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「万人ための情報」に関する上海ワークショップ 報告

野村美佐子
日本障害者リハビリテーション協会 情報センター長

12月15日から17日にかけて、ESCAP(アジア太平洋経済社会委員会)とCDPF(中国障害者連合会)主催による「Information for All」と題するワークショップが、上海で開催され参加した。1日目と3日目は少し中心地から離れた上海リハビリテーションセンターで、2日目は、中央に位置する上海公共図書館で館内の見学を兼ねた形で開催された。約100名の参加があり、様々な障害を持つ当事者も多く参加した。

このワークショップの背景には、アジア・太平洋地域における障害インクルーシブ開発ゴールの実践、つまりインチョン戦略において、知識、情報とコミュニケーションのアクセスというのは、インクルーシブな社会における彼らの権利を実現するための前提条件としての実践の促進がある。また2015年の9月にニューヨークの国連本部で採択された「持続的な開発目標(SDGs)」は、障害者の権利の実現への新しいきっかけをもたらし、特に2015年以降の世界的な開発に向けた障害インクルーシブで、総合的な、人間中心のアプローチを推し進めていた。

上記を考慮し、今回のワークショップによる、障害のある権利擁護者、政府の専門家、技術のスペシャリストとの会話を通してアクセシブルな知識、情報とコミュニケーションのサービスを提供するための政府の能力を開発する。
このワークショップでは、特に以下のテーマに焦点をあてて、その事例を紹介するという形式で発表とそのあとにパネルディスカッションを行うという流れでプログラムは進んだ。

1. 対面コミュニケーション
2. 公共の環境
3. 文書資料へのアクセス
4. メディアのアクセシビリティ
5. ウェブのアクセシビリティ
6. 電話および電子機器
7. 防災と緊急対応

上記の各テーマで参加者の事例発表は、次の点に留意しながら行うものだった。
①Accessible (利用可能な) ②Available(利用可能な)③Affordable (手頃な価格) ④Adaptable(適応可能な)⑤Acceptable(受け入れ可能な)という5つがある。それ以外にReplicable(再現可能な)であることとかScalable (拡張可能な)こととかに焦点をあてた発表内容となる。プログラムについては、以下を参照していただきたい。
http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/access/info/ESCAP-CDPF_workshop_program.html

今回のワークショップの情報保障として、基本的に言語は英語なのだが、中国語も使われたので同時通訳と英語の字幕があった。しかし残念ながら2日目はなかった。手話通訳については、参加者が聴覚障害者であれば、一緒に手話通訳者を連れてきていた。日本の盲ろう者である福田暁子さんの場合、触手話通訳者と介助者、そして触手話通訳者たちは、英語がわからないというので、英日の言語通訳者も来ていた。言語通訳者による日本語訳を、触手話通訳者が聞いて。福田さんに伝えるというリレー方法で情報保障を行っていた。しかし、幸いなことに、福田さんは英語で直接発言ができたので、参加者は理解しやすかったと思う。

また英語が第一言語でないアジアの国も多いので、英語字幕はとても役に立った。字幕は、リモートから送られてきており、テクノロジーが大いに活用されるという事例になった。

今回の共催となる中国障害者連合会においては、中国側の発表者が中国語での発表が多かったことから中国語から英語への同時通訳者がおり、また中国語の要約筆記も1日目については保障された。

最初のオープニングでは、ESCAPと中国政府からの代表者の挨拶が行われ、全員で記念撮影が行われた。障害者の権利委員会の委員であるLiang Youさんも参加していた。そういう意味では中国にとっても影響力のある会議だと思われる。

オープニングの風景

写真1 オープニングの風景

最初に、ESCAPの秋山愛子さんからワークショップの目的について述べられ、特に「情報は基本的な人権である」と「誰も取り残されない」という概念が基本にあることが述べられた。

また、その観点から、秋山さんは、情報アクセシビリティの重要性とその実践のためのネットワークを強調した。また、今回の情報保障について様々な説明がされ、要約筆記や手話などが提供されているので、それらが効率的に機能するために、ゆっくり話すことを求めた。

次に情報アクセシビリティを促進する政策、法律、プログラムとして国連の障害者権利条約、インチョン戦略、マラケシュ条約が紹介された。
権利条約については、権利委員会の委員で、タイの国会議員であるモンティエン・ブンタンさんにより情報アクセスに関する条文を概説した。権利委員会は、情報アクセスの促進のために同委員会で採択をしてアクセシビリティの一般意見についても言及した。また国連ニューヨーク本部にあるアクセシビリティーセンターについても述べた。さらに2015年の4月に仙台で行われた防災会議における情報保障についての有効な事例として紹介した。

インチョン戦略については、秋山氏が今回のワークシップの目的の中で説明をした。また、マラケシュ条約については、アジア太平洋地域の世界盲人連合で、デイジーコンソーシアムのメンバーであるニュージーランド王立盲人財団のニル・ジャービス氏が説明を行った。マラケシュ条約というのは、2006年6月にWIPO(世界知的所有権機関)の加盟国により採択された「全盲の人々、視覚障害のある人々、あるいはその他のプリントディスアビリティのある人々のために、出版物へのアクセスを改善する条約」であり、今後のアクセシブルな形式の図書や資料が、国を超えて共有することが可能になるが、そのためには、20か国の批准が必要となるのでアジア・太平洋地域で奨励していきたいと述べた。また2015年12月3日に国連開発計画(UNDP)と世界盲人連合アジア太平洋地域協議会(WBUAP)は、このたび、新たな報告書を発表し、視覚障害者及び印刷物の利用に障がいのある人々の知る権利(right to know)の実現を、開発優先課題とするよう訴えた。具体的にはプリントディスアビリティ(印刷物を読むことが困難)がある人々の対象としたマラケシュ条約のアジア太平洋における批准に向けた法的な検証を行うという内容であった。具体的には、アジア太平洋地域の6か国(カンボジア、中国、フィージー、インドネシア、ネパール、ベトナム)に対し、批准プロセスを促進し、マラケシュ条約を最大限に活かすための法改正に関する専門的な指針を示した。

左からジャービス氏、秋山氏、ブンタン氏

写真2 左からジャービス氏、秋山氏、ブンタン氏

このようなプログラムの中で目立ったのは、積極的に発言をしていた盲ろう者である福田暁子さん、知的障害者のロバートマーティンさん、視覚障害者のタイのモンティエン・ブンタンさん、ネパールの聴覚障害のDipawali Sharmaさんだ。彼らの情報アクセスのニーズを学び、情報アクセシビリティを国内で推進していくうえでとても参考になった。特に、ロバートマーティンさんの場合は、会議のためのアシスタントの支援により、よりコミュニケーションがとりやすくなったと思われる。知的障害者のための「Meeting Assistant」と呼ばれる人の役割がとても重要だと感じた。ニュージーランドは、知的障害者を対象とした情報をわかりやすくするガイドラインも出版していている。これらについては、日本でも必要ではないかと思う。

福田氏と通訳介助者

写真3 福田氏と通訳介助者

マーティン氏と彼のアシスタント

写真4 マーティン氏と彼のアシスタント

今回のような障害当事者と彼らを支える支援団体が参加するワークショップにより、障害者の情報アクセシビリティを促進するためには、法律、政策、実践に関するプログラムについてお互いに情報交換をし、ネットワークの構築ができたと思う。また、情報を提供する上において、フォーマットなどの「Standard(標準規格)」の重要性を感じた。今回築いたネットワークを継続するためには、主催者側のイニシャチブが期待される。