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世界の絵本プロジェクト/The World through picture books ―絵本で知る世界の国々―

IFLA児童・ヤングアダルト分科会常任委員 依田和子

<はじまり>

 2012年夏、フィンランドで開催されたIFLA大会において「絵本で知る世界の国々」と題された世界各国の絵本の展示会が2箇所で開催されました。プレ大会では8月8日から10日までヨエンスーの中央図書館で、本大会では会場の向いにあるパシーラ図書館で8月12日から16日まで実施されました。この企画は2年以上も前のIFLAビジネスミーティングの際、世界各国の絵本に関する情報を知りたいと私が皆に問いかけたことに端を発しています。 パシーラ図書館での展示1

<アイデアのはじまり>

 実は、私が代表をしていた「かながわこどもひろば」というボランティア・グループが、神奈川県横浜市にある「地球市民かながわプラザ」(愛称「あーすぷらざ」)という県の施設で、2000年から「絵本で知る世界の国々~展示とブックトーク」という企画を毎夏実施してきた経験からの発案でもあるのです。
 この企画では、世界を8つの地域に分け、毎年1地域を対象に、該当国の絵本を横浜市の図書館から300冊お借りして、あーすぷらざのご協力を得て、当初は3日間、数年後には6日間、あーすぷらざ内の広い一室で展示会とブックトークをしてきました。8地域の概要は、2000年アジア、2001年北欧、2002年南・西ヨーロッパ、2003年東欧・中東・ロシアならびに旧ソ連邦、2004年アフリカ・中南米、2005年オセアニア、2006年イギリス、2007年アメリカと8年で世界を1周し、2008年からは二巡目を継続中です。
 この企画を実施してきて痛感したのは、英語圏の絵本は多数日本語で翻訳出版されているため図書館から借りることができるし、原書も比較的たやすく手にいれることができるのですが、アフリカ、中南米、中近東などの絵本は原書での出版点数も少なく、日本語訳も少ないために、入手が困難ということでした。
 これらの国・地域を対象とした場合は、ユネスコ・アジア文化センター、国立国会図書館国際子ども図書館などから貴重な本をお借りして対応してきました。また、各国大使館からポスターや資料を、さらには個人所有の絵本を貸していただいたこともあります。友人・知人が海外へ旅行にでかけると聞くと、絵本を買ってきてほしいと頼んだこともありました。また、IFLAやIBBYの大会に私が参加した場合には、現地で原書を購入してきて展示に使ったこともあります。

<世界各国へのひろがり>

パシーラ図書館での展示2  2005年にIFLA児童・ヤングアダルト分科会常任委員になってからは、年に1・2度世界各国の図書館員の方々にお目にかかって情報交換する機会が増えたので、各国の図書館員の方々が選んだ絵本リストの情報共有をしませんかと提案しました。みなさん児童サービスに熱意を持って関わっている人たちだったので、すぐに賛成してくださり、インターネットで情報交換を始めましょうということに決まりました。
 その後、企画を進めているうちに、各国の絵本をIFLA大会で展示することに発展し、各国の図書館員が自国の絵本作家の本を10冊選んで、表紙画像、書誌事項とともに簡単な英語の紹介文をつけたリストを作成することにもなりました。

 選書にあったっての基準は以下のとおりです。

  1. 0歳~18歳を対象とした作品
  2. 自国の言語で書かれ、自国で出版された作品。
  3. 長く読み継がれてきている質の高い作品。
  4. 絵と文がうまくマッチしている。
  5. よみきかせにふさわしい。
  6. 勇気や希望を読者に与える内容となっている。
  7. 絶版になっておらず、現在購入できる。

 展示用の絵本はそれぞれ2セット用意し、各出版社に2部ずつ寄贈と郵送費負担をお願いする。送り先は、1セットはパリのフランス国立図書館、もう1セットはフィンランドとし、ヨエンスーとヘルシンキでの展示の後は日本の国際子ども図書館へ送り日本各地の図書館で巡回展示することも決まりました。
 10冊の選書については、国により様々で、イギリスでは全国の図書館員の意見を集約して選んだそうですし、日本では日本図書館協会児童青少年委員会で話し合って選びました。

 日本の10冊は以下のとおりです。

  1. 『しっぽのはたらき』薮内正幸 え/川田健 ぶん/福音館書店/1969
  2. 『かばくん』中谷千代子 え/岸田衿子 さく/福音館書店/1962
  3. 『だるまちゃんとてんぐちゃん』加古里子 さく・え/福音館書店/1967
  4. 『11ぴきのねこ』馬場のぼる 著/こぐま社/1967
  5. 『ぐりとぐら』大村百合子 え/中川李枝子 さく/福音館書店/1967
  6. 『絵で読む 広島の原爆』西村繁男 絵/那須正幹 文/福音館書店/1995
  7. 『やまんばのにしき』瀬川康男 え/松谷みよ子 ぶん/ポプラ社/1966
  8. 『だいくとおにろく』赤羽末吉 画/松居直 再話/福音館書店/1962
  9. 『おつきさまこんばんは』林明子 さく/福音館書店/1986
  10. 『ぐるんぱのようちえん』西内ミナミ さく/福音館書店/1966

 フィンランドでの展示では、19カ国147冊の絵本が世界各国から送られてきました。その後も追加として国際子ども図書館に直接絵本を送ってくる国もあるようです。この展示会のカタログは、IFLA児童・ヤングアダルト図書館分科会のサイトでPDFにより見ることができます。(http://www.ifla.org/node/6718

<これからの予定>

 2013年3月のボローニャ・ブックフェアで「世界の絵本プロジェクト」で集まった絵本を展示することが決まり、また国際子ども図書館でも目下受け入れ作業をしているところで、来年4月以降に展示会をするべく準備をしているところだとうかがっています。その後は、国内の希望する図書館に貸出をすることも計画されていて、日本国内の巡回展示の後はアジア諸国にも貸し出すことになっています。

 私の発した一言が国際的な企画に発展していったのは、ひとえに絵本の持つ力によると痛感しています。また日本国内でも、同様の展示が横浜市内の図書館数館で実施されるようになってきています。
 絵本は、世界を知るための強力なツールになりうるという思いをいだきつつ、きっかけとなった「あーすぷらざ」での展示を今後も充実させていけたらと願っています。