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「Take Part」会議の報告

野村美佐子 (日本DAISYコンソーシアム(JDC)事務局長、日本障害者リハビリテーション協会参与)

 2016年5月16日から18日にかけて、スウェーデンでは、デイジー コンソーシアムの設立20周年を記念して、国立のアクセシブルメディア機関(MTM)、デイジーコンソーシアム(DC)、スウェーデンデイジーコンソーシアム、そしてスウェーデン図書館協会による、「Take Part 2016」という会議が、ノラ・ラテンというかつては学校であった会場で開催された。「インクルーシブな出版に関する人間的な視点」をテーマに、出版界、支援技術者、リーディングサービス提供団体、図書館、学校からの参加者の体験や知識の共有と意見交換が行われ、すべての人にとってネットワークが広がる有意義な3日間となった。
 この一日前には、MTMによる20周年の祝賀会が行われ、最初の立ち上げに協力した人であるスウェーデンのシエル・ハンソンさん、オランダのクーン・コーエンさん、日本の河村宏さん、スイスのバーナード・ハインツさんなどが参加した。初代会長である、インガー・ベッグマンさんもいた。インガーさんが挨拶の中で話していたことだが、「デイジーへのパッション」を持ち続けた人たちがおり、そしてその成果としてデイジーの今があるということを感じた。

写真1:20周年記念祝賀会の様子

写真1:20周年記念祝賀会の様子

写真2:初代会長インガー・ベッグマンさん(左)、現在の会長ジェスパー・クレインさん(右)

写真2:初代会長インガー・ベッグマンさん(左)、現在の会長ジェスパー・クレインさん(右)

 視覚障害者のために開発が始まったデイジーであるが、対象は、プリントディスアビリティのある人たちへと広がり、さらに、すべての人のためのデイジーとその普及を目指している。今後,電子書籍のフォーマットであるEPUB3.1が、デイジーのアクセシビリティの機能を含み、情報アクセス支援に貢献するのではないかと期待するところである。
 会議のすべてのプレゼンは、以下のユーチューブで見ることができる。
https://www.youtube.com/user/MTMedier 以下印象に残ったことを報告する。

 開会式においては、スウェーデンのカール・フィリップ王子の歓迎の言葉は、とても印象的であった。最初に会場のノラ・ラテンが曽祖父の祖父であるオスカー王2世が1880年に開校し、かつては、学校であったことが述べられた。1年前にディスレクシアについての全国公聴会で、王子は、ディスレクシアのある子どもたちや成人が毎日直面している困難について話しをした。また読み書きの簡単な課題が生涯において影響を及ぼすことについて述べ、自身がディスレクシアであることからこれらの問題に深く取り組んでいること、今回の会議への期待を述べたスピーチは、とてもインパクトがあった。(注1)

写真3:カール・フィリップ王子

写真3:カールフィリップ皇子

 次に 文化省のアリス・バー・クーンケ大臣の挨拶があった。このような会議に大臣が出てくるというのはとてもうらやましかった。スピーチの中で、主催者であるMTMが議会、政府、そして文化省の要請を踏まえ、読むことが困難な人々に、文学、能力、そして障害に関係なく情報へのアクセスを確保するという使命があるということを述べた。そしてアクセシビリティとその技術的な開発における国際協力も行ってきていて、デイジーにおいてもその成果であるとした。また今回の「Take Part」にも言及して、アクセシビリティは、すべての人が社会参加をする必須条件であると述べた。さらに、すべての人の情報への権利というのは、民主主義の問題であり、人権であり、この保障はスウェーデン政府の目標であるとした。そしてスウェーデンの新差別解消法では、「Lack of Accessibility is discrimination(アクセシビリティがないのは差別とした)」と規定していると強調した。

写真4:アリス・バー・クーンケ文化省大臣

写真4:アリス・バー・クーンケ文化省大臣

 日本からは、筆者と河村宏さん、そしてシナノケンシの西澤達男さんの発表があった。筆者と河村さんの発表(注2)は、日本障害者リハビリテーション協会を中心とした、非営利団体とボランティデイジー製作団体の協力によるデイジー教科書の提供事業についてであった。その報告の中で、一人の利用者からの「私はDAISYで教科書を読み、理解できる!」という声を紹介し、さらなる取り組みについて述べた。しかし、この取り組みは、国や教科書出版会社の多大な協力が必要である。

写真5:河村宏さん

写真5:河村宏さん

 また西澤さんは、シナノケンシが開発中の製作ソフトについてデモを行いながら説明をした。このソフトを使って、先生がデイジー版のテストを用意し、読みの困難な児童が2つのタブレットを一つは国語のテキストとして、もう一つは質問用紙として使い、成果をあげたことも紹介された。

写真6:西澤達男さん

写真6:西澤達男さん

 デイジーを主流の出版会社に普及していくために2つのアプローチがあった。米国のベネテックによる「ブックシェア」の取り組みとオランダのディディコンの取り組みであった。ディディコンの場合、出版会社との連携教育モデルのパイロットプロジェクトが始まっており、教育出版社に障害やEPUBについて理解してもらい、また密接に協力することで、アクセシビリティを出版のワークフローの中に直接入れこむことで、アクセシブルなEPUBフォーマットの出版を進めていくというのが彼らの戦略である。一方、ベネッテックは、すでに864の出版会社と連携し、毎月5000から7000タイトルを製作し、デイジー、EPUB3, MP3、点字のフォーマットによる図書や教材について40万タイトルを抱え、それらを「ブックシェア」を通して読みの困難な人に提供している。これは、米国政府の助成によるところが大きい。現在も始まっているが、今後、それまでの開発したアクセシブルな画像や図形を作成するための技術、ツール、リソースなどを教科書出版会社に移転することで、アクセシブルな出版をしてもらうこと、またそれがビジネスにつながることを理解してもらうことだとしている。発表のブラッドターナーさんは、アクセシブルな教材については、学生の40パーセントが買うといい、ビジネスチャンスを強調した。
 上記の2つの団体の取り組みに注目するとともに、デイジーコンソーシアムの事務局長であるジョージ・カーシャにより、EPUBの仕様開発をしているIDPFとW3Cが合併するというニュースがもたらされたが、これによりアクセシブルな出版につながっていくことを期待したい。

写真7:ジョージ・カーシャさん

写真7:ジョージ・カーシャさん

(注1)http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/access/info/Japanese_speechPhilips.html
(注2)http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/access/info/Japanese_presen.html