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平等から機会向上へ:
知識社会における国立図書館の新たな役割と機能

韓国 ソウル
韓国国立中央図書館
牟喆敏(モ・チョルミン)

出典:
IFLA 2010
国立図書館分科会
2010年8月14日
Beyond Equality to Better Opportunity: New role and function of a National Library in a Knowledge Society
http://www.ifla.org/files/hq/papers/ifla76/132-mo-en.pdf

発表概要

要約:

本論文は、韓国における著作権問題と情報格差問題を克服するためのオープンアクセスに関する新たな国策の成功と普及を目的としている。ウェブ上ではあらゆる情報がすべての人に公開されているように見えるが、使用料や著作権のために、重要な情報を容易に検索できなかったり、利用できなかったりすることが多い。ある情報がすべての人に公開されている場合でも、それをユーザーが自力で利用もしくは作成できるかによって、その価値は変わってくる。そこで本論文では、すべての人に平等に情報が提供されているだけでなく、質の高い情報へのよりよいアクセスを提供している他の図書館の模範的な事例を検討する。


国際通貨基金(IMF)の監督の下、1997年末から2001年にかけて、韓国社会は行き詰まった経済の打開に取り組まなければならなかった。以来、知識管理の重要性が叫ばれるようになり、企業や経済政策において、一層実用的な付加価値の創造が進められた。この目標を達成するために、「個人、企業および政府を含む全員が知識で武装しなければならない」という論理が打ち出された。これらの段階を経て、韓国社会は知識集約型社会へと変化していった。 

「情報社会」とは、情報という機能的な形で知識が処理され、普及され、維持されることに重点を置く社会と定義される。情報社会では、情報技術力、すなわち情報を作成し、普及し、維持する技術力が重視される。一方「知識社会」では、情報そのものとしては伝えることができない知識の特性、つまり人間の持つ意味論的あるいは創造的な特性を重視する。それは知識の創造に価値を置く社会である。このため知識社会においては、知識の創造が重要であり、組織よりも個人が重視され、個人の創造力が活動の中心となる。

知識社会とデジタル環境の要件を満たした図書館環境を構築するために、韓国国立中央図書館では2009年5月にデジタルライブラリーを開設した。図書館の建物は環境に配慮しており、地上3階建て、地下5階建てとなっている。そしてデジタル資料やサービスを利用者に提供するスペースと、図書館のデジタル化プロジェクトを進める部門のスペースとが設けられている。地下2階分は閉架書庫で、利用者のスペースには約500台のコンピューター、各種機器、デジタルビデオ陳列室と、デジタル資料を使用するための会議室がある。

デジタルライブラリーの利用者用スペースには、本は一冊もない。この図書館内のスペース利用に見られる変化は、図書館利用者に強烈な印象を与えるものである。また図書館側にとっても、将来の韓国国立中央図書館の機能と役割について考え直すきっかけとなった。さらに、これらの変化に対応するために、関連する法律や制度を改正しなければならないことも明らかになった。

本論文では、韓国における著作権問題と情報格差問題を克服するためのオープンアクセスに関する新たな国策の成功と普及について検討したい。ウェブ上ではあらゆる情報がすべての人に公開されているように見えるが、使用料や著作権のために、重要な情報が容易に検索できなかったり、利用できなかったりすることが多い。ある情報がすべての人に公開されている場合でも、それをユーザーが自力で利用もしくは作成できるかによって、その価値は変わってくる。そこで本論文では、すべての人に平等に情報が提供されているだけでなく、質の高い情報へのよりよいアクセスを提供している他の図書館の模範的な事例を検討する。

1. 法的基盤の確立

2004年以降、韓国国立中央図書館はOASIS(オンライン保存・検索インターネットソース)プロジェクトに参加し、インターネット上で無料で利用できるウェブサイトおよびウェブドキュメントなどのデジタル資料を収集してきた。2009年3月には図書館法とその補則が改正され、2009年9月より発効され、商業用オンラインデジタル資料の収集に関して、法的支援が得られるようになった。2010年4月末時点で、470,000件のデジタルリソースが収集され、そのうち54,000件が制作者の同意の下に一般に公開されている。

現行法は既存の法律の改訂版で、「図書館資料」の概念を拡大してオンライン資料の収集と保存に関する新たな条項を加えたものである。また、視覚障害やその他の障害のある人々のための資料を効果的に制作、配布できるようにする環境作りと、少数派(知識情報から疎外されている階級)の情報へのアクセス権向上に関する項目が含まれている。改正図書館法では、オンライン資料収集に関する条項に加えて、図書館資料の選択、種類、フォーマットおよび使用料などの重要な問題を見直す「図書館資料再検討委員会」設立をうたった新たな条項も追加された。新たな法律に基づき、韓国国立中央図書館は、電子書籍・雑誌からビデオ、映像資料および音声資料に至るまで、およそ百万件を2010年度中に収集する計画を立てている。

図書館法改正と同時に、図書館サービスと密接な関係がある著作権法も、デジタル環境における効果的な図書館経営の法的根拠を確立するため、2009年3月に改正された。

オンライン資料収集と保存に関する新条項

新しい図書館法では、「図書館資料」の概念が、これまでのオフラインのメディアに加えてオンライン資料も含めた「コンテンツ」へと拡大された。これにより、韓国国立中央図書館は韓国国内で提供されるオンライン資料の収集と保存ができるようになり、知識情報の創造とユーザー環境の整備という国際的な潮流に乗ることができた。同時に、これを著作権法によって支持するために、韓国国立中央図書館によるオンライン資料の収集と保存を許可する基本条項を入れた改正著作権法が、2010年3月に公布された。現在、韓国国立中央図書館デジタルライブラリーは、オンライン資料の安定した方法での収集・保存に関して、法的根拠を得ている。一方、収集されたオンライン資料が商業用である場合には、権利所有者に損害を与えないため、適切な使用料を支払うなどの特別な措置が取られている。

障害のある人々のための「デジタルファイル」の提出義務に関する新条項

新しい著作権法では、韓国国立中央図書館が読書や学習、職業知識および一般教育に重要と思われる必須図書の「デジタルファイル」の提出を義務付けることを認めている。障害のある人々のための点字図書や録音図書の制作は、コンテンツを手で入力し直さなければならないので、高い費用と長い時間が必要となる。このため同図書館では、障害のある利用者に対し、その要求に応じてタイミング良く図書を提供することができずにいた。この問題は、出版社によるこのような図書のデジタルファイル提出が義務付けられていれば解決できたことである。現在新たな改正法では、デジタルファイル提出の義務付けと、図書館、障害のある人々、そして出版社がともに利益を得られるようにするための、出版社に対する使用料の支払いに関して、法的根拠を提供している。

「知識情報貧者」による情報アクセスの機会の拡大

改正著作権法では、中央政府および地方自治体に対し、障害のある人々、高齢者および政府から生活補助金の支給を受けている最貧層の市民による、オンライン資料の著作権使用料を、一部あるいは全額援助することを定めている。これは「知識情報貧者」が、たとえ少額であっても、著作権使用料のために知識情報の利用を諦める可能性があるという事実をふまえ、政府が代わりに負担するべきであるとしたものである。

著作権法における韓国国立中央図書館が所蔵するオンライン資料の著作権に関する新条項

情報技術の急速な発達とともに、オンラインでの情報作成やユーザー環境の構築が迅速に進められている。しかし生滅のサイクルが短いオンライン資料の管理は、オフライン資料に比べてかなり脆弱である。そこでデジタルネットワークという新たな環境において、知識と文化の享受と伝達を妨げることなく創造活動を活性化する、「著作権を超越した」新しいモデルが必要となった。

こうして「図書館法」第20条第2項に従い、2009年3月に著作権法が改正され、国内の文書の全般的かつ合法的な収集機関である韓国国立中央図書館に対し、情報通信ネットワークを通じた一般利用が可能であり、かつ国家レベルでの保存が重要であると見なされたオンライン資料については、収集資料の複製の作成を認めることとした。さらに同図書館に対し、文字で書かれている出版物を、視覚障害のある人々やその他の人々に適したフォーマットで複製し、特定の施設に配布もしくは配信することも認めている。

これらの法的根拠に基づき、韓国国立中央図書館では、利用者によるデジタル情報利用の機会を一層向上させるため、新たな機能と役割を追求していく。

2. 「平等」から「機会向上」へ

1970年、アルビン・トフラー(Alvin Toffler)は情報洪水について語った。そして今、私達は知識改革について語っている。多くの情報はデジタルネットワークを通じて刻々と入って来るが、情報不足の問題はなくならず、むしろ情報格差は拡大しつつある。情報不足には2つのタイプがあり、1つは、デジタルコンテンツを閲覧する設備や機器がなく、デジタル情報へのアクセスが難しい場合であり、もう1つは、ハードウェアやコンテンツが利用できても、情報を活用することが難しい場合である。韓国国立中央図書館では、両方の問題の解決に当たっている。

デジタルライブラリーポータルサービス(「ディブラリーポータル」)

「ディブラリーポータル(www.dibrary.net)」は、韓国国立中央図書館のオンラインサービスで、2009年5月に開設され、誰もが質の高いデジタルコンテンツを自由に利用できるようになった。「ディブラリーポータル」は、アクセスベースの共同サービスを創造するために、図書館だけでなく、重要なデジタルコンテンツを所有している国内外の公共機関および非政府団体など、広くさまざまな知識情報機関と連携し、協力している。

「ディブラリーポータル」は、約1,250の国内外の機関と連携し、1億件を超えるデジタル知識情報の総合検索サービスを提供している。これには、韓国国立中央図書館が所蔵する図書のフルテキストデータベース390,000件と、同図書館が購入、購読、制作、収集したデジタルコンテンツが含まれる。この390,000件のデジタル図書のうち、240,000件は今も著作権により保護されており、150,000件は著作権が切れた作品である。これらは合計で約1億1千万ページにも及ぶ。これはデジタル化プロジェクト全体の収集目標の約20%に相当する。

「ディブラリーポータル」のおもなコンテンツは以下の通りである。

  • 学術情報:韓国国立中央図書館の文献情報、フルテキストデータベース、ウェブデータベース、ネイヴァー書籍情報(ネイヴァーは、韓国で最も人気の高いインターネット検索ポータルサイト)
  • 専門情報:OASIS(国内文書を保存)、文化的コンテンツ、科学技術情報、公文書、国内の知識資源、韓国の一般的な情報、特許情報
  • 海外の情報:公開されている学術情報、学術雑誌、海外での学術会議の議事録

メインのポータルサイトに加え、障害関連ポータル、政策情報、地域情報およびさまざまな文化情報の4つの専門情報サービスサイトがあり、ユーザー中心にカスタマイズされたコンテンツを提供している。これらのコンテンツは、ウェブ上でOAIプロトコルを利用して世界にも公開されており、世界各地のおよそ1,000の機関と結ばれ、共有されている。

貧しい人々と遠隔地に住む人々へのデジタルコンテンツの無償提供

2001年から2004年にかけて、韓国国立中央図書館では、文化省からの公的資金援助と地域図書館からのマッチングファンドにより、韓国の公共図書館内にデジタル資料室を開設した。このプロジェクトを通じて、全国の公共図書館がデジタル資料室のハードウェア基盤を整備することができた。この基盤に対し、韓国国立中央図書館が所蔵するデジタル資料と商業用データベースが提供されている。しかし、デジタルコンテンツとデジタル機器の普及とともに、公共図書館がさまざまな利益を提供し、便宜を図ることができたとしても、一部の人々がこれらのサービスを受けることができずに取り残されるという不平等の問題が依然として存在する。

2009年の図書館法改正とデジタルライブラリー開設とともに、韓国国立中央図書館は、デジタル知識情報サービスを農村、漁村および山間部の遠隔地にある小規模図書館にまで拡大し、デジタル資料を使用する際に請求される著作権使用料の支払いを援助することにより「知識情報貧者」を支援するため、「韓国国立中央図書館による韓国のすべての人々に対する知識情報サービス拡大政策」を策定した。

この政策を第一段階とし、2010年2月から同図書館では、デジタルフルテキスト情報サービスを、351の農村、漁村、および山間部の小規模図書館に提供し始めた。地域の人々の高い関心と支持を反映し、2010年6月の時点で、このサービスを884の図書館へと拡大する第二段階が進められている。

おもなサービスとしては、1)韓国国立中央図書館が所蔵する390,000件のデジタル図書と約2,100件の電子雑誌のフルテキスト/全文検索サービス、2)韓国国立中央図書館が購入する約3,000件の電子書籍と電子雑誌の小規模図書館経由での利用。このサービスは、韓国国立中央図書館が提供するデジタル情報の利用(読書目的の配信)にかかる著作権使用料を全額援助するもので、2010年末までに農村、漁村および山間部の「知識情報貧者」のために、小規模図書館1000館を支援することを計画している。

利用の機会向上のため、韓国国立中央図書館が所蔵する資料をデジタル化したフルテキスト情報と、同図書館が収集した電子書籍とを、毎年追加していく。このプロジェクトは2012年までに、国内各地の小規模図書館3,000~4,000館に拡大される予定である。

さらに韓国国立中央図書館では、小規模図書館の利用者がさまざまなコンテンツを利用できるように、各機関の合意に基づき、KERIS(韓国教育学術情報院)のエデュネットサービスを提供している。これには教員用(「知識の町」および個別指導教材)と学生用(教科学習支援および活動学習支援)の総合教育検索サービスがある。したがって、学生など小規模図書館の利用者は、論文の全文検索と資料の利用を同じ場所で行うことができ、相乗効果が期待される。

また、小規模図書館同士が韓国国立中央図書館のデジタルライブラリーを中心に接続できる動作環境を提供し、2010年6月以降、段階的に「デジタルライブラリー相互接続サービス」を支援している。これは、動作環境が悪い小規模図書館に対し、ウェブベースの総合蔵書管理システムを適用するものである。

出版社および著作者からの寄贈ファイルをもとにした点字図書および録音図書の提供

障害のある人々を対象とした資料は、教材と文学作品中心から、文学、芸術、社会、文化および歴史などの多種多様な分野へと拡大するとともに、メディアの形態も多様化し、点字図書や録音図書だけでなく、点字の楽譜まで利用できるようになった。しかし韓国の年間出版件数約50,000件のうち、点字図書や録音図書、大活字本として障害のある人々が利用できるのはわずかに2,000件にすぎない。さらに、韓国内の書籍の年間総売上高のうち、半分以上を児童書が占めているのに対して、視覚障害のある子供たちが利用できる書籍はほとんどない。点字図書や録音図書が存在しても、それらが置かれているのは、点字図書館と民営の福祉センターなど、少数の施設に限定されている。

2003年以降、韓国国立中央図書館はおよそ5,000件の点字ファイルを作成し、「ディブラリーポータル」を通じて配信してきた。2010年度はさらに2,000件のデジタル点字ファイルを作成する予定である。しかし、この数は依然として視覚障害のある読者の要望を満たすには程遠い。これを解決するために、2010年6月、韓国国立中央図書館は「録音図書共有広場」を開設した。ここでは障害のある人々が無料で本を読んだり聞いたりすることができる。「録音図書共有広場」の資料は、著作権を所有している出版社や著作者の善意で、「デジタルファイル著作権寄贈プログラム」を通じて寄贈された作品を、点字図書や録音図書、および大活字本に変換したものである。著作権の侵害を防止するため、寄贈図書のすべてに、違法ダウンロードを禁止するための技術的保護手段が講じられている。

韓国には視覚障害のある人々が240,000人いると推定されているが、点字を読めるのはそのうちのわずか2,000人である。視覚障害のある人々のほとんどは、録音図書サービスを通じてのみ、知識情報を得ることができる。しかし通信費が負担となり、そのような音声情報サービスの利用にも消極的になってしまう。視覚障害のある人々が経済的な不安を抱くことなく、知識情報を簡単に利用できるように、韓国国立中央図書館では2010年7月から「読むことに障害がある人々のための図書館通信サービス」を開始した。これは1カ月15時間の無料通信券を支給するサービスである。15時間とは、視覚障害のある人の月間平均読書時間の50%に当たる。このプログラムは韓国国立中央図書館が、KT(韓国テレコム)、GKL(グランドコリアレジャー)および韓国盲人協会(Korean Association for Visually Impaired People) と共同で始めたもので、当初、500名の申し込みがあった。サービスの提供に関する問い合わせは、電話番号080-333-6688まで。

電子書籍の無償提供サービス

韓国国立中央図書館は25,000件の電子書籍を収集し、2010年6月からデジタルライブラリーの利用者に提供し始めた。同図書館では、2008年以降新たに出版された電子書籍をデジタルライブラリーで読めるようにするという前提のもと、商業用電子書籍の中から、価格、需要および保存価値を考慮し、収集に当たっている。これらの電子書籍は、図書館内であれば、どの利用者も無料で読むことができる。さらに、農村、漁村および山間部の小規模図書館884館では、韓国国立中央図書館が制作したデジタル資料とともに、厳選された電子書籍3,000件を無料で利用することができる。今後、電子書籍47,000件と、電子雑誌、インターネット上の動画、音楽および画像100万件を収集し、それらを「知識情報貧者」やその他の人々が、より一層容易に利用できるようにするために、万策を尽くしていく予定である。

このような情報を利用者に提供するに当たり、韓国国立中央図書館では2009年以降、利用者の情報識字力向上のため、情報識字教育プログラムを毎週実施している。このプログラムにより、利用者はさまざまな機器やデータベースを不安なく使用する方法を学び、デジタル体験を楽しむことができる。

海外の図書館との連携によるデジタルライブラリープロジェクトの推進

西側諸国に比べ、韓国の情報資源は、国際的に活発にやり取りされているとは言えない。これは言葉の壁や地理的な距離が原因かもしれないが、韓国の学術情報や第一級の情報がいまだに国際的なレベルに達していないことも原因と思われる。

韓国国立中央図書館は、2010年6月、中国国家図書館および日本の国立国会図書館の代表らと共同で、アジアのデジタル文化遺産の保存および提供サービスに関する中日韓デジタル図書館推進協議会(CJKDLI)プロジェクト会議を開催した。同会議において、3国はプロジェクトに関して合意に達し、将来のプロジェクトについて議論することができた。

3つの国立図書館では、メタデータの標準規格を定め、各図書館の蔵書の総合的な相互検索とデジタル資料の共用を可能にする。そして、各図書館で利用しやすいポータルシステムのためのサーバー環境の構築など、基本環境に関する評価を行う。

いったん基本環境が整備されれば、3カ国の国民は、各国の情報を自国の国立図書館のポータルサイトからまとめて検索できるようになる。ある情報を検索するためにキーワードを入力すれば、簡単に検索でき、自国の情報だけでなく、同じテーマや分野に関する他の2カ国の情報も利用できる。これにより、3カ国すべての豊富なデジタル情報を容易に利用できるようになるのだ。

現在、ボーダーレスで大規模なデジタルライブラリープロジェクトの最たる例は、「欧州デジタルライブラリープロジェクト」と「世界デジタルライブラリープロジェクト」である。この中日韓共同プロジェクトが実現し、さらにアジア全体へと発展すれば、それはアジアのデジタル文化遺産と知識情報の手軽な利用を可能にする大規模なプロジェクトとなるであろう。

これら3カ国の国立図書館では、現在、異なる情報環境を使用している。したがって各図書館では、長期的にはシステムを画一化し、短期的にはシステムとデータを問題なくやり取りできるような相互操作性を確立することを中心に進めていく。この活動に加え、2010年に韓国国立中央図書館は、UNESCOとアメリカ合衆国議会図書館が運営する「世界デジタルライブラリー」に参加したが、今後、韓国の知的文化遺産のデジタル資料を提供していく予定である。

さらに、MOU(了解覚書)の締結に従い、韓国国立中央図書館は、現在も著作権で保護されているデジタル書籍240,000件(全データベースの60%に相当)を、「ディブラリー」のサービスを通じて海外の機関に提供している。

3. 結論-よりよい情報提供に向けて

前述のプロジェクトはすべて、オープンアクセスを前提としている。図書館はオープンアクセスの場として存在するべきであり、そこでは使用機器に関わらず、コンテンツとアプリケーションは一貫してアクセシブルでなければならない。そして図書館は、すべての利用者が、概して一層効果的かつ安定した方法でデジタルコンテンツにアクセスできるよう、このことを支持し続けなければならない。

よりよい情報を提供するサービスを備えた図書館として生まれ変わるには、情報の専門家の役割が重要となる。同時に、これまでの図書館サービスを変える必要がある。これまでの図書館サービスが、本を一つの単位として中心に据えてきたのなら、これからの図書館では、一冊の本から抜き出した情報を中心にし、すべての人がそれを利用できるようにしていかなければならない。実質的な情報のみに価値を見出し、それを知識として社会に提供していくことではじめて、図書館の社会的価値を向上させることができる。これを実現するには、情報の専門家としての図書館司書の役割が一層重要となるであろう。

国立図書館は、国の文書を永久に伝えていかなければならないという視点からすれば、「グーテンベルクの銀河系」と「電子の銀河系」の両方を備えていると言える。既に新たな電子の宇宙は図書館の重要な部門となった。国立図書館は、今の世代あるいは次の世代による、あらゆる形態の情報の利用を保障するための取り組みを続けていかなければならない。

最後に、国際的な情報技術の発達に伴い、1974年にIFLAが目指した、世界の図書館の書誌情報の相互交換による知識共有のための「世界書誌調整(UBC)」の精神を認めることが重要である。さらに、現在の進歩した情報技術を利用し、各国の国立図書館が上記の2つの銀河系を書誌学的に管理し、オープンアクセスに基づき、さまざまなデジタル蔵書を相互に接続すれば、人類のすべての知識が世界のどこででも利用できる、地球のすべての人々にとって最も完全な世界的規模の記憶装置としてH.G.ウェルズ(H.G. Wells)が計画した、「世界の頭脳:恒久的な世界百科事典(The World Brain: a Permanent World Encyclopedia)」という概念の実現が期待できる。

知識情報公開センターとして、国立図書館は知識改革時代における質の高い情報の普及を一層進めることができるようになるとともに、より安定した方法で、より信頼できる知識を人間に提供する基盤となっていくであろう。