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軽度の障害を持つ生徒における音声テキストによる中等課程の内容の習得効果

Elizabeth A Boyle, Michael S. Rosenberg、Vincent J. Connelly
ジョーンズ・ホプキンス大学
Shari Gallin Washburn, Loring C. Brinckerhoff 、Manju Banerjee
レコーディング・フォー・ザ・ブラインド・アンド・ディスレクシア(RFB&D)

項目 内容
転載元 Learning Disability Quarterly - Vol. 26, Number 2 Summer 2003の一部

Jean Satterfield氏、Judy Glass氏、ならびに本研究にご参加いただいたボルティモア郡の公立学校の先生方および多くの生徒の皆様のご協力に謝意を表する。

目次

要旨

発生頻度の高い認知障害を持つ中等課程の生徒は、多くの場合、読む力が不足して、普通教育課程の要求を満たすのに苦労している。この問題に対処するため、内容が豊富な歴史について、CD-ROMの音声教科書を単独で使用した場合と補足的な方法(SLiCK)を併用した場合の、中等課程の生徒の成績に与える影響を調査した。生徒には3つの条件(音声教科書とSLiCK法を併用、音声教科書のみの使用、対照群注)のうち1つが割り付けられた。音声教科書を使用した生徒(単独で使用した実験群もSLiCKを併用した実験群も)は、内容の評価が対照群の生徒に比べて有意に高かったが、SLiCK法を併用した実験群と音声テキストのみを使用した実験群の点数に有意差は見られなかった。それでも、音声テキストの使用が中等課程の内容の習得に大きな効果があったことは注目に値する。これらの結果を考察し、実施の影響、方法の開発、これからの研究について示した。

注:対照群とは印刷版のみの教科書を使用したグループ

序文

1997年アメリカ合衆国個別障害者教育法(IDEA)は、障害を持つ生徒は普通教育の課程へアクセスし、普通教育の課程で向上すべきであると規定している以前の法律を支持した(Cawley、Hayden、CadeおよびBaker-Kroczynski、2002年)。発生頻度の高い障害(学習障害、情緒障害など)を持つ中等課程の生徒は、多くの場合、読む力の不足や効果的な学習方法の欠如が原因で、普通教育課程の要求を満たすのに苦労している。国立小児健康人間発達研究所(the National Institute of Child Health and Human Development)(Lyon、1998年)は、生徒が効果的に読むことができない理由は、次の通り、少なくとも4つあると述べている。(1) 音素が認識できない、(2)効果的読書法を学習および応用できない、(3)読書を学習したいという熱意が欠けている、(4)教師による読書の教授法およびテクニックの準備が不足している。さらに、読書障害を持つ生徒は、高校に進学する年齢になるまでに学習や社会生活の別の面にも読書障害の影響が現れてしまうので、早急に介入する必要があると述べている。中等課程では、教育目標は、読書スキルの習得から高度な内容を持つ教材の習得に移行していく。解読、流暢さ、理解などの効果的な読書スキルがなければ、教育課程の要求を満たす準備は整わない。学習障害(LD)を持つ生徒は、中等課程で期待される成績と実際の成績の差が拡大して挫折を感じ、学校に行かなくなってしまう可能性がある(Deshler他、2001年)。

 発生頻度の高い認知障害を持つ中等課程の生徒は、普通教育の生徒向けに設定された学校制度の標準を満たすよう、困難な要求を突きつけられている。うまく対処するために、これらの障害を持つ生徒はレベルの高い教科書を独力で読み、内容の情報を習得し、以前に習得した知識を新しい学習状況に応用することが期待されている(Deshler、EllisおよびLenz、1996年)。効果的な学習法および読書法がないため、これらの生徒は一般的に、内容教科のクラスで割り当てられた教科書の読みと理解で苦労している。教科書を理解するためには、読者は、教科書との双方向のプロセス、すなわち以前に習得した知識と経験を新たな教材に関連付ける方法をとらなければならない(ナショナル・リーディング・パネル、2000年)。これらの教科書は、一般的に、内容の情報への主なアクセス経路であり(Harniss、Hollenbeck、CrawfordおよびCarnine、1994年)、その読みやすさのレベルは、これらの生徒の能力をはるかに超えたものであることが多い。残念なことに、軽度の認知障害を持つ生徒の多くは、割り当てられた内容教科の教科書が非常に読みにくいものであることから、挫折感を味あわされている(Wait、1987年)。例えば、Kinder、BursuckおよびEpstein(1992年)は10種類の8年生用の米国史の教科書の検査を行い、平均の文章の難易度が10年生の高レベルであることを発見した。同様の研究(Daniels 1996年、SchumakerおよびDeshler 1984年、Wang 1996年)には、教師は生徒に提供される文書の教材の機能的価値を認識しなければならないことが示されている。文章の難易度の問題のせいで、多くの生徒は、貴重な学習時間のうち、効果的でより高度な理解を犠牲にして、難解な概念や言語の解読に過大な時間を費やしている(Dee LucasおよびLarkin、1986年、1988年)。
教師にとってはこれが意味するところは明確である。すなわち、内容の情報を効果的かつ効率的に伝えるためには別の教育方法が必要である。教科書の使用に重点を置かない、教科書に載っている重要な一節を大幅に簡略化するなど、残念な選択肢しか教師には残されていないことが多い。教科書を改ざんすると教科書の一貫性や構成を低下させることになり、問題が出てくる可能性があるのは明らかである。このような状況では、実のところ、内容教科はもっと理解しにくくなってしまうかもしれない(Fulcher、1997年)。

  教科書の改ざんに代わる別の方法として、補助技術の利用がある。Edyburn(2003年)は、全教科へのアクセスを向上させる技術を利用した補完的方法を使って、なかなか改善されない成績不振の問題に対処する重要性について記述している。生徒の障害が教室での学習に与える影響を緩和または排除し、生徒の学習の向上を図るために補助的技術による方法を明らかにしなければならない。テキストの録音の利用は、内容を表示する代替の方法の1つである(BaskinおよびHarris、1995年)。録音は、教科書の形式を変えるときに陥りやすい典型的な落とし穴のいくつかを回避して、文書を元のフォーマットで維持し、障害を持つ生徒による代替フォーマットの教材へのアクセスと操作を可能にする。以前の調査には、LDの生徒がテキストの録音を使用して、内容教科の教材の短期的理解が改善されたことが示されている(D’AlonzoおよびZucker、1982年、Torgeson、DahlemおよびGreenstein、1987年)。しかし、内容教科における音声テキストの効果を保証するには、録音テキストを使った研究がもっと必要である(Maccini、GagnonおよびHughes、2002年)。

 最近の技術の発達とともに、生徒はCD-ROMで録音した教科書を聞くことができるようになった。テープ録音図書などこれまでの技術と比べると、デジタルCDのおかげで、生徒も教師も作業効率が大幅に改善された。これまでの録音図書の研究(Mosby、1979年、Torgeson他、1987年など)は、従来のテープ録音図書に関するものだった。テープは内容を別のフォーマットで伝えるものであるが、問題がある場合もある。例えば、テープのナビゲーションは直線的に行わなければならないので、時間がかかる場合がある。生徒はあるページを探すのに、早送り、巻き戻し、停止を何度も繰り返さなければならないことが多い。特に組織的能力および注意力の障害を持つ生徒にとっては、この作業は特にイライラさせられ対処が難しいかもしれない。CDに録音した教科書は、もっと効果的な方法で教材へのアクセスを提供することによってこれらの問題に対処している。

 調査によって、学習障害を持つ生徒には、手順のまとめ、言い換え、新たな知識とこれまでの知識を関連付ける方法など、内容の読み書きの能力を開発するためのスキルや戦略が必要であることが何度も示された(Deshler他、2001年、SwansonおよびHoskyn、2001年など)。例えば、先行オーガナイザーは、教材を見直し、特定の情報に注目するように生徒に指示する方法である。この方法は、生徒を助けてこれまでの知識にアクセスさせ、新しい教材を理解する足がかりを提供する(SwansonおよびHoskyn、2001年)。同様に、説明のテキストと図式的オーガナイザーを併用しているLDの生徒は、オーガナイザーを使わない生徒よりも内容教科の関係的な知識が高いことが示された(DiCeccoおよびGleason、2002年)。方法を教えることがLDの生徒の読書の理解を高める重要な要素の1つであると考えられている(Swanson、2001年、Vaughn、Levy、ColemanおよびBos、2002年)のは意外なことではなく、戦略的なメモ取りを行った方が、従来のメモ取り技術を使った場合よりも内容教科の記憶が強まり、理解が深まった(BoyleおよびWeishaar、2001年)。

 本研究の目的は、軽度の障害を持つ生徒における音声テキストによる中等課程の内容の習得効果を調査することだった。具体的には、(a)生徒の内容習得のテストの成績に対する音声テキストの直接的な影響の調査、(b)音声テキストの効果を高める方法の影響を評価する作業を行った。社会科テキストのテープに添付する補助教材のパッケージを開発したSchumaker、DeshlerおよびDentonの初期の研究(1984年)を土台として、我々は、CD-ROMの音声テキストの補助として使えるような一般的な方法を開発した。SLiCKと呼ばれるこの方法は、読者の注意をテキストの重要な部分に向け、積極的に聞くきっかけを与え、新しい情報と生徒が持っている知識とを総合および統合するように設計されたものだった。SLiCKには効果的な学習方法における重要な側面がいくつか組み込まれており、これが学習障害を持つ生徒の成績を向上させるための効果的な道具であることが証明された(Swanson、2001年)。SLiCKによる支援の目的は、学習障害を持つ生徒の学業成績を上げるために必要なしっかりした学習の基本方針と方法を組み込んで、代替フォーマットで提供された教材の理解と学習を向上させることだった。SLiCKは、割り当てられた読み物の高度なオーガナイザーに加えて、ノートテイキングのフォーマトを生徒に提供するものだった。本研究は、特にLDや他の軽度の認知障害を持つ生徒が、理解や記憶を助けるやり方で、テキスト情報を積極的に処理するスキルを磨く必要性を前提として行われた。

方法

参加者

 本研究には8つの独立した特殊教育の歴史クラスから合計95人が参加した。生徒はそれぞれ、個別教育計画(IEP)の指示通りに特定の科目についてはインクルーシブなクラスに出席したが、授業日の少なくとも一部は特殊クラスに参加した。本研究の参加条件は、(a)軽度の障害(学習障害(LD)、情緒障害、会話/言語障害、注意欠陥多動性障害などのその他の健康障害)を1つ以上持っていることを確認していること、(b)IEPに基づいて、中等課程の歴史の内容について専門的な便宜をはかる必要性があること、(c)参加への合意および親の許可を示す用紙を返信していることだった。
極端に欠席が多い(本研究中8回以上)場合、本研究の参加校から転校してきた場合、参加クラスから永久に移動した場合、その生徒は分析から外した。さらに、事前試験または事後試験のどちらかを受けなかった生徒は、最終分析から外した。

 特殊クラスの生徒の当初の95人のうち、67人が選択基準を満たしていた。内訳は学習障害43人、その他の健康障害8人、情緒障害6人、知的障害4人、自閉症1人、会話/言語障害1人、整形外科的障害1人だった。残りの4人はリハビリテーション法504条に従ったサービスを受けていた。男性は49人、女性は18人だった。大多数(70%)は9年生、残りは10年生(21%)と11、12年生(9%)だった。特殊教育のクラスで勉強した年数は1~14年間で、平均は7年間だった。参加者を説明する学習障害協議会(the Council for Learning Disabilities)(CLD)の指針を改変した表1は、実験群と対照群の条件全体の人口統計的特性の分布を示したものである(Rosenberg他、1992年)。
本研究に参加した教師は有資格の特殊教育者で、社会科の授業を行った。教師は全員、特殊教育の修士号を持ち、5年から28年の特殊教育の経験を持っていた。

背景

 本研究は北東部の大きな郊外の学区にある6つの普通高校で行われた。参加した高校の生徒数は1400人から1900人、平均は1760人だった。これらの高校の学区域は、社会経済的には上流・中流から中流・下層までに渡り、過半数は中流の地域を学区としていた。
特殊教育サービス提供という意味では、この学区では各参加高校において障害を持つ生徒向けのインクルーシブなプログラムを提供している。しかし、支援があってもインクルーシブな環境での教育の恩恵を受けることができない生徒は、特殊教育クラスを利用できる。本研究の3つの条件の実験は、本研究の参加高校6校の特殊教育クラスで行われた。

独立変数

 我々は、生徒の学問的内容の習得に関して実験条件2つと対照条件1つの相対的効率を比較した。以下に、生徒への条件の割り付けと、教室における教育および実験手順の提供方法を示した。
条件の割り付け:参加者を7つのセクションに分け(教師の1人は、歴史クラス2セクションを教えた)、3つの条件(実験条件2つと対照条件1つ)のうち1つに無作為に割り付けた。実験群1(音声テキストとSLiCK法を併用するグループ)には、組織的学習法と録音テキストを併用するよう指示した。実験群2(音声テキストのグループ)には、録音テキストのみ与えた。第3のグループ(対照群)には、録音されたテキストも組織的学習法も提供しなかった。その代わりに、対照群の生徒には、教師による通常の授業のみを行った。

 教室での授業と教材:授業の形式は3グループとも同じだった。教師は毎日、ドリルを5分間、教科書に基づいた討論/授業の指導を20分間行い、各自20分間読書するよう指導した。6週間の実験期間中、教師はセクションの小テストを週1回、合計5回行った。生徒全員に対して、15-20分間、前日の復習の小テストを行った。生徒全員に対して、事後試験の実施前に2日間の復習を行った。事後試験は6週間の実験期間の最後に実施された。
本研究の各クラスで社会科の時間では、普通クラスの教科書『アメリカ合衆国政府:活動する民主主義』(Remy、1998年)を使用した。この教科書は、この学区の9年生の歴史の授業で使用されている標準的な教科書であり、文章の難易度は10年生のレベルである。本研究に参加した生徒には1冊ずつ教科書を配布した。2つの実験群の生徒には、CD-ROMのプレーヤーとレコーディングフォーザブラインド&ディスレクシック(RFB&D)が提供したテキストが録音されているCD-ROMも与えた。音声テキストとSLiCK法を併用するグループの生徒には、SLiCK法の手順/概略のフォーム(図1参照)も与えた。実験に参加した教師は全員、6週間の実験期間中、第16章(大統領の地位)および第17章(大統領の統率力)の一部の内容の授業を実施することに同意した。

 実験手順:2つの実験群の生徒には、特殊なCD-ROMとCD-ROMプレーヤーの使用方法を指導した。訓練は2日間、毎日約30~50分行った。訓練内容は、装置の説明、使用方法、インストラクターの模範実技、生徒によるプレーヤーを使った練習、インストラクター/教師からのフィードバックだった。ユーザーの指示したページや、章、節、小節などの本の見出しを通してプレーヤーで直接移動できるように、RFB&DのCD-ROMには特別なタブが付けられていた。プレーヤーの基本機能は、CDの挿入や取り出し、CDの再生と停止などの指示や、特定のページへの移動だった。
SLiCK法の作業には、準備、予測、理解、まとめの4つが含まれていた。生徒は、各作業でテキストと録音教材を使って本の中の重要情報に注目し、メモを取るよう要求された。最終的に、本に関する明確で完全な形の実用的なメモを作るのが理想だった。準備作業の目的は、必要な教材を用意することによって、読書の適切な準備をするよう生徒にきっかけを与えることだった。具体的には、生徒は装置(CDとCDプレーヤー)を準備し、ワークシート(概略のメモの記入用紙。章および節の内容情報の図式的オーガナイザーとして設計されたもの)を用意するよう指示された。

 2つ目の予測作業の目的は、これから読むテキストの節の主な概念および構成について生徒に知ってもらうことだった。予測作業では、生徒は章の見出しを移動し、指定された読み物の写真、用語、長さを見て、読み物に含まれた見出しや小見出しを概略用紙に記入するよう要求された。この作業には次の2つの方法が生徒の役に立った。1つ目は、テキストから概要への移動を助けるため、章と概要の中の見出しと小見出しを、目で識別できるようにそれぞれ赤と青に色分けしたことである。2つ目に、CD-ROMプレーヤーの革新的な機能のおかげで、読者は1つのリーディングトラックまたは録音の一部を選ぶ前に個々の「トラック」を飛ばし聞きすることができるようになった。テキストの録音は章、節、小節毎に降順にディスクに記録またはタブ付けされている。各トラックには音声タイトルがつけられていて、読者はテキストから概要に移動することができるようになっている。

 理解作業の目的は、生徒にCDを聞かせ、一緒に読ませ、テキストの重要項目のリストを作成させることだった。生徒には、注意深くCDを聞いて一緒に読み、必要な場合はプレーヤーの停止ボタンを押して新しい情報を選別し、概要に重要な項目のリストを作成し、最後にこれをまとめる、または、「読んだ内容はどんな意味なのか」自問してメモするよう指示が与えられた。まとめのメモは概要の一番下の部分に記入されることになっていた。最後のまとめ作業は、テキストの全体的な理解を助けるよう作られていた。生徒は、まとめを読み返し、これを合わせてより大きな全体像を理解し、最終的にまとめに基づいてテストの質問を予想することになっていた。

 SLiCK法を教えるために使われた指導手順は、Schumaker他が概略を示した手順(1984年)を作り直したものである。SLiCK法の指導手順は、次の連続した5つの段階を経るもので、生徒の自主的な使用が証明されなければならなかった。5つの段階は、(a)学習法の説明と基本原理、(b)方法のモデリング<訳注: modeling: 対象を観察し、真似をしてみること>、(c)口頭練習、(d)SLiCK教材を使った練習、(e)フィードバック/評価である。

従属変数

 習得知識の蓄積:6週間の実験の開始前に、3つのグループの生徒に対して、ユニットの教材に関する事前知識の量を測定する評価を行った。ユニットの内容の理解度を判断するために、実験の最後にも同様の事後試験を行った。これらの試験は、教科書の「アメリカ合衆国政府:活動する民主主義ユーザーガイド」(Remy、1998年)のクエスチョンバンクを使って作成された。生徒には、組み合わせ問題12問、多項選択式問題18問が出題された。各問1点で、合計30点とした。書面による試験に加えて、教師が試験を読み上げて生徒に聞かせた。
短期的な理解の小テスト:章の各節の後に短期的な内容の理解度を測定する方法として、節ごとの小テストが5回行われた。小テストも教科書のクエスチョン・バンクを使って作成された。多肢選択式問題と選択肢を使用して、各節の内容の情報の理解度を評価した。教師が各問を読み上げ、生徒がそれに答えた。正解1問につき1点、最高で、各見出しの問いの合計数までの得点が与えられた。各組5点、小テスト1回で合計10点とした。

処理の忠実度

 指示、制限時間を設定した読み、オーディオ・プレーヤーの使用、CD、SLiCK法に関して、教師が実験手順通り正しく行うよう監視するためのチェックリストが作成された。教師は、本研究を通して、少なくとも1週間に1回は手順の使用について監視され、毎回監視の後に、手順が抜けていたり、誤って実施されていたりした場合にはフィードバックが与えられた。監視は、手順および教材の使用の訓練を受けた大学院生が行った。監視者は、グループの課題に従って、必要な実験手順の有無を記録した。監視中に実験手順があった割合は、監視した手順の数を必要な手順の数(グループの課題毎に決定)で割り100倍して求めた。6週間の実験期間で教師が実験手順を使用した割合の平均は78%から100%だった。

実験計画

 本研究では、事前事後テスト対照群法を使った。混合モデル分散分析を使って、群間および群内で従属変数の平均点が有意に変化するかどうか測定した。

結果

 音声教科書を使用(SLiCK法を併用した場合と併用しない場合)することによって、アメリカ政府の特殊学級に登録された軽度の認知障害を持つ高校生の内容の理解度は、補助装置を使わない生徒と比較して高まったかどうかを質問調査した。結果の評価には、習得知識の蓄積状況を調べる試験と短期的な理解の小テストの2種類の基準を使った。

習得知識の蓄積

 習得知識の蓄積状況を調べる試験に関する平均値と標準偏差を表2に示した。混合モデル分散分析の結果(表3参照)、グループの効果は有意であり(F(2, 64) = 5.00, p<.05)、試験の効果も有意だった(F(1, 64)=260.68, p<.001)。試験とグループの間には有意な交互作用がみられた(F(2, 65) = 7.14, P<.01)。図2に示されているように、各グループの事前試験の点数は同じくらいだった。本研究の後、音声教科書を使用した実験群の知識の習得度を測る試験の点数はどちらも対照群より有意に高かった。SLiCKと音声教科書を併用した実験群と音声教科書だけを使用した実験群の間の点数に有意差はみられなかった。

短期的な理解の小テスト

 小テストの平均値と標準偏差を表4に示した。混合モデル分散分析の結果(表5参照)、グループの有意な効果はみられなかったが(F(2, 41) = 2.51, p>.05)、小テストの効果は有意だった(F(4, 164) = 10.84, p<.05)。音声テキストを使用するグループの点数は一貫して対照群よりも高かったが、その後の試験で5回のテストのうちの2回(2回目と3回目)で統計的に有意差がみられた。小テストとグループの間には有意な交互作用はみられなかった(F(8, 164) = 0.98, p>.05)。

考察

本研究の結果から、教科書だけを読む場合と比較して、音声教科書の使用は、長期的には、増大する高度の学問的内容の習得に効果的な道具となりうることが示された。音声教科書を使用した2つの実験群の生徒の知識の習得度を測る試験の点数は、この技術の助けを借りずに教科書を読んだグループよりも大幅に増加した。これらの研究結果には、軽度の認知障害を持つ生徒のための補助手段としての音声教科書の価値が示された。実験の結果、2つの実験群の生徒は、高度な内容の教材にアクセスし、その結果、小テストや累積的な試験の点数を上げることができた。しかし、音声教科書とSLiCKを併用した実験群と音声教科書だけ使用した実験群の点数に有意差はみなれなかった。

 教材の改良手順として音声教科書のみを使用した場合の効果は、以前の調査では一般にみられなかったので驚きだった。例えばTorgeson他(1987年)は、教材の理解を高めるためにテキストの録音を使った一連の調査を行った。彼らは、学習障害を持つ生徒が、テープ録音を使用した場合、これを使わない生徒と比較して、内容教科の教材の即座の理解が高まることを発見した。しかし、Torgeson他(1987年)とSchumaker他(1984年)は、成果を維持するためには、さらに方法が必要であると指摘した。特に、Torgeson他は、録音のみ使用するだけでは長期的な内容の習得を高めることはできないが、読み物の主な概念を調べるために設計された構成ワークシートを併用することで明白な違いがあることを発見した。Schumaker他は、学習法、教材の改良、テキストの逐語的録音を使った学習障害のある生徒は、逐語的な録音だけを使用した場合よりも章ごとのテストの点数が高いことを発見した。

 本研究では、SLiCK法は、学習方法と構成方法の両方を提供することによって、音声教科書の効果を高めるという仮定を立てた。SLiCKの解釈は複雑すぎたようである。実験に参加した教師は、生徒はメモ取り技術の訓練を受けたことがなく、SLiCK用紙にまとめるための段落の中の適切な事実や情報を決めるのに非常に苦労していたと述べた。生徒は、多くの場合、紙の割り当てられた余白に段落をまるごと記録しようとした。彼らにはまとめるスキルやメモ取りのスキルがないため、SLiCK法は非常に時間がかかるものであることもわかった。生徒には、新しい情報についての考えをまとめるための時間がもっと必要で、読書やメモ取りに割り当てられた20分間にそうすることは不可能だったかもしれない。

 さらに、SLiCK法は書式の制限が非常に厳しかったかもしれない。教師からは、手書きが苦手な生徒が多いので、メモ取り用にもっと余白が必要であるという報告もあった。生徒の中には、重要な単語は何かをSLiCK用紙に記入することを忘れる者もいた。ワークシートに余白はあったが、単語を書く場所が決まっていれば、読み物の中の重要な言葉を記入するきっかけになったかもしれない。

 それにも関わらず、多くの生徒は適切なメモ取り技術を身につけ始めた。2、3週間後、読み物の中から重要な情報を識別する方法や、その情報を簡単に記録する方法を覚え始めた。また、多くの生徒は、読み物の一節の要点を書く方法を覚えた。例えば、1つのクラスの生徒は、SLiCK法の方法を科学の教科書に伝えることができるようになった。彼らは、見出しや小見出しを確認して、適切な概要を組み立てることができるようになった。もっと長い時間を与えられたら、SLiCKと音声教科書を併用している生徒には、内容の把握において、他のグループとの間で有意差がみられただろう。もっと時間があれば、教師は、口頭練習・管理された練習・上級の練習の機会の提供に加えて、約束、SLiCK法の記述やモデリングなどSLiCK法の重要な段階を踏んで指導することができるだろう(Ellis、Deshler、SchumakerおよびClark、1991年参照)。これまでの研究では、生徒に十分な時間を与えて新しい方法の練習をさせ、その方法の使い方について詳しく指導をするよう主張されている。例えば、BoyleおよびWeishaar(2001年)は、戦略的なメモ取りのテクニックを必要な内容情報に適用する前に練習する機会が欲しいと生徒が希望していることを発見した。TroiaおよびGraham(2002年)は、教師が文章を書く方法を非常に明確に教えたとき、学習障害を持つ生徒の書くスキルが向上したと述べている。比較的短い授業期間に高いレベルの内容を教えなければならない教師と協力して、この必要な練習を組み込む様々な方法を調査する必要がある。

本研究の限界

 SLiCK法が音声教科書による介入研究の効果を高めることができなかった理由を考えると、介入研究についても、生徒の訓練についても時間が制限要因の1つであることが明らかになった。介入研究を学区全体で行うために、期間はわずか6週間に制限された。生徒が1つの方法を自分のものにするには6週間は短い。学問的な教育が大幅に削減されないように、その分だけSLiCK法の訓練時間が短縮された。また、グループ全体の均質性を確保するために大きな措置がとられたが、グループ全体で生徒の間の入門レベルの特徴は多岐にわたっていた。この多様性は、他の特殊学級や学校の制度では、あまり見られないかもしれない。従って、我々の研究結果から導かれた一般論が当てはまるのは、学習の違いの幅が大きい生徒を抱える特殊学級で学ぶ同様の生徒だけである。

練習およびこれからの研究への影響

 初期段階で、SLiCK法の併用によって音声テキスト使用の効果を高めることができなかったからと言って、本研究で生徒が達成した重要な成果を減ずるものではない。明らかに、より高いレベルの教材、特に音声教科書へのアクセス向上は、軽度の認知障害を持つ生徒にとって大きな明るい未来を与えてくれる。音声教科書の使用には、生徒の自立を高める可能性がある。本研究に参加した教師は、解説を読むというクラスで日常行われている一般的な作業へのアクセスを音声教科書は生徒に与えてくれたと報告した。生徒は、他の入手可能な関連した学問的教材に加えて追加の歴史の読み物(追加の歴史テキスト、科学や公民など他の科目)へのアクセスにこの技術を使用した。この技術的な支援によって、教師は、より高度な内容の印刷教材へのアクセスに苦労している生徒に対し、より大きな支援を提供することが可能になった。
より高いレベルの教材への生徒のアクセスを増やすには、補完的方法の継続的な改善と開発を優先的に行わなければならないと我々は考えている。中等教育レベルのプログラムや普通教育課程の隅々まで生徒がアクセスできることによって、障害を持つ生徒が高校卒業後に様々な機会を持つ可能性が高まる(Johnson、Stodden、Emanuel、LueckingおよびMack、2002年)。本研究では、中等レベルのプログラムや教育課程における生徒の内容理解度を改善する1つの方法として、音声教科書の効果を裏付ける結果が得られた。それでもなお、音声に基づいた補助装置の使用方法を指導し、その効率性を高めるアクセシブルな方法を開発することができれば、さらに大幅な改善が見込まれるだろう。

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“The Effects of Audio Texts on the Acquisition of Secondary Contents by Students with Mild Disabilities”
Learning Disability Quarterly - Vol. 26, Number 2 Summer 2003 の一部をCouncil for Learning Disabilitiesの許可を受け、(財)日本障害者リハビリテーション協会が翻訳しました。


“The Effects of Audio Texts on the Acquisition of Secondary Contents by Students with Mild Disabilities” Learning Disability Quarterly - Vol. 26, Number 2 Summer 2003 の一部をCouncil for Learning Disabilitiesの許可を受け、(財)日本障害者リハビリテーション協会が翻訳しました。

抄訳:(財)日本障害者リハビリテーション協会

原文はこちらに掲載されている。 Effects of audio texts on the acquisition of secondary-level content by students with mild disabilities. http://www.thefreelibrary.com/Effects+of+audio+texts+on+the+acquisition+of+secondary-level+content...-a0109946218