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障害のある読者とも情報を共有するには

ヘレ・モーテンセン
リュングビュー・トーベック(Lyngby-Taarbaek)市 公立図書館、デンマーク

項目 内容
会議名 2006年 IFLA(国際図書館連盟)年次大会<韓国 ソウル> 「図書館利用に障害のある人々へのサービス」(LSDP:Libraries Serving Disadvantaged Persons)分科会
発表年月 2006年8月22日
原文 Knowledge sharing also for disabled readers

要約

本会議の全般的なテーマは、図書館:知識情報社会のためのダイナミックな機関、で、本セッションのテーマはディスレクシアである。ここではディスレクシアの人々のための図書館サービスと、新たな技術の使用による知識情報社会へのアクセシビリティに焦点を当てたい。そこで、リュングビュー・トーベック市の公立図書館における、LiveReaderとよばれる新しいアプリケーションソフトを利用した、障害のある読者のための新しいプロジェクトについて説明する。このプロジェクトはデンマーク企業、Tagarno社との共同プロジェクトである。

プロジェクトの背景

デンマークでは障害のある読者の状況に対する理解が進んでいる。もし読み書きが困難であれば、情報社会の中でうまく生きていくことや仕事をしていくことは難しい。読めるということは、今日あらゆる教育の前提条件であり、また読むことは、生涯続く教育を受ける上で、維持していかなければならない能力である。

2006年4月1日、デンマークではすべての地方自治体に障害者評議会を設けることを義務付ける新しい法律が可決された。リュングビュー・トーベック市では、自治体が既に障害者政策の説明を行ったが、政策では以下の事項が保証されている。

  • 障害のある市民は、他の市民と平等な条件で、社会に参加することができる。
  • 障害のある市民は、他の市民と平等な条件で、同じ図書館サービスを利用することができる。
  • 障害のある市民は、政府機関からのデジタル情報および従来の形式の情報の両方にアクセスすることができる。

幸運にもクセシビリティへの関心が高まりつつあり、建物などへの物理的なアクセシビリティだけでなく、情報へのアクセシビリティも注目されている。

2002年にはデンマーク図書館協会が、不慣れな図書館利用者に対する図書館サービスのための全国戦略と称する報告書を発表した。この報告書では、図書館利用者としての障害者とそのニーズに関して、図書館が気づいていない点がいくつかあると結論づけている。

ディスレクシアの人々は、全国戦略の中で取り上げられている一グループである。このグループの人々は、教育、仕事および余暇における読み書き能力を、即必要としている。デンマークでは100万人から150万人の成人が、教育を受けたり仕事をしたりするのに必要な能力をもっていないと推定されている。このグループの大部分は、図書館を利用していない。

図書館の未来像

リュングビュー・トーベック市の図書館には、障害のある読者にサービスを提供してきた長い伝統がある。未来の図書館は、情報や知識、文化的経験へのアクセスを、バーチャルな部屋と現実の部屋との両方で提供する、「すべての人のための図書館」となるであろう。デジタルメディアに関して障害のある読者に平等な機会を提供することは、2005年から2007年にかけての図書館の目標の一つとなっている。

プロジェクトの紹介

プロジェクトのタイトルは、情報の共有―視覚障害者および障害のある読者とともに、である。本セッションのテーマがディスレクシアのための図書館サービスであるため、プロジェクトの紹介の中では、ディスレクシアの読者に焦点を当てる。ここでいうディスレクシアの読者とは、広い意味でのディスレクシアの人々を指し、子供も大人も対象とする。

LiveReader

このプロジェクトはデンマーク企業、Tagarno社との協力と連携のもと、同社の新製品であるLiveReaderを利用し始められた。LiveReaderは新しいアプリケーションソフトで、一つの製品に搭載された合成言語、スキャンおよび視覚的コミュニケーション機能と、インターネットへの直接アクセス機能を利用することで、情報および知識の共有を促進する。LiveReaderは読みの障害がある人々の協力を得て開発された。リュングビュー・トーベック市立図書館はデンマークの図書館として初めて、このアプリケーションソフトを一般の人々に紹介した。

数年前までは、紙のドキュメントをコンピューターで使用できる形に変換する唯一の方法はスキャナーであった。しかしデジタル高解像度カメラの発達に伴い、第二の技術が出現した。この技術により、ドキュメントを一瞬にして保存することができるようになったが、利点はそれだけではない。スキャナーを使用するときには毎回手順を繰り返さなければならない。つまり、カバーを空け、ドキュメントをガラス板に載せ、スキャナーを始動してサンプリングプロセスが完了するのを待つわけである。一方カメラでドキュメントを保存することは、ユーザーがドキュメントの位置を変えることなく瞬時に写真を撮れるということを意味する。

LiveReaderは既存の読み取り機器を改良したもので、ユーザーはスキャンを始める前にドキュメントをスキャン用の板に載せて、きちんと正確な位置にあることを確認しようと苦労する必要はない。また、このアプリケーションソフトではデジタルカメラが使われているので、画像の保存にかかる時間はほとんど一瞬であり、ユーザーがドキュメントを読み始めるまでの時間が大幅に短縮される。

このアプリケーションソフトはもともと視覚障害のある読者のために作成されたが、ディスレクシアの人々にとっても非常に役に立つことが証明された。

プロジェクトグループ

図書館に勤務する5人の司書で構成されたチームが企業研修を受け、ディスレクシアの利用者グループに対するアプリケーションソフトの実験を行った。

プロジェクトの目的

  • 情報へのアクセスを改善する
  • 不慣れな利用者に図書館に来てもらう
  • 不慣れな図書館利用者に対する図書館サービスのための全国戦略の実践
  • リュングビュー・トーベック市の障害者政策の実践

プロジェクトの目標

  • 読みの障害がある人々に新進の技術を通じて情報および知識への平等なアクセシビリティを提供する
  • 読みの障害がある人々の学習および情報収集能力を強化する
  • 対象となる利用者へサービスを提供する図書館司書の能力向上をはかる
  • 地域の図書館スタッフおよび他の図書館のスタッフに新しいアプリケーションソフトを紹介する
  • 読みの障害がある人々とコンタクトをとる地方自治体のスタッフに新しいアプリケーションソフトを紹介する
  • 高校など、自治体内の機関と協力する
  • 読みの障害のある人々へのアプリケーションソフトの普及に貢献する
  • 図書館の全サービスに関する情報を普及する

2種類の研修方法

個別学習

  • 予約
  • 通常の開館時間中に週一回実施
  • 開館時間中いつでも自習

集団学習/ワークショップ

  • 利用者対象
  • その他の関係者対象
  • 図書館職員/他の図書館の職員対象
  • 地方自治体職員対象

展望

プロジェクトは、読みの障害がある人々が自信を持って新しいアプリケーションソフトを利用し、その知識を子供たちおよび少数民族など他のグループに広めることができるように支援することを視野に入れて実施されている。また図書館の利用者を対象とすることにより、代替的な学習環境の確立にもつながる。

予算

プロジェクトの予算は50万デンマーククローネで、これは65,000ユーロに相当する。この半額は補助金でまかなわれる。アプリケーションソフトの価格は6,500ユーロである。

活動

2006年5月から、一般の人も図書館でアプリケーションソフトが利用できるようになった。そして次のステップは、貸し出し部門において、研修およびワークショップなどの学習環境を確立することである。図書館では、たとえば市内の高校の一つに免許を与えて、免許保持者にアプリケーションソフトの利用の仕方を指導するなど、免許制度による学習環境の拡大を計画している。

情報戦略

すべてのディスレクシア団体とその他の関係者に対するマーケティングは、プロジェクトで最も重要な部分の一つである。多くのディスレクシアの人々は図書館を利用していないことがわかっており、非利用者であるがゆえに、このような人々は現代図書館が提供する広大な可能性に気づかずにいる。すべての新たな可能性に関する知識を、読みの障害を抱える人々に広めることは難しい。従来の方法では障害のある読者とコミュニケーションをとることはできないので、代わりの方法が必要である。私たちの使命の一つは、ディスレクシアの人々に、たとえ通常の方法で読むことができなくても、図書館は利用できるのだと伝えることである。

情報技術は情報にアクセスする新しいより簡単な方法を提供し、読みやすい本や録音図書のような数少ない特別な資料から、もっと多くの情報へと焦点を移す機会を提供する。ディスレクシアの人々に読み方を教えるのは私たちが意図していることではない。それよりもむしろ、図書館の資料を適切なフォーマットに変換して利用できるようにすることを目指しているのである。適切な読みのツールを紹介すれば、図書館へ行ってもうまくやれる!ということがすぐに明らかになるであろう。

このプロジェクトは2007年の6月まで続く予定だが、追加資金が得られれば延長される可能性がある。利用者と連絡をとるには時間がかかる。このプロジェクトを通じて、ディスレクシアの人々が他の図書館利用者や市民と同じように、図書館の可能性に気づいてくれることを願っている。

LiveReaderはどのように作動するのか?

  • Live:ビデオテープのように
  • Reader:合成音声での読み上げ。デンマーク語と英語をインストール済み
  • スキャンと読み上げを一つの装置で実行。スキャナーの代わりにカメラを使用
  • タッチスクリーン。指で必要なアイコンを触るだけでよい
  • LiveReaderモードからスイッチ一つで通常のコンピューター使用モードへと切り替え

2つの主要なセッティング:a:Liveモードb:Readerモード

Live とReaderの2つのモードセッティングを切り替えることができる。第三のセッティングは標準コンピューターモードである。

Liveモード

Live モードが作動する際には主として通常のCCTV(有線テレビ)として作動するが、カメラの下に置かれたものの写真も撮ることができる。画像が認識され、音声出力の準備が行われる。カメラに回転機能が備わっているので、カメラの下にどのようにドキュメントを設置してもかまわない。

Readerモード

Readerモードを使用する際には、すべてのドキュメントの利用が許可され、すべてのドキュメントを保存し、テキストを読み上げることができる。

すべての印刷されたテキスト、新聞および画像は認識されるが、これまでの経験から、雑誌や光沢のある紙に印刷された本については、あまりよく認識されないことがわかっている。

ユーザーは言語出力の開始および停止を簡単に行うことができ、またページ上をどこにでも移動することができる。LiveReaderでは音声を聞きながら画面上でテキストをたどることができる。

このソフトを試してみたディスレクシアの人々の反応は非常によかった。これを使えば、簡単に単語を繰り返し聞くことができ、またテキストの別のセクションへと移動することもできる。読み上げられているテキストをPCの画面上でたどれることも、非常に役に立つ。テキストは一語ずつ読み上げられ、テキストのどこを読んでいるかが常に赤い四角で示される。

移動

どの段階においても、ユーザーは指で画面上をなぞり、手を使ってドキュメント内を移動することができる。その指となるのが「マウス」である。

ファイル管理システム

ファイル管理システムでは写真撮影されたドキュメントをすべて日付順に保存している。ファイル管理システムにより、保存したドキュメントを再生することができ、アプリケーションソフトを使って更に拡大したり、強調したり、またこれらのドキュメントを読み上げたりすることができる。これはたとえば電車に乗って仕事に行く途中にドキュメントを見るときなど非常に役に立つ。

インターネットからのテキスト

このアプリケーションソフトを使ってインターネットに直接アクセスすることができる。インターネットで検索した内容を印刷し、OCR(光学式文字認識)ソフトを選択して画像やテキストを認識させ、言語出力の準備をする。OCRコマンドが終了すると、ドキュメントが読み上げられる。

ワード文書

ドキュメントを作成、印刷し、OCRソフトウェアを選択して読み上げることができる。

標準コンピューターモード

LiveReaderを搭載したコンピューターはそれ専用というわけではない。このコンピューターは通常のPCと同様に機能する。つまりLiveReaderモードでない場合は、他のすべてのPCと同じように、あらゆる画像読み上げソフトおよび拡大ソフトが使用できる。LiveReaderソフトを搭載したポータブルPC或いはノートパソコンを利用すれば、新たな画像の保存はできないが、保存したドキュメントにはいつでもどこでもアクセスすることができる。

電子メール

LiveReaderからはあらゆるファイルおよび添付ドキュメントを送信することができる。残念ながら、デンマーク著作権法は非常に制限が厳しい。この点がこのプロジェクトの中で取り組まなければならないもう一つの課題である。

予備的結論

民間企業との提携の経験

これまでのところ、民間企業との提携は非常にうまく進んでいる。このアプリケーションソフトが実際に導入される前に、半年近くの間、アプリケーションソフトを使用して働く機会が得られた。更に、企業側のスタッフの支援を得ながら、技術的なサポートや図書館員の研修および他の関係者へのデモンストレーションを行うことに関して合意が得られた。また個人のユーザー以外に、諸機関にもライセンスを与えることについても合意が得られた。こちらからは図書館利用者のニーズやディスレクシアに関する図書館員の専門知識を企業側に提供し、またこちらも企業と提携するはじめての公立図書館であるため、お互いから多くを学んだといえる。残念ながら、企業は十分なユーザーマニュアルを持っておらず、技術スタッフは必ずしも利用方法の説明に最も適した人というわけではなく、ただ説明をするだけだった。しかしこれは、私たち自身が利用者にとって分かりやすいマニュアルを書かなければならなかったということを意味している。私たちはまた更なる発展のためのアイディアも提供した。

プロジェクトの成功は図書館および企業の両方にとって共通の関心事であり、これが協力のよき出発点である。

ディスレクシアの利用者との経験

これまでのところ(開始から2週間後の5月の時点で)かなり経験は少ないのだが、ディスレクシアの問題への認識と新技術の持つ可能性とがあれば、ディスレクシアの読者の心を動かすことはできると期待している。このような人たちにとっても図書館がよきパートナーであると伝えることが重要である。

被験者との経験から、若いディスレクシアの人々は、簡単なユーザーマニュアルを使用して1、2回指導すれば、このアプリケーションソフトを自力で使えるようになることが明らかになった。

フィードバックを確実にするために、過去の利用者の経験についてのアンケートが実施された。質問は以下の点に関するものであった。

  • 利用性に関する利用者の印象
  • 合成音声の質
  • PCに関する自信
  • 家庭でPC、スキャナー、合成音声およびインターネットが利用できるか否か
  • 他の利用者にコンタクトする企画
  • 図書館でアプリケーションソフトを利用するか否か

これまでのところ、被験者は利用性には満足している。特に一つの装置でスキャンと読み上げができる点について満足度が高い。また、テキストが一語ずつ読み上げられるのを聞きながら、PCの画面上で同じテキストがたどれるようになっていることが、高く評価されている。

合成音声については意見がわかれた。デンマークでは数種類の合成音声が市場に出ているが、デンマーク語は発音と音声がかなり複雑なため、「合成」音を作るのが非常に難しい言語であるため、アプリケーションソフトも、たった一つの特別な音声しかサポートしていない。そしてそれはユーザーが好む選択ではないかも知れない。

すべての被験者は、PCに慣れており、PCまたは同様のコンピューターを家庭で所有していた。

すべての被験者は、他のディスレクシアの利用者ともコンタクトをとるために、図書館側が教育コンサルタントおよびその他の関係者にコンタクトをとることを提案した。

英語のテキストの読み上げに対するニーズが取り上げられた。そこで英語の合成音声をインストールすることが決定された。被験者の中には、本やその他の資料を持ってくる者もおり、具体的な試験材料を提供してくれた。本一冊をすべてスキャンするには時間がかかりすぎるが、もしそうしたいのなら、一番よい方法は背表紙をはいで、本を横に並べてスキャンできるようにすることである。これはもちろん公立図書館の本ではできない。

このような考えを共有しつつ、他の方たちも、これに刺激されて、ディスレクシアの人々のためのプロジェクトを始めるようになることを願っている。

私からの一番のアドバイスは、ディスレクシアの人々の状況について、政治家や資金提供機関に知らせ、意識向上をはかることである。本セッションはそのよき出発点といえる。