平成19年度 第93回 全国図書館大会 東京大会
第12分科会
事例発表
日野市立図書館の障害者サービス
中山 玲子(日野市立図書館)
1 日野市の概要
日野市は東京の西部に位置し、川や湧き水、緑豊かな多摩丘陵といった自然に恵まれ、それらと住宅や工場とが共存した静かな街である。人口は約17万5千人。市内には視覚障害者施設である「東京光の家」などの福祉施設もある。
2 図書館の障害者サービスのスタート
1973年4月、現在地に日野市立中央図書館が開館した。同6月、日野市の障害者問題懇談会で、視覚障害者の代表から市長に対して、「立派な図書館ができても、われわれはその本を利用できない。対面朗読者を置いて欲しい」との訴えが出され、同年10月より朗読サービスが開始された。その後、70年代後半には、市内の点訳グループ「六点の会」の熱心な働きかけにより、徐々に点訳サービスも行うようになっていった。そのことが、現在のサービスに繋がっていく。
現在の日野市立図書館の障害者サービスとして特徴的なことをいくつか挙げると、(1)点訳サービスの利用の多さ、(2)積極的な宅配サービス、(3)視覚障害者へのパソコン指導・点字指導、(4)職員とDAISY編集者との密接な連携によって行っているDAISY図書製作、(5)盲ろう者との積極的な関わりなどである。
3 現在のサービスを支えるために
日野市では障害者サービスの利用者を「図書館利用に障害のある人」と幅広く定め、また、サービス内容も、「一人一人の文字(情報)に対する要求に答えていく」という理念で行っている。この基本理念は「日野市立図書館障害者サービス実施要綱」に定められている。
担当者は、専任1名(視覚障害職員)と兼任2名、嘱託職員1名。そして、図書館登録の資料変換者(図書館協力者)として点訳者、音訳者、DAISY編集者(音訳者の中から)によって支えられている。全てのサービスの責任の所在が「図書館」にあることを明確にするために、資料変換者の登録、養成、相談に積極的に職員が応じると共に、特に技術向上が重要と考えているDAISYについては、職員とDAISY編集者が一緒に学習を行う機会も作っている。資料変換者との具体的な情報交換は以下のような場で行っている。
- 音訳者の養成(適性検査、講習会等の企画・実施)
- 音訳者連絡会の開催(年2回程度)
- DAISY学習会(隔月1回開催)
- 点訳グループ例会、勉強会(月4回)
また、このような情報交換の中から、実際にサービス(主に資料製作)を行うにあたり、以下のようなマニュアルも作成した。
- 「日野市立図書館録音図書作成マニュアル」
- 「日野市立図書館パソコン点訳マニュアル」
- 「日野市立図書館DAISY図書作成マニュアル」
1973年に開館した中央図書館の建物を、現在もほとんどそのまま使用しているため、バリアフリー化の問題、スペースの問題など、障害者サービスを行うには数々の問題があるが、設備はなくても心でカバーしてサービスを行っている。
4 現在行っているサービス内容
現在、以下のようなサービスを行っている。
- 日野市立図書館所蔵録音図書・点訳図書の貸出
- 全国で製作している録音図書・点訳図書の貸出
- 郵送・宅配サービス
- 日野市立図書館所蔵資料の録音(DAISY化含む)、点訳図書製作
- プライベート資料の録音・点訳
- 日野市の行政情報の録音・点訳(予算は担当課負担を理想とする)
- 対面朗読(プライベート資料含む)(一部の分館でも実施)
- 墨字訳サービス(点字文書のパソコン入力、代筆等)
- 視覚障害者へのパソコン指導
- 音声読み上げ機能のあるパソコンによるホームページ閲覧サービス
- 中途視覚障害者への点字指導
- 学校訪問による点字授業
- 図書館実習生、児童・生徒の職場体験等の対応
- 図書館報「ひろば」の点字版、録音版の発行
- パソコンによる拡大写本サービス
5 ここ10年で大きく変わったこと
日野市立中央図書館では、従来の対面朗読に加えて、前述のように視覚障害者へのパソコンの利用サポート(自由なホームページ閲覧を含む)や、点字指導を行うようになり、来館する障害者が非常に目立つようになった。これに伴い、障害者サービス担当以外の職員も、カウンターで障害者に応対したり、図書館内を介助する場面が見られるようになった。これは「障害者のことは担当者任せ」という、多くの図書館に実際見られる様子からはやや1歩ふみだした形と言える。そこで、多くの図書館職員に、障害者にもっと気軽に関わってもらいたいという願いを込めて「図書館利用に障害のある方に対するカウンターでの応対マニュアル」を作成した。
また、資料の面でも、六点の会より寄贈された点字付絵本を一般の児童書の書架に並べて、障害者のみならず全ての利用者に貸し出しを行うことにより、点字をより身近に感じてもらえたらと思っている。
6 課題
現在、以下のような課題を抱えている。
6.1 予算の不足とPRの問題
学校・施設などにももっとPRをしたいと思うが、現状の予算でも全ての要求に答えられないため、さらにPRをして利用が増えた場合に対応できるのかという課題がある。
6.2 さらに多様な障害のある方々へのサービスの取り組み
PRの不足にもなるのかもしれないが、現状の利用者は視覚障害、肢体不自由の方が多い。精神的な障害のために宅配を利用した例も僅かながらあるが、今後はさらにサービスの行き届いていない方々へ、障害者サービスを伝えていきたいと考えている。特に、学校訪問の際に多く見受けられるようになっている学習障害、知的障害の子どもたちのために図書館が何ができるかについて、日々考えているこのごろである。
6.3 行政他機関への働きかけ
日野市では、市役所各課から市民に配布される数々の活字文書がある。一部の課とは、図書館が連携を結び、その課の予算によって、図書館登録の資料変換者が協力をして、その課より市民に配られる配布物を点訳・音訳して希望者に配布している。
しかし、多くの課では、「なぜ自分の課で作ったものを点訳・音訳しなければならないのか。そのようなことは無償のボランティアがやってくれればよいではないか」といった発想に留まっているのが現状である。点訳・音訳についてノウハウを持った図書館が、今後も市役所全体に働きかけ、全ての市民に平等に市の情報を提供していくための理解を得るために積極的に取り組んでいかなければならない。
7 おわりに
特に中途で障害を負った方々にとって、図書館は心の安らぎの場であり、次の1歩を踏み出すための情報を得ることのできる場である。これからも、小規模な市の図書館として、どんな障害のある方々にとっても、身近な、まるで友達のように思っていただける、そんな図書館であり続けることを目指していきたい。そして、利用者が一人の市民として、平等に情報にアクセスし、自らの思いを自由に表現できる、そんな生活を保障していきたい。障害者サービスの全ての仕事の向こうに具体的な利用者の顔が見えるこの毎日を、感謝しつつ仕事に取り組む私である。
この記事は日本図書館協会発行「平成19年度 第93回 全国図書館大会 東京大会要綱」より 転載させていただきました。