいて、ドイツ連邦議会の決議により、2001年に設立された。この研究所は第二次世界大戦後の冷戦期においてドイツ・ベルリンが東西に分断されていた時代に、同市内の東西境界線上に置かれていた国境検問所チェックポイント・チャーリー (Checkpoint Charlie) があるところから2分ほどのところにある。そこは、ベルリンの壁近くでもあり、場所としてはふさわしいところであるのかもしれないと思った。この本研究所には、主として人権に関する文献の図書館があり、そこの責任者であるアン(Anne Sieberns)は、LSNの常任委員であり、今回の会議のホストである。

今回の会議には、常任委員会委員と通信会員と共に、今後、常任委員となりたいというデンマークの図書館関係者、図書館情報学科の学生がオブザーバーとして参加し、賑やかな会議となった。

最初にホストであるアンから、ドイツ人権研究所についてプレゼンがあった。その詳細は、次のウェブサイトで彼女のプレゼンの日本語訳を見ることができるので参照してほしい。(ドイツ人権研究所 発表資料)

会議においては、2016年度の本分科会としての活動について具体的にどのようなことを行っていくのかが話し合われた。具体的には、次の活動を予定している。

1.ホームレスに対する図書館サービスガイドラインの作成
2.IFLA会議におけるアクセシビリティについての提言
3.ディスレクシアガイドラインに掲載するナレッジベースと好事例についての更新作業

上記3つの活動に焦点をあて、どの委員がそれぞれの活動に対してリードを取るのか、またそのような活動が年1回、夏に行われる年次大会で開催される分科会ごとのセッションと、どのように関わらせていくのかが話し合われた。またそれぞれがIFLA全体として促進する「国連の2030年持続可能な開発目標(SDGs)1)」との関連付ける企画となるよう、その部分についても活発な意見交換があった。

写真1

会議の様子

SDGsに関連してドイツ人権研究所の政策提言を行っている方からこれまでのIFLAとしての2015年9月の国連における採択までのプロセスの参加について述べられる、「誰も取り残されない」というスローガンをもとに人権という観点からSDGsの実践について、そのための図書館の役割についてプレゼンをしていただいた。

今年のIFLAの年次大会におけるLSNのセッションは、ホームレスに対する図書館サービスが中心で、そのためのガイドラインも作成をしているので、サービスを行っている図書館員のみならず、ソーシャルワーカー、ホームレスである当事者などにスピーカーを捜しているところである。またその場でガイドラインの草案の発表も考えているので、それまでにガイドラインの執筆を行うためワーキングループのメンバーは、現在各地から集められた30以上の事例の分析に忙しい。残念なことにアジアの事例が極端に少なく、アメリカでは、多くの事例が集まった。多くのアメリカのホームレスに対するサービスに詳しい専門家もアドバイザーとしてスカイプを通して会議の中で開催されたホームレスガイドラインプロジェクトに参加してくれたことは、今後の活動に有効であった。

ガイドラインの内容については、最近話題になっている「難民」についても、ホームレスとの共通の部分との違いの部分を明確にして、共通の部分について何らかの執筆を行うことにした。今回、難民に関して「Future Library 2)」のギリシャの担当者から、今回の委員会の中で開催されたホームレスガイドラインのプロジェクト会議にオブザーバーとして参加してくれた。担当者によると難民と重なっている点として以下を挙げた。「住所不定」、「学校に行けない」、「仕事がない」、「図書館は安全な場所」、「図書館で情報を得ることは無料」、「保健サービス、教育について基本的な地域情報しか得られない」、「ソーシャルネットワークの欠如」、「人権」、「偏見」などである。

写真2

図書館の文献

今回の会議の議題として挙げられたIFLA会議におけるアクセシビリティについては、多くの委員がこのテーマについて興味を持っていたので多くの意見が出された。LSNセクションとして声明文を出す予定であり、単に物理的なアクセシビリティだけでなく情報アクセシビリティについても言及した声明にしたいと考えている。これらの活動が図書館における特別なニーズを持つ利用者に対するサービスの普及に貢献できればと思っている。

以上、常任委員会について説明をしたが、今回のような顔を突き合わせた会議というのは、文化や言葉の壁を超えてお互いを知ることと一緒に活動する楽しさを与えてくれる貴重な会議となる。日本における多くの図書館員が国際図書館連盟でこのような活動を行う分科会の活動に参加してほしい。

1)持続可能な開発目標(SDGs :Sustainable Development Goals)とは
http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/intl/un/what_sdgs.html
2)Future Library(英語)
http://www.futurelibrary.gr/en/