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平成19年度 第93回 全国図書館大会 東京大会
第12分科会

第12分科会/障害者サービス委員会
誰もが使える図書館をめざして。
障害者サービスはすべての図書館サービスの基礎

太田順子(財団法人日本障害者リハビリテーション協会)

第12分科会は,「誰もが使える図書館をめざし て。障害者サービスはすべての図書館サービスの 基礎」をテーマに報告と事例発表が行われ,約50 名が参加した。また,世界のバリアフリー絵本展 と障害者サービス用資料展・機器展が同時開催さ れ,分科会参加者以外の人も訪れた。

障害者サービス委員長の佐藤聖一氏による基調 報告は,「障害者サービスは,すべての人の図書 館利用を保障する,図書館の基本業務である」と いう理念を再確認するものであった。現状と課題 としては,利用対象者の拡大が進んできている反 面,サービス実施の有無やその内容に地域格差が 大きいこと,資料製作に伴う著作権問題がサービ スの壁となっていること,その解決のための動き が見られることが報告された。

日野市立図書館の中山玲子氏の発表では,職員 と図書館協力者が協力しながら,サービスの責任 の所在が図書館にあることを明確にしてサービス を展開していくことの重要性を確認できた。この 10年で変わったのは,担当職員以外も障害のある 利用者に応対する姿勢が出てきたことであるとい う。これは,あらゆる利用者の身近な図書館にな るための大きな一歩であったといえよう。

日図協著作権問題担当理事の常世田良氏は,図 書館界の著作権法改正のための取り組みについて 報告した。障害者サービスと最も関連の深い第37 条第3項については「文化審議会著作権分科会報 告書」で「障害者関係の権利制限」として扱われ ヒアリングも実施されていること,権利者団体と 図書館団体によって構成された「図書館における 著作物の利用に関する当事者協議会」では音訳許 諾の手続きを一括して行える体制作りをはじめて いることが報告された。同協議会を軸に,関係者 の協調関係が築かれることを期待したい。

聴覚障害者に対する図書館サービスを考えるグ ループの渡辺修氏は,聴覚障害者は失聴時期やコ ミュニケーション手段が異なる多様な人たちであ るため,個々にあった方法での対応が必要である と強調した。枚方市立中央図書館の手話で楽しむ おはなし会は,聴覚障害者の職員と手話のできる 職員が中心となって障害のある子もない子も一緒 に楽しめる工夫をしている点が印象に残った。 北陸学院短期大学の高島涼子氏の報告は,高齢 者への図書館サービスの新たな可能性を感じさせ るものであった。大活字資料や活字以外の媒体に よる資料提供,すべての人々に使いやすい設備, サービスへの高齢者自身の参加など,多様な高齢 者層を利用者としてとらえなおすことは,図書館 自体のユニバーサル化を図ることとなるだろう。

特別支援学校の教員で自らもディスレクシアの 当事者である神山忠氏は,自身の見え方や半生を 軸に,ディスレクシアの特性,学校時代の苦労と その後の転機,読みの作戦について述べた。日本 障害者リハビリテーション協会の野村美佐子氏は ,神山氏の読みの作戦を可能とするものとしてマ ルチメディアDAISYを紹介した。 障害者サービスを進めるための理念的・技術的 なベースは整いつつある。各館の実情に応じたサ ービスの実施と連携により,誰もが使える図書館 ネットワークを構築していくことが重要である。

この記事は日本図書館協会発行「図書館雑誌」2008年1月号「平成19年度(第93回)全国図書館大会ハイライト」より転載させていただきました。