音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

「シニアスペース:図書館におけるベビーブーム世代、高齢者とその家族のための場所」

IFLAロゴ

2008年8月10日
IFLA(国際図書館連盟)年次大会2008(ケベック、カナダ)
図書館利用に障害のある人々へのサービス分科会 
-世界はグレーになっていく:ベビーブーム世代と高齢者のためのモデル図書館プログラム-

アラン・M・クレイマン(Alan M. Kleiman)
アメリカ合衆国
ニュージャージー州オールド・ブリッジ

要約

ニュージャージー州(NJ)のオールド・ブリッジ公立図書館(The Old Bridge Public Library)では、館内でほとんど使われていない場所を活用し、「シニアスペース:図書館におけるベビーブーム世代、高齢者とその家族のための場所」に変えることによって、高齢者にサービスを提供する刺激的かつ革新的なアプローチをとることに成功した。この新たな「スペース」の成功を受けて、同図書館は高齢者とその家族という複数の世代の変わりゆくニーズを満たすプログラムとサービスの開発を続けている。同プロジェクトに見られるこのような変貌のユニークな点は、地域社会の広範な関与、そしてWeb2.0技術の要素とWiiを使用したゲームの早期導入である。「シニアスペース」は、ニュージャージー州(New Jersey)オールド・ブリッジ(Old Bridge)の利用者だけではなく、広く一般にも、図書館の高齢者向けサービスに対する見方を変える「モデル」プログラムとして認められる、マーケティング「ブランド」となった。本論文の著者は、「シニアスペース」のプロジェクトディレクター兼デザイナーを務めていた。

背景

世界の60歳以上の人口は近い将来、ベビーブーム世代(1946年から1964までに生まれた人々)の高齢化に伴い、大幅に増加するものと予想されている。ニュージャージー州在住の60歳以上の住民は、2000年には1,443,800人であったが、2025年までには、この年代の人々の数は250万人を超えるものと見られている。60歳以上の人口の割合は、アメリカ合衆国の全国平均が13.5%であるのに対して、ニュージャージー州ではすでに17.2%を超えており、2025年までには23.6%まで増加すると見込まれている。

公立図書館では、このような人口の変化に対処する設備が整っておらず、経験も不足している。多くの図書館では、今なお「高齢者」を年齢で差別しており、高齢者は老人ホームに住んでいる人、もしくは「大活字本」を読むことにしか関心がない人だと考えている。引退し始めたベビーブーム世代は、レクリエーション、生涯学習、市民活動、再就職に関するアイディア、そして有意義なボランティア活動の機会を得られる場として、地域の図書館に目を向けている。しかし、ニュージャージー州では、高齢者やベビーブーム世代を対象とした特別なプログラムを開発している図書館はほとんどない。

このような人口学的傾向と予測にもとづき、容易に模倣することができる、高齢者とベビーブーム世代のための革新的かつ創造的なプログラムのアイディアとサービスの促進が可能な、モデルプログラムの開発が強く求められていた。

ここ数年、未来の図書館(Libraries for the Future: LFF)では、図書館内にベビーブーム世代を対象とした「新しい」タイプの図書館サービスの基盤となりうる専用スペースを設けることを主唱してきた。しかし、LFFの取り組みが、引退間近の「活動的な」教養のあるベビーブーム世代だけを対象としているのに対して、ニュージャージー州の人口構成はまったく異なっているため、より幅広い層を対象としたモデルを必要としていた。それは、60歳から106歳までの複数の世代にまたがる高齢者のニーズを満たすモデルである。

そこで、オールド・ブリッジ公立図書館では、アリゾナ州(Arizona)とコネチカット州(Connecticut)におけるLFFの活動にもとづき、図書館内に「シニアスペース」の概念を導入した。これはベビーブーム世代だけでなく、それよりも年齢が高い成人、高齢者とその家族のニーズをも満たすものとなるであろう!

「シニアスペース」誕生!

当初「シニアスペース」のアイディアは、オールド・ブリッジ公立図書館の評議会によって、図書館の将来に向けた戦略計画開発プロセスの一部として定義された。その中で図書館評議会は、高齢者とベビーブーム世代を「新たなマスオーディエンス(一般利用者)」として認め、これらの人々に、どのようにしてこれまでと異なるサービスを提供するかを「既成概念にとらわれずに考える」ことを図書館職員に求めた。新たな一つの「傘(包括組織)」の下で、図書館内のプログラムとサービスを結びつける革新的な方法を探ることも話し合われた。

LFFのモデルにあるように、オールド・ブリッジ公立図書館の職員は、このプロジェクトのために図書館内に設けられる物理的な「スペース」が非常に重要な要素であり、これが高齢者を図書館につなぎとめる錨となると考えた。同図書館のオープンスペース方式の建築とデザインは、このプロジェクトのユニークな「強み」となった。建物は7つの「ベイ」と呼ばれるセクションに分割され、そのそれぞれが独自のテーマやサービスを掲げている。それらの中には、子ども向けサービス、ティーンズ向けサービス、成人情報サービス、視聴覚エリア、SFエリア、および閲覧/休憩エリアなどがあった。そして、ほとんど使用されていないSFエリアを「シニアスペース」に変えることが提案された。その際、この「オープン」なデザインのおかげで、このような「スペース」を作る建設費が、ほとんどあるいはまったくかからずに済み、これは他の図書館にとってこのモデルを模倣する上での魅力となった。図書館ではまた、電子資料部を統合・移転し、コンピューター研修と小グループを対象としたプログラム用の「教室」を、この「スペース」の隣に設けることにした。

具体化

プロジェクトの第一段階は、2007年1月から6月まで実施され、「シニアスペース」の物理的な要素をめぐる取り組みを中心に進められていった。ここでは、スペースの設計、適切な家具の購入(フロアエリアと「シニアスペース」の教室の両方用)、図書/資料の購入、図書/資料の移動、標識の準備と「シニアスペース」諮問委員会の結成が行われた。

ごく少人数の職員だけが参加する他のプロジェクトとは異なり、このプロジェクトの長期的な成功は、できるだけ多くの職員の賛同を得られるかどうかにかかっていると考えられた。そこで、成人情報サービス部の職員全員が、副館長のアラン・M・クレイマン(Allan M. Kleiman)を総合デザイナー兼プロジェクトディレクターとし、「シニアスペース」の発展、開発およびプログラミング活動に参加した。職員は毎週、プロジェクトの進捗状況について、概要の説明を受けた。

「シニアスペース:図書館におけるベビーブーム世代、高齢者およびその家族のための場所」は2007年6月8日に開設され、ニュージャージー州全域で図書館司書に絶賛された。家具はいずれも特注ではなく、図書館の納入業者から購入したすぐに使用できるものであった。予算が限られていたため、デザインは新旧、赤青入り混じっていた。繰り返しになるが、これによって同プロジェクトは、小さな図書館でも余計な資金を負担することなく独自の「シニア」スペースを設置できることを示す、一層手ごろなモデルとなったのである。

同じ日に、世界の図書館が同プロジェクトの進展状況について読み、閲覧することができるウェブサイト(www.infolink.org/seniorspaces)とブログ(http://www.seniorspaces.blogspot.com)が立ち上げられた。高齢者向けのサービスを生涯にわたり提唱し続けていることで有名な、ラトガーズ大学名誉教授ベティ・トゥーロック(Betty Turock)博士が、開設に際し基調演説を行った。

このエリアを訪れると、それが「スペースの中に設けられたスペース」、もしくはアクティビティエリアというコンセプトに従って設計されていることがわかるであろう。ここは、利用者が積極的に自学自習と発見ができる場である。ユニバーサルデザインの使用と、スペースをアクセシブルにすることは、デザイン計画全般においても重要な役割を果たした。車椅子と同じ高さのテーブルや大画面のコンピューターモニター、車椅子と同じ高さの掲示板、文字を大きく表示したキーボード、「録音図書」、閉回路拡大読書器、そしてニュージャージー州の「ラジオ朗読サービス」の受信機を必ず備えることが検討された。

図書館の多数の大活字本を集めた場所の隣に「シニアスペース」を設置した結果、視覚障害のある利用者のための「スペース」を拡大することにもなった。利用者は、2台の「学習用」ワークステーションの一方で、いつでも好きなときに、CD図書、DVDあるいは音楽CDを聞くことができる。さらに、再設計された図書館スペースでは、すべての年齢層の利用者がさまざまな椅子を選べるようになっており、ゆり椅子から背の固い椅子まで、また自宅の居間で見られるような心地よい「高級」椅子まで、あらゆるタイプが用意されている。

しかし、この「スペース」の目玉は、高齢者が図書館内で読む雑誌や、家に借りて帰る本、あるいは関心のあるDVDを見て回ることができる、宣伝用「本屋」でなければならない。このエリアでは、「家族と友人」「学び続けること」「健康」「思い出」そして「引退」などのさまざまなテーマを利用者が「探求」できるように、「デューイの十進分類法」の体系に従った配架ではなく、書店で販売するときのように書籍を陳列することにした。

プログラミング

「シニアスペース」の開発以前は、定期的にこの場所を使用していたいくつかのグループが、物理的なスペースの所有権を「要求」していた。我々は計画全般において、これらのグループに、この新プロジェクトのパートナーとなってほしいと考えた。これらのグループは、月曜日のトランプの会、火曜日の麻雀の会、そして木曜日の工芸の会であった。また、最も活動的な「図書館クラブ」は、サヴィ・シニアズ(Savvy Seniors)で、プログラムや社会活動、そしてボランティア活動の拠点として図書館を利用していた。

2006年10月、我々は「シニアスペース」の資金提供先を見つけられるまで、戦略計画の一部を進めていく必要があると気づいた。そこで、「シニアフライデー」という、成人と高齢者向けの一週間に一度のプログラムを開始した。この「シニアフライデー」は、その後も引き続きプログラム活動の中心となり、最も多くの参加者を集めている。そして、男女両方の幅広い層の参加者を魅了する、レクリエーションと学習の機会を提供するプログラムが開発されている。

プロジェクトの物理的な要素は、図書館における活動の拠点として不可欠であるが、ベビーブーム世代と高齢者にとって最も魅力的なのは、プロジェクトのプログラムの部分である。それは、単なる「お飾り」ではない。むしろ、プログラムの開発こそが「シニアスペース」を生かすのだと我々は考えている!世界のどこに、物語を共有することがなく、学習を深めることもない、また好奇心が培われず、探求を促されることもない子ども向けの図書スペースがあると想像できるだろうか?我々も、決して想像できない!

高齢者とベビーブーム世代を巻き込むには

我々のプログラム活動が成功したおもな理由の一つに、諮問委員会を通じた地域社会との協力があげられる。10人の男女からなるこのグループは、月に一度、図書館職員と会合を持ち、プロジェクトに関するフィードバックとガイダンスを図書館に提供する。そして我々が地域のグループと接触し、高齢者の自宅に図書を貸し出すことを奨励し、プログラムの促進とマーケティングの支援をしてくれている。図書館の協賛による新シリーズの「旅行」プログラムは、諮問委員の一人が開発したものである。次の段階は、諮問委員会への参加資格を地域および州のサービス提供者にも拡大し、連携の輪を広げ、さらに優れた支援プログラムの提供に取り組むことである。

プログラム参加者からのフィードバックは常に求められており、今後のプログラムを決定するためにいくつかの調査が実施された。そこで提起された課題の一つは、図書館は高齢者とベビーブーム世代が集まって「話」をする機会をもっと提供しなければならないというものであった。月に一度の「シニアフライデー」というプログラムでは、「話」をし、「意見交換」をする機会がある。また、図書館ではつい最近、月に一度の映画とディスカッションの連続講座と女性討論会を始めた。

技術とWeb2.0

「シニアスペース」の開設に先立ち、図書館ではすでに成人と高齢者を対象としたコンピューター講座を設けていた。インターネット基礎講座、Microsoft Word講座、またはPC基礎講座などが毎月開催された。だが、次の段階は何であろうか?現在、デジタルカメラ、ブログ、ポッドキャスティング、そして「セカンドライフ」に関する講座が開かれている。しかし、我々が決して計画することがなかったのは、Wiiを使ったゲーム教室であった。

図書館では、ティーンズ向けのゲームのプログラムをいくつか不定期に実施していた。2006年、アメリカ合衆国でWiiが紹介され、ビデオゲームの歴史が作られた。2007年半ばには、老人ホームや高齢者センターの高齢者の間で、You Tubeのビデオとともにゲームの人気が高まっていき、これに関する記事がニューヨークタイムズ紙に掲載された。しかし、これを取り入れることに挑戦する図書館はほとんどなかった。だが我々は、アメリカ図書館協会(American Library Association)のジェニー・レヴィン(Jenny Levine)から、高齢者にゲームを試すという課題を提案された。成功するだろうか?それとも失敗に終わるだろうか?我々は2007年10月に最初のWiiを購入し、2007年11月と12月に、十代の若者を高齢者の指導員として教室を開催する予定を立てた。どうなることか予想もつかなかった。が、これが信じられないほど成功したのである!

ゲームは高齢者に「十代のように感じ、現代の技術に積極的に関与し、参加する」機会をもたらした。高齢者の中には、このようなゲーム教室に子どもや孫から勧められて参加する者もいた。公開ゲーム教室には、各回10-15人が参加する。中には今やエキスパートになってしまった者もいるが、まだ練習中の者もいる。また、仲間意識も育ってきた! ゲームの社会的側面が、教室を単なる競争の場ではなく、一層楽しめる所にしている。誰もが、ほかの皆にうまくなってほしいと願っているのだ!最も人気の高いゲームは、Wiiボーリングだが、これはほとんど覚えることがなく、技術的な支援もほとんどなしで「ゲーム」を楽しむことができるからである。各ゲーム教室では、参加者が「脳年齢アカデミー(Brain Age Academy)」や、「スーパーマリオカート」などの別の種類のゲームを試すこともできる。中には、「ギターヒーロー3」や「アメリカンアイドル」を試す高齢者もいた。ゲームを大画面に投影することにより、視覚障害のある高齢者も一部、ゲーム活動に参加できるようになった。

将来

オールド・ブリッジ公立図書館では、2008年6月に補助金が使い果たされた後も、プロジェクトを制度化し、このための資金を通常予算に計上してもらえるように、最大の努力を払ってきた。「シニアスペース」は今後も成長し、拡大し、発展し続けていく。

2007年の末に、プロジェクトの継続を確保するために、成人情報サービス部に所属する非常勤のシニアスペース担当司書が採用された。彼女は、プロジェクトディレクターおよび諮問委員会と協力して、将来の発展に向けた活動を進めている。書籍と資料の購入資金には図書館の通常予算が割り当てられ、プログラム用資金には、図書館友の会(Friends of the Library)からの寄付金が割り当てられている。

書架は、図書の見やすさと動線を考慮し、「スペース」内に再配置された。館内閲覧用の雑誌が追加購入され、さらに、常時使用するテレビ・ビデオ/DVDプレーヤーも、もう一台追加しなければならなかった。「教室」には現在、利用者が館内で使用する「高性能電子掲示板」、デジタルカメラ、そしてデジタルビデオカメラが備えられている。将来的には、高齢者とともに取り組む「ブログ」を使った回顧録や、デジタルカメラやビデオカメラを使用した家系図作りなどを通じて、さまざまな技術研修を順に実施していく予定である。ボランティア活動や市民活動の機会をさらに紹介するとともに、ベビーブーム世代を対象とした定期的な特別プログラムの開発にも、優先的に取り組んでいかなければならない。「セカンドライフ」における「シニアスペース」の開発は、計画段階にある。

結論

オールド・ブリッジ(NJ)公立図書館は、「シニアスペース」と呼ばれる、高齢者向けの図書館サービスのモデルプログラムを開発した。「シニアスペース」はまだ「模範」とはなっていないが、世界の人口構成の変化を見れば、公立図書館におけるこのような転換は当然であろう。「人口の高齢化」に伴い、ベビーブーム世代と高齢者は、自分たち自身で訪問できる場所がある図書館で、温かく迎えられていることを実感できなければならない。そして、「シニアスペース」がそれをかなえるのである。各自の「シニアスペース」を開発することは、困難な課題ではなく、今、到来したチャンスなのである!


原文はこちらに掲載されている。

“Senior Spaces: The Library Place for Baby Boomers, Older Adults & Their Families”
http://archive.ifla.org/IV/ifla74/papers/072-Kleiman-en.pdf